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異世界に転生したからって誰もが喜んで最強になったりハーレム作ると思うなよ。  作者: 柴井ぬこ
第一章『前世が勇者とか言われても困るしただ私は静かに死にたい。』
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第五話『女の子に泣かれるのは流石に辛いです。』


「そう、私は異世界を覗き見るのが趣味で、偶々見ていたところに此方の転生者と思われるお前を見つけて色々と調べたら元勇者だということが分かって、それで興味を持ってお前の監視を始めたんだ! それで私はお前に惚れた! そうだ、それでいい!」


 いや、良くねぇよ。なんだよそれでいいって。明らかにそれ、今決めた設定というか嘘だよね……?

 あー……この子は比較的まともなんじゃないかと思った自分をはっ倒したい。いやでも比べる相手が相手だったし仕方ないよね……私だって疲れてたんだよもう。疲れ切ってもう限界で自殺した直後のあれだよ。寧ろ疲れっぱなしだよ。回復する暇なんてなかったっての。

 駄目。もう究極にめんどくさい。これはこの子もある程度情報を教えて貰ったらさっさとおさらばして、更にはこの世界からもおさらばしよう。

 あの勇者の話を聞いたあとじゃ、余計この世界で勇者やるとか無理だし。絶対面倒事になるの目に見えてる。


「まぁ、いいや。君が私に惚れてる云々は取り敢えず今はおいておいて――、なんで私が過去の記憶持ったまま転生してるのとかってことについては、流石の君でも知らない?」

「おいておかないで欲しいのだが、これはかなり重要な事だぞ。……とはいえ。嗚呼そうだな。それについてはさっぱりだ。何故お前が此方の人間として、赤子から生まれ直してないのかもさっぱり分からない。確か知識もないのだろう?」

