疑惑の暗示
狭い車内で沈黙が続いていた。
岩崎は、ソッと懐から煙草を取り出すと火をつけようとした。
「勘弁してくださいよ。車内での喫煙はやめてくださいって何回言えばわかるんですか。」
「仕方ないだろ。最近じゃん吸える場所が減っちまったんだから。」
「あと10分で着きますから。頼みますから喫煙室まで我慢してくださいよ。」
海野は、眉をひそめたまま抗議をした。
しかし、効果はまく岩崎は窓を開けるとこれでいいだろ、言わんばかりに煙草に火をつけた。
独特の香りが車内に流れ込み始めた。
「海野。お前はどう思う。」
「どうって・・・何がですか?」
「江本さんの事故だよ。」
「あぁ・・・。」
信号につかまり、車は停車した。
海野は考えながらも車内の窓をすべて開ける。12月の冷たい空気が一気に入り込み体感温度はガクッと下がる。
「不運な事故だったのではないでしょうか。加害者から薬物反応も飲酒の痕跡もありませんでしたし。」
「うむ・・・。」
「何かあるんですか?」
「いや・・・な。まだわからないんだがあの2人は本当に付き合っていたのか?」
「何を言ってるんですか。誰がどう見ても付き合っている、仲睦まじそうじゃなかったですか。」
車は、ゆっくりと動き出した。
クリスマスを感じさせるイルミネーションの光が街のどこにいても目に付いた。
美しさもあるが、どこかしつこい感じも海野は感じていた。
「三山さんがしていたネックレスは、ペアのものだった。しかし、江本さんは身に着けておらず、事故現場にも落ちてはいなかった。」
「え・・・?」
「加害者がわざわざ回収する必要もないものだ。得られる解は、そもそも付け忘れていたのか、それともあの2人は付き合っていなかったのか、ということではないのか?」
「…よく見ていましたね。」
岩崎は、煙草の吸殻を車内灰皿に押し付けると2本目を取り出した。
「あの2人、なにか臭うな。」