プロローグ
「ん?あの者はなぜ世界を渡っている?」
白い口髭を生やした老人はそう呟いた。老人は木で出来た杖を持ち、玉座のような椅子に座りながら水面を見ていた。その水面の広さは一般的な教室と同じくらい。老人の服装はよく想像される神様が着るような白い服。
「おそらく・・・」
その老人の呟きに対して返事をしたのは天使のような服を着た20代前半くらいの女性。
「彼らが向かっている世界のダクロス王国で行われている勇者召喚に巻き込まれたのかと思われます」
「うむ・・・そうか。勇者召喚に巻き込まれたのはこれが初めてじゃな?」
「はい。記録には一切残っていません」
「しかし不思議じゃの。あの者の未来が見えん」
老人は人の大まかな未来を見ることができる能力を持っていた。
「未来が見えぬということはもうすぐ死ぬのか、それとも・・・いや、ありえんはずじゃ。過去に存在したあの四人は特別じゃ。しかも三人はあと一人に影響されたにすぎん」
「そうですね。彼の周りに未来が見えない人は存在していませんでした。しかし彼のステータスは平均並みですね。知力が少し高いですが、魔力なんて目も当てられないくらいです」
女性は彼に憐れむような視線を向けながら言った。
「しかしよくこの状況で寝ていられるのぅ。少し興味がわいた。特別に入ってくれることを祈るぞ。少年」
「貴方は誰に祈るんですか。貴方自身が祈られる存在じゃないですか。最高神アレス様」
「細かいことは気にせんで良い。ミラよ」
老人の名はアレス・ゴドネル。最高神と名前につけれらるのは序列6位以上の神のみ。女性の方はアレスに仕える中で一番の実力を持つミラ・エンネル。天使は神格を持つことはできないが神に近い実力を持つ天使には神級天使の称号がつけられる。
そして二人は世界を渡るもの、つまり”転生者”と”転移者”を監視する役目を持っている。しかしそれは監視のみ。人選ができるわけではない。
そんな二人が見ていたのは水面に映る無数の線。その大きなまとまりを移動しているあらがじめ報告があった三人の少年少女と報告にはなかった少年。三人の少年少女は慌てていたが、報告にない少年の方はぐっすりと寝ていた。
アレスとミラが見ていたのは勿論寝ている少年のほうだった。