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16. 交渉

だが、セシリーの周囲には見えない結界が張っていた。

バイオレットの魔法をいともたやすく打ち消した。


「どちら様でしょうか」

表情一つ変えずにセシリーは聞く。


「ええと、学園の方ですよね?」


わなわなと体を震わせ、大きく息を吸い込む。


「わたくしはシド様の元婚約者、バイオレット = フロックハート!忘れたとは言わせませんわよ!」


「あら、元婚約者の方でしたか。ええと、夜会ぶりかしら。バイオレット様」


なんてこと。名前すら憶えられていない。

少なからず学園で話したことがあるだろうが。

何よりシド王子の元婚約者なのに、顔すら覚えがないなんて。

どこまでもコケにするつもりか。

いや、違う。微塵もわたくしに興味がないのだ。



バイオレットはギリッと歯ぎしりをし、注意深く周りを見渡す。

シド、騎士団長、セシリー、天才魔術師、大神官が倒れている。

ところどころに血だまりが広がっている。

そしてセシリーの左手で喉元を掴みあげられているリオ。



セシリーが一人でこれを…?


彼らは国内最高峰の達人たちのはず。

恋人であるシド様も手にかけたのだろうか。

そしてリオまでもを。

なぜセシリーはこんなことを?


「あんたの目的は何」


「この国を滅ぼします」


「はあっ!?一体どうなってそうなるのよ貴女は……」


「理解は求めてません」


凍り付くような冷たい声。

セシリーって、こんな感じだっただろうか。

華奢で弱弱しく、殿方が守ってあげたくなるような美少女、それがセシリーだった。

物おじせず、冷酷なまでの意志の強さ。

まるで別人だ。


「滅ぼした後はどうするつもり?」


「後ですか。そうですね…」


ほんの少し考えるそぶりを見せ、続ける。


「国を作り王となりましょうかね」


「っ……」


なるほど。実現できる自信があるのか。

シド様たちを倒したその実力は伊達ではないということ。

わたくしの実力じゃこの女は倒せない。どうする。考えるのよ、バイオレット!


「――す、素晴らしい」


「……はい?」


「素晴らしくってよセシリー様」

パチパチとと小気味好い拍手と共にニッコリとセシリーに笑みを向けるバイオレット。



「とてもお強い女性なのですね。わたくしも見習いたいものです。

男に頼らないと生きていけないこの国で、自らの力で道を切り開き戦うこと、なんと凛々しいのでしょう。

考えてみれば私たち女は、高い身分の男に見初められなければ生きていけない存在ですもの。

へりくだり、か弱いのだとアピールしなければいけないということ。

この前提を覆したった一人で歩むその勇敢なお姿、心から尊敬いたしますわ」


リオを掴んでいた手を緩め、床に落とすセシリー。


「ゲホッゲホッ……!」


息も絶え絶えだったリオは、喉を手で押さえながらセシリーから距離を取る。


「バイオレットちゃん……」


「リオ!」


駆け寄ろうとするバイオレットを片手で制するセシリー。


「今彼女の命は私の手にかかってます。迂闊に近寄らないでくださいね」


「わ、わかりましたわ」


「たくさんとお世辞を頂きましたけれど何が言いたいのですか」


「ごめんあそばせ。単刀直入に言いますわ」


とりあえず褒めて持ち上げようとしたが、通用しそうにない。

こちらの要求は一つだけだ。


「リオを見逃してください。代わりにわたくしの領地をあげましょう。いかがでしょうか」


「ほう。交換取引というわけですね」


ちらりとリオを一瞥し、続ける。


「相応の価値がその領地にあるのですか?」


「もちろんですわ。商業農業工業、どれに使っても利益が見込める場所にあります。今は手に入っていないただの森ですけど。

その地をセシリー様が総べる国の足掛かりにして、統治範囲を広げながらいずれは王国全体まで支配するのが最適かと」


考えるセシリー。無表情はまるで匠が仕上げた人形のように美しい。


「バイオレット様って、聡明でいて能力もお高いのですね。貴女に興味が湧いてきました。

私たち、もっと早くに知り合えたら良かったですね」


いや、もうずいぶん前から知り合ってますがと言いたいのを飲み込んで答える。


「では、交渉成立でよろしいでしょうか」


「ええ。明日からその領地は私がいただきます。リオ様の命はお返ししますね」


そう言い終えた直後、周りを竜巻が発生したかのような疾風が走った。強力な魔術が舞っている。


つぶる瞼を開けると彼女の姿は無かった。

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