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能力?ーチェンジで



その感触を確かめる様に美空はやわやわと指を動かし楽しんでいる。女性化してしまったのは仕方ない。それは今考えても致し方の無い事で先ずは生き残る事が先決であろう。問題はこれからどうするかだ。元の世界の様に人が居て暮らしているならばいいが空を見上げれば巨大な下半身は魚の尾、上半身はムキマッチョな男の半魚人がポージングしながら雨ー否、汗を降らせている。宙を泳ぎながら燦々と太陽を浴びて輝く汗は雨となって僅かに離れたところで降っていた。小雨程度ではあるが浴びたくは無い。半魚人の男がこちらに気づきいい笑顔を見せた。そのまま泳ぎ去っている事に安堵しつつとりあえず回りを見渡す。立っている場所は平原の小高い丘で蒼ーと美空の立っている背後にはぽっかりと洞窟が空いていた。洞窟に潜れば元の世界に戻れるかと考えたりもしたが不思議生物溢れるこの世界で洞窟に潜るには少しばかり度胸がいった。見渡す限り平原が広がり人が住んでいる様な痕跡も見受けられない。当面はコンビニで買った水で渇きを癒しつつ水場と食べ物が必要だ。




「さてとりあえず森の手前に湖が見えるからとりあえずそこまで行こうか」


平原をちょっと越えたところに湖がみえた。距離にして10㎞ぐらいか。


「マイシスターよ」


「なあににぃーじゃなかった。ねぇね」


「いい加減。手を止めてくれ」


兄っぽく言えた筈だ。膝はガクガク震えていたけど。




蒼ーは羽織っていた真っ黒のコートを脱ぐ。そのコートを美空に羽織らせフードを被せる。ジリジリと太陽が照り付けているがコートを着てても暑くはなかった。寧ろ快適で涼しいくらいだ。この世界に来てから服も変わってしまった。黒いレースがたくさんあしらわれた黒のショートスリーブのワンピースだ。とても真っ黒だ。リボンの数も多い。スカートの丈は膝上10㎝程。足を包むのは膝程まてある黒いタイツ。両手も黒い手袋が包み見るからに暑そうだが快適であった。小さな帽子を載せ大変可愛らしいとは美空の話だが鏡がないのでわからない。脱色により少々傷んでいた白髪はキューティクルを取り戻し手袋に包まれた指先を流れていった。左目を隠す眼帯は黒い薔薇を模しているらしい。外すのが怖いので止めておこう。また額には何やら星を表現している紋様があるらしい。入れ墨なんていれたら親父に殴られそうだ。憂鬱になりつつも妹を見遣る。すっぽりと真っ黒に包まれた妹は手と足を動かしてみる。


「暑くない。寧ろ快適だよ。ねぇね」


「ふむ、それは良かった。それじゃあ、そろそろ、むっ?」


隣の丘の向こう。砂煙が舞い上がりそして地面を踏みしめる音が聞こえ始めた。その音は段々近づき丘を越えて一頭がやって来た。額に鋭い角を生やした一角の馬のようだった。全身を躍らせながら駆けている。その後に続く様に数千頭が群れをなして続く。先頭の一頭がギロリと睨んだ気がした。僅かに方向転換し群れはこちらの丘に迫る勢いだ。


「にぃに!」


「あぁ!やばい 美空! 逃げるぞ負ぶされ」


美空を背負い蒼ーは丘を駆け降りる。群れもそんな蒼ーを追う。距離は広がらない寧ろ縮む一本である。息を切らして逃げる蒼ーを嘲笑うかの様に馬蹄が近づく。


残り10メートル。にぃにと叫び美空が腕に力を込め抱きついてくる。


残り5メートル。馬の嘶きが聞こえ先頭の馬が勝ち誇ったかの様に顔を歪める。ぎしりと右手を握りしめきつく拳を作った。手袋から僅かに光が漏れた。


残り1メートル。




「来るなぁぁぁ‼︎」


振り払う様に右腕を振った。熱を帯びた右腕は解放を許され歓喜するかの様に蒼ーの全身から力が抜けた。放出された破壊の力は閃光を放ち衝撃となって迫ってきた獣に余すところなく降り注ぐ。兄妹揃って目を閉じていた。弾き飛ばされ踏み潰され死を迎えるのだろうと覚悟をしていたがいっこうに来ない。恐る恐る目を開けると巨大なクレーターを開け大地は抉れ獣の影も形もなかった。ふと視界に入った右腕には見た事ない刻印が淡い蒼光を放ち存在を誇示していた。認めたくはないがかつて自身が書いた能力に似ている。




