お久しぶりです
1日中、勉強してました。学校のテスト前でもこんなに必死に勉強したことなかったな。だって、読書をしたいのに文字が読めなかった!
「勉強も良いことですが、食事をきちんととって下さいっ」
食事そっちのけで覚えようとしてフルールに怒られた。なので素早く食べて、お風呂に入ってまた勉強を再開する。
「下がらせて頂きますが、ご用が有りましたらベルを鳴らして下さいませ」
「……え、もうそんな時間?おやすみ、フルール」
「睡眠時間まで削ってまで勉強しないで下さい」
釘を刺されてしまった。うっ、だって本読みたいんだもん!今日ぐらい許して!フルールが出て行ったのを確認してベッドに寝ころんだ。勿論、教科書を持って。
「少し明るく出来る?……ありがとう」
ぽうっと光を強くしてくれる光の精霊にお礼をいう。
夕方になり暗くなって、電気なんてないのにどうやって部屋を明るくするの?と考えていると燭台に光が集まって輝き出したのだ。
「光の精霊が照らしてくれるんです」
「へ~」
というやり取りを思い出していると、窓がガタガタを音を立てる。不審者かっ?と身構えて、
「ミリア、私だ」
聞こえてきた声に脱力した。カーテンを開けるとミラールが微笑んでくる。この部屋って四階にあるんだけど、風を操れるミラールには外から来れるみたいだ。
「普通、ドアから来るよね?」
常識を考えた上で行動を起こそうか?
「……そうだな」
思い付かなかったらしい、ばつが悪そうに明後日の方に顔を向ける。次来るときはドアから来るように!と、ビシッと指差しながら言っておく。
───他の、特に風の国の者が見たら卒倒する事間違いなしなのだが、そんなのはミリアは知らない。フルールがこの場に居たら「姫様お止めください!!」と言っていただろう。
まあ、本人は全く気にしていないのだか……
「元気そうで何よりだ」
「お礼言ってなかったよね。ありがとう」
「どういたしまして、ところで何をしているんだ?」
「私、読書が好きなんだけどね。文字が読めなくてさ、勉強中なんだ」
「そうか、今度面白そうな本でも贈ろうか」
ミラールの頭の中に思いついた本は世界に数冊という貴重な書物ばかりだったが、ミラールには「埃被っているよりマシだろう」程度にしか考えていなかった。
「読めるようになってからね~」
「ああ、わかった。他にも好きな事はあるか?」
「歌を歌うこと、だね」
「聴かせてくれないか?」
……ヘ?聞きたいの?聞き返すとミラールは頷いた。こっちに来てから歌ってないし、声変わったから自信無いんだけど?いいの?
「上手くても、下手でも聴いてみたいんだが」
今まで人に聴かせた事なんて殆どない。というか今、夜なんだけど防音とかは……
「私の力は風だ。そのぐらいどうとでも出来る」
はい、分かりましたよ!夜っていうのを理由に断ろうとしたのに、気づかれてましたねっ!腹くくって歌いますよ。
大きく息を吸い込む、そして、
歌う。伸びやかに包み込むように。
夜ということを考えて子守歌を選んだ。お母さん一度だけ歌ってくれた、懐かしい歌。
子守歌だから短い。良かった!前と同じように歌えた!
「ミリアは歌がうまいな。たまにで良いから歌ってくれるか?」
「いいよ。観客になってね!」
「じゃあ」ってミラール、窓から出て行くのはどうかと思う。突っ込みつつ窓を閉めて、ベッドに入って寝る。
───夢で私は誰かに名前を呼ばれながら手を繋いで歩いていた。
気紛れで風はミリアの歌を城中に響かせていた。謎の歌声を聴いた人々は次の日、その正体を知っていそうな王に尋ねるが笑って誤魔化された。それから『幻影の歌姫』と呼ばれるようになったことを知ったミリアが愕然とするのは、まだ先の話。
* *
「「いってらっしゃい(ませ)」」
「行ってきまーす」
父様と母様それと『移動門』という門を開いてくれた神官長さんに見送られ、門を急いで通る。やっと会えるんだからしょうがないよね!
出た場所では、二人は膝をついて私を待っていた。会えてうれしいよ。
「やっていました。城下!そして高校の入学式以来だね。お父さん、お母さん」
「まだそう呼んで下さるのですね、姫様」
そりゃあ、偽りであっても大事な家族ですから!大好きな家族の胸に飛び込んだ。