01 探索者
「探索で得た素材やアイテム等の売却益は、等分に分配して頂きますし、売らないレアアイテムの分配も、パーティーメンバーと同様の扱いで行って頂ければ結構です」
「つまり我らは、アルマン殿を正規メンバーと同様に扱えば良いと?」
「その通りです。非戦闘メンバーでは無いので、その辺りは通常の迷宮探索者としては常識の範疇でしょう?
加えて、アルマン君にはギルドより、一回の迷宮探索毎に銀貨十枚の報酬を出します」
その言葉にざわついたのは、言葉を発した当人と、言われた本人以外の、この場に居た全員だ。
それはそうだろう。金貨一枚ともなれば、探索者として一人前とも言われるシルバーランクのパーティーが、探索行で稼げる平均の十倍程度になるのだから。
貨幣は青銅貨、黒鉄貨、銀貨、金貨、白金貨、虹銀貨とあるけれど、それぞれ百枚で上の貨幣と同等になる。
銀貨一枚もあれば、そこそこの生活が半月は出来るのだから、平均で二~三日に一度は迷宮から戻って来る事を考えれば、それがどれだけの高報酬かが分かる。
「銀貨十枚ね。随分と好条件じゃないか」
「それでは、引き受けて貰えますか?」
「だが、断る」
「「「え?」」」
此処は、五大迷宮と呼ばれる内の一つ、クレリア迷宮に隣接する様に発展した都市、クレリアナにある探索者ギルドのギルド長室。
今そこには、部屋の主であるギルド長、マディナ=トーレンと、クレリアナをベースに活躍する探索者の中でも上位パーティーとして知られる“旋風の翼”のメンバー三人、そして、ソロ探索者のアルマン=ローウェンが居た。
これはマディナの呼び出しで集められたものだった。
「銀貨十枚では足りませんか?」
「そういうのじゃ無いんだよな。
何て言うか・・・そう、面倒?」
「何故疑問系。まあ、良いでしょう。
では、その面倒な依頼を受けて頂ける条件は?」
「ん~、特に無いな。どっちかと言えば、受ける気が起きない」
この時点で、旋風の翼メンバーは置き去りである。
「困りましたね。この依頼に対しては確実性を求めたいのですけれど」
その言葉に、半ば呆けていた旋風の翼メンバーが食い付く。
「ギルド長、それは我らでは力不足という事ですか?」
「流石に聞き捨てならねえな!」
「わたしたちは、銀Ⅲ一人に銀Ⅱ二人の、クレリアナでもトップランクパーティーです。ソロ一人が加わる程度で、隔日制が変わると思えません」
そもそも、旋風の翼には依頼達成報酬で銀貨十枚なのだ。あまりにも差が有る内容、そしてそれを平然と蹴る行為で、当初呆けていた三人も、流石に怒りが湧いてくるのは仕方が無いところであろう。
「正直に言いますと、この依頼はアルマン君に指名依頼を行いたかったのですが、どうせ指名依頼にしても、素直に受けては貰えないでしょう?」
「当然だな」
「ギルド長、アルマン殿一人よりも、我らが劣るとでも言うのですか!」
「旋風の風自体の実力は疑っていません。ただ、適正と言うものが有るでしょう?
この依頼は、現在このクレリアナに居る探索者の中でも、アルマン君以上の適格者が居ないという判断からです」
「適正ですか。
ですが依頼内容は、二十層辺りの異常種発生の可能性調査だった筈です。例え異常種であるとしても、二十層程度であれば、我らの実力から考えても十分かと」
クレリア迷宮では、現在までに探索されたその最深部は五十三層。旋風の風による現在の探索は四十層に至っている事から見ても、二十層程度では問題にならないのは事実だ。
異常種とは言っても、それは通常種より若干強い程度でしか無いと言われている。二十層に出る魔物の異常種であれば、強くても二十三層程度である事を考えれば、確かに問題が無いと考えて間違いでは無いだろう。
「ライザさん、それはあくまでも一般的な話しです。異常種の中には例外も確認されていますし、そもそも魔物を倒せるかどうかでは無く、あくまでも調査が依頼の主目的なのですよ?」
「確かに我らには、斥候役は居ませんが、それでも数々の経験を積んでいます。調査依頼であっても不足は無い筈です」
「どちらにしても、これはギルドとしての結論です。この依頼の最適者がアルマン君である以上、ギルドとしては旋風の風単独で依頼する訳にはいかないのですよ。
と言う事で、アルマン君」
「あ~、面倒なんだけど。
そもそもさ、色々引っかかる事が有るんだよね、その依頼。すんなり調査だけで済むって訳じゃ無いんだろ」
その言葉に、旋風の風のメンバーは言葉を失う。
調査依頼に対して、それでは済まないと言う事は、依頼内容に不備があると指摘しているのと同じだ。
ギルドは基本的に、どこの国家にも属さない事となっている。それを成立させているのが信頼だ。信頼性があるからこそ、国家の枠に縛られずに活動出来ているのだから。
勿論、依頼を受け動いた結果、小さな差異がある事などは良くある話しだ。けれども、そもそも依頼を受ける前から、調査内容に不備があると指摘出来る状況であるならば、それは小さな差異では済まないだろう。
当然、依頼内容の信憑性、つまりはそれを発行したギルドへの信頼性を疑う事と同意なのだ。
「ギルドがそんな、信頼性を失う様な事はしませんよ」
「まあな。確かに嘘では無いんだろうけど、そこが気に入らないんだよな」
嘘では無い。ならば依頼内容自体は不備がある訳では無いのだろう。では、何が問題なのかが、旋風の翼メンバーには分からなかった。
どちらにしても、今回の依頼は指名依頼であり、かかる日数を概算しても、二十層の前後三層ずつを完全調査したとして、十日もあれば済むだろう。
銀ランクとは、依頼報酬で銀貨を得られる段階に達した実力者を意味する為、想定一杯かけても一日銀貨一枚になる。
旋風の翼では、得た報酬や売却益は四分割し、三人で平等に分ける事になっている。残る一つはパーティーでの積み立てに回している為に四分割なのだけれど、それでも十日で一人当たり、銀貨二枚と黒鉄貨五十枚にもなる。加えて、魔物から採集した素材や魔石を売った額も加わるので、それなりの収入になる。
そこに、指名依頼を済ませれば信頼度も上がる為、おいしい依頼なのだ。
これを逃すのは正直惜しい。






