急転
一糸纏わぬ、正にそれ。
同姓ものとは違う匂い。まだ少女とかしか呼べないはずの彼女から、女の匂いがした。
声が出ない。正嗣はまるで初心な男の様に唯たじろいだ。
生を実感しない心に、確かに劣情が芽生えていた。
街はコンコンと暗くなってきていた。夜は散らかった町並をシルエットにだけにしていった。
その中で、少女の一糸纏わぬ身体だけが艶かしく輝いていた。
「先生、、、、、」
吐息の様な台詞は少女でなく女のそれだった。
されるがまま。正嗣の首に巻きついた腕は体温をこめられていった。
「ま、待て。待ってくれ、ブリット」
「待って?先生の方からしてくれるってこと?」
「いや、そうじゃなくて、こんなこと、よくないよ」
「何で?普通のことでしょ、若い男女が二人きりですることっていえばこれしかないよ」
「そりゃあそうだろうけど、まだ君とは会ったばかりだし、、、、、いや、そういう問題じゃあ、、」
「もういい、黙ってて」
ブリットは鼻先で正嗣の唇に触れると、そのまま下に沿わせていった。
倫理観と衝動に翻弄され目が回る。アルコールも入っていないのに、頭は現在の状況を羅列するのみで、冷静の判断をひたすら拒んでいた。
二人の身体の距離が縮んでいく。星の微かな光さえも通さぬほど。
「ブ、ブリット、、、、、」
身体の密着は、彼の倫理観の壁もまた取り去ってしまった。
気付けば、彼女の身体に手を伸ばしていた。
もう少しだ、もう少しだと胸の高鳴りだけが正嗣に訴えてきた。
考えることを止めた。あの時と同じ、歩道橋から身を投げたあの時と一緒。
目を閉じ、流れに身を任せる。唯、それだけ。
そう思った瞬間。正嗣の耳に警報が鳴り響いた。
幻聴?いや、それは確かに現実に鳴り響いていた。
「なんだ?警報!?」
正嗣が飛び起きる頃には、ブリットはもう着替えを済ませていた。
「先生、先に行ってるね!」
「先に行くって、どこに!?」
ブリットはベランダの手すりに飛び乗り、ぐっと、足に力を込めた。
「もちろん、怪物退治!!」