表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一球の軌跡  作者: 蔦田 慧輝
6/13

バッターボックス


6.バッターボックス


審判に代打ということを伝える。口が渇いて呂律が回らない。観客席からのザワザワした音が、さらに体を固くさせた。

「選手の交代をお知らせ致します。8番田村君に変わりまして代打空井君。バッターは空井君、背番号16」

歓声が起こる。それが自分に対してのものとはどうしても思えなかった。むしろ、やめてほしいとすら思った。バッターボックスに入る。今までどんなルーティーンをしてたかすらわからない。ただ河野先生からのサインを何と無く見て、何も出ていないことを確認した。応援歌が聞こえてくる。自分が選んだはずの『夏祭り』だが前奏がゆっくりでやたらとイライラさせた。落ち着け。落ち着け。頭ではわかっていても、体が自分の体じゃない。初球、ピッチャーが投げた。真っ直ぐ自分に向かってきた。振らなきゃ。そう思ったが体が動かない。

「ストライク!」

耳が痛いほど審判の声が近くに聞こえる。ダメだ。野球ってこんなに難しかったっけ。打てる気がしない。わからない。わからない。汗が異常に出てくる。その時、声が聞こえた。佐渡さんだ。

「落ち着け、青弥!楽しめ!冷静に今の状況見ろ」

そうだ。今の状況は…最終回。2点差で負けてる。で2アウト1.2塁。あとアウト一つで試合終了。負けたら終わり。3年生は引退。佐渡さん達が引退。その大事な、試合を決める、運命を決める打席に俺は立ってる。そうだ、俺がどうにかしなきゃ。バットを握る手に力が入る。投げてきたボールを力一杯に振りにいった。そのボールは急激に曲がり、ワンバウンドをしてバットをかわしていった。くそっ擦りもしねぇ。

「いけー!」

突然その声を聞いてはっとした。キャッチャーがボールを後ろに逸らしてる。ランナーが先の塁に進んだ。これで2アウト2.3塁。一発逆転のチャンスに拡がった。

「タイムお願いします」

審判にタイムを要求した。 落ち着け。落ち着け。バットを振って体をほぐす。一本出せば同点。一発出せば逆転サヨナラ。打てなければ試合終了。負け。その全てが俺にかかってる。ベンチを見る。河野先生は小さく頷く。

本当に強いのは俺達だ。

その言葉を思い出す。先生の横には佐渡さん。声を必死に出してる。

楽しまないと損だぜ?

かっこいい佐渡さんの言葉。

ベンチの上に目線をやる。手を握って祈るように目をつぶる奈那美。いつも明るく接してくれてた。

その横には雄斗。メガホンで声を張り上げている。ベンチを外れたアイツのためにも、アイツの想いを受けなければ。

そして、演奏している雪乃。昨日の帰り道での雪乃の笑顔を思い出す。

アイツらが応援してくれてんだ。大丈夫だ。色んな人の想いを背負って、俺はバッターボックスに立たなければならない。俺が、俺が決めてやる。

「しゃあ!」

自然と声が出ていた。気合いが入る。今まであれだけ体を強張らせてた音が聞こえなくなった。相手のピッチャーしか見えなくなる。ピッチャーのフォームとタイミングを合わせて足を上げる。ボールが真っ直ぐに飛んでくる。そこに向けてバットを思い切り振り抜く。ボールの重みが体に伝わる。ここでやっと音が聞こえた。歓声だ。飛んでいったボールはセカンドの上をいっている。落ちろ。ボールを目で追う。セカンドが後ろに倒れた。ボールは…転がっている!歓声が大きくなる。俺は走りながらセカンドランナーの夏目さんを見る。三塁を蹴っている。突っ込めー…。ホームベース上で砂埃が上がる。俺は二塁ベース上で判定を見守る。また一瞬、音が聞こえなくなった。そして最初に聞こえてきた音は…

「アウトー!」

審判が拳を突き上げる。次の瞬間、色んな音が一気に入ってくる。歓声、悲鳴、溜息、拍手。体の力が急に抜けた。俺はそこから動けなかった。ただ呆然としていた。審判に整列を促され、ようやく列に入った。

相手の校歌を聞いている時にスコアボードを見上げた。3対2という数字が妙に頭に残った。俺がもっと遠くに打っていたら…。スタンドへの礼の時の皆の表情。奈那美の涙。雄斗の唇を噛み締めた表情。雪乃の一生懸命に手を叩く姿。

「よく戦った!胸を張れー!」

そんな声も聞こえた。よく戦った…?負けたんだよ俺達…。ベンチに引き上げ、荷物を球場の外に出す。ベンチ裏を歩いている時、足を止めた。そこにはしゃがみ込む佐渡さんがいた。時々、嗚咽が漏れていた。拳を握りしめて、そこから動けなくなっていた。目から涙が溢れ出している。あ…。もうこの人と野球出来ないんだ。この人達と一緒に戦うことないんだ。これで…これで引退なんだ。急に俺は足から崩れ落ちた。涙が止まらない。嗚咽を必死で口の中で噛みしめる。体が小刻みに震えた。俺はいつまでも泣き続けた。

そこから記憶が途切れ途切れになった。泣きながら佐渡さんが俺の腕を引っ張って外に出したこと。

お前がこれから俺の守っていたとこを守っていってくれ。

と言われたこと。選手全員で応援してくれた人に礼をしたこと。雪乃が泣いていたこと。

そして泣いていた俺に泣きながら、

かっこよかったよ。

と奈那美が抱きついてきたこと。奈那美の体温が妙に心地良くて、抱きしめたこと。その様子を見ていた雪乃と目が合ったこと。それだけはしっかり覚えていた。


はい!お待たせしました!


疲れた…


書いてて自分自身めちゃくちゃ興奮した!

この興奮が皆にも伝わるといいなぁ…


さて夏が終わってしまいました。

これから野球はしばらく離れるかなー…


でも最後に伏線を張っておきました。

ここからどうなっていくか…。


次回は久しぶりに雄斗の回!

学校生活、楽しんでいきましょう!


では

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