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異世界に転生したからって誰もが喜んで最強になったりハーレム作ると思うなよ。  作者: 柴井ぬこ
第一章『前世が勇者とか言われても困るしただ私は静かに死にたい。』
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第九話『デートと言ってしまったので。』


「よし、此処らへんでいいかな」


 ユーリ式。ちょー簡単にお金を稼ぐ方法。

 先ず最初に適度な森の中へと入ります。これはあれです。あくまでも人目につかない、被害が広がらないことを優先的に選んでください。

 そしたら暫く歩きます。この時、心がけるのは自分は弱いですよー、と自分を餌として意識することです。決してちょっとでも強いなんて雰囲気は出してはいけません。

 大事な金ずる、げふん。お客様が逃げてしまいます。


「えーと、スライムが数匹、アサシンバニーが数匹……こんなものかな」


 振り返ってお客様の集まり具合を確認します。出来るだけ多い方がいいですが、少なくとも問題はありません。適切な量、いえ。数を把握してから魔法を使う準備をします。

 選ぶのはレベル1の何だかんだお世話になりっぱなし私の最初に使った魔法。ライトニング。

 イメージは指先からかるーく、こう、本当にかるーく。ちょっとだけ出す感じ。


「ライトニング」


 はい、これで完成です。周囲の魔物はすっかり真っ黒になって、直ぐに魔石だけ残して消えましたー。


 これがユーリ式、ちょー楽にお金を稼ぐ方法。あとは魔石を丁寧に拾って、ある程度溜まったら街に売りに行けば終わりです。


「かつてこんなに楽な仕事があっただろうか……」


 此処だけは素直に神の与えたチート能力に感謝した方がいいのかも知れないとぼんやり思いながらそれなりに重くなったポーチを下げて、アルティアの待つ小屋へと戻る。

 時間は丁度昼ごろ。小屋からは良い匂いがしていた。

 あ、お昼ご飯は多分フレンチトーストだ。良いバターの匂いがする。


「ただいまー」

「お帰り、ユーリ。遅かったな」

「そう? ちゃんと昼には帰って来たじゃん」


 キッチンに立つアルティアは相変わらずの心配性だ。こうして森に行くようになってもう数週間になるというのにまだ私が小屋を出るのを心配している。

 あれから、街には一度も行ってない。でも前回色々とあったせいで買えなかった彼女へのプレゼントを買いに行きたいからそろそろ行きたいのだが、この調子じゃなんて言われるか。


「ねぇ、アルティア。今度一緒に街に行かない?」


 ぴたり。まさしくそんな効果音が相応しいような具合にアルティアの動きが止まった。


「……街に?」


 やっぱり反応はめちゃくちゃ悪い。さっきまで機嫌よく紅茶を淹れていた彼女は私の言葉に一変して怪訝な顔で此方を見返して来る。

 なんだろうなぁ、これ。……多分私が街に行くってだけじゃなくて彼女を誘ったのも不味かったのかも知れない。


「行きたくない?」


 だから素直に確認してみると、途端にアルティアの整った顔がしゅんとした。そして取り敢えずはいつもの定位置――すっかりこうして食卓を囲むのが当たり前になった私の前へと座って、何やら言い難そうに言葉を濁す。


