第三話:王様と友達
「皆さんステータスは見終わりましたか?終わったらステータス外部閲覧と念じてください。そしたら他の人にも見られるようになりますので」
四人が念じると今度はホログラムのように誰からでも見られる文字が現れた。それをエレーネがひとりずつ見ていく。そして最後に久志凪のステータスを見て・・・
「やはり貴方でしたか。けれどどうしましょうか・・・」
「どうかされましたか姫様」
「アレクここを見てください」
エレーネが指差したのは魔力とMPの項目。
(やっぱり少なすぎるよなぁ)
「クシナ様にはここに残るか、それとも元の世界に戻るかを選んでもらうべきなんですけど・・・」
エレーネは申し訳無さそうにしながら言う。
「戻れないんですか?もしかして方法がないとか」
「いいえ。戻る方法はあるにはあります。問題はクシナ様の魔力・MPの量です」
「少ないですよね」
「はい少なすぎます。魔力・MPは普通の人の平均でさえ10万程度はあります。少なくて5万です」
それを考えると久志凪の魔力・MPはあまりにも少なすぎた。
「送還用魔法陣を作動させるのに必要な魔力は100万です」
「他の人に魔力を入れてもらうとかは無理なんですか?」
「送還用魔法の効果は魔力を注いだ人のみを対象とします。たとえクシナ様が全魔力を注いだとしても他の人の魔力に打ち消されてしまいます」
「なんか魔力を溜める道具とかないんですか?」
「ありますが100万溜めるのに必要な時間は50万日ですよ」
(つまり1000年以上かかるのか・・・生きてられねー。ということはこの世界に残るかしかないとして・・・)
「あのこの世界に冒険者とかいう人達はいますか?」
「はい。いらっしゃいますよ。冒険者ギルドに登録されている方がそう呼ばれます」
「じゃあ1週間くらいここにいて、その後冒険者になって旅をします」
「だ、大丈夫なのですか?魔物もいて危険ですよ?」
旅をするということは必然的に自然を通ることになる。この世界では動物と同じくらい魔物がいる。
「まぁなんとかなると思います」
「・・・分かりました」
話が終わり、エレーネは元いた場所に戻った。
「それで勇者様方は信じてもらえたかな?この世界があなた方にとっては異世界であると」
「はい。もう疑いようがありません。しかし、俺達に全世界から期待されるほどの力があるのでしょうか?」
護が勇者組を代表するように答える。戦う力。それが喧嘩をすることさえ少ない日本の高校生にあるのかは全員の疑問だった。
「勿論ある。この世界では魔力・MP・HP以外の平均ステータスは100前後。しかし、あなた方はその100倍近くあるはず。これからレベルアップをしていけば余裕で魔王を倒せるはずだ」
「今帰るという選択肢はないんですよね?」
「すまぬ。それはできん」
召喚用魔法陣にはもう一つ効果がある。勇者として召喚されたらその目的を果たさなければ送還用魔法が発現しない、というもの。ある意味それは『呪い』だ。
「すみませんが心の整理をしたいので一日時間をください」
「了解した。部屋を用意してある。ゆっくりしてくれ」
*************
次の日再び久志凪たちは謁見の間にいた。
「では協力してくれるのだな」
「はいもうそれしか帰る方法がないので」
「すまない、協力感謝する。それでクシナ殿は一週間どうする?」
「図書館か書庫で本を読みたいです」
久志凪は本を読んでこの世界の情報をある程度仕入れてから冒険者になろうと思っている。
「では王国立図書館の権限Sを後で付与する」
「その権限Sというのは?」
「図書館には書架ごとに結界が張られている。その結界を通れるのはそれ以上の権限を持つものだけなのだ。そして権限Sというのは最高ランクの権限ということだ。これは王族くらいにしか付与されない。いや王族でさえ中々付与されない。大事に使ってくれ」
「りょ、了解しました」
因みに権限Sに分類されるのは禁書などのかなり重要なもの。だから王族でも中々付与されないのだ。その中にはまだ解析できていない文書もある。
「それで本当にこの城から出て行くのか?別に残っていてくれても構わんが」
「いいえ、大丈夫です。もう帰る方法がないならこの世界を楽しもうと思いまして」
「うむ、そうか。気をつけるのだぞ」
「はい」
護たちは一週間程度訓練してから魔物を退治することに決まった。そこでレベルをかなり上げるつもりだという。
久志凪、護たちの今後の予定が決まり、解散した。
*************
いま久志凪がいる部屋は社長室に置いてあるような大きな木の机とその前にシンプルな少し低い机を挟むようにして置かれたソファーがある。そう、この部屋はケルティアの執務室である。
「では、今から権限を付与する。ステータスを見せてほしい」
ケルティアがそう言うと久志凪はステータスが誰からでも見ることができるように開いた。それに向かい、ケルティアは呪文を呟く。それはこの部屋でしか使えず、更に正統に王家の血を継ぐものだけが使える魔法。
「よし、終わったぞ」
「有難う御座います。国王陛下」
「普通に名で呼んで良い。敬語も無しで」
「え、あ、いや・・・ではお言葉に甘えて。ありがとう、ケルティアさん」
最初は断ろうと思っていた久志凪がそう答えたのには理由がある。それはケルティアが『うん、と言ってくれないと死ぬ』的な目で久志凪を見ていた・・・いや睨んでいたからだ。
「うむ、友みたいで良いな」
「友達・・・僕にとっての久しぶりの友達が国王・・・」
久志凪には一人だけ、学校で話す人がいた。その人は某有名動画投稿サイトに動画を投稿していて、久志凪と気が合うオタクだった。動画サイトではKAKEROという名前で活動している。
「まぁこれから困ったことがあれば城に来るといい。出来るだけのことはしてやる」
「うん、ありがとう。ケルティアさん」