世界は終わらず、また年が明けるようで
「いやぁ、さむくなりましたねぇ。もう来年が目と鼻の先ですねぇ」
真っ白な道、小さな足跡がサクサクと音をたててる。前を歩く君、首に巻いたマフラーの端が手招きするようになびいてる。
君はいつも前を歩くね。何でかな。考えて、足跡で気づく。僕が遅いだけ、君が前を歩いてるんじゃなくて、僕が後ろを歩いているだけ。そんなこと、どうでもいいかな。
もうすぐ年が変わりますね。なのに君と僕の関係は、いつまでも変わりませんね。もういくつ年を数えたかな?
「今年、やり残したことはありますかぁ?」
君は振り返らずに、独り言のように呟いた。僕に向けた言葉だって分かるのが、小さな自慢。
「やり残しのない人生なんてないよ」
「まったく、変わらないですねそういうところは」
顔は見えないけれど、きっと呆れた顔してるんだろうね。仕方がない、こんな考え方しかできないのだから。それが僕である証明。
「なんかないの~? 来年こそは~!みたいな目標」
「あるよ」
いつも目標にして、いつまでも届かないけれど。きっと、頑張る理由が足りないせいだ。なんて理由をつけて、いつまでも手を伸ばしていないだけ。
「じゃ、来年はそれが目標?」
「うん。目標にして、また年を越すんだろうけど」
「... それはいつ叶うのかねぇ。ほんっと、面倒な生き方してるよね」
「すみませんね、面倒で」
「もしもさ。明日世界が終わるならどうする?」
君の小さな足跡を見つめていたら、そんな突拍子のない質問が飛んできた。
「... そんなの、なってみなきゃ分からないよ」
「だからもしもって言ってるじゃんか! 死んじゃう前にこれだけは!! みたいなのないの!?」
「.........あるよ」
もしも明日世界が終わるなら。何をしても、すべて消えてなくなるなら。後悔も、哀しみも、全部真っ白にしてくれるのなら。
「好きな人に気持ちを伝える。... 結果はどうあれ思い残すことなく僕はそれで死ねるかな」
「ふーん」
「君は?」
「え。 なんだろ... あ! 最後くらいは後ろを歩いてみたいかな」
「僕の?」
「うん!」
そんな簡単なことを最後に望むなんて。君らしい、勢い任せの考えだ。
それくらいなら。今でもいいじゃないか。
いつも眺めてた小さな足跡。それを追い越すように、少し歩幅を大きくする。
「ほらね」
君の横を通りすぎて、少し前を歩く。...君の前を歩くのは初めてだね。君がいないと少し寂しい気がした。でも、後ろから聞きなれた音がして、安心する。
「簡単なことだよ」
「ま、前見てて! ふ、振り返っちゃダメだから!」
振り向こうとした顔を途中で止める。... 焦っているようだけど。君にしては、珍しい。
白い雪が道を染める。今日だけ、小さな足跡は見当たらない。きっと、後ろを見ればあるんだろうけど。
「ありがとう」
「な、なにが!」
「君がいつも見てる景色がどんなだったのか。知ることが出来たから」
「そ、そう? ま、まぁそれなら良かったね」
「うん」
怒るのかな。怒られても、いいや。君に感謝してるから、それを伝えたいから。...本当に伝えたいことは、まだ言えそうにはないけど。
「ありがとう。来年も、よろしくね」
僕は笑って、そう伝えた。
♦
「... 見るなって、言ったのに」
「えっと、ごめん...」
振り向いた君は、真っ赤な顔してて。ちょっと泣きそうな顔で、僕を見ていて。
...... きっとそれは、雪のせいなんだよね? 冬の寒さのせいだよね?
抱き締めたいと。一歩、君に歩みだしたのは。
.......... もうすぐ、年が明けるせい。
そういうことに、しませんか? 年忘れなんて言葉のせいにして。
小さな君に、壊れないようにと優しく触れた。
終




