投げられ異世界へ
学校のチャイムが鳴る。新たに出された宿題やペンケースを急いで鞄に入れる。早くしないとあの人達に捕まってしまう!
「由希~、先輩達がこっちに向かってるよ」
「あぁもう、兄さん達と仲良くなりたいなら直接行けばいいのにっ!」
「それができたら苦労しないって」
窓際の席の子が反対側の校舎とこちらの校舎の間にある渡り廊下を見ながら私の愚痴に苦笑した。
私には兄と幼なじみが2人いる、先輩方の狙いはその3人だ。どうも「近づきにくい」っていうのがみんなから見た第一印象らしい。私は小さい頃から一緒にいるから解らないんだけど。
「確か今日は咲ちゃんが来ると思うから、公園で待ってるって伝えてくれる?」
「了解、今日は騎士様か~」
「じゃあ、お互い楽しい夏休みを過ごそうね!」
今日は夏期セミナー最終日、これからやっと本当の夏休みが始まる。
兄も幼なじみも3年生でこれが高校生最後の夏になる。アプローチしたいけど近寄り難いと諦めていたところに入学してしまった私は本当に大変だった。
3人ともタイプは違うけどアイドルなんかより格好いいし綺麗だったから、(近寄り難くても)中学の頃から人気があるのは知っていたけどさ、
「まさか、私が巻き込まれるなんて…」
学校から程近い公園まで駆け足で向かいながらつい、兄達に対しての苦言を口にしてしまう。
兄の知也は、身長が180以上あってお父さんから習った護身術?のようなもので体を鍛えていて誰にでも優しいから、ファン曰わく『まるで、王子みたい』らしい…若干脳筋ぽいところがあるんだけどなぁ、外見に惑わされてるような?なんでそんなあだ名なのか私には理解できなかった。
近所に住む幼なじみの咲ちゃん(女の子みたいな名前だけど、本名は咲良で男の子)は兄さんほどではないけど身長は175センチあってレディ・ファーストを素でやってて、『騎士様』って呼ばれてた。(これは、「確かに」って納得した)
もう1人の幼なじみの那奈は、モデルのような体型で街を歩くとスカウトとナンパが交互にやってくる美女だ。
そんな中に平凡代表のような私がいるのは、自分でも他人が見ても不思議だった。勿論、お父さん達も平凡という言葉は似合わないくらい見た目も中身も良い人だ。
一言で言えば、コンプレックスだった。
どうしても、引き立て役にしかならない…ならないけど、私は私でしかない。妬まれていじめられた事だってある。
それでも、大事な家族と幼なじみだ。
公園の奥にある池の側にあるベンチに座る。慣れって怖いな。
「あ~、何か久しぶりにネガティブ思考。よし、こんな時は」
私は、歌うことが好きだ。何かあると歌って、発散していた。あと、本を読むことも好きかな。一人で出来ることが趣味って、と悲しくなる時がたまにあるけど、好きなんだから仕方ない。
誰も居ないことを確認して息を吸い込む…が唸り声が聞こえてむせた。
「…何?」
ガサッという音が後ろからしてきた。振り向くと草むらに隠れきれていない黒い犬が此方を見ていた。デカい、成人男性より体長が有りそう?ジッと見ていると、犬が口を開いた。
「コロ、セ、カノ、イノチヲ」
…何でしょうね?凄く物騒な言葉が聞こえたんですけど、犬の鳴き声って「ワン」じゃないの?
「「由希っ!」」
切迫した声で私の名前を呼んだのは、咲良と那奈だ。
『風よ。戒めをっ!』
『大地よ。貫け』
2人の言葉が何か普通と違っていた。
那奈の言葉で吹いていなかった風が犬に意思を持ったように絡みつき、咲良の言葉で地面から一本の槍が生え、貫いた。
黒い犬は何もせず、ただ此方を見続けてた。
そして、一言言って空気に溶けた。
「ミツケタ」と。
何が…起こった?
咲良と那奈が、私のよく知る幼なじみ達が何か不思議な力で犬を殺した。
空気に血の匂いが混じっていて、吐き気が襲ってきた。
「由希…?」
何?と、そう返事をしようとして出来なかった。
代わりにでたのは、
「なんで?」
疑問だった。
今のは一体何なのか。2人共何かを隠している。
兄さん、お父さん達も関わっている。直感でそう、感じた。
私の「普通」に罅が入る音がした。
「それ、は…」
答えにくそう、じゃあ、言葉を変えよう。
「皆で、何を隠してるの?」
目を見ながら、はっきりと言った。
まだ答えにくそうだけど、2人はお互いを見て頷いた。
「あのね、由希。私達は…」
漸く話し始めたと思ったら、先ほどとは比べられないような大きな「何か」がここを目指しているのが
判った。
「っ!」
「『あちら』に帰ったらちゃんと説明する」
腕を掴まれ、2人に思いっきり投げられた先は池だった。
落ちる!と目を瞑るが…水に落ちない。
恐る恐る目を開くと、草原だった。
驚き過ぎると、帰って冷静になれるみたい。
「ここ、どこよ?」
お決まりな始まり方って感じが、ヒシヒシとします。