初対面のクラスメイト。
教室が、ガヤガヤとうるさい。
数週間後に迫った文化祭の準備で、学校内は音が溢れていた。
「……うるさい」
一言呟いても、喧騒の中に消えていってしまう。
例え聞こえてたとしても誰も気にしないだろうが。
ガラガラ、と教室の扉を開けて、俺は教室を出た。
幸い俺は、これといった役を貰ってない。
なんの罪悪感も無く、俺は黙って教室を後にした。
少し重い屋上の扉を開ける。
あまり綺麗じゃないこの場所は
生徒から不人気で、滅多に人がいない。
それを知ってて、俺は逃げ場所にここを選んだ。
春から夏への変わり目、特有の生暖かい風が吹いて、俺の頬を撫でた。
四方を高いフェンスで囲まれ、
コンクリートの地面にあるのは汚れたベンチ一つだけ。
清潔感がある訳では無いが、周りが言うほど汚いわけでもない。
むしろ教室のロッカーの方が物に溢れて汚いと思う。
「んんーーー!」
思い切り背伸びをする。
そしてそのまま、コンクリートに寝転がった。
雲一つない青空が広がる。
あまりにも綺麗だったから、思わず携帯を出して、写真を撮った。
『カシャッ』
と、音が鳴る。
静かだったから、それは、思いのほか辺りに響いた。
画面に広がる空の写真は、水色の絵の具を零したみたいだった。
画面いっぱいに空の写真があるから、これじゃ空だって分からないな、
と思うと、自分の行動に少しだけ笑えた。
「僕は、何をしてんだろ。」
思わず呟いて、立ち上がった。
呟いたことに、大して意味は無い。
ただ、純粋にそう思っただけだった。
携帯を制服のポケットに入れて、歩き回る。
フェンス越しに、校庭を見る。
いつもは殺風景な校庭が文化祭の準備によって、
明るく色づいていた。
歩き回って、そろそろ1周しそうだった時、俺は何かを見つけた。
いや、人だったけど。
その人がおかしかった。
制服に、ロングの長い髪。
上履きの色は、俺と同じ色。2年だ。
2年の生徒は、屋上の転落防止フェンスの上に座っていた。
この高さからもし落ちたら、きっと死ぬ。
「……なにしてんの」
なんとなく、声をかけていた。
心配だったか、と言われればそうではない。
ただ、本当になんとなく、声をかけた。
「……見てるの。」
「なにを?」
「人。」
「なんで?」
「腐ってるな、と思って。」
その言葉を聞いて、俺は思わず女子生徒に近づいていた。
「……死ぬの?」
「それもいいかもね。こんな腐った世界。」
「……」
女子生徒の手を引く。
自分の方に、手を引いた。
女子生徒が、コンクリートに落ちる。
もちろん、屋上のコンクリートだ。
「…なにするの」
「目の前で死なれても気分が悪いから。」
「そう、迷惑?」
「とっても。」
「なら、やめておく。人に迷惑をかけるのは私嫌いだから。」
「それはどうも。」
あらためて、女子生徒の顔を見た。
名前はよく知らないけど
きっと、美少女にわけられる人だ。
「あなたは誰?」
突然の質問に、俺は驚きながら自分の名前を告げた。
「同じクラスかな?私はA組だけど。」
「僕もA組だよ。君をクラスで見たことはないけど。」
「そんな事言うの?ひどいね。でもまぁ、クラスには行ってないよ。」
それなら、俺が知らなくても仕方ない。
ただでさえ人の、顔と名前を覚えられないんだから。
「だよね。初めて君を見たよ。」
「それじゃあ、初めまして。」
「あらためて挨拶をする必要があるのか?」
「ないよ。でも、いいじゃん。好きだよ。こうゆうの。」
「そうか。それなら君の好きなことに付き合ってあげてもいいだろう。」
俺は女子生徒の手を握った。
「よろしくね」 と。