「まさか星海八眼竜の能力か⁉︎」


設定では《星喰い》の八眼竜。星すら砕くと書いた気がする。それはきっと何かの間違いでそんな危険な空想生物がこの右腕に封じられてる筈が....。




「いだだだだ! 飛ぶ! 飛ぶ‼︎ 右腕飛んじゃう!」


ーイマイマシイ! フウインダ‼︎ コロス‼︎ コロシテヤルゾ! ニンゲン‼︎


「イァァァァ! 居る⁉︎ 何か右腕にいるぅぅぅ」


「にぃに! 封印のイメージ!」


美空の声に右腕の刻印に力を送りこむイメージを無我夢中で働かせると右腕の何かが唸りながら遠ざかっていく気がした。しかし右腕がジンジンと痺れている。




「にぃに、大丈夫?」


「ふぅ、大丈夫。助かったよ美空」


「にぃに、そろそろ下ろして」


「ん、わかった」


美空を下ろし蒼ーは自身の右腕を見つめる。そんな姿を見て美空は鞄のファスナーを開けその中にある筈のノートを見た。




「ひっ!」


思わず声が漏れた。入れたのは間違いなくノートの筈だ。あんな禍々しい本など入れた記憶はない。これを兄に見られるのは不味い。しかし兄は私の悲鳴を聞きつけ側に寄って来ていた。




「どうした? 」


そう言ってひょっこり覗き込み硬直した。何処か生暖かい目をして私を見る。


「ーそうか。お前にも訪れたのだな。同胞よ」


「違うから! 訪れてないから! これにぃにのだから! ーハッ! 計ったねにぃに!」



「こんな気合いの入った本何て知らないぞ。お兄ちゃん寂しいな。父さんも泣いて喜ぶよ、こんな立派な本をつく....」


ヒョイと鞄から魔導書と言えそうな禍々しい装丁の本を取り出しページをめくる。蒼ーの筆跡だった。5年前に書き綴った黒歴史だった。痛かった。とても痛い5年前の自分を自覚した。そしてそのページに来た。7つの力を記したページ。その7つ目。拙いながらも何処か可愛らしいその筆跡は美空の物だ。その文字を一つ一つ追う。それにはこう記されていた。




ー⑦にぃにがねぇねになってまともになりますように


天を仰いだ。現実に打ちのめされ頬を涙が伝う。異世界に来て性転換した理由がこれだとは!




ー妹よ! あぁ妹よ! 妹よ!


「くぅ、妹よ! 私のどこがまともじゃないんだ。いいお兄ちゃんだっただろう」


「えっ、にぃに本気で言ってる?いいにぃには否定しない暑苦しいけど」


「じゃあ何故! ねぇねに成れって書いたんだよ! お兄ちゃんじゃあ駄目だったのか」


「美空。ねぇねが欲しかったの。ねぇねが居たら一緒にお風呂入って身体洗いっこしたり一緒に寝たりずっとねぇねに甘えていられるもん」


涙目になって俯く美空が鼻をすすりながら目尻の涙を拭う。美空の言葉にじゃれ合う姉妹の図が浮かんだ。うん、悪くない。


「ーふむ、なら仕方ないな。もう美空のねぇねになったんだ。好きなだけ甘えるといい」


「ねぇね! ねぇね好き!」


飛び込むように抱きつく美空を優しく抱き締める蒼ー。仲睦まじい姉妹の図だが美空の笑みは裂けんばかりに凶悪なものだった。




姉妹愛?を確認し合った後、クレーターを眺めていると小さな青く輝く石が無数に転がっていた。


「何だろう」


「ん?何が?」


「凄い数の石があるな。結構綺麗だ」


美空が遠目から転がっている無数の石を見る。


「お金の匂いがする。ねぇね拾うよ」


目を鋭く輝かせ美空は抉れた地面を降りて一つ一つ拾っていく。取り敢えず蒼ーも美空に倣い拾っていった。美空の鞄をパンパンにさせる程の数を拾った所で諦める。まだ相当な数が転がっているがもう持つ事は無理だ。そう美空に言うと渋々頷いた。鞄が重そうだが何だか満面の笑みだ。石を拾いお互いに水分補給をして蒼ーは本を眺める。凶悪な能力の中で使えそうな能力が一つあった。4番目の《支配者の領域》である。


「どうしたの? ねぇね」


「いや一つ使えそうな能力があるからやってみる」


「大丈夫なの?」


「うん、これは多分大丈夫」


そう言って目を閉じ集中する。能力のイメージはある。5年以上前から自身の能力として歩んで来たのだ。知覚できる範囲を数センチ程度広げて見せ練習し広げるスピードを上げていく。行こうとしていた湖の向こう森を超えた先に建物と移動する人の流れを感じとる。





「町発見。取り敢えず行こうか美空」


「ん、遠い?」


少し眠そうに美空は尋ねる。元の世界は20時過ぎだった。こちらの世界は太陽は中天。時差はいかほどあるか不明だが普段なら美空は寝てる時間だ。


「少し遠いな。負ぶるからその間寝てろ」


「うん...おやすみ。ねぇね」


美空を背負うと限界だったのかすぐに寝息を立て始めた。クスリと笑みを浮かる。


ふぅと息を吐き異世界の冒険の一歩を踏み出すのだった。


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