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一球の軌跡  作者: 蔦田 慧輝
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バックナンバー

11.バックナンバー


球春。全国の何万人もいる野球ファンはみんなこう呼ぶ。春が来た。桜の蕾は膨らみ今にもそれはパッと何か待ちわびてたかのように咲こうとしている。まだ暖かいとはとても言えないが風が春の匂いを連れてきて眠気を誘う。午前中にあった卒業式ではなんとか起きてたがもう限界らしい。自然とまぶたが重くなってくる。目を閉じた瞬間、隣に何かがふわっと舞い降りる気配がした。ゆっくり目を開けると雪乃が俺の目を覗き込んでいた。

「雄斗、眠いの?」

ふわっと笑って聞いてくる。

「卒業式では先輩達に敬意を払って寝なかったもんね」

片目をつぶってみせる。雪乃は呆れたように

「それって当たり前じゃ…」

聞こえないフリをして前を向く。青弥と奈那美が心地よい音を立ててキャッチボールしていた。青弥のニコニコした顔と奈那美の真剣な目が対称的だった。

「今日、吹部も練習なかったの?」

前を見たまま聞くと頷いた仕草が横目に見えた。さくら公園にはグラブが音を立てる音だけが響く。

「なんかここ好きだな…」

雪乃がつぶやく。

「3人の特別な場所が気がするよね」

そう言って表情を緩めた。

青弥はここに雪乃を連れてきたかったんだと思うよ。

そう言おうとしてやめた。

「キャッチボールするのには最適だね」

大きく伸びをすると鼻腔が春の匂いでくすぐられた。

「なんか二人、楽しそうでよかった。最近、二人とも元気なかったから」

ほっとしたような表情だけど目の奥に少しの寂しさが垣間見えた。

「顔に出てるよ感情が」

ニヤリと笑ってやる。俺は多分今のモヤモヤした気持ちを隠せてるはず。雪乃が顔を覗き込んでくる。真っ直ぐな目で見てくる。

「寂しかったら俺がいるよ」

冗談めいた口調で言ってみる。そうしないと誤魔化すことができなさそうだった。

「ふざけないでよー」

雪乃が口を尖らせる。かわいい。そう思うけど奈那美を見ると胸がキュッてなる感じはしない。無意識に目はまた奈那美に向いた。真っ直ぐに伸びた長い手足を綺麗に操ってボールを青弥に届ける。綺麗な軌跡だ。

「奈那美、ホントに上手いね」

感心したように何度も頷く。

「そりゃそーだろ、少年野球ではピッチャーやってたらしいからあいつ」

雪乃が目を見開く。

「知らなかった…」

奈那美はちっちゃい頃から奈那美のお父さんと…亡くなったお父さんとキャッチボールを毎日のようにしてたらしいしな。この話を聞いたのはいつだったかかな。…思い出せない。けどこの公園でいつものようにキャッチボールしてる時にポツリと呟くように言っていたのは覚えてる。

奈那美のお父さんは高校時代、愛知県では名を馳せた投手だったらしい。しかし度重なる怪我と周りのプレッシャーで潰れてしまい甲子園にはあと一歩で届かなかったらしい。

自分の子に夢を託したい。そう思っていたが子どもに恵まれず、何年も待った結果、授かったのが女の子の奈那美だった。でもお父さんは奈那美に自分の夢を叶えてもらいたいと毎日のようにキャッチボールをした。次第に奈那美はグングン成長し野球を好きになった。地元の少年野球では敵なしのエースピッチャーにまでなった。ある時、奈那美がお父さんにこう聞いたらしい。

「私も甲子園に出れるかな?」

「もちろん。お父さんを甲子園に連れていってくれ」

迷うことなく答えてくれたという。しかし、徐々に自分より体の大きい男子に追いつかれ抜かされ、さらに女の子は甲子園に出れないことに気づいた。奈那美は自暴自棄になりお父さんにあたった。お父さんはもう何も言えなかった。そして、ある日突然お父さんは帰らぬ人となった。仕事中に頭痛を訴えて病院に運ばれそのまま亡くなったという。くも膜下出血。

ちらっと横目で雪乃を見ると目を潤めてじっと唇を噛み締めている。軽く息を吐き出して続ける。

「それで奈那美はお母さんの実家があるこっちに引っ越してきた」

中1の夏休み明けという微妙な時期だったのもあり奈那美はクラスに打ち解けられていなかった。俺も家が近くにあるのは知っていたが話しかけにくい