表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/61

06 出発前

「とりあえず感謝だな。これで持って行ける食料や薬も余裕になるし、予備の武器も持って行ける」

「イェランの言う通りね。

 ただ、こんなの使っちゃうと、次から辛くなりそうだけどね」

「違い無い。それでもほとんどの奴は、一生かかっても目にする事すら無いからな。例えこの一回だけでも、使えるだけでラッキーだぜ」


 ワイワイ騒ぐ二人に対して、ライザはすんなりとは受け入れられない様だ。


「確かに助かる。しかしアルマンど・・・いや、アルマン。無間袋は貴重な道具だ。我らがそこまで信用される程、貴殿とは交流出来ていないと思うのだが」

「ま、旋風の翼の評価、特にギルド評価を信用した、ってところかね。信用じゃ無く、期待かも知れないがな」

「む・・・」

「ライザ、良いじゃないそれでも。

 それよりさ、持っていく物を見直して、食料とか買い出しに行こうよ」

「そうだな。我はもう少し聞いておく事があるから、二人は先に宿に戻ってくれ」

「分かった。荷物まとめてくね」

「ああ、頼む」


 イルナとイェランが出て行くと、ライザは追求を再開した。


「さて、アルマン。どういうつもりなのか聞かせて貰えないか?」

「どう、と言われてもな。

 あえて言えば、オレは噂とかでしか、旋風の翼の事は知らないからな。

 迷宮内が無法地帯である事は、探索者なら今更だろ。そこに知らない相手と潜るんだ、少しは探ったとしても、文句を言われる程でも無いだろ」


 そう、アルマンは『無間袋という稀少魔道具を貸し出す事で、その反応を見て、旋風の翼を探った』と、そう言った訳だ。


「ふむ。そうだな。

 悔しいが確かに、アルマンにとっては我らは、今だ信用に値しないだろう。

 だが、それは我らにとって、アルマンも同じ、ではないか?」

「そっちは三人、こっちはオレ一人だ。しかもオレは、無間袋を貸し出してるから、何かやらかしても、それが担保になるだろ?」

「そうか、そうだな。

 確かにアルマンは、無間袋というリスクを負っている、か。

 分かった。ならば今回の依頼中に、信頼に値すると示してみせよう」

「ま、オレみたいな怠け者相手に、あんまり気負わない方が良いと思うけどな」

「何を言う。迷宮は死地だ。

 そこに一緒に潜る以上、命を預ける仲間メンバーと同じだ。信頼し合える様に努力するのは当然であろう。

 では、我も準備をして来よう。半刻後に南門で良いか?」

「ああ、それで大丈夫だ」


 待ち合わせを決めて退出するライザ。

 それから暫くして、先ず声を発したのは、マディナの方だった。


「で、どういうつもりなのかしら?」

「無間袋を出せば、相手の動きが見えやすいのも事実だろ。

 それに、持ち物に余裕が出来れば、あいつらも個別に動く理由が出来る。そこで動きがある可能性も、な」

「確かに、何か口実を作るくらいなら、上手い手だとは思うけれど、少し危険じゃないかしら?」

「いや、エサとしては都合が良いだろ。

 貸し出すって事は、オレが最低でももう一つ持っているくらいは推測するだろうしな。

 当然貸した分だけじゃなく、オレが持っている方も自分のモノにしようと思うだろうから、悪い方に転んだとしても、オレが持っている事は口外される可能性が低い」


 中途半端なエサでは、どっちに転んでも想定外は起き易い。極端であればある程、結果的に選択肢は狭まる分、良く転んでも、悪く転んでも、その結果は絞り込んだ推定を行い易くなるのだから。


「それにしても、敬称無し、か」

「ん?」

「たった一回呑みに行っただけで、随分と距離を縮めたじゃないか」

「そこが不確定な要素だったんだよ」

「どういう事かしら?」

「色々な噂や評判、そしてマディナから貰った情報を含めても、ライザの表向きの性格から、あんなに関係を踏み込んで来るとは思えなかったからな。

 そもそも、呑めもしない酒を呑んで、意識を失うなんて醜態を簡単に見せるタイプじゃないだろ、あれは」

「それは、確かにそうね。

 でも、今回の依頼は、裏の内容も含めて、ライザ嬢は疑う要素が無いんだけれど」

「だからと言って、不確定要素を放置する訳にもいかないからな。そういう意味でも、無間袋は都合の良いエサだろ?」

「確かに、ね。

 そう言われると、何も言えないわ。

 ま、ギルドとしては結果さえ出して貰えれば、その過程で想定外があっても文句は無いから、お任せするわ」


 勿論、過程を問わないとは言え、違法行為であれば不問とは出来ない。が、違法行為をも辞さない様であれば、ギルドからの指名依頼など、そもそも受ける事自体出来ないのだから、その辺りは心配していないマディナであった。


「それで、貴方は準備は良いのかしら?」

「オレは基本的に、常に全ての持ち物が袋の中だからな。今更準備が必要な物も無い」

「時間の影響が無いから、食材も準備済みって訳ね」

「まあ、食材もだが、調理済みの料理もそれなりに用意してあるぞ?」

「流石に、あまりそれを使わないで欲しいわね。エサとしても過剰過ぎて、釣り上げるべき対象以外まで誘因し兼ねないわ」

「ま、それなりには注意するさ」


 時間経過の影響を受けない事は知られていても、ほとんどは“袋に入れる”という部分に思考を縛られる。食材が腐らなくて便利だとは思っても、調理済みの料理を用意しておけば、調理自体が省けるとまで思考が行かないのだ。

 何しろ、調理済みの料理を袋に入れるなどとは、弁当程度であれば思い付くかも知れないが、スープを鍋ごと、皿に載せた料理をそのまま、袋に入れようとは、普通の発想では思い付かない。

 無間袋がそれなりに出回っていれば、そういう使い方も知られる事になるが、何しろほとんど出回っていないのだから、使い方を探る事さえほぼ無い。

 逆に言えば、そうした使い方まで知られれば、これまで以上に価値が上がる事は確実となる。


「で、実際のところどうなんだ?」

「未だ確実性は無いわね。ただ、普段見ないパーティーが一つ、昨日の内に迷宮に入ったわ。

 そのパーティーは、十四人の二パーティーでクレリアナに入って、一方の七人だけが迷宮に入ってる」

「微妙だが、アタリの可能性は高い、か。

 俺達が入る前に、もう一つも入れば、ほぼ確定だろう。その場合は、上での処理は頼むぞ」

「分かってる。貴方も間違えないでね。

 申し訳無いけれど、旋風の翼自体の優先度は高く無いんだから」

「ああ、分かってるさ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