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旅の仲間①にゃー子との出会い



白と黒の影が交差し金属音を鳴り響びかせる。幾度目かの攻防。白と黒の剣閃は弧を描き鮮やかな軌跡を残す。空に浮かぶ城を取り囲む城壁の上で彼女達は剣戟を繰り返す。白の少女は頭部に白くふさふさの獣耳に白い尻尾を生やした獣人で白く長い髪を靡かせる。背丈は両者170㎝程。全身を覆う白を基調とした衣装に甲冑を身に纏い赤く殺気を放つ眼光で黒い獣人と対峙する。黒髪に黒い獣耳という対象的な二人だ。褐色肌の獣人相手は余裕の笑みで自身の剣を受け流し捌ききる。黒の獣人の背後に黒髪の少年が鍵をチャラチャラ音を上げながら目の前の戦闘を眺める。少年は手は出さない物の二対一精神的に白い獣人が追い詰められる。少年の纏う空気は異世界人《邪覇》(ジャパー)特有の物だ。20数年前この世界を一時でありながら支配した男ー邪王覇神天帝を思い出し身震いする。《邪覇》である彼等の異能は強大で個性的だ。能力を使われたらと背筋に冷たい汗が流れる。




「彼等を使ってまで勝ちたいか! クロ」


「勝てればいいのよ、シロ。醜く無様に這い蹲りなさい」


「クッ! 卑怯者の貴方には負けない! 秘剣桜華飛刃」


シロの放つ8つの剣閃は淡い光を放ち彩る。クロは受け流すように剣を振るうが一撃一撃の重さに押されクロは押され体勢を崩す。最後の8撃目。止めとばかりに放った一撃はクロを庇うようにして立つ男に防がれた。鍵を模した斬る事すら出来ない様な歪な剣である。




「クッ、遅いぞ! 鍵屋」


「いやー、クロさん。いい勝負してたじゃないですか。このままサボれるかなーと思ってました」


「支払い分くらい働け! 鍵屋、さっさと終わらせろ」


「はいはい、いやーすみませんね。シロさん。一対一の真剣勝負に水を差して。こちらも雇われの肩身の狭い一鍵師。やる事やらないと明日の御飯もままなりません。ご容赦を」


「ぬかせ!貴様を斬りクロを叩き斬る」


剣を構えシロは鍵屋と名乗る少年と対峙する。鍵を剣にし少年は体勢を崩しながら防ぎいなし受け流す。幾多の猛攻の末シロは焦りを覚える。顔色ひとつ変えず鍵屋はシロの攻撃を防ぎきり間合いを取った。




「さてそろそろ終幕と参りましょうか」


肩で息をするシロは剣を構えなおす。汗が流れポタリと敷石の上に落ちシミを作る。クロと鍵屋の連戦は確実に疲労を蓄積している。それでも逃げる事を選択せずシロは己を鼓舞する。


鳥が一羽頭上を飛び羽がひとつ舞い落ちる。目の前を漂い静かに落下を続け白い羽は地に落ちる。二人はお互い間合いを詰め剣を一閃させた。


「白猫流剣術奥義ー彼岸瞬絶」


「全能力ー」


力の解放によりお互いの一撃で土煙が舞い上がり衝撃波が走る。必殺の一撃を放ったシロは手ごたえを感じなかった事に戦慄する。技後硬直の僅かな隙をつき土煙の中から鍵の剣が伸びた。ドスリと胸を貫き一歩左足を伸ばし更に深く刺し込む。血は出ていない。痛みもない。しかし確かな感触が胸を貫いていた。




「施錠」


鍵屋の淡々とした声の後剣を回す。


ガチャリという音が響きシロの能力の全てが閉ざされているのを知覚する。その全てが鍵に吸収され引き抜かれる頃には白銀の美しい鍵へと変わる。


「貴様、にゃにを」


シロの声が戸惑いに震える。身体が縮んでいく。感じていた全能感が失せシロは地に伏した。背丈の変化が止まるが最早以前の面影すら無い。70㎝程の背丈に両手両足は獣の手足。ピンク色の肉球が手の平にあった。力を付ける以前の幼く弱かった自分の姿だ。


