8分後とその24時間後と。
なんとなく高校時代の頃を思い出しつつ見切り発車で書いております。
マーチングバンドと異世界モノってどうですかね?
6月28日16時32分、高校2年生で吹奏楽部所属の秋沢銀次は非常に緊張していた。朝と昼のご飯は喉を通らなかったし、なんなら今もえずいている。
「ぅうぇ…あ、お腹痛い」
腹痛も追加されたようだ。
「とりあえず柔軟して気を紛らわそう。うん。俺は大丈夫いけるいける大丈夫。」
そもそもなぜこんなに緊張しているかというと、今から8分後の16時40分にとあるオーディションがあり、銀次はそれにエントリーしている。銀次はこのオーディションを受け、なおかつ、オーディションに合格するためだけに苦手な勉強を頑張りこの高校に入学した。青春をこれに捧げているといっても過言ではない。
唐突だが皆様は「マーチングバンド」という言葉をご存知だろうか。
原型は16世紀ヨーロッパの行進曲であり、ナポレオン戦争などで軍隊での行進曲の必要性が強く認識され、有名な音楽家によって数々の行進曲が作られた。
…
歴史ウンヌンカンヌンは抜きにしていうと、楽器を演奏しながら行進する団体のことである。
スネアやバスドラム、シンバルのリズムとともに勢いよく金管楽器がファンファーレを鳴らし、木管楽器が綺麗な旋律を奏でながら行進する。
そしてバンドの演奏を指揮し、動きを指示する存在がいる。
それがドラムメジャーである。
ドラムメジャー、それはマーチングバンドの指揮者であり、バトンとホイッスルを使い、バンドの陣形を指示し、ときには自らのバトントワリングを披露する。
大体わかったかと思うが銀次が受けるオーディションの内容はドラムメジャーの選抜だ。
当然だがドラムメジャーは1人しかなれない。銀次以外にはあと2人立候補者がいる。
銀次と後の2人の技術はさほど代わりがない。後は勝負強さや部員をまとめる力だ。
銀次達3人のオーディションが終わると誰がドラムメジャーになるのかは部員全員で投票して選ぶことになる。
いくら上手くても、皆がついていかないドラムメジャーなどいる意味がない。
そうこう考えているうちに4時38分になった。
「あー、そろそろオーディションするぞー。全員集まって座れ。あー、3人は前に出てこい。銀次、最初はお前な。」
「っ、はい!」
最初の位置に立ちテンハット(気をつけ)の状態で待つ。
16時39分、ピッピッピッと電子メトロノームをスピーカーに繋げて拡大させた音が体育館に響き始める。
16時40分
「オーディション始めるぞ。今から4拍ご…うおっ」
「きゃあああああ」
「なんなんだ、うわっ」
「こわいこわい、すぐとまるよね?」
後に大震災と言われる地震が銀次達の県を襲った。
「うわっ」
銀次は転けてあまりの揺れに立つことすら出来なかったが、バトンだけは絶対に放すものかと抱きしめて揺れが収まるのをまった。だが、それよりも先に大変なことが起きた。
体育館の天井が崩落したのだ。
気がつくとあたりは真っ暗で身動きが取れない。足の感覚もない。瓦礫に挟まれてしまったようだ。
「けほっけほっ、うぅ…」
誰かが咳き込む声が聞こえた。銀次は1人じゃないことにほっとしつつ、声をかけた。
「…誰?大丈夫?」
「銀次…?あぁ、他にも生きてたのね…麻里よ。」
「飯田か、よかった。大丈夫?」
「なんかね、手の先潰れちゃったみたい。はは、なんなのよこれ。うぅ…」
「そっか、俺も足の感覚無くなってる。なんでよりにもよって今日なんだよ。あぁ…」
銀次と喋っている女子、飯田麻里はマーチングでスネアを演奏する予定だった。歯に着せぬ物言いで好き嫌いがはっきり分かれるタイプだが、何に対しても正直でいる姿勢を銀次はいいやつだと思っていた。
「ねえ」
「なんだ?」
「死ぬよね」
「多分な。」
「怖い?」
「…わかんね。けどさぁ、悔しいわ。」
「そっか、ドラムメジャーか…あたしもスネアしたかったわ。」
悔しいと言葉にした瞬間に銀次の目からは涙が出てきていた。テレビで始めてドラムメジャーを見たときの感動、高校に入って必死に練習したことが、今日の地震で終わった。死ぬのが怖いとかじゃない。悔しい。近くですすり泣く声が聞こえる。多分麻里のだろう。
意識が遠のいていく。
6月29日16時40分、秋沢銀次は死んだ。だが、バトンだけは抱きしめていた。
「…ぁあ?え?」
目が覚めた。銀次はそのことに驚いた。
「うわっ」
もう一度驚いた。にこにこ笑う子供がいたからである。
子供は銀次に喋りかけた。
「ねえ、これからどうしたい?」
ゆっくりと書いていきますでございます。
初心者ですゆえ色々とご教授願います。
良いお年を。あっこれ書いてるの12月31日です。目の前に半分寝かけのおばあちゃんが座ってます。