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転生者のあたまのつかいかた

私の完全休養がとけた。

「おはようございます」

「早いな。おはよう」

討ち入りの勢いで朝食もそこそこに執務室に向かったけど、すでに若様は仕事をしていた。若様もロンも私より早く仕事を始めて、夕食前に私が下がるときに仕事を終えていることはまず無いし、なんとなく食事の後も仕事をしている気がする。いったい彼らは毎日何時間寝ているのだろう。

そんなことを考えていたのは、早くこの二日間のことを聞きたかったからだ。朝一で入ってきた若様をつかまえてそのまま聞く気だったのに、書類とにらめっこをしているものだから、どのタイミングで切り出したものかと思ったのだ。

でも、若様がすぐに気付いてああと声を出した。いつも壁際の自分のデスクに顔を埋めたままの私が、珍しくちらちらと振り返るのを不審に思ったらしい。

「そうか、先に捜査状況を話すか。へスター、そこに座れ」

私は急いで2人掛けソファの一方に座った。若様が奥の一人掛けに落ち着き、ようやく、あの騒ぎと強制休養のせいでずっと教えてもらえなかった二日間の進展を聞くことができた。

「ともかく、自白どおりの場所にアジトは見つかったんだ」

ともかく、という前置きを若様は使った。あの日の夕方彼等が踏み込んだ時点で、アジトはすでにもぬけの殻だったのだ。

「貸店舗の一室だ。もぬけの殻ではあったが、確かに複数の人間が出入りしていた痕跡はあった」

今警備隊は、元アジトの周囲で目撃証言を集めているらしい。

「証言が出てくれば、グループの他の人間の人相も分かるわけですね」

ただ、と若様が腕を組んだ。

「場所が本当だったから自白は概ね信用できるとみているが、奴曰くそこに出入りしていたのは全員下っ端で、空話をかける相手や内容を指示されて動いているだけだったらしい」

黒幕は空話で指示を出していたということだ。捕まりやすい下っ端とは関係を悟らせないように用心しているのだろう。

「それでも、まだ捕まっていない仲間の人相が分かれば収穫だ。それに、もう一人もアジトが割れたことを知って話し出したしな」

オレオレ詐欺の受け取り役だった男は、自分がしていたのは手紙の宛名を書く作業と、若様から金を受け取る係の一回だけだと、最初から言っていた。そして詳しい計画については何も答えられず、ただ金を受け取って帰る仕事だと言い張っていたのだ。

もう一人、最初に投資詐欺をはたらこうとしていた男のほうは、今までずっと黙秘していた。この国で拷問は許されていないけれど、それでも一月にわたって厳しい取り調べを受けながら、何も言わなかったのだ。どうせ死刑だろうという捨て鉢な態度で、実際『殺すなら殺せ』と言ったという。

それが、アジトが割れたことを知ると、少しずつ知っていることを話し出したのだという。

そこへロンが入ってきた。私は思わずうわ、と思ってしまったあとで、でもこのアジトの特定は彼の手柄だったと思い出して自分を宥めた。

若様が声をかける。

「来たな。その顔だと聞き込みは上手くいったらしいな?」

基本涼しい表情を変えないロンの顔からも何かを読み取るとは、さすが付き合いが深いだけある。このネタをマリエさんに話したら、さらに飛躍した楽しみ方をしてくれるだろう。というか、この言いぶり、ロンは出勤前にすでに一仕事終えて来たのか。

「ご察しの通りだ。捕まっている二人の他に、何人か出入りしていたという証言が出た」

ロンはさっさと上着を脱ぎ捨てると、持っていたメモを若様に突き出した。

「貸し店舗の持ち主の方は、何も知らないようだ。まあ、馬で丸一日の距離に住んでいるし、そんなものだと思ったが。空話事業の事務所を新設するという説明で、仲介していたギルドから書類を受け取ってそのまま貸したと言っていた」

