24 進軍開始
「まあ俺としては、自分がそれでも良いと思う程度に、誰かに利用されるのは別に良いと思うんだよ。どうせ、誰とも関わらずに生きて行ける訳でもないからなあ。
ただ、一方的に、勝手に利用しようってのが嫌と言うか、嫌いなだけで。
だから、そういうのは力尽くであろうが何であろうが、排除出来る手段は用意しておきたい。その結果の一つがその装備だったり、探索者ランクだったり、ってところだな」
「過剰な気がするけどね~」
「確かに過剰なんだけどな」
「まあほら、アルだし」
「そうだね、アルさんだしね」
「・・・・・・はあ。まあ良いや」
アルにしてみれば、理由はどうあれ受け入れて貰えればそれで良いのだ。
幾ら他者による勝手な強制や、身内の安全性を高める等の理由があるとは言え、それでも行っている事は、自分の身勝手な想いによる事も分かっているのだ。
基本受け身での対策と、状況作りに限っているとは言え、それでも他者への強要を避けたがるのは、マディナに『難儀』と言われてしまう要素である。
「と、準備が終わったらしい。
進軍を開始したぞ」
空は明るさを増し、周囲の風景も薄闇の中で見えて来つつある。
あと半刻、いや三十分もすれば、それなりに周囲の見通しも効く様になるだろう。
辺境軍の軍営を狙うのであれば、遠目が効かない今の頃に、軍営近くに展開しているべきなのだが、陣営内からも同調して動く事を考えれば、見通しが全く効かない状況で動くのは危険であるし、何より移動するにしても光を必要とする。
これがもっと少人数であれば、夜陰に紛れた行動も可能であったかも知れないが、流石に二百人程の人間、そして軍営内からの同調者が動く上で、しかも辺境軍に見つからない状況でとなると、周囲が見えるが遠目は効かず、何とか灯りが無くても動ける今くらいの時間でなければ動きようが無いのだろう。
「それにしても、陣を組んで動いてるよ。
流石、統率が取れていると言うべきか、逆に応用が利かないと言うべきか」
「ええと、どういう意味ですか?」
「単純な話しだけど、確かに二百人の武装集団はそれなりの脅威となる数ではあるけど、圧倒的という訳でも無い。
別れて動けるだけの人数ではあるから、一軍として動くんじゃなくて、幾つかに別れて展開した方が、対処が難しくなるだろ?」
これが、向かった先での同調者が居ない場合は未だ分かる。しかし、同調者が予定されている状態なのだから、分散撹乱した上で動いた方が、様々な部分で利点を生む事となるのだ。
「まあ、所詮は規則規定に慣れた軍人、って事なんだろうな」
『警戒して、広範囲に仕掛ける必要無かったな』と、アルは独りごちる。
「一応言っておくけど、大抵の矢や魔法攻撃は防御の必要も無い筈だ。
防具が覆っていない部分もきちんと同程度の防御が働く様に、付与を施してあるけど、一応遠距離攻撃を受けそうな場合には防御結界を張るから心配しなくて良いぞ」
防具の機能を、露出している部分にまで発揮させるには、無三属性と分類される内の二つ、空間と解放を組み合わせた術式で付与させれば良い事は、遺失技術の解析から分かっている。
ただ、その術式を陣で書き込む場合、陣が大きくなる為に、個人装備に組み込んでの遺失技術の再現は困難であった。しかし、アルが扱うのは陣では無く刻印であり、個人装備にも十分に付与出来るのだ。
「その上で防御結界もとか、アルさんって過剰過ぎるんじゃない?」
「大切な家族を守るのに、過剰が過ぎる事も無いだろ?」
「うん・・・まあ、そう言われちゃうと、何も言えないんだけどね」
そんな事を話している内に、どうやら相手も近づいて来た様だ。鎧等が奏でる音が聞こえ始めていた。
見通しは未だ悪い。
黒く影になって動くものが見えるので、それがリオネロ率いる一軍なのであろう。
その中でも、先行しているのであろう影が一人分、人の形と分かる程度に見えた時、向こうもアル達を認識したのであろう。一軍の方へと戻って行った。
間も無く、それまで聞こえていた、大勢が動く音が止まり、周囲に静寂が広がる。
やがて三つの影が近付いて来て、それが騎馬した人と認識出来る位置までやって来る。
「バゼーヌ王国軍務局長、リオネロ侯爵である。
現在作戦行動中の我が軍に立ち塞がるは何者か!」
堂々と軍務局長を名乗るその声に、アルは苦笑いを浮かべて応える。
「虹銀ランク探索者のアル=ローウェンだ。
理由は、言わなくても分かるな?
今直ぐ装備解除して投降するなら良し、そうでないならば軍を名乗る賊の討伐を開始する」
「我らを賊と言うかっ!」
「お前さんの言を信じるのであれば、既に王国からその立場を凍結されている奴が、のうのうとと軍務局長やら軍やらと名乗る、それ自体が賊である証拠だろう。
命が惜しい奴は装備を解除し、その群れから離れろ。
十数えるまで待ってやる」
「ぐぬう、構うな! 相手はたったの三人しか居らん。
押し潰してしまえ!」
その声を受け、後ろで止まっていた陣がそのまま動き出す。その中から抜ける者は居ない様だ。
「十数えるまでも無いか。
それが返事で良いんだな?」
アルのその声に応える者は居ない。
一息吐き、煙草を咥えて火を付けると、その煙草を右手に持ち、左の方から右の方へと動かす。
「五番、六番。発」
小さく、息を吐くついでに放出した様な声を出すと、動かした手に合わせる様に、キラキラと光るものが陣を覆って行った。
やがて、と言う程には時間を経ず、再度響いていた金属音や足音が消え、再度静寂が辺りを包む。
「な、何が? どうした、前進して押し潰すのだ!」
先刻までの声だけで無く、異なる三つの声が兵達に指示を飛ばすが、これに応える音も無く、返す言葉も無い。
「何が起きているのだ。
進め! 進まぬかあっ!」
「男のヒステリーは見苦しいぞ」
既に、声を届かせる為の、風の魔法は解除しているので、アルとしてはリオネロに聞かせるつもりでは無いのだろう。
動かず、音も発しなくなった自陣の異変を感じ取り、騎乗の三人がどんどんと狼狽え出す。
そんな間にも、日は明けて行った。
徐々に見通しが良くなって行き、そこに現れたのは巨大な氷の壁であった。




