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カンパニーフロント  作者: あんこもち
3/3

ある神の願い。

長くなった

「さて、改めましてこんにちは、僕の名前はフィリパーク。横にいるのはタールヤで、補佐をしてもらっている。魂についての説明は既にタールヤから聞いていると思うけど、本題はここからなんだ。どうかきいてほしい。」


「皆様、私からもよろしくお願いいたします。」


 フィリパークとタールヤが銀次たちに頭を下げる。さっきの魂の話でさえ受け入れ難いのにまだあるのかと言いたくなった銀次だが、さっきまでとは違う真剣な態度のフィリパークを見て、口をつぐんだ。


「生物は、魂を持つ。そして死を迎えると魂はある場所に行き、次の生物になる。これは世界の理なんだ。君たちが生きていた地球だけの話ではなく、他の世界でも例外はない。でも、僕はこうして君たちの魂を地球の魂を管理している方にお願いして、少しの間だけ留めてもらっている。」


「ちょっとまってよ、他の世界って何?」


「管理してるってそういう存在がいるのかよ。」


 他の部員達から声が上がる。銀次もそう思った。自分たちの魂を管理している存在がいるなんて思ったことすらなかった。いるとしたら…


「そう、地球の魂を司る神様に頼んだんだ。地震で亡くなった君たち吹奏楽部のみんなに話がしたいって。」


 神様。フィリパークはそういった。周りの喧騒が大きくなる。その中で銀次はフィリパークが嘘をついていない事をなぜか感じていた。


「あー、すまない、フィリパークさんと言いましたか。私は部の顧問を務めている山口義幸と申します。私ですら現状を満足に把握できていない。そして彼らはまだ子供です。いきなり理解しろといわれても少し難しいでしょう。話の流れからすると、フィリパークさんも神様という事でよろしいのでしょうか。」


 皆が混乱する中フィリパークに声をかけたのは顧問の山口義幸だった。見た目はさえないおっさんだが、生徒のことを一番に考えてくれており、部員からの信頼も厚い。


「これは丁寧にどうも、山口さん。そうですよね、少しこちらも焦り過ぎたようです。すみません。えへへ。そして僕も文化を司る神として存在しています。地球ではなく、別の世界でね。」


 顧問がフィリパークと会話をしているのに安心したのだろう。さっきまで騒がしかった声も少し落ち着いたようだ。


「みんな落ち着いたかな?これから君たちに頼みたいことがあるんだ。それを聞くも聞かないも一人一人が選んでくれたって構わない。もし頼みを聞かなくても、悪いことにはならないと神である僕が誓う。」


 ここに来て頼み事をするフィリパーク。もしかすると最初の方に言っていた計画のことなのだろうか。


「単刀直入に言う。君たちには僕が住んでいる世界に来て音楽を広めてほしい。そのために呼んだんだ。」


 音楽を広める?いったいどういう事だ。そしてフィリパークが住んでる別の世界?またよくわからないことが増える。


「フィリパークさん、音楽を広めるってどういう事ですか?あと別の世界のことも詳しく教えてください。」


 銀次はフィリパークに続きを促した。そうしないとまたパニックが起こるかもしれないからだ。


「ん、もちろんそのつもりだよ。今から話すね。元々、世界っていうのは色々あるんだ。植物しかいない世界、科学の代わりに魔法のある世界とかね。僕のいる世界では長い間戦争が続いてたんだ。事の発端は、ある美しい女性をめぐって二つの国の王が争いを始めた事。それも他の国を巻き込んでね。僕以外にも神はいたんだけど、いつまでたっても人々が争いをやめないせいで愛想をつかして眠りについたんだ。そうすると、生命の力が弱くなっていってね。ようやくこのままではだめだって気づいた人々は長く続いた戦争をやめて神々に祈った。神々は目を覚まし、そして今は少しずつ生命の力が元に戻って来て、人々は復興に尽力してる。」


