始まりの夜話
「むかしむかし、ある場所で魔王と呼ばれるとてもとても悪い者がいました。魔王は山を、川を、街を荒らして人々を困らせていました。」
とても涼しい夜、優しい声がまだ幼い子供二人へ語りかける
「『これは大変だ!』と王様が言いました。『すぐに勇者の資格のあるものを連れてこい!その者に魔王を倒してもらうのだ!』」
「やっぱり勇者ってカッコイイなー!」
これは元気な男の子の声
「でも大変だし危ないよ?」
これは男の子を大切に思う女の子の声
「大丈夫!大丈夫!勇者様は強いから勇者様なのです!」
「変なのー!何でお母さんがそんなに自慢げなのさー」
「お母さんも子供の頃は憧れたからね!」
「じゃあカイトのお母さんはカイトのお父さんと勇者様、どっちのほうがカッコイイと思うのー?」
「勿論お父さん」
真顔になって言い放つカイトの母。
「アハハ!勇者様振られたー!」
「振られたー!」
笑い会う二人。カイトの母は一瞬二人のことを慈しむように微笑んだ。
そしていたずらっ子のような顔をして
「じゃあリコちゃんはカイトと勇者様どっちがカッコイイと思う?」
さっきとは一転してニヤニヤ笑いながら女の子、リコに向けて躊躇なく爆弾を落としていく。
迷いは、無い、無駄に。
「なっ!」
呻くリコ。
そして「えーー」と不満そうなカイト。
「勇者様と比べたら全然カッコ良くないに決まってるじゃん!お母さん意地悪だなぁ…」
「まだわかんないよー、ね!リコちゃん!」
そしてあたふたしているリコを見て一層ニヤニヤを強くするカイトの母。
「え、あっうん!絵本の中の勇者様よりもカイトの方が…その、カッコイイ…かな?」
もじもじしながら言うリコ。それを聞いたカイトは驚き
「えっ!本当か!そっか…ありがとな!」
と満面の笑みでリコにくっつく。
「!うん!カッコイイカッコイイから落ち着いて!ね!勇者様の話の続き聞こう!」
突然のことにリコは顔をりんごの様に真っ赤にして落ち着こうとする。勿論カイトの母はニヤニヤ続行中である。
「そうだな!続き聞かせてよ母さん!って、なんでそんなにニヤニヤしてるの…やっぱり変なのー」
「絶対からかわれてる気がする…」
そんな二人の対応に少しのいじけた顔をした後、気を取り直して勇者の話を続けた。この3人の夜はまだ続くようだ
これは子供にとって最も好まれ大人達にとって全く好まれない勇者という職業の話である。さて、これから紡がれる彼の話は真の勇者の話なりや?
楽しんでいただけたら幸いです
ホント辛辣なものでも、楽しかったー、だけでも意見いただけると飛んで喜びます!是非に