「馬鹿にゃ、貴様の能力は能力の封印にゃのか」


「厳密には違うよ、でも企業秘密なので内緒」


人差し指を立て唇に当てる。シロが爪を伸ばし鍵屋を引っ掻こうとするが後退してかわされる。代わりにやって来たのはクロだった。ニヤニヤ笑いながら地を這うシロを見下す。




「キャハハハハハハ、無様ねシロ。とってもお似合いよ」


「クロォ、許さにゃいにゃ」


「許さない〜。クスクス、今の貴方に何が出来るのかしら?」


挑発する様に顔を近づける。飛びかかる様にして引っ掻こうとするシロをヒラリとかわしすれ違いざまに襟首を掴む。




「離せ、離すにゃ」


「心配しなくても離してあげるわ、シロ」


クロが城壁から外へ手を出すそれだけでシロは死の瀬戸際に立たされた。雲の隙間の遙か彼方に地面が見えた。屈辱にシロは身体を震わせる。力があった頃なら無事に着地出来るだろう。何の力もない今の状態は危険だった。しかし命を失うよりも戦いに卑怯な手段を使われて負けた悔しさが身を焦がす。その事にシロは泣いた。




「力を失なっても構わにゃい。覚えているにゃ、クロ。お前はにゃーが倒すにゃ」


涙声で声を震わせながらもシロは宣言する。例えこのままでも戦ってみせると。クロはその事に不快そうに眉を寄せるが勝ち誇った態度をしてみせた。

「はいはい、じゃあねシロ。生きていたらまた会いましょう」


指を離しシロが落下する。悲鳴も恨み言も挙げぬままシロはクルリと身体を回しクロを見続けた。クロは不快そうに舌打ちし離れるとドスリと衝撃を感じた。自身の腹を貫く鍵状の剣。その事実に戦慄し首を回し背後の鍵屋を見る。相変わらず笑みを浮かべて何を考えているかわからない顔だ。




「貴様、何をしている」


「全能力ー施錠」


淡々とした声と共に剣は回される。ガチャリという音と共に力が鍵に吸収され漆黒の鍵へと変化し引き抜かれた。シロの変化と同様にクロもまた背丈を縮ませ力の消失によろめく。


「よくも裏切ったにゃ、鍵屋」


「裏切ってはいませんよ。クロさん、私は鍵屋。依頼があればどんな不開の鍵も開けねばならないのですよ」


恨みがましく見上げるクロに鍵屋はそう言って視線を動かす。逆光で見えない第三者の側に鍵屋は跳躍し二本の白と黒の鍵を手渡し変わりに大きな袋を鍵屋は受け取る。鍵屋は中を確認し満足そうに頷く。


「貴様、許さないにゃ。鍵屋とまとめてギタギタにしてやるにゃ」


「おお、怖い怖い。落ち着いて下さいクロさん。依頼があればまた受けますよ。今回は偶々クロさんに対しての依頼があった。それだけですので恨まないで下さい。次回はサービスしますよ」


「黙るにゃー‼︎ 誰がお前に依頼するかにゃー」


クロの罵詈雑言に困ったなーと言いつつ鍵屋は頭を掻く。第三者が鍵を鍵屋に手渡す。思い出した様に視線を其方に向け察したように鍵を受けとり何もない空間に差し込む。ドアが形作られドアノブを掴み鍵屋は開く。鍵穴から鍵を抜き鍵を返却するとそのまま第三者はドアの向こうに消えた。完全にドアが閉まるとドア自体も消え失せる。客を送り終え鍵屋は一本の鍵を出して此方を見遣る。




「それではクロさん。毎度ありがとうございました。今後も鍵屋を何卒ご贔屓に」


そう言って鍵屋もドアの向こうに消えていく。


「チクショーにゃ。覚えているにゃー‼︎」


クロを残した空中城に虚しく叫びが響いた。




深い湖に落ちたのはシロは幸運だった。しかし高所からの水への落下などコンクリに落ちるのと変わらない。弱体化した自身の今持ち得る最大限の力を振り絞る。湖に鋭く突き刺すように態勢を整え飛び込む。それでも肩は外れ指の爪は剥がれた。首へ負荷はかからなかったものの満身創痍だ。湖の畔に何とか辿り着き倒れ伏した。湖もこの世界では安全ではない。弱った自分は捕食される。水面が揺れ水飛沫を上げて水竜が近づき鎌首を持ち上げる。大きな口を開けて鋭い歯を剥き出す。




ーここまでにゃか。最期にマタタビタバコ吸いたかったにゃ


そう思って目を閉じる。いつまで経っても死は来なかった。ザッと砂を踏み鳴らし右腕を竜に突き付ける逆光に浮かぶシルエット。それを見てシロの意識は遠ざかっていった。

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