「……、行きたく、ない。それに何より、ユーリを行かせたくない」

「でもこの前は行かせてくれたじゃん。ほら、あの時プレゼント結局買いに行けなかったから買いに行きたくて」

「うっ、それはその、素直に嬉しい。ユーリが私にプレゼントを買いたいと言ってくれているのは、本当に嬉しいんだ。でも、街は――」


 そこでアルティアは言葉を途切れさせてしまう。ああ、これはあれだ。どうして私が好きなのかと聞いた時と似ている。

 恐らくは。あの時と同様に彼女にとってはどうしても説明し難い理由で街に行くのを躊躇っているんだろう。

 さて、どうするか。

 彼女の気持ちを汲んでやれば此処は一人で行った方が良いんだろうけど。


 だからっていつまでもだんまりというのもずるいがするし。


「……アルティアとデートしたいなって思ったんだけど、駄目?」


 此処はいつもながらのずるい手を使ってみる、と。アルティアの宝石のような紫色の瞳が大きく見開かれる。

 淡い桃色の唇がでーと、と何処か幼い声色で繰り返すので頷いてあげた。


「行く。食事が終わったら直ぐに行こう」


 相変わらずちょろい。

 さっきまでの渋り具合がなんだったのか、むしゃむしゃと大きな口でフレンチトーストを食べ始めた彼女の姿に一つ溜め息を吐き、私もフォークを手に取る。


 プレゼントを選ぶのに本人を連れて行った方が楽だろうなんてのは、まぁ黙っておこう。


「ユーリ、遅いぞ!」


 食事を終え、片づけを済ませるとさっさと自室に戻ったアルティアは余所行きの服装で登場してきた。

 女の子の身支度には時間がかかる、というのは彼女には当てはまらないらしい。

 けれど普段とは少し雰囲気の違う彼女の姿に感心しながら、私も出かける為の準備を整える。

 とはいえ、必要最低限のものを持つだけなのだけれど。


「お待たせ、行こうか」

「あぁ、飛ぶぞ」


 転移の魔法の準備をしている彼女の元に歩み寄る。すると、彼女の方から何故か手が差し出された。


「デートなのだろう?」


 にんまりと何処かしてやったような顔で笑われる。……まぁ、確かにデートと言ってしまったけれど。


「はいはい」


 仕方なくその手を取り繋ぐと、彼女の指先は少しひんやりしていた。

 隣でアルティアは嬉しそうに笑って、転移の魔法を発動させる。


 次に目を開けた時にはまた森が広がっていた。



「さて」


 着いた途端、アルティアは着替えた服についていたフードを頭から被って顔を隠してしまう

 それを不思議そうに見ていると、彼女は小さく笑って自分の目元を指差した。


「この色は少し目立ってしまうのだ。面倒事には巻き込まれたくないだろう」


 あぁ成程。私にとっても珍しいと感じていたその瞳は、この世界でも珍しいものらしい。――もしかしたらその辺りも彼女が街へ行くのを渋っていた理由なのかも知れないなと思いつつ、つい口から言葉が飛び出す。


「綺麗なのに勿体ないね」

「――っ」


 途端、フードの下の彼女の顔が真っ赤に染まった。……おっと、つい。いやいや、これは別に彼女を攻略しようとか思ってるわけではなくて。純粋にそう思ったから言っただけで。


「ば、馬鹿者」


 完全に照れてしまった彼女にそう言われながら、森を出て行く。それでも繋いだ手を離さない辺りが彼女らしいというか……なんだこの恥ずかしい雰囲気は。いや、確かにデートだなんて言ったけど別にそういうつもりじゃ……。


「……まぁいいか」


 なんか必死に言い訳しているのも馬鹿らしい。面倒になった思考を次へと切り替えて、彼女とそのまま街へと入る。

 目的地は先ずギルド。そこで少し溜め込んだ魔石を換金してお金を作ったら、後はぶらぶら街中を彼女と歩く。

 その間に、彼女に贈るプレゼントを見つけられればいい。


 そんなゆるいプランを頭の中で立てて街中を歩いて行く。

 ――アルティアも良く利用するこの街は、とある国の辺境にある少し大きめの街、らしい。私はこの世界の街を此処しか知らないので判断がつかないが、アルティアは私にそう教えてくれた。

 お陰で人の流れも物流も、その立地の割には多いらしく物を揃えるのに苦労しないらしい。

 ゲームで言えば、駆けだしの冒険者たちが少し慣れてきた辺りで辿り着ける大きめの街。そんな感じの場所なんだろう。

 この街で暮らしている人たちも決して贅沢をしているわけではなく、だが貧しくもなくそれなりの生活をしているように感じる。

 治安はまぁ……最初に来た時にはあんな事があったがあまり悪い方ではないらしい。


「魔石の換金をお願いします」


 ギルドに着き、そう受付に頼めば直ぐに魔石の鑑定は終わって銀貨が渡される。今回は前回と比べると少し少なめだが、まぁ彼女に贈るプレゼントを買うには事足りるだろう。


「アルティア。プレゼント何が欲しい?」

「本人に直接聞くものか、それは」

「喜ばないものあげたくないしね」

「ユーリから貰うものなら何でも嬉しいぞ」


 受付を終えて建物を出ながらそんな風に問いかけるが、彼女の返答は予想通りのものだった。なので此方も促すように軽く手を握り返すと、彼女は小さく唸って悩み始める。

 狡いとは思うが、正直他人にプレゼントを贈る経験なんて殆どないのだ。精々が学生の頃、花が好きだたったおばあちゃんに敬老の日と誕生日に花を贈っていたぐらいなもので。

 なので、そのまま彼女を悩ませつつ、足を商店が並ぶ大通りの方へと向けて行く。


 傍らでは彼女が小さく唸り続けていた。

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