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04 対処法

「で、此処に来た訳?」

「他にどうしろと」

「この機会に、お持ち帰りとか」

「馬鹿か? 後々面倒な事にしかならないだろうが!」


 酒場から何とか連れ出し、アルマンとライザはギルド長室に戻って来ていた。

 酒場に連れて行かれた時同様、ライザはアルマンの腕をしっかり掴み、と言うよりも包み込んでいたが、その実、足下がおぼつかない事が分かったのは、直接触れていたアルマンだけであっただろう。

 何しろ見た目は普通なのだ。

 ただ、口調と、目を覗き込めば自信が無さそうに揺れる瞳だけが、普段との差異だったのだから。

 そしてギルド長室に連れ込んで、ソファーに座らせた途端、ライザは崩れる様に横になり眠ったのだ。


「そう言えば、ライザさんが呑むという話しを聞いた事が無いわね」

「そうなのか」


 水はある意味貴重品だ。

 此処クレリアナは水源に恵まれていて、それ程でもないけれど、場所によっては煮沸しても飲める水を得る事が難しい地も少なくは無い。

 その為、腐り難くした酒を水の代わりに飲む事は、子供であっても当たり前なのだけれど、ごく稀に、酒が身体に合わない者も居るらしい。


「とにかくだ、引っ張られてはいたけれど、腕を掴まれている姿だけでも、何を言われるか分からないのに、これ以上騒動のネタになるのはご免だ。

 此処なら言い訳も出来るからな」

「何か、便利な女扱いされている気がするんだけれど?」

「今のオレにとっては、ギルド長が女だった事は、確かに便利ではあったな。

 ともかく、オレと違って人気探索者だ。マディナにとっても騒ぎは減らしたいだろ?」

「そう言われちゃうと、返す言葉も無いけどね。

 分かった。日も暮れたし、目を覚ますか朝まで預かっておくわ」

「ああ、頼む」


 残念ながら、ギルドでも旋風の翼が利用している宿までは把握していなかった。

 普段定宿にしているところが、偶々今日は一杯で、どこか別のところに宿を取っているらしい。

 本来ならば、緊急時に対応出来る様に、相応のランクを持つ探索者の居場所はギルドで可能な限り把握しておくものだが、指名依頼の関係で動きが把握出来る状況にあった為、今日明日の状況把握が疎かになっていた。


「それにしても、貴方も難儀ね」

「今更だな。

 とは言え、今回の話しの持って来方は、マディナらしく無かったな。

 旋風の翼に指名依頼を出して、オレに隠れてフォローさせるとか、手の打ち様はあっただろ?」

「確実性を考えたら、できるだけ近い位置に居て欲しかったのよね」

「分からなくは無いが、オレがすんなり受けたら、それはそれでマズいだろ」

「流石に、そこまで気にする必要は無いと思うけど」

「いや、オレが依頼を受けるそのものじゃ無く、すんなり受けるかどうかって部分がな」


 実際のところ、アルマンは依頼をあまり受けない、怠け者の探索者という表向きとは異なり、頻繁に依頼を受けていた。

 ただその依頼が指名依頼で、アルマン単独で動いていたから、他の探索者からすれば依頼を受けていない様に見えていただけだ。

 勿論、狙って怠け者という評判を受けている必要は無い。とは言え、指名依頼というのは当然の事ながら、相応の信頼性が無ければそうそうあるものでも無い。

 つまり、指名依頼が頻繁にあるという事実が知られれば、アルマンは相応に注目を受ける事になる。

 ところが、だ。アルマンが受ける指名依頼は、そのほとんどが、ギルドから出されたものだった。つまり、ギルドとしてあまり表沙汰にしたくはないけれど、確実に達成したい内容である事が多いのだ。

 そういう事情から、アルマンとしてはあまり注目を受けていない方が、怠け者だと侮られていた方が都合が良かったのだ。


「とにかく、この状態でこいつと関係を切るのは、流石に変な方向に噂が発展しかねないからな。

 幸いこいつは、探索者としては珍しく、評判が良いんだろ? その方向で、怠け者のオレを説得して依頼に引っ張り出した、とでも情報操作しておいてくれ」

「それで良いの?」

「そうでもしないと、こいつのファンだか信者だかしらないが、有象無象共が面倒だ」

「本当に難儀よね」

「良いんだよ。評判良ければ、次は更に良くと期待されるのが当たり前だ。評判が悪ければ期待に振り回される事も無いしな」

「まあ、分かっているから、とやかく言わないけれど、貴方ならいくら期待されても平気でしょうに」

「面倒はご免だ」


 そう言い残して、アルマンはギルド長室を出た。残されたライザの姿を見て、マディナは溜息を吐く。


「この子のこんな姿を見たら、普通の男なら放って置かないのにね。

 まあ、そういう卑怯な事をしないから、この話しも頼めるのだけれど」


 視線を机の上に置かれた書類に向ける。

 この報告は、今のところ情報としての価値しか無い。その証拠は掴めていないのだ。

 けれど、これが事実だとすれば、ギルドにとっても、此処クレリアナにとっても、失うものが少なくは無かった。

 逆転の手はある。失った分、代わりで補う事も可能だろう。けれども、失わなくて済むのであれば、当然その方が良いのだから。


「ま、アルマンが何とかしてくれるでしょ」


 呟く様に口から出たその言葉が、単なる期待でしかない事は分かっていたからこそ、本人にそのまま示す訳にはいかなかった。

 何しろ、アルマンは期待をかけられる事が極度に嫌いなのだから。



「そんな事になってたんだ」


 その言葉に、隠そうともしていない呆れの雰囲気を載せているのは、旋風の翼メンバーの一人、イルナだった。

 早朝、旋風の翼が宿泊している宿を探り当てたギルドから連絡を受け、イルナとイェランがギルド長室にやって来た時、ライザは未だ、ソファーの上で睡魔に囚われていた。

 イルナが何とか目を覚まさせるまで、イェランが部屋の前に取り残されていたのは蛇足となる。


「まさかライザが、男と二人で出て行って朝帰りとはね」

「待て。そもそも我は未だ帰っていないのだから、朝帰りではないぞ」


 どこか論点がずれた会話ではあるが、お互い分かっていてやっている事は、部屋の主であるマディナも、男として一人蚊帳の外に置かれているイェランも分かっていた。

 ともあれ、この手のからかう話題がほとんど無かったライザであるから、イルナはあえてそういう話題として振ったのであろう。

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