バーガーショップ
2.バーガーショップ
「で、2人はどういったご関係で?」
奈那美が机に頬杖をつきながら聞く。心なしか気持ちが乗ってない。
ここは清南高校の近くにあるバーガーショップ。入学式を終えた後に俺、青弥、奈那美そして雪乃と来た。雪乃を誘ったのは青弥だ。雪乃とは俺も小学校一緒だったけど、そんなに話したことがない。けど雪乃の話は青弥からよく聞いている。俺と青弥はハンバーガー二つにポテト。奈那美と雪乃はシェイクを一本ずつ持ってる。
「いや小学校の時、仲良かった友達だよ」
青弥は何を思い出してるのか顔をほんのり染めている。当の雪乃は黙って俯いている。奈那美は中学の時にこっちに引っ越してきたからちょうど知らないんだよなぁ。
「どうしてこっち戻ってきたの?」
青弥が聞く。
「いや引っ越したっていっても神奈川県内だから…」
小さな声で雪乃が答える。恥ずかしがってるのか、まだ馴染んでないのか。その声は昼時で騒がしい店内の音でかき消されそうだ。
緊張をほぐしてあげるためにも俺からも喋るか。
「今まで何やってたの?中学ん時とか」
「部活なら吹奏楽部に入ってました」
「楽器とか何だった?」
「ユーフォニウムです」
俺ら男二人は首を捻ってると
「知ってるよ」
と奈那美。
「カッコいいよね」
「はい」
「「あのさ!」」
俺と奈那美がハモった。多分言いたいことは同じだろう。
「タメなんだから敬語やめてよ。クラスメイトなんだし」
奈那美が俺が言いたいことそのままに言う。
「はい」
「それがダメって言ってんの」
と俺。
「うん…」
「よしオッケー!」
思わずニヤリとする。奈那美も口元を緩めた。
「何で清南受けようと思ったの?」
と入試の面接みたいなことを青弥が言う。
「えっと…清南って野球部強いじゃん?」
俺ら三人は頷く。去年の夏は激戦区神奈川にも関わらず公立でベスト8まで行った。
「で、野球部が甲子園に行けるように応援したいなと思って 」
「ひょっとしてマネージャー?」
奈那美が身を乗り出して尋ねる。
「ううん。」
そう言って今まで俯きがちだった視線を上にあげた。
「私は吹奏楽でスタンドで野球を応援したい。甲子園に行きたい。」
強い、強い想いを感じた。
「いいじゃん!」
青弥が笑顔で言う。
「じゃあ俺らと目指すとこ一緒だな!」
「え?どーゆーこと?」
「わかんねーかな?俺らは清南で甲子園に行きてーの」
「…えー‼︎」
雪乃が驚いた声をあげる。すぐに俯きつぶやいた。
「野球やってたなんて知らなかった」
奈那美がすかさず
「私はマネージャーね」
とニッコリ。
「どー見ても選手には見えねーだろ」
俺は口の端で笑ってみせる。
「まあ目指すは甲子園だな」
青弥は眩しい笑顔を雪乃に向けた。
「うん!」
雪乃は照れ臭そうに返事した。俺は食べ終えた包装紙をくしゃっと丸めて言った。
「もう一個頼んでいいか?」
それから青弥と雪乃は思い出話に花が咲いた。2人ともいい顔してる。
俺はもくもくと食べながら2人の話を聞いた。奈那美は相槌を打ちながら、質問をちょいちょいしてる。そーいや…。俺はふと思った。奈那美がマネージャーをやりたいって言いだしたのは何でだっけ?
奈那美は小学校を卒業した春休みに俺ん家の隣に引っ越してきた。引っ越してきたその日から明るいやつですぐに仲良くなった。偶然にも俺と青弥と同じクラスになって三人でよく遊んだ。帰り道はいつも奈那美と2人で歩いた。色んな話をした。ある日、高校どこにしようかという話になった。俺はその時漠然と清南に行きたいと思っていた。それを奈那美に言うと
「いいじゃん!私も頑張って清南に行くよ!高校でも雄斗のこと応援したい!」
そしてこう言った。
「私、マネージャーになる!」
その日から、決して頭の良くなかった奈那美は必死に勉強した。そして俺達と同じように清南を受けて合格った。その時は泣いて俺に抱きついてきたっけ。
「おーい!雄斗!聞いてる?」
気がつくと奈那美の顔が目の前にあった。慌てて目を逸らす。
「いや、昔のこと思い出しててさ」
頬に熱がこもってないか触って確かめる。
「そろそろ帰るかぁ」
青弥が腰を上げる。
「そーだね」
奈那美も雪乃も机を片付け始めた。俺は手元にある包装紙を全部一つにまとめてゴミ箱に向かって投げた。
雪乃、青弥と別れた帰り道。久しぶりに奈那美と2人で歩く。
「青弥、楽しそーだったね」
奈那美が空を見上げて言う。
「何?妬いてんの?」
俺は茶化して奈那美を見る。
「バカ!違うよ!」
奈那美は俺を見てから背中を思いっきり叩く。ずしっと堪えたが奈那美の顔を見ると頬が染まっているようにも見える。やっぱりコイツは青弥のこと好きなのかなぁ…。そう思い春の空を眺めた。
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