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Jack-o'-lantern replica  作者: 一条 灯夜
序章:いつものこと
3/4

3

 ずっと放置されている工事中の看板の横、目当ての店の駐輪場みたいなその寂れたトタン屋根の端。カラス避けの小物っぽい――でも、どこかてるてる坊主風でもある、謎の小物に向かって手を挙げ、意識を集中させる。

 これも西洋魔術ではあるんだけど、既に式が組み込まれていて、精神共鳴粒子を流し込むだけで発動してくれるから楽だ。

 一呼吸の間で、発動の手応えが返ってくる。

 手を離し、振り返れば――、姉貴は俺を置いて、開いた店へと向かっていた。ので、その背中を慌てて追いかけ……。

ちくしょう、ちょっと置いていかれただけで寂しいとか、どんだけ効果あるんだよ、あの薬。

 心の中で姉貴を毒づいてから、姉貴に続いて店の自動ドアを潜る。


 普通に入ればただの雑貨屋の店内だけど、さっきのセンサー……ってか、もう半分以上九十九神になり掛けている……使い魔? で認証されてから入ったから、並んでいる商品のラインナップが大きく変わっていた。

 ちなみに、表の屋号が【お約束】で、裏の屋号が【確信犯】だったりする。値段はどっちの店でも一個税抜き百円。

 RPGで言うなら、財布に優しい街の道具屋って所か。

 でも、精神系の素材をメインに扱う店の名前が【確信犯】って、ジョークの趣味としては如何なものなんだろう?

 まあ、確信犯の意味自体現代日本では誤解されているような気もするし、ブラックユーモアとしては上出来だ、ぐらいに思っておくか。贔屓目に見ても、店長も店員も『お約束』な『確信犯』なんだし。


「いらっしゃい、ませ」

 出迎えてくれたのは、ちょっとポヤンとした年上の幼馴染。

 微かにウェーブのかかったようなふわふわした髪は肩に掛かるぐらいまで伸びていて、ちょいちょい内にも外にもはねている。けど、不精感は無い。あくまでファッションとしてそうしているのが分かる髪だ。目は普通の大きさの垂れ目。姉貴と同い年なのに、姉貴と比べると全体的に丸みを帯びていて柔らかそうなスタイルをしてる。でも、太ってるわけじゃない。女の子っぽい曲線が……、こう……艶っぽいんだよな。


「やほ、美香」

 姉貴がちょっと気取って右手を上げて挨拶すると、からかいと皮肉のどっちにも受け止められるような上品な笑顔を浮かべた美香。

「今日は男連れだね、光」

 ……『今日は』の『は』の部分に軽いアクセントを感じるあたり、後者の意味の方が大きいかもしれない。

 美香は、時々、唐突に無自覚に毒を吐くのが玉に瑕だよな。

「まぁね」

 言葉の毒に気付かずか、意図的に無視してなのか、態度を崩さない姉貴。

 見栄っ張り、と、目を細めてその澄まし顔を見れば、脇腹を抓られ――本心としては不承不承、惚れ薬的には、なんだかちょっとキュンキュンするって言うか、痛気持ちイイような。……俺はなにかに目覚めてしまう前に、コホンと咳払いして表情を戻し、姉貴の指先を脇腹から外した。

「今日は女連れだね、誠」

 姉貴に言ったのと同じ調子で、美香は俺にも挨拶をしてきた。

 薬のせいとは言え、嬉しくなってしまう自分のハートがなんだか憎い。

 だから俺は、姉貴を真似て返事した。

「……まぁね」


 さりげなさを装って、店内を一瞥する。

 この【確信犯】の方には、客は誰もいなかった。ただ、気配から【お約束】の方には、女子高校生っぽいのが何人かいるみたいだけど……まぁ、そっちはどうでもいいか。ダメとまでは言わないけど、普通の人相手だと、魔法について話せないので、どっかペースが乱れるし、付き合うなら同じ魔法使いと俺は心に決めている。てか、付き合うのは真由紀さんと、心に決めている。

