No.39 貪狼の命運
「これが七星の魔人一番手、『貪狼』のランスだったと?」
「どうもそうらしい」
「そうらしいって……お前が言い出したんだろ」
呆れたような顔で溜息を吐くメルク。
だが、言った本人のジュナだって信じきれていないのだから、そんな視線を向けられてもどうしようもない。
数分前のことだ。
元祖の爆弾発言のすぐ後に、他の四人も目を覚ました。
身体に特に異状などはなく、四人ともすぐに動けるようになった。
そしてジュナの隣で、縛られて大人しく座っている魔人を見て、結局この魔人は何者なんだとジュナに聞いた。
ジュナは元祖の爆弾発言をそのまま答えたのだが、五人が唖然としたのは言うまでもないだろう。
「ランスって、三天の第一位『白鳥のギュル』の右腕だろ?」
眉を顰め、面倒くさいことになったとばかりに、クレイアはランスを睨み付けた。
「そうだったな……もうギュルには、俺たちの存在をはっきり認識されていると考えていいだろう。ジュナ、そいつから情報を聞き出せるか?」
リルも苦々しげに呟いたが、折角なので聞き出せる情報は聞き出しておこうと、ジュナにそう尋ねた。
ジュナはやってみると一言告げると、武器をナイフに変えてランスの右目に切っ先を向けた。
「いいか、今お前の治癒力は『奪って』ある。だから傷を負っても治らないってことだけ頭に入れておいてくれ。それで本題なんだが、お前の目的はなんだ? 何故俺たちを襲った?」
「……」
ジュナに意志を奪われているとは言え、流石は七星と言うべきか、洗脳に対する抵抗力も多少はあるらしい。
一言も話さず、黙秘を貫くつもりでいるようだった。
「……黙秘した場合、拷問することになるんだが……手始めに魔人の目刺しでも作ってみるか」
仕方ない、とでも言いたげに溜息を吐き、ジュナは手に持っていたナイフをランスの右目に突き刺し、左目から取り出した。
「〜〜ッ!?」
((うわぁ……))
声にならない悲鳴を上げて床をのたうち回るランスを見て、ジュナ以外の五人は思わず顔を顰めた。
魔人なら普通は、怪我をした瞬間から傷が塞がり始め、数秒もすれば完治する。
だが今のランスはジュナに治癒力を奪われており、傷が塞がることは絶対にない。
「待て待て、動くなよ。止血しないと死んじまうだろ?」
ジュナは平然とした顔でそう言い、両手に炎を纏わせた。
以前、フレイムモンキーというモンスターから奪った能力で、身体の一部に炎を纏わせることができるものだ。因みに、フレイムモンキーは尻尾が炎で包まれており、危険を感じると尻尾を立てて襲ってくるモンスターである。
少しの躊躇もなく、ジュナは両手に纏わせた炎をランスの両目に押し当てた。
傷口が焼かれ、血は止まったのだが……当然ランスは激痛に襲われ、傷口は更に痛々しいものになる。
「ぎぁあぁぁぁあああああッ!!」
張り裂けんばかりに悲鳴を上げ、ランスは床を転げ回った。
そして落ち着く間も与えず、ジュナは近くに転がっていた棒(戦闘中ランスが破壊した椅子の足)を手に取り、ナイフの時と同じように右目から左目に貫通させる。
もう既にこの場で平然としているのはジュナだけであり、他の五人でさえ、出来るだけ拷問に目を向けないようにしている。
「答える気になったか?」
そう言いながら尚ナイフを突きつけるジュナを見て、リルは思わずランスに同情していた。
もしランスの両目が見えていたら、今のジュナの顔は酷く恐ろしい物に思えただろう。
◇◆◇◆◇
ランスは全ての経緯を暴露した。
何かを隠そうとしても、ジュナに脅されてしまえば話す以外に選択肢がない。
ランスの話によると、主人であるギュルに命令されてジュナ達を襲ったということだった。