信じていいと思うと保証するからには、彼が実際会ってきたのだろう。馬で往復2日の移動のわりに、今日もさらさらの銀髪には一筋の乱れもないが。

「基本的に奴らは店舗裏の出入り口を使っていたらしくて目撃情報は少ないが、商業ギルドの職員が覚えていた。新しい事務所が入ったと聞きかじって、数回話をしにいったらしい。そのとき対応に出た人間があんまりよそよそしいというので、顔を覚えていた」

絵心のある人間に人相書きをさせる手配をしたところだと、ロンは続けた。

顔が割れれば、探しようがある。たとえ数人でも、それが下っぱでも、次のアジト発見につながるかもしれない。

ギャビさんの時計も、見つかるかもしれない。

もう何度目かになる期待を、私はまたひっそりと抱いた。

「そういうことだ。捜査は進んでいるから、お前は余計なことをするな」

いいな、と言って顎を掴むな目を合わせるな反応を楽しむな。

「おいロン?」

この、銀髪セクハラ男!

「おいヘスター!」

ロンの攻撃に私が思いっきり頭突きをかましたものだから、若様は驚いた。

ロンは強打した顎を抑えた。ざまあみろ、私の頭は石頭だ。

「こんな直接的な反撃に出るとは・・・」

「顎は人体急所ですので、目には目を顎には顎をですね」

一矢報いた私は、まだ赤面したままの顔をぷいと背けて言ってやった。真面目な話をしていたから、うっかり油断していたけど、次は顔を確保されまい。万が一それでも間に合わなければ、また頭突きをお見舞いしてやる!

「何をしたいんだ2人とも」

若様は困惑しているが、それでいい。私が美形に弱いとか、それで赤面するのをからかって喜んでいる鬼畜がいるとか、そういうことは知られない方が私の心臓に優しい。

幸いロンも『こいつは実は・・・』と言い出す気はないらしく、理解を諦めた若様は肩をすくめると、話題を変えた。

「まあ、とにかくロンも立ってないで座れ。ちょうど私も、お前にも知らせたいニュースをもっているんだ」

ロンが隣町やらギルドやらを回っている間に、若様の方でも進展があったらしい。ロンが上着を投げた側のソファに座ると、若様は手元に持っていたものを得意げに机に置いた。

「防犯対策をやるぞ」

「え?」

机の上にあるのは、以前提出と同時に却下された私の企画書だった。

被害を広めないためと、犯人をつかまえるための活動。でもそれは、防犯のためとはいえ詐欺という危険な転生知識をこの世界に広めることになるので、ボツになったはずの案だった。

ロンも知っていたらしく、企画書を手にとって首を傾げた。

「これ、転生三原則とやらにひっかかるという話だったろう?」

その言葉に若様は、膝に両肘をついて身を乗り出した。

「昨日、協会本部の了承が得られた。ナン女史に感謝だな」

「ナンさんが・・・」

彼女は、すでに詐欺の被害が拡大していることを本部に事細かに説明し、詐欺についての情報開示の必要を説得したのだという。転生三原則を定めている当の転生者協会のお墨付きなら、何も心配することはなくなる。

「それから、ヘスターを不当尋問させないためだと言って街へは彼女もついてきてくれることになった」

「ええ!?」

ナンさんの変わりように、私は驚きが止まらなかった。たしかに絶対大丈夫とも協力するとも言ってくれたけど、こんなにすぐに、しかも大胆な協力をしてくれるとは思ってもみなかったのだ。頼れ、といってくれた彼女は、本気で動いてくれている。私は胸がいっぱいになった。

「やっぱり彼女、ヘスターを気に入っていたな」

ロンがしたり顔で頷いた。彼等の中では、それは共通認識だったらしい。

「三日後、街へいく。行けるな?」

街って、この城下の、街のことだ。

ギャビさんの家へ行けなかったあの日から、軟禁生活が始まってさらに遠くなった私の地元。お城勤めが始まってから、馬車で通り抜けることしかしていなかった、街。

でも若様は、行けるかとは聞かなかった。行けるなと、聞いた。私は今度こそ、その信頼に応えなくてはならない。

「はい!」

軟禁生活2週間。私は、ナンさんの協力で外へ出ることになった。

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