 ここで会えると期待してたわけじゃ……ちょっとしかないけど、なんだかガッカリだ。

 微妙にへこんだ所へ、美香が要らないダメ押しをした。

「来てないよ、真由紀」

 はい、そうですか……。

 なんていうか、もう、そっと見守るという大人対応を、姉貴も美香も覚えて欲しいと切に願う今日この頃だった。

「さっき惚れ薬飲ませたってのに、大した執念ね」

 俺と美香の遣り取りを盗み聞き――には、俺も美香も声を潜めていないので当てはまらないかもしれないが、呼ばれてないのに割り込んで余計なことを言ってきたので盗み聞きと決める――していた姉貴が、変な虫でも見るかのような顔で俺を見た。

 目を細めて姉貴を見つめ返すと、横から半笑いの美香が、俺の耳に囁くって言うか、息を吹きかけるようにして姉貴に底意地の悪い質問を投げ掛け、俺の反応を確認した後、クスクスと笑っている。

「あれ? 光、誠狙いだっけ?」

 知ってて訊いている、とは姉貴も分かっているらしく、軽く鼻で笑って叫ばれてしまった。

「冗談!」

 ふふん、と、鼻を鳴らした美香が、顔をこちらに向け……。どうも、姉貴が陳列棚を物色し始めたから、店員の本能としてそれを邪魔しないようにと、ターゲットを俺に移したみたいだ。

「誠、ちゃんと効いてるの?」

 ニコニコとちょっと腹黒く笑いながら、美香が顔をくっつけてくる。美香としては、あくまでお遊びで、姉貴の惚れ薬の実権みたいな感覚なんだと思う。確かに、子供の頃からずっと一緒だから、今更なのかもしれないけど……さすがに、これは、近過ぎる。

 俺だって、もう純な中坊じゃないんだから。

 姉貴もそうだけど、長く一緒にいたせいか美香も大概無防備だよな。鼻とか唇とか、ぶつかりそうな危険な距離にすぐに立ち入ってくる。

 俺が、桃色誘惑的妄想に負けたらどうする気だろう?

 ……虐待するだけか。未だにこの二人の方が、俺より強いんだし。

 くそう、スポーツの世界とかじゃ、ある程度育てば男の方が身体能力が高くなるっていうのに、魔法の世界じゃ中々逆転できない。傾向や相性的に、この二人は俺にとって天敵に近いし。

「残念ながら」

 そっぽ向いて言えば、バシバシと肩を叩かれ、自分で作った癖にピンクなオーラをどっかに弾き飛ばした美香が、楽しそうな顔で追い打ってきた。

「とか、なんとか言ってー」

 ああ、もう、と、美香の身長に合わせて若干縮めていた膝を伸ばす。頭ひとつ分と少し背が低い美香は、自然と上目遣いになって俺を見た。

 ――と、美香が顔を上げたから、それが少し顎を突き出したように見え、さっきのピンクの空気が唇に乗っているように錯覚してしまった。

 きっと、姉貴の薬の副作用だな、と軽く首を振って、その元凶を目で追うけど……。

 姉貴がハートの関連品が置いてある棚に張り付いて真剣な顔をしていたから、嘆息し、俺は俺で適当に店内をブラブラすることにした。


 新入荷のポップが貼ってあるのは、むっちりしたハート……? 名前のまんまだな。ハートマークって元々曲線が多いのに、それに無理やり空気を1.3倍ぐらい吹き込んで膨らませたような――ともすればプラスチック製の小物にも見える手のひらサイズのハートが棚の一番上にデンと、鎮座している。

 こういうの、東洋体系の魔法でも使えなくはないんだろうけど、構成要素がなんか妙な組み合わせで、結果がどうなるか自信がないな。

 ちなみに、むっちりしたハートには、マイペースさと、優しさと、ピンクな気持ちが混じってる。

 ……どんな気分の人――もしくはモノから収穫したんだろう?


