表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/28

第0話「互いに理解しようとする意志こそが(後略/首相演説)」

 西暦二XXX年十月某日、J国A市中央市街地。


 その街は、つい三か月ほどまでは何の変哲もない地方都市のひとつでしかありませんでした。

 そこそこの人口とそこそこの知名度を兼ね備え、そこそこ交通の便がいい沿岸に、これまたそこそこな高さのランドマークがそびえ立つ、観光客と住民の双方からそこそこな評価を受けている、そんな街。

 しかし、今現在のA市はそこそこどころでは済まない注目をJ国内はおろか世界中から浴びることとなっていました。

 理由は簡単、ひときわ目立つランドマーク:ポータタワー(180m)のさきっちょに、さらに目立つ未確認飛行物体が停泊しているからなのでした。

 


 同年同日、J国総理官邸執務室。


 J国の首相、通称ストローハット総理はいつものように頭を抱えていました。

 室内でも頑なに取ろうとしない麦わら帽子が、指に込められた力で少しへこみます。

 彼が総理になったのはつい最近のこと。その肩にかかる諸々の圧力に慣れていないというのも、頭を抱える理由の一つでしたが、今の彼には、そんなものとは比べ物にならないほどに大きな頭痛の種があったのでした。

 ストローハット総理が首相の座に就く少し前、はるか宇宙の彼方から届いた一本の通信が全ての始まりでした。


『ワレワレハ、コレヨリチキュウジカンデ、一ネンゴニ、カエル。ジュンビサレタシ』


 世界中に住んでいた人間たち、いや、”アンドロイド”たちは一斉に腰を抜かしました。



 大規模な気候変動の影響により、人類は宇宙へと脱出。

 生活環境の整備のため、地上には人間を忠実に模倣したアンドロイドが残されました。

 彼らは荒廃した都市を再建し、(きた)る主の帰還の日を待っていた……はずでした。


 それからさらに500年後。

 今や、アンドロイドたちはきれいさっぱり本来の使命を忘れ、自分たちの国で平和な生活を送っていたのです。

 ちょうどそんな時にやってきたのが、とうの昔に宇宙へと去った人類からのメッセージだったというわけなのでした。おまけとばかりに、末尾には二週間後にJ国に向けて先遣隊が派遣されることも記されていました。


 このニュースがTVや新聞で報道されてから、世界中、特に直々のご指名を受けてしまったJ国では、大人も子どもも蜂の巣をつついたような大騒ぎ。

 当時現職の総理大臣は、病気を理由に真っ先に辞職。

 連日続く野党とデモ隊の大攻勢に、空いた総理の座に進んで手を挙げる議員は誰もいませんでした。彼らが醜い押し付け合いを繰り広げる中で、疲れ果てた議員たちの中から唐突に一人の名前が上がります。

 年齢は48歳、当選回数は4回を数え、不祥事が持ち上がったことは一度もありません。少々若すぎるところに目を瞑れば素晴らしい人物のようにも聞こえますが、「なんとなくぱっとしない」という評価が彼の全てを物語っていました。

 本人も含めた皆の予想を裏切り、彼はあれよあれよという間に総理への階段を駆け上って行きました。

しかし、総裁選の開票が終わった後、トレードマークの麦わら帽子と共に壇上に登った彼の顔には総理大臣らしからぬ戸惑いと不安が浮かんでいました。


 彼こそが後に伝説となる、ストローハット総理大臣その人だったのです。


 総理になってからの彼は、何度も重い選択を迫られました。

 まず、先遣隊と後に続く本隊のため、街一つを人間用に作り変える必要がありました。

どの街を選んでも、住人の反発は必至。この件については、対象の都市に新総理の故郷A市を選び、手厚い補助をつけることにより、一応の解決を見ました。

 この間に、新興企業が例年の九倍のペースで生まれ、その倍の企業が潰れました。結局、一番美味しい思いをしたのは、ひっきりなしに仕事が舞い込んできた弁護士でした。


 ついで、彼はアンドロイド人口を調整する必要に迫られました。

 しかし、人類の歴史を振り返ってみても、大規模な人口調整政策が上手くいった例はほとんどありません。それも短期間で機能する政策となると、ほとんど選択肢はないも同然でした。

 ただ、幸いに、と断言してしまっていいものかは微妙なところですが、彼らはアンドロイド。生殖行為は必要でなく、子どもは母親の胎内ではなく工場で産まれます。生まれる数の管理自体はそう難しいことではありません。

 ストローハット総理は当面の間、国内工場の稼働停止を決定しました。


 こうして、支持率と胃の粘膜と毛髪を犠牲にしながら、彼なりの姿勢で職務に邁進してきたストローハット総理でしたが、ここにきて、彼の元にまた新たな問題がやってこようとしていました。


「総理、大変です」

「どうしたのかね、鉄面皮秘書君。廊下を走るだなんて君らしくないではないか」

「いいですか。落ち着いて聞いてくださいね」

「少なくとも今の君よりは落ち着いているつもりだが」

「それがですね、実は………………」


『……な、なにぃー!!?』


 秋風が肌寒く感じる十月某日。その日、首相官邸を揺らしたストローハット総理の叫び声は、アンドロイドと人類の関係性をも揺るがしかねないものでありました。



◇◆◇◆◇


 「次回予告のコーナー」


 まさかの主人公&ヒロインが登場しないまま終わってしまった第0話。

 初登場シーンはいきなり濡れ場から!?

 主人公、煩悩との闘い。


 次回、第1話「第1話「僕と君の温度差(湯上がり)」」お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