18.Voyagers
空は高く青く、空気は澄んで、乾燥している。
木々は黄色や橙の葉を地面に落としきり、裸になった枝を広げている。
もうすっかり、景色は冬の様相を見せていた。
片桐東中学校に通う生徒たちも、冬服へ衣替えしている。
佳奈恵も、着慣れないごわごわしたブレザーを着て、学校へ向かっていた。
教室へ着いて、近くの席の人と挨拶を交わして、席につく。
昨日どんなテレビ番組を見たとか、今日の宿題をやってきたかとか、そんな話をして、朝のホームルームまで時間を潰す。
そうしていると、時間ぎりぎりになって、芝崎が教室に入ってきた。
いっせいに雑談がやみ、不気味な静けさが、教室の中に広がった。
彼女が登校するようになってから、毎日、そんな調子だ。
芝崎は、クラス中の人から、無視されていた。
あんなに後ろをついてまわっていた大里や安川でさえ、陰口を言う側に属していた。
芝崎が席についたところを見て、佳奈恵は立ち上がり、彼女のとなりに行った。
「おはよう、芝崎さん」
「……おう」
「霊符の文字、覚えられるようになった?」
「……全然」
芝崎は佳奈恵のすすめで、陰陽術を習い始めていた。
神楽の生徒が、またひとり増えたのだ。
彼女も最初はあまり乗り気ではなかったが、少しずつできることが増えていくにつれて、その楽しさを理解できるようになったのか、次第に熱心に勉強するようになっていた。
彼女は、中学まで今の家で暮らして、卒業と同時に、本格的な陰陽術の修行ができるところへ引っ越すことに決まった。
藤ヶ崎のコネを使って、京都か奈良県のどちらか、大きな組織にねじ込んでくれるらしい。
芝崎は体調が戻ってもしばらく学校に通う勇気がわかなかったようであったが、陰陽術で自信がついたのか、過酷な環境が待っていると分かっていても、登校することに決めた。
それは、今まで佳奈恵にしてきたことに対する、贖罪の意味もあったのかもしれない。
彼女の母親からは、悪霊に関する記憶を消した。
しかし、佳奈恵の要望で、うっすらと芝崎に対する恐怖だけ残しておくことにした。
そうでもしなければ、彼女は娘の言うことに耳を貸さないだろう。
中学校を卒業して家を出るには、親の許可が絶対に必要になる。
術で記憶の改ざんはできても、公的書類を改ざんすることは簡単ではない。
いちいち書類を出すたびに、術を使うわけにもいかないだろう。
とても正攻法とは言えないが、芝崎の身を守るには、そうするしかなかった。
「なあ、今度、あの文字の書き方教えてくれ」
「いいよ。金曜日の放課後、うちに来る?」
「……いいのか?」
「うん、お母さんも喜ぶと思う」
友達を家にあげるのなんて、どれくらいぶりだろう。
佳奈恵は頬が緩むのを感じた。
話を続けようとしたところで、チャイムが鳴り、慌てて席に戻った。
担任の教諭が、正面の出入口から気の抜けた挨拶をしながら入って来る。
金曜日が、楽しみだ。