「誠、探しもの?」

 俺が商品を見ているのが珍しかったからか、美香が俺の後を付いてきて訊ねてきた。

 んー、と、美香の顔を見て考えてから、別段何かを探しているわけではないので、やんわりと首を横に振ってみせる。

「普段使わないから珍しいだけ」

 あと、今日は成功した姉貴の惚れ薬の効果を体感して、こういう素材にも興味がちょっと出て来ていたからってのもある。

 昔の日本では、病気が鬼や悪霊の仕業とされていたから、陰陽術も医薬系の技術が多い方だけど、いきなり惚れてしまうような強引さには乏しいんだよな。

 まあ、じれったいのも古き良き文化と言えばそうかもしれないけど、知り合った瞬間に運命を感じたら、即効性の恋の魔法に頼りたくもなる。

 そう。真由紀さんとか、真由紀さんとか、真由紀さんとか。

「ああ、それもそっか」

 あっさりと納得した美香が「これ、おすすめだよ」と、なにかの錠剤を手渡してきた。健康サプリメントみたいな小さなプラスチック容器のラベルを見れば……。

「傷心活力剤? なんだこりゃ?」

「変な成分じゃないよ。PTAで、変に元気余ってるおばさんから抽出したテンションを調合したって言ってた、おかあさん」

 充分変な成分だ、と、言い返したいけど、美香そのものも変なので納得してくれないんだろうな。

 溜息を飲み込んで無言で商品を棚に戻したってのに、俺の心を読んだのか、美香がいきなり頬を抓ってきた。

 割と痛い。こんな見た目なのに、美香も姉貴同様に腕力が結構あるから。

 そこでふと、二の腕のさわり心地はおっぱいと同じだと、司郎が昔真顔で言っていたことを思い出し――。

「……んう?」

 なにもわかっていない美香が無邪気に首を傾げるので、良心が痛み、さり気なく抓っている指を離しざま、美香の二の腕に触れることは思い留まった。

 指を一本一本開かせるようにして美香の手を頬からはがし、そのまま美香の手を持って店内をぷらぷらする。


 昔から姉貴に付いて回ってたから、自然と美香とも一緒に居ることが多かった。それに、姉貴を抜きにしても――ハブいた訳じゃなく、其々の都合のため――よく遊んでたしな。

 さすがに去年は美香と姉貴が大学受験だったから、ちょっと疎遠になってしまい、それを繊細な男心がちょっと引き摺って、十月も半ばの今日まで二人でゆっくり話すって感じにはならなかったんだよな。

 顔さえ合わせてしまえば、こんな感じだって言うのに。変に気後れしてたのがなんだか馬鹿らしい。

 今度、また遊びにでも誘ってみるかな。

 姉貴ほどの乱暴さがない分――いや、暴力をふるわないわけじゃないが、姉貴よりもTPOと力加減を弁えるってだけだが――、安心感があるから、美術館とか博物館に行くなら、姉貴抜きで二人で行くことが多かった。っていうか、そうした芸術面の感性は合うから、いてくれた方が楽しい。

 上手く言葉に出来ない絵画や音楽の感想は、変に言葉にするより、近い感性で共有できていると思う方が、感動がじんわりと心に残るから。

 難点は、若干、時々、常識が怪しいとこだけど。

「そういえば――」

 語尾を伸ばして、俺の顔を覗きこんできた美香。

「ん?」

 小首を傾げて続きを促してみれば、いまひとつやる気の無さそうな顔で仕事を依頼された。

「ウチのおかあさん、動けるようにだけした人形、いくつか欲しいって」

「店の商品の補充? 紙ので良いなら、ちゃちゃっと文具店で和紙買ってきて作るけど」

 ハートを抽出するなら、人形劇とかでしばらく使った人形が良いらしいけど、そんな代物と巡り合う確率は現代日本じゃ限りなく低い。だから、代替として息を吹き込んだ人形に、愛を囁いたり、貶したりしてハートを調達している。

 まあ、最悪の方法を取るなら、ちょこっと誰かのハートを削ってくるのが一番手っ取り早い手段かな。……さっきのおばちゃんのふてぶてしさ入りの危険なハートのサプリみたいに。

 ああ、あと、気持ちを買い取るのもありらしいけど、ハートを売りに来る客はブルーなハートとか、暗いハートみたいな、寒色系のばっかりだから仕入れが偏るって、美香の母さんが昔嘆いてたっけ。


