親切な人に連れて行かれた先は
辺りを見渡すが……目印になりそうな物は何もなく、膝丈ぐらいの草が生えていて所々に木が生えていたりするだけで何もない。太陽から方角くらいは分かるかと空を見上げる。結論は、
「えっと、異世界かな?」
それ(・・)と目がばっちり合ってしまった。
「「誰?」」
今度はハモってしまった。ふよふよと飛んで…いや浮いて?いる小さな人(?)いや、前に読んだ事あるファンタジー系の本にイラストが載ってたじゃないか。そっくりだよ。思い出せ……そうだ!
「妖精!」
「あんなイタズラ好きの奴等と一緒にしないでくれないかな?僕は風の精霊だよ。君は?」
「僕」ということは性別は男の子(世の中にはボクッ娘というのが存在するけどな!)のようだ。中性的な容姿なので判断し難い。精霊か…ってなんて答えるべきなのかな。
名前?種族?年齢?…は別にいいか。
「後藤由希です。名字が後藤で名前が由希、人です」
「初めまして、ユキ。僕の名前はミグラテールだよ。なんでこんな所にいるの?」
初めて遭った人…じゃなかった精霊に喋っていいんだろうか?でも、ミグラテール以外生き物のいる感じがしないんだよね、ここ。ぶわっと風が吹きつけてきた。
「さむっ!」
え、ナニコレ!風が冷たい。真冬並みの冷たさだ。
日本は夏だったのに!自覚すると、体がガタガタと震えだした。
「大丈夫?…じゃないか」
ボソッと何かを呟いたミグラテールが、風で見えない壁を作ってくれたようだ。さらにどういう原理なのか不明だけど、温風まで起こしてくれて徐々に体温が戻ってくる。
「ありがとう。ミグラテール」
「どういたしまして。僕の名前、長いからミラールでいいよ」
ひと息ついて全て話した。途中からミラールは考え込み始めたらしく、相槌をきちんとしてくれていたのに「なるほどね」と言った後から返事をしなくなった。
話しながら、さくちゃん達はどうしているかが気になってきた。ついでに、説明を後回しにされていきなり投げられた事に対して怒りが・・・
「あのね、ユキ。僕の妹が女の子を捜してるんだけど、君だと思うんだ」
「捜してる?精霊が私を?」
いや、精霊の知り合いなんて居ないんだけど?
その捜してる女の子の特徴を聞くと、私ぽかった。さくちゃん達は人間だし、何で捜されてるの?
「行ってみない?」
そういって手を差し伸べてきたミラールとその手を見る。
どうするべきなのか全くわからない。だから、捜してるって人に会ってみますかね。何かわかるかもしれない。
「行ってみるよ。よろしくね、ミラール」
手をミラールの小さな手に重ねる。
それと同時にミラール内側から(・・・・)から強い風が起こった。
「こちらこそ」
手のひらサイズだったミラールが青年の姿に変わって、絶対的な何かがミラールから溢れていた。
「同じ風の精霊?」
言葉に出して、自分がアホだと思った。今、自分はミラールの手を握っているのだから、ミラール以外有り得ない。
ただ大きくなっただけ…それだけだ。
「君は畏れないんだな」
「大きくても、小さくてもミラールでしょ?驚きはしたけど…」
しっかし、綺麗だな~。男に綺麗って似合わないと思ってたのに、ミラールには似合う。
エメラルドグリーンっぽい色の目と髪で、刃みたいな印象を受ける。
「さぁ、行こうか?」
風が私達を包み込んで、足が地面から離れ進む。最初は風の壁から時折見える光景を観察していたけれど、いい加減暇になってきた。
「この世界について教えてくれない?」
「構わない」
飛んでいる間、静かなのに耐え切れなくなって悩んだ結果、色々教えてもらう事にした。
今いる国は周りを海に囲まれる巨大な島国でメルキュール王国というそうだ。
「よく『水の国』と言われるが」
「…水源が多いとか?」
「他の国に比べると確かに多いが、王家が水の魔力との適性が普通より格段に高いのと、水の精霊王の加護を受けていることが理由だ」
その他に、地球では空想上の生き物といわれているドラゴンや人魚などがそれぞれの縄張りを持って生活しているそうだ。
「精霊がいるなら、確か居そうだよね~」
「今の王妃は人魚だ。国王の母、皇后はエルフだが」
「ミラール、王族の人達の話をされても私は一般人なんだからあんまり関係ないよ」
「そうとも限らないと思うが」
ボソッとミラールが言ったのを、ドラゴンとか見てみたいなとか考えていた私は気づいていなかった。
「もうすぐだ」
その言葉に反応するように風が吹く音が和らぎ、ゆったりと地面に降り立つ。ミラールが手を握ってくれたお陰で、地面に足が着いた瞬間に膝から崩れ落ちるなんて事にはならずに済んだ。無意識に体に力を入れていたらしい。
「着いた」
「…ミラール?あの建物はお城?」
見上げながら、ポカンとしてしまった。前にも壁、後ろにも壁。その奥に立派な城が建っていた。
……凄いけどさ、これって不法侵入なんじゃないの?
声には出せずにミラールを見上げると何でもないことのように教えてくれた。
「あちら(後ろの壁)にある門で許可を貰ってから、普通は入れるようになる」
無表情であっさり言うけどね、ミグラテールさん。私達許可なんて貰ってないからね?上から入っちゃったよ?捕まったりするんじゃないの?
「あのさ、捜してるって人もう一度聞くけど…誰?」
ミラールの兄弟ってのは分かったけど、身分とかそこら辺はどういう人?
「私の妹で水の精霊王、あとはその加護を受ける一族の長であるメルキュール国国王だ」
「ハイ?」
理解不能だ。2人の「王」って称号のつく人から捜される意味が分からない。しかも、さらっと自分も「王」だって言ったよこの人!!私、普通に砕けた感じに喋ってて敬語とか使ってないし!さらには移動中ずっと手を繋いでたんですけど!!
「誰か迎えに来ると思う。力が必要になったら私の名前を呼べ。国王によろしく」
「えっ、ちょっ、ミラール!?」
嘘、ちゃんと最後まで一緒に居てよ!呆然と立ち尽くしていると、
「由希!」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれて、顔をあげると…
「兄さん、いつ髪染めたのっ」
日本人らしい黒髪黒目じゃなくなってた。
タンポポみたいな黄色の髪と空色の目の兄が走ってきていた。ヤバい、本格的に頭痛が…
ともかく、兄さんの方に行こうと踏み出して…ガクンッと力が抜けて地面に激突した。ぁ、痛い。
「由希っ!?」
兄さんの慌てた声が遠くから聞こえてくる…返事をしたくても力が全く入らない。
「…っ!……」
意識が途切れるとき聞こえたのは知らない女の人の声だった。
でも、とても懐かしい。……どうしてだろう?