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異世界に転生したからって誰もが喜んで最強になったりハーレム作ると思うなよ。  作者: 柴井ぬこ
第一章『前世が勇者とか言われても困るしただ私は静かに死にたい。』
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第七話『自分でも分かってるけれど。』


 アルティアと暮らし始めて一週間。複雑な間取りだった不思議な小屋にも慣れ、彼女の家事の手伝いも大体出来るようになった。畑の世話も、雑草取りだけではなく最近では作物の世話まで任されている。

 あくまでもこれは私の感覚でしかないが、家事の大体はきちんと半分ずつ分担出来ていると思う。

 彼女は相変わらず私には何もしなくていいと言ってきてくれたが、私だってそういう訳にはいかないのだ。彼女は自分の我儘で私に生きて貰っていると思っているんだろうが、だからって彼女に何もかも世話になるのはやっぱり気が引ける。

 本当に死にたければ彼女なんて無視して死んだってよかったのだ。それを、先延ばしにしたのは間違いなく私の意思であって、彼女の為だけじゃない。

 相変わらず面倒事は嫌だし、私に惚れているという彼女の言葉を全て信じるなんて出来なかったけれど。――この一週間の生活は、穏やかなもので、人生で久しぶりにそんな時間を味わっていた。

 彼女との生活は、少し祖母と二人暮らししていた時を思い出させた。

 だからだろう。――やっぱり私も働こう。と思ったのは。


「街に行く? どうして?」


 いつものように朝食を食べ終えた後にそう切り出してみると、アルティアは明らかに嫌そうな顔をして問いかけてくる。

 まぁそれも予想通りだったけれど。

 なので、いつも持ち歩いているポーチからそっと魔石を取り出して見せる。


「これを換金しようと思って。そしたら私も少し魔物狩りでもしようかと」

「……金ならいくらでもあるんだぞ?」

「それはアルティアが薬草を作って売った金だろ。君のだよ。私は私のお金が欲しいんだ」


 アルティアの主な仕事は、薬を製造と販売だ。彼女の腕は相当なものらしく、その薬は結構な値段で取引されているのだと以前教えてくれた。

 だからアルティアの言う通り。彼女はこんな変な場所で小屋暮らしをしなくてもいいレベルの収入源があり、貯金がある。

 私を養うと宣言したのはその金があったからこそなんだろうが、それでも私はやっぱり彼女の世話になりっぱなしになるのは嫌だったし、何よりこう――無職というのは精神的に色々と来る。

 元々ががっつり社畜生活だったせいか、兎に角自分が職に就いていないという状況が落ち着かないのだ。


「また前みたいにがっつり働いて無理をしたい訳じゃないんだ。あんな生活はもう二度とごめんだし。だけど、私もある程度は働いて収入を得たいなって」

「……いや、だが。お前は望まずとも勇者の生まれ変わりなのだぞ? もしそれが露呈するようなことがあれば――」

「街に出るからって人に関わる訳じゃないよ。アルティアのお陰で力の加減も出来るようになったし、本当に、ちょっとだけ魔物を狩って、魔石を売るだけだから」


 神の要らない特典のせいで最強設定にされてしまった私はその力の扱い方もきちんとアルティアに教えて貰った。

 彼女はしがない魔法使いだと言っていたが、恐らくはかなり高レベルの魔法使いなんだろう。

 お陰でこの一週間である程度の魔法は覚えたし、使い方も学んだ。あとは物理攻撃の加減についてだが――こればっかりはアルティアに教わる訳にもいかないので自分でなんとかしなければいけない。