 世界がいくつもある。そしてフィリパークの世界では戦争をしていた。そして今終わり復興している。それと音楽を広めることに何の関係があるんだろうか。


「フィリパークくん?だっけ。それと私達が音楽を広めることにどう関係があるのよ。さっきから回りくどいのよね。すっきりさせてほしいわ。」


 飯田だ。相変わらずほぼほぼ初対面でも物怖じせずによく言えるものである。


「ご、ごめんなさい。続けます。えっと、さっき言ったように人々は長年続いた戦争のせいでとても疲弊している。僕も他の神々みたいに水を湧かせたり、木々を育てたり、食物の実りを良くできたらよかったんだけど、そんな力がないんだ。僕が司ってるのは文化だから。こんなこと言ったら文化の神失格かもしれないけど、音楽や絵画、踊りなんか無くたって生きていくのにはなんら問題もない。」


 フィリパークはここで口をつぐむ。銀次もそうだったが周りで数人が怒っているのを感じた。当たり前だ、ここにいるのは吹奏楽部員なのだから。銀次達を始め数人が声を荒げそうになったが、フィリパークは更に真剣さを増し言葉を続ける。


「喉が乾けば水で潤し、腹が減れば食べ物で満たす。そうすれば確かに生きていけるだろう。では、疲れ切った心はどうすればいい?飢えずにただただ生きていくなんて、そんなの哀しいじゃないか。だからこそ、だ。だからこそ僕は、文化的に生きてほしいと願っている。君たちも音楽に心を揺さぶられて吹奏楽部に入ったんだろう?文化は心の栄養なんだよ。疲れ切った世界に音楽を広めて人々を癒してほしい。それに、歩きながら演奏するマーチングはぴったりじゃないか。」


 フィリパークの続けた言葉に飯田を始め銀次も口をつぐむ。そして始めてマーチングを見たときの感動を思い出し、ぞくぞくと、嫌ではないむしろ興奮に似た何かが体を駆け巡るのを感じた。そして自分でも意識せずにフィリパークに問いかけていた。いつのまにか律儀に続けていた敬語で喋るのも忘れて。


「もし、もしフィリパークの言ったことが本当なら、マーチングがまたできるなら俺はやりたい。」


「本当かい?言うのを忘れたけど地球と違って魔法もあるし、時代も結構昔で、争いが終わったっていっても命の危険は日本とは比べ物にならないくらいあるよ。事前の情報は言わないとフェアじゃないしね。もちろん護衛はつけるつもり。」


「それでもいい。俺はもう一度マーチングがしたい。」


「…本当にありがとう。銀次くん。他の皆もゆっくり考えてほしい。まだ時間はあるからね。」


 またマーチングができる。そのことに銀次は目頭が熱くなり、上を向いて涙が出そうになるのをこらえた。


「あの、もしその頼みごとを断った場合はどうなるんですか?」


「それそれ、聞きたかったわ。流石にもう一回死ぬのはちょっとね。」


 フィリパークに向けて何人かから疑問の声が上がる。


「ああ、そうだったね。断ってくれてもそのまま魂は地球の神様の方に戻っていって次の生物に生まれ変わるよ。そのことについては心配いらない。眠るようなものだからね。」


 その話を聞いてまた少しざわざわしだすが、多くの人が断ることを選んだようだ。


 別の世界に行くのは銀次を入れて10人。とてもじゃないが十分とは言い難い。だが、銀次は自分の他にも音楽が好きな人がいてくれて、とても嬉しく思っていた。


「決まったようだね。じゃあ地球側に戻る人たちはこの輪の中に入って。」


 他の部員は口々に別れの言葉を言いながら輪の中に入っていき、全員が入った瞬間消えてしまった。


 少しの間沈黙が流れる。


「…よし、皆の魂は無事に送り届けられたみたい。さあ、これから忙しくなるよ!僕がずっと考えてた計画がやっと始められる!これからよろしくね!」


 そう言ってフィリパークは銀次達に満面の笑みを浮かべ、両手を広げたのだった。

そしていつ異世界に行くのか

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