教室。醜い。
教室の扉の一歩前。
中からは、メイドカフェの準備を行う声が聞こえる。
俺は立ち止まった。
「ちょっと、手を離してくれるかな?」
「えぇ?なんで?」
「おかしいからだ。」
「なにが?」
「色々面倒だからね。」
面倒なことは避けて生きていきたい俺なので、
なるべく優しめに、強く手を振り払う。
「あーあ。傷つくわ!まぁ、いいか。」
「そうだね。じゃあ、僕は入るから」
「あぁ、私も!」
ガラガラと、扉を開ける。
予想通り僕には目が集まらなかった。
けど、その後入ってきた女子に目が集まった。
「……あれって」
「初めて教室でみたんだけど……」
「私も私も!」
彼女をコソコソと噂する声。
やっぱり目立つんだ。
対する彼女は、無言無表情だった。
無言で、窓際の人がいない場所へ行く。
誰か女子が彼女に話しかけた。
「ねぇ、ちょっと」
「なに?」
「✕✕ちゃん、メイドやってくれる?」
「どうして?」
「いや、えっと」
突然彼女に話しかけた女子が、彼女の無言の圧力に怯む。
俺はそれを黙って見てた。
俺の隣には、彼女とまではいかないけど、それなりに綺麗な女子が立っていた。
「私がメイドをやる必要は無いでしょう?」
「でも……」
「無駄な事はしたくないわ」
「だけど、✕✕ちゃんは1番かわいいから。」
「褒めてくれてありがとう。でもやらないわ」
「頼むよ、✕✕。」
遂にはクラスの人気者そうな男子が声を出した時。
俺の隣で女子が叫んだ。
驚いた誰かが、当日使うガラスのコップを落とした。
俺も、驚いた。
「うるさいわよ!頼んでるんだからやってくれてもいいでしょ!
グダグダ言って男の気を引いてんじゃないわよ!!」
嫉妬、らしい。
一番醜い、人間の側面。
「…誰?あなた。」
チラリと名札を見て、
「あぁ、─ちゃんね。」
「うるさい!」
「あら、失礼。」
そう言って、得意のクスクス笑いをする。
これも、その女子の怒りに触れたらしかった。
「何笑ってるのよ!あんたなんて、クラスにも来ないし、
死ねばいいのよ!!」
終わったな、と思った。
きっと、この女子は、彼女に自殺癖、自傷癖があるのを知っている。
知った上で言ってるから、もう、終わってる。
その言葉を聞いた瞬間、彼女の目が変わった。
「死ねばいいのよ、ねぇ。」
「……なによ」
「ねぇ、私ね、自殺マニアなのよ」
そう言いながら、コップを割った子の元へ歩いていく。
割れたコップの、ガラスの破片を掴んで、それで、
自分の腕を切った。
「ヒッ……!」
ツーッと、真っ赤な血が流れる。
それだけでは終わらない。
腕から血を流しながら、窓からベランダへ出た。
柵に手をかける。
「ちょっ、なにして……!」
「あら、どうしたの?死んでほしいんでしょう?
それともなぁに?私が本当にやるとは思わなかった?もしそうならあなたは相当おめでたい頭だね。」
「なっ……」
こうなったら、もう、とめられない。
3階のここから落ちたら、最悪死ぬ。
「君、やめておきなよ。」
そう考えて、思わず声を出した。
驚いた顔で、みんなが俺を見る。
そんな顔で見ないでくれ。
一番自分が驚いているのだから。
ただ1人、彼女だけはニコリと笑っていた。