 その練習も兼ねての魔物狩りだ。危なくなったら魔法で対処すればいいのだからいい練習相手だろう。


「……だが、やっぱり」


 アルティアはまだ納得してくれずに顔を顰めている。

 うーん。これはあまり使いたくなかった手なのだが、仕方ないか。


「……実はアルティアにプレゼントをしたいんだ。その為には自分のお金が欲しくって。ほら、君へのプレゼントを君の金で買うなんて……恥ずかしいだろう?」


 この一週間で覚えたもう一つのこと。

 それはアルティアの扱い方についてだ。

 彼女は本当に私に弱い。惚れた、と言った通り、それは惚れた弱味なんだろうが、彼女は私の頼みは大体叶えてくれるしあまり私に対して強く言えない。

 それを分かっていて利用するのは流石の私も多少気が引けたが、――あながち嘘でもない理由なのでそのまま押し通す。


「……私、君には本当に感謝してるんだ。だから、さ。その気持ちでプレゼント……買わせてくれないか?」


 此処でじっとその瞳を見つめてみる。

 すると、


「分かった! 街へは私が利用している転移のポイントを使うといい! 今支度してくる!」


 ほら、めちゃくちゃちょろい。


 相変わらずの慌ただしさで走って行く彼女の背中を見送って、思わず呟くが当然彼女には聞こえないのだった。



「ユーリ、先ずはこれを渡そう」

「ん、何これ?」

「転移の魔法を込めた魔石で作ったアクセサリーだ。これさえあればいつでもこの小屋へと直接帰還できる。何かあった時には直ぐに戻って来るんだぞ」

「……便利なものだねぇ」


 とはいえ、流石に心配し過ぎでは……?

 いや、この世界の地理とかさっぱりな私にとっては唯一のセーフティーゾーンが此処なのだからそこに即行戻って来れるアイテムってのは素直に有難いんだろうけれど。

 なんでだろう。デザイン的にちょっと首輪っぽく見えるのは……気のせい、かな。


「取り敢えず、ありがとう。あとは街の地図とか、転移する地点を教えてくれる?」

「嗚呼、勿論準備してある。これがそれだ」

「流石」


 地図を受け取ってみると、転移するポイントには赤いインクでハートマークが書かれていた。……駄目だ。なんか、見なかったことにしたいこれ。

 でもそういうわけにもいかないので、地図上で存在感を放つそれを無視してそこから案内するように伸びる線を追って行き、その先に魔石の換金が出来るギルドの受付がある建物を確認する。


「此処で換金お願いしますって言えば良いんだよね」

「あぁ、面倒なことは何もない。魔石が本物であれば直ぐに換金できるぞ」


 改めて確認してから、地図を仕舞い込む。

 魔石はきちんとポーチに入れてあるし、何かあった時のあの回復薬の入った小瓶も持ってる。

 ナイフも直ぐ抜けるように太股に装備。

 うん、これで大丈夫な筈だ。


「じゃあ換金だけして帰って来るから。ちょっとだけ行って来るね」


 見送ってくれるアルティアはそれでも何処か不安げだ。……まぁ、こっちの知識がない人間を街に行かせるとか不安でしかないよなぁと思いながらそっと手を伸ばす。

 柔らかな彼女の金髪に触れて軽く頭を撫でてあげると、彼女の宝石のような瞳が大きく見開かれた。

 そのまま、一気に顔が赤く染まる。


「な、な、」

「あ、今の顔は可愛い」

「さ、さっさと行ってこい、馬鹿者!」

「おっと」


 照れ隠しなのか、いきなり叫んだと思ったら私の足元に転移の魔法を発動させる。

 一気に白くなる視界。

 そのままぐわん、と頭が揺れる感覚がして――次に意識がはっきりした時には、私は街外れの森へと転移していた。


「……便利ー」


 これがあったら通勤も楽だったのにな。なんてぼんやり思いつつ、地図を改めて確認する。

 えーと、先ずは街へと入って……?

 門らしき方向へと伸びる線を頼りに歩き出し、私は初めてこの世界の街へと向かったのだった。



「おいおい、姉ちゃん。ぶつかっておいてその態度はないだろ」

「そうだ。どうしてくれるんだこの服、汚れちまったじゃないか!」


 まさか、入った途端柄の悪いお兄さんたちに絡まれる女の子に遭遇するとは思わなかったけど。


 うわぁ、これってもしかしなくても人助けイベントでは……?


「ご、ごめんなさい……っごめんなさい……!」


 出来るなら面倒事は避けたいのでスルーしたいが、女の子が泣き出してしまった。

 女の子を泣かせる奴は最低だ。なんて自分の言葉が繰り返される。


 あーあ。こういう所が私の駄目なところなんだろうなぁ。


 そんな風に思いながらも、私は女の子の手を掴み出した男の元へと、そっと歩み寄って――その手を思いっきり、握り上げた。



 どうせお人好しですよ。

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