ご対面です1
度肝を抜かれる。眼が点になる。開いた口が塞がらない。今ならどの表現でも当てはまるような気がする。それほどまでに衝撃的なカミングアウトだった。
しかも何故かフルールさんは嬉しそうだし(何処に喜ぶ要素があったよ?)、訳が分からない。
「ぇ、あ?私が王女?……エェ?」
衝撃から立ち直れない。いや、すぐに受け入れきれても変だけど、今まで地球でごく普通に生活してたのにさ。まさかの一国のお姫様ですか?
そう言えば、王位継承権第『四』位とフルールさんは言っていた。上がいるってことだよね?この国の決まりって知らないから、絶対に聞いといた方がいいだろう。
「フルールさん、この国で王位継承権はどういう決め方するんですか?」
「フルールと呼び捨てでかまいません。王位継承権は現国王の子供に、よっぽどの問題がない限りは生まれた順です。そして、国王が代替わりされ子供が生まれるとそちらに継承権は移ります。現在国王の御子は4人です。王子が2人と王女が2人ですよ」
つまり、私の上には3人いることになる。この世界でも末っ子かい!……嫌なわけじゃないんだけど、ちょっと妹とか弟に憧れあったのは認める。
フルールさ……呼び捨てでだっけ、フルールがそれがどうしたのかというように此方を見る。結構重要だと思うわけです。だってよ?
「4番目って確率は低いけど、『もしかしたら』があり得るじゃないですか。……優秀?私の兄姉達は」
末っ子というは置いといて……中途半端だから、上に何かあったら、私が王位を継がなくてはならなくなる可能性がゼロでは無いんだよねぇ…例えば戦争で頻繁に王様が変わるとか、王位を巡って派閥がどうとかさ。小説でもそんな設定はよくあるし、歴史の隅ではそんなことが実際に起こっていたりする。決して華やかで綺麗事ばかりじゃなくて、血生臭いことがあって表裏一体だと思う。
兄姉が優秀で国が平和なら継がずに次の世代に移るって事でしょう?その方が絶対安心できる。
兄姉達は生まれた時から王家の一員として相応しい教育を受けている筈、でも私は地球にいて一般教養位しかできない上、世界が違うから勉強のやり直さないといけないと思う。
ブランクはそう簡単に埋まらない。だから、私は聞いたんだ。その『もしかしたら』が現実にならないか心配だから……
「とても優秀ですよ、王太子もクロイツェル様もフレアジーナ様も」
考えていたことが解ったのか、安心させるようにフルールは微笑みながら言う。ホッと一息ついてソファに沈み込む。
「良かった。私、王位なんて継ぐ覚悟なんてきっと一生掛かってもできないし。そういうのは相応しい人がなるべきなんだ」
この時は知らなかった。これから先に待ち受けている私自身の運命を。
その後、「湯浴みをしますか?」と言われてお風呂に入ってなかったのを思い出した。2日も眠り続けた上に、こっちじゃ冬でも地球は夏だったんだから当然汗はかく。
「入りますっ!」
汗臭いのは嫌だっ!…あっ、この長さの髪、洗うの大変そうだな。そう思った所でキラッとフルールの眼が光ったのを見たような気がした。
* *
………侍女って浴室まで連いてくるんですね。
本音は恥ずかしいから遠慮したかった……でもっ、髪を1人でどうにかできると思えなかった!(今までこんなに伸ばした事がなかったから)
更に「仕事をさせてください」と言われてこれからはこれが当たり前になると解ったら断れなかった!隅から隅まで触られなかった所なんて無いんじゃないかな(これ、マジで毎日やんの?羞恥で泣くぞ!?)。
「っ、疲れた~」
身体的な疲労よりも精神をゴリゴリと削られた疲労でベッドに倒れこんだ。苦笑するフルールはふと気づいたように言った。
「ミリア様の肌は真珠のような白さですね。王妃様と同じです」
「王妃様と?」
私が王女様なら王妃様はお母さんだよね。
「はい、王妃様は人魚ですのでさらに透明感のある白ですが。ミリア様、髪の乾かせないと風邪をひきますよ?此方へ」
ドレッサーの前に座って、フルールが鏡に掛けてあった布を取る。
そこには、ほんのり頬を紅潮させた藍色の髪と目の美少女がいた。じっとしていたら人形と言われても信じてしまいそうだが、きょとんとした表情が可愛いらしく、その目には様々な感情が見え、作り物ではなく生きているのがわかる。
はい、ちょっと待った!!
「これ……誰?」
鏡に向かって言った。
「ミリア様ご自身ですよ?私も姿が変わられたのを見たときは、その時一緒にいた方々と驚きましたよ」
楽しそうに言わないで!えっ!元の私とはまるで似てないどころが、かすってさえもない外見に変わっちゃってるんですけど!??理解すると同時に、ガタッと椅子を吹っ飛ばす勢いで立ち上がって鏡の中の自分を指差して一息で言い切った。
「うえぇ~!!?外見と中身が一致してないよ!じゃあこの声が前と少し変わってるのはかすれて変わってたんじゃないってことなのっ?!」
声も少し変わっていたのだけど、2日も声を出していなかったからかな?と気にしていなかった。こっちのが地ですか?地球での姿の面影なんて全っっ然残ってないじゃんか!
「おそらく、こちらが本来の姿と声だと思われます」
「変わり過ぎたよ!前の姿と何一つ同じじゃなくなってる」
性格だけだよ!同じなのは!平凡な私が美少女とか、嬉しいけどここまでくると素直に喜べないよ。王女と言われたときより衝撃が大きい気がする。いや、絶対大きいな。16年も周りに色々言われてポジティブ思考になれるようになるまで、平凡なことに悩んでたのが馬鹿みたいに思えてきたぞ?
フルールにタオルで素早く髪を乾かして貰いながら「魔法でしたら早いんじゃないの?」と聞いたら、「パッサパサになっていいのならやりますが?」と(脅すように)言われたのでお任せした。この16年の苦労をしみじみと思い返していると、ドアがノックされた。
「はい?どうぞ」
返事をするとドアが開く。
「失礼するよ?……やっぱりミリアは母様似だね」
「美少女ね~。私にはない可愛さだわ」
「僕らの中で一番水の魔力が高いね、やっぱり」
なぜか背筋が凍りそうな微笑を浮かべたイケメンと見た目そっくりの男女の双子が入って来た。
「おはようございます。殿下方」
フルールの言葉に誰かが判明した。遭ってしまってから言うのもなんですが、できればもう少し心の準備が出来てから遭遇したかった。
「「「おはよう、フルール」」」
訪ねてきたのは………私の兄姉達のようです。