 ん――と、鼻を鳴らしながら悩んでいる美香に、どうする? と、再度小首を傾げて尋ねてみる。

「私、預かってたら失くすよ?」

 俺に合わせたのか疑問形で言った美香だったけど、最後はなぜか自信たっぷりに胸を張った。

 姉貴の1.25倍くらいの胸をしっかりと見てから、そのボリュームに納得して俺は頷き返す。

 ……眼福分は働いとかないとな。

「いつまでに欲しいって?」

「週末には」

「金曜の朝にここに寄るよ」

「よし」

 ちょっと偉そうに美香が頷いたのを確認して、さっきからずっと同じ姿勢でいるように見える姉貴に向かって声を掛けた。

「姉貴ー! まだー?」

「もうちょっと待ってなさい!」

 姉貴の隣に立ってなにをしているのか手元を覗き込んでみると、大きなハートを何個か手に取り、長さや厚さを測って体積の計算をしながら吟味している。

 思わず鼻で笑ってしまい、美香に腹黒い笑みを向けられてしまった。

 いや、だって、たかだか数立方ミリメートルの違いで、効果にそこまで差は出ないだろうに。

 ……で、ですよね? 美香御姉様?

 慄きつつも、美香にフレンドリーな微笑を向けると――。

「誠、誠」

 おいでおいでされたので、さっきの目撃証言もあったし、素直にそれに従うと、がっちりと羽交い絞め風に美香にロックされた。

 背中のクッションが嬉しかったので、ひとまず大人しく堪能していると、美香は二つの意味で胸を弾ませながら、腹黒い提案を姉貴にしあがった。

「誠、素材にしよう」

 また、ろくでもないこと思いついたな。

 今度は俺の思考を読んだわけじゃないと思うけど、美香は、げんなりした俺を羽交い絞めにしたまま、リズムを取って左右に揺さぶってきた。

「光、新鮮な暖色系のハートが手に入るよ?」

 トドメとばかりに、姉貴に向かってキラキラした笑顔を向ける美香。

「アンタ、アタシの所有物だからね、それ」

 美香だけでなく俺をも蔑んだ目で見ながら、姉貴は呆れたように言った。てか、そんな扱いかよ、俺は。

「基本的人権を認めてくれ」

 言うだけなら無料だと、とりあえず主張してみたが、案の定、不平等条約というかブラック企業の雇用契約のような姉と弟の関係は、解消されてはくれなかった。

 なんか、複雑な気持ちだ。惚れ薬的に、現状維持を喜ぶ気持ちと、もう少しなんかあって欲しい気持ちが芽生えてしまっているから。くそう。


 混乱している俺と、ツンとした姉貴と、俺の耳に艶っぽく囁きかけてきた美香。

「誠、どうする?」

 ……悪魔の囁きではある、けど。

 正直、美香の攻撃って言うか、魔法は、かなり苦手ではある。なんか、最後に違和感が残るって言うか、虚しさが残るって言うか。

 まあ、感情をいじくるんだから、そういうモノなのかもしれないけどさ。

「姉貴への恋心に限定してくれるなら、俺は別にいいけど?」

 さっき姉貴の様子を鼻で笑ってしまったのを見られている怖さも確かにあるけど、いつまでもこの持て余してる恋心を保持し続けているのも、正直、キツイ。

 だから、今日は、二人目の姉とでも言えるような、年上の幼馴染を信じるてみることにした。こういう件で、期待を裏切られる確率は、長年の経験的に三割以下だし、半丁博打よりはましな確率で事態は好転する。

 しかし、美香の提案に俺が乗るのが珍しかったからか、姉貴が叫んだ。

「マジで!? 馬鹿なの? ……ああ、M気質なのか」

 違うから、二人して納得するなよ。姉貴と美香がSだから、そういう扱いをされてるだけだからな、俺は。


「さて、取り出したるは、玩具のハートの光線銃」

 羽交い絞めにしていた俺を、姉貴に渡して――てか、姉貴も羽交い絞めにするんだな、俺を。ほぼ完全にモルモット状態だ。背中のおっぱいが無かったら、きっと逃げ出したに違いない。

 ちなみに、美香が腰から抜いたのは、十五年ぐらい前に休日の朝にやっていたアニメの主人公が使っていた、らしい、玩具の銃だ。もちろん弾は出ない。てか、古いのなのでもう光ったりとかもしないし、本当に形を似せて引き金が引けるってだけの代物だ。

