No.13 焦燥
「魔人族? シェロー? なにそれ?」
何のことか解らず、首を傾げるジュナ。怯えているのか、小刻みに震えるアレア。
アレアの様子に少し驚きを感じながら、ジュナは目の前の奇妙奇天烈な格好をした生物に目を向けた。
シェローと呼ばれたその生物は、にやりと笑った(ように見えた)。
「なんだ、魔人も知らんのか。ならば教えてやろう」
「いや興味ないし結構です」
「魔人とは、『弱くて最低な人間が死んだ時、突然変異で生まれる魔力強化された生き物』だ。そしてこの私は魔人族でもトップの実力を誇るシェローだ!」
「興味ないってのに……」
勝手に説明という名の自慢を始めたシェローに、ジュナは呆れたように溜息を吐いた。
(魔人ね。こんなだけど一応強いみたいだし……アレアも放心状態だし……俺に一体どうしろと?)
シェローは己の強さや武勇伝について語り続けているが、ジュナはそれを右から左へと聞き流している。
相手がそうしている間に攻撃を仕掛ければ良いのかも知れないが、残念ながら隙を見出せずにいた。
馬鹿っぽくて大して強そうにも見えないが、流石は魔人族というべきだろう。
(それにしても、アレアがずっと黙ってるなんてな……って、え?)
ずっと黙り込んで動かないアレアを不思議に思い、ジュナはちらりと後ろを見る。
そこには、見えないナニカに拘束され、首を絞められて藻掻いているアレアが居た。
「いつの間に!」
「ふはははは、自慢話に魔力とイメージを乗せたのだ。これで魔法は発動する!」
「すっげえ能力の無駄遣い!!」
ジュナは聞き流していたおかげで、魔法に抵抗していたようだ。
少しだけ感心したような顔をするジュナに、アレアはきつく冷たい視線を向けた。
(おっと、怖い怖い……)
背中に冷たい汗が流れるのを感じつつ、ジュナは目の前で自慢気にふん反り返っている魔人を観察する。
(やっぱり隙がない。あんなに小者っぽいのに)
少しずつ焦りが募っていく。
アレアが異人だからまだ生きているものの、殺意のある攻撃を受け続ければいずれ限界が来る。
「くそっ! こんな巫山戯た格好してるのに強いとかなんなんだよ!!」
痺れを切らし、ジュナはシェローに攻撃を試みた。
金棒での攻撃は通じなかったため、大太刀での斬撃だ。
だがそれを見たアレアはなんとか止めようとさらに藻掻いた。
(ばっかあの野郎……!! 実力不足だッ!!)
アレアの攻撃さえも通じない相手なのだ。
発展途上のジュナにどうこうできるものではない。
「巫山戯た格好は余計だ!」
「うぐっ……!」
アレアの危惧した通り、ジュナはあっさりとシェローに吹き飛ばされた。
数度バウンドして地面を抉りながら、二十メートルほど進んで漸くその動きを止める。
「さて、ここはアンデッドの巣窟だったな」
「な、なにを……」
シェローの魔力が急速に高まっていく。
それと同時に、周囲の地面が隆起し始めた。
「なに、簡単なことだ。アンデッド達にお前の始末をさせようと思ってな。言い忘れていたが、私の最も得意な戦闘術は、死霊術だ」
「お前の特技聞いてないし! ていうか、アンデッドって……」
隆起した地面から、腐った手や足、ボロボロの骨、もやもやした空気のようなものが出てくる。
そして周囲に酷い腐乱臭が漂い始めた。
「やっぱりそうですよねー、ゾンビにスケルトンにゴースト……臭くて気持ち悪くて面倒で臭いあれですよねー」
(臭いって2回言った)
緊迫した状況なのだが、ジュナにもアレアにも緊張感は欠片もない。
アレアに至っては、拘束から抜け出すことを若干諦めている。
「さあ、我が下部たちよ! さっさと人間共を片付けてしまえ!」
「うわこっち来たキモ! うわあああ来るなあああっ」
(あいつ、無様すぎだ)
襲い来るアンデッドから必死に逃げるジュナ。
理由は明白。戦って勝てないからではなく、単純に臭いのが嫌だからだ。
それを見ているだけのアレアは、次第に苛々が募っていく。
(なんで逃げるの!? 攻撃しろよ! アンデッドなんか脆いんだから……あああもうっ!!)
そしてその怒りはあっさりと頂点に達し……。
「逃げるな戦え、愚図!!」
シェローの魔法でさえも、跳ね返したのだ。……首を絞めていた魔法だけだが。
「お、おお!? アレア復活?」
「してないわ馬鹿! お前の目は節穴なのか見えてんのか! どう見ても動けてないでしょ!?」
「ワンフレーズによく悪口詰め込むねえ!!」
「折角リルに訓練して貰ったんだろ!? だったらその成果を今ここで僕に見せてよ!!」
「ゾンビには触りたくない!! いやーーーきもいーーーきゃーーー!!」
「虫を見た時の女か!! 気色悪い声出さないでよ気持ち悪い!!」
「どっちも似たような意味じゃない!?」
ジュナは逃げながら、アレアは拘束されながらの会話である。
流石にずっとそれを見てると飽きるのか、シェローは我関せずといった風に空中浮遊を楽しんでいる。
そうこうしてるうちに、ジュナがアンデッドたちに捕まった。
「うおおおブニってした!! ブニって!! 人体にあってはならない感触!!」
「ぎゃーぎゃー騒いでないでご自慢の怪力でぶっ飛ばせよ!!」
「自慢出来るほどじゃ……なんかぐちゃってしたああっ!」
必死に抵抗するも、アンデッドの数が多すぎて次第にジュナの姿が見えなくなっていく。
声もか細く、力ないものになっていく。
今までに感じたことのない焦燥感がアレアを襲った。
(嫌だ、嫌だ……また、あの時みたいに、何もできずにっ……!!)
アレアの脳裏に、血に染まった海が過ぎる。
凄惨極まりない、恐ろしい光景が——。
その時。
『鎮まれ、死霊共』
騒々しい中に、やけに落ち着きのある凜とした声が響き渡った。
【世界観解説】
—髪や目の色について—
基本的に髪や目の色はその国の色で決まる。
アレアの場合は緑の国・フレイシス帝国だから緑系統の髪と目。