「色々と説明が省けて助かるけどどの程度私のこと知ってるの、君。……まぁそこは流石に驚いたけど、別にいいよ。こっちで生きて行くつもりなんてないし」

「――――、」


 あ、今のは不味ったか。アルティアの動きが止まった。宝石の瞳が私をじっと見つめ、固まっている。

 どういう理由かはさておき、私を愛していると言っている女の子の前で自殺を示唆するような発言は完全にミスだ。


「……また、死ぬつもりなのか、ユーリ」


 嗚呼そうか。この子は神崎優理の死に方も知っているわけで。

 また、と聞かれると若干気まずい。そりゃあ、私だって二度も自殺なんてしたくはない。

 生きて行くのも嫌だが、死に対しての恐怖が全くないわけでもないのだ。


 海に飛び込む瞬間を、今だって覚えてる。

 息が出来なくなっていく苦しさと、恐らくは息絶える瞬間のあの感覚。


「……でも、だからって生きてたって何か良い事あるの?」


 それでも、どちらも苦しいのなら。

 私は短い方を選びたかった。

 ――生きている間は、じわじわとなぶり殺しにされている感覚だった。

 何故生きているのか悩んで苦しんで、泣いて。

 あんなに苦しい思いを何度も繰り返すのは、それこそもっと嫌だ。


「私なら、お前に生の喜びを教えてやれる」


 暗く、沈みかけた思考に凛とした声が響く。

 抱き着いたままだったアルティアの腕が一度離れて、私の頬へと伸びてその細い指先が添えられた。そして、遅れて両頬が彼女の小さな手に包まれる。


 宝石のように輝く瞳が、涙に濡れていた。

 それでもそれは、真っ直ぐに私を見上げて。


「だから、生きて欲しい。私の為に、今度こそ――生きてくれ」


 切ない程、震えた声で懇願される。

 ――生きてくれ、なんて。思えば誰かに言われたのは初めてだった気がした。


「私の為にとか、すっごい我儘だねぇ」


 思わずそんな呆れた言葉が出てきたが、なんだか胸の奥が擽ったかった。

 私を好きだと、愛してると言う意味不明な女の子。

 だけど、――本当に美しい彼女にこんなにも生きて欲しいと願われるなんて、きっととても贅沢なことなんだろうなぁ。


「わ、我儘なのは自覚している。お前がどうして死を選んだのかも、この世界でどう死んだのかも知っていて言っているのだ。――だがそれでも、私はお前をまた失うのは嫌だ」


 また、か。

 もしかして、この子。――神崎優理が死んだ時も、こんな風に悲しそうな顔をしてくれていたんだろうか。

 ふと、自分で言って来た言葉を思い出す

 女の子を泣かせる奴なんて最低だなんて――今の私はまさしくそれ、なんだろうな。


「ユーリ。頼む、今度こそ、私がお前を守る。だから、生きてくれ……」


 とうとう、その紫の瞳から大粒の涙が零れ落ちて、頬を伝っていく。

 それを、黙っては見てられなくて。――まだ生きていたくないって気持ちが完全になくなったわけではなかったけれど、今はただ。

 この、目の前にいる綺麗な女の子に泣いて欲しくなくて。


 指先を伸ばして、涙を拭う。でも一度泣き出してしまった彼女のそれは止まる様子がなく、次々と溢れては零れ落ちて行ってしまう。


「アルティア」


 初めて彼女の名前を呼ぶと、ぴくりと彼女の身体が震えた。

 泣き始めてから、逸らされてしまっていた視線が再び私の方へと戻ってきて、すっかり涙に濡れてぐずぐずになっている顔で私を見上げる。


「ごめん、悪かった。……泣かないで」


 流石に申し訳なくなって謝ると、ぐず、とアルティアは一度鼻を啜った。……アニメでもそうだけど美少女って泣いても絵になるんだなぁ。いやぁ羨ましい。なんて思うのはあれか、不謹慎か。


「……もう死ぬなんて言わないか?」

「…………。絶対とは言えないけど、努力する」

「私も、お前が死にたくならないように、努力する。今度こそお前を幸せにしてみせるから」


 なんだそのプロポーズみたいなのは。

 ……ほんと、なんでこの子。こんなに私のこと好きなんだろう、なぁ。

 余計その理由が知りたくなったが、今この状態の彼女にそれを聞くのは追い打ちにしかならない気がして、やめておいた。



「さて、それでは取り敢えずはお前を私の家へと案内しよう! これから一緒に暮らすのだからな。きちんと案内してやるから、覚えるのだぞ」


 泣き止んでくれたはいいけど、この子の思考回路の飛び方凄まじいわ。

 いや、確かにさっきのは完全にプロポーズの言葉だったけど、だからってなんで私がアルティアと同居するってのが決まってるんだ?

 私の意思の確認はどうしたんだ、おい。


「……ま、いっか」


 なんかそれらを突っ込むのもめんどくさい。

 自殺を今はちょっとだけ先延ばしにしてしまった私は、これから少しの間此方で暮らしていかなければならないのだし、それなら私の事情を知っている彼女の元に世話になるのが一番楽な方法なんだろう。

 元々生きるだけでもだいぶしんどいのだから、それならなるべくしんどくない方法で生きて行くことを選びたい。

 あの妖精の言う通りに勇者としての使命を果たすのだって御免な訳だし。


「……取り敢えず、宜しくって言っておくべき?」


 涙でぐしょぐしょになった顔を滝の水で盛大に洗ってやけにさっぱりした顔をしているアルティアに問いかければ、彼女はまたその手をそっと私へと差し出して――やっぱり、眩しいばかりの笑顔を向けて答えた。


「嗚呼、任せておけ、ユーリ。――私は、この世界で最も信頼できるお前の味方だぞ!」


 やっぱり、自信満々なんだよなぁ、この子って。

 その眩しさは、私には少し刺激が強すぎたけれど。


 まぁ、泣き顔よりはずっと良い顔かなぁと思って、またその手を取った。



「だが困った! 流石に家具などは急には揃えられないからな! ――やっぱり此処はあれだ。私のベッドで一緒に寝るのはどうだろう……? なんだったらその、な。その、……愛を育むのも吝かでは、」

「いや、そういうそっち方面の展開は流石に良いです。女の子好きだけどガチ百合は……見てる派なんで」

「ユーリ、私たちの間に性別など然程の問題でもないぞ。私はユーリが女だろうと男だろうと愛している」

「有難う。今は気持ちだけでいいや」


 森を出るまでずっとこんな調子で口説かれ続けていたんだけど、これってもしかしなくともそういうフラグ立ってるんだろうか?


 いや、だからしょっぱな主人公モテモテ系異世界転生ものって在り来たりすぎじゃない……?

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