クラスメイト
正嗣に前に少女達が並ぶ。
金髪碧眼はブリット。
黒髪コワル。
茶髪はアキ
オレンジの髪はオードリー。
「よろしくお願いします。先生」
正嗣には癖があった。
人を覚えるときは、まずは髪からだった。髪は人によ特徴的だが、間違えやすい。だから安易に呼びかけることは無い。それは彼が短い教師生活で培った事だった。
「ああ、よろしく」
正嗣ブリット伸ばした手を握り返した。
状況もわからぬまま、流される。これも彼の癖だった。それを悪癖と自覚していても。
「自己紹介は済みました?先生」
どきりと後ろを振り向くと、背の高い女性が立っていた。
年の頃はいくつだろうか。4、50、老けてはいないが、妙な落ち着きのある低い声が、正嗣にそう思わせた。
「先生にはこれから、この子達の担任を勤めてもらいます。授業内容や時間割については明日の職員会議で行います」
「えっと、じゃあ今から僕は何をすれば」
「今日のところはとりあえずの顔合わせ、ということで。先生もまだこちらに来たばかりで混乱しているでしょうから」
「はあ、はい。ありがとうございます」
案内役の教師は、冷たい印象ではないがどこか事務的で、機械的だった。
「それでは、先生は今から住居と市民登録の説明があるので、それが終わったら誰か先生に街の案内をお願いしたのだけれど」
「はいはいっ!!ワタシやるっ!その役っ!!」
ブリットが大きく手を挙げた。
「貴女、サボりたいだけでしょう?」
「別にいいじゃない。みんなやらないでしょ?だからワタシやる」
変な理屈だな。正嗣はそう思ったが、ブリットなら自己紹介も省けるだろうと内心安堵していた。
「まあいいわ。それじゃあブリットは職員室の前で待ってなさい。他の子は自習よ」
「はいはーい!」
女教師に連れられ、正嗣は教室を後にした。
その後を、ブリットはスキップをしながら付いてきた。
「二つ目のドア、か」
ただの迷信、気の迷いであることを正嗣は願った。
用心という言葉は、ただ足元の石に気をつけろということではない。事象は予期せぬところに転がっているものである。