 店に入る時に使ったような、内部に魔法の発動のための公式が仕込んであったりもしない。ただの玩具。

 別に、これがなくても、姉貴がその辺の物を比較的自由に燃やせるのと同じように、美香も他人の気持ちを弾き出せるはずなんだけど、玩具の銃が無い限り魔法を使わない。

 なにか、理由があるのかもしれない。

 強い思い入れとか自分ルールがあると、それに公式――誰が使っても同じように結果を出す魔法を使うための理論――が、引っ張られることとかもあるし。でも、いや、だからこそ、そういうのは当人の根の深い部分に理由があることが多い。

 だから、訊けない。

 まあ、幼馴染で、ずっと一緒にいるからって知らないことがあって良いんだし、別に気にしないけどさ。

 美香は、俺の胸の中心に銃口を当てて――。

「ばぁん!」

 引き金を引いて、口で効果音を叫んだ。

 一瞬、平衡感覚が無くなった。下がどこで、自分がどんな風に立っているのか、分からなくなる。空間識失調、というらしい。他人の魔法に巻きこまれると、よくある症状だ。特に魔法使いは、根源の世界に引っ張られるせいらしい、け、ど?

 姉貴が支えてくれてるけど、俺が完全に足の力を抜いているので、重さに耐え切れなくなったらしい。ずる、と、姉貴の腕をすり抜けて床にへたり込んでしまう。


 ちなみに、美香の場合、声が発動条件ってわけじゃないけど、その方が集中できるらしい。俺には分からない感覚だけど、砲丸投げとか、ハンマー投げの選手が、投げる時に叫ぶみたいな感じなのかも。……いや、さすがにそれは違うか?

「誠、平気?」

 風邪の熱を測るように、美香がおでこを合わせてきた。眩暈は……、まあ、一瞬だし、もう平気、か。

 立ち上がって胸を撫でてみるけど、特に異常はないみたいだ。自分の胸から視線を上げると、ちょっと解釈に困る複雑そうな顔をした姉貴の顔がすぐ近くにあった。

 姉貴と目が合ったけど、全然胸キュンしなかった。

 ……ほんの少し、一ミリぐらいの切なさと虚無感を感じて、それを誤魔化すようにぶっきらぼうになる俺。

「問題なし。ちょっとすっきりした」

 言った瞬間に、姉貴にぶん殴られた。

「問題あり。頭が痛い」

 美香に向かって言い直すと、全く邪気のない笑顔で残酷なことを告げられた。

「そか、じゃあ正常だ」

 すごいな、確かに。

 この二人の脳内には、俺を心配するって選択肢は無いんだろうか? まがりなりにも、年下の弟分だぞ? ちょっとは可愛がれ。


 さすさすと、美香がかる~い調子で姉貴に打たれた俺の頭を撫で、姉貴の方に近寄っていく。

「何色、取れてた?」

「子粒のピンクのハートと情熱のハートぐらい。やっぱり、薬じゃこんなものか」

 冷静に考えて、使ったもの以上の素材が手に入るわけは無いんだけどな。まあ、俺も気付いたのは今になってからだけど。

 ふふん、と、ようやく戻った調子で床に落ちたハートを拾う姉貴を見下せば――。

「美香、誠の性欲とか諸々全部削っちゃいなよ」

 姉貴がニッコリ微笑み返しながら、とんでもないことを言い出しあがった。すかさず美香が、スチャッと玩具の銃を構える。

「可愛い弟への虐待反対!」

 逃げ出す間も無く、姉と姉のような幼馴染に捕獲される。

「あ゛ぁ、俺には、心に決めた人が~」

 せめてもの抵抗は、頭部への打撃と羽交い絞めによって封じられた。

「喧しい」

「誠、死亡フラグのフリだね。大丈夫、分かってる」

 無慈悲な美香の銃口が、俺のハートにあてがわれて、嗜虐的な笑みがふたつ目の前に浮かんでいる。

「全然大丈夫でも分かってもいねぇ!」

 と、叫んだが最後、再び軽い眩暈が俺に訪れた――。

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