六人の人間が魔界に侵入し、ベガ王国を滅ぼしたという報告を受け、ギュルが六人に興味を持ったらしい。
全員生け捕りにするようにとの命令だったため、ぎりぎり死なないように加減していた。
その所為でジュナに反撃する隙を与え、こうなってしまったのだが。
「事情はわかったが、それなら生け捕りじゃなくて全員纏めて殺すべきだったよな? いくら人間だと言っても、ベガ王国を滅ぼすような危険分子だぞ? 自分で言うのもなんだが」
リルの疑問はもっともだ。
いくら第三位とは言っても、歌国ベガ王国の王『琴のレルナ』は、紛れもなく魔界でトップクラスに強い『三天』なのだ。
そのレルナを捕らえている者達を相手に、生け捕りなど悠長な真似をするのは愚策と言ってもいい。
それに、ベガ王国を堕としてすぐに、『鷲のエルシア』が治めるアルタイルを襲っているところを考えると、次は自分だと予測しても可笑しくない。
だとしたら、早急に六人を潰そうと考えるはずだ。
「それをしないってことは、俺たちを生け捕りにする理由があるはずだよな」
「国の安全よりも優先すべき理由があるなら……な」
メルクとナトゥスも疑うようにランスを見た。
だがランスは視線を逸らすだけで答えようとしない。
ジュナは溜息を吐き、ナイフをランスの腕に押し当てた。
「黙秘できる立場だと、思ってるの?」
「あああああああッ!! やめてくれッ!! 話す、話すからッ!!」
押し当てたナイフで腕の皮を薄く切り取ると、ランスは泣き叫び、あっさりと降参した。
ジュナは満足気だが、他の五人は若干ジュナを見る目に畏怖が混ざっている。
「ギュル様は、大昔に存在したと言われる『異神』を研究しておられる。異神の副産物でもある『異人』という生物のことも。だからこそ、魔界にたった六人で攻め込んでくる人間が、普通の人間であるはずがないと考えた。もしかしたら異人なのではないかとな……研究材料にするおつもりで、お前達を生け捕りにするよう私に命じられたのだ」
「……なるほど。国より自分を優先する愚王か」
ランスの解答を聞いたジュナは、冷めたようにそう言った。
実際、国の存続や民の命よりも自らの欲求を優先する王など、碌なものではないことくらい容易に想像できる。
自分さえ良ければそれでいいという、典型的な独裁者だ。
「さて、もうお前に用はない。リル、頼んだ」
大体の話を聞き終わり、ランスに興味を無くしたジュナは、リルにそう声を掛けた。
リルはそれだけでジュナの言いたいことを理解し、呪文を詠唱する。
『時と空間よ、汝は我が魔力の内に存在を許されるものなり。一瞬は永久に、永久は一瞬に。天は地に、地は天に。我が想いのままに歪み、我の思うもの全てを其の空間へと縛り付けよ』
「ま、待てッ……!!」
『亜空間拘束』
ランスが止める前に魔法は成立し、ランスを亜空間に閉じ込めることに成功した。
リルが魔法を解くまで、ランスはジュナの拷問の上を行く苦痛を味わうことになる。
「……それじゃ、最後の仕事を終わらせようか」
何ごともなかったかのようにそう言ったリルに、ジュナは頷いた。
他の四人も異論はないようで、リルが転移魔法を使うのを待っている。
「そう言えば、いくら七星でも痛みとかは感じるんだね。一番手のランスがあんなに泣き叫ぶなんて。ちょっと意外」
ふと、アレアが思い出したようにそう言ってジュナを見た。
するとジュナは無邪気な笑みを浮かべ、そりゃあそうだよ、と答える。
「だって、治癒力を奪う代わりに、通常の千倍の痛覚を与えてあげたんだから」
その言葉を聞いたアレアは、そうなんだ、と釣られて笑みを浮かべる。
だがその心の内では、実はジュナは悪魔なのではないか……と、冗談半分(つまり半分は本気)で考えていた。
ーータイムリミットまで、あと十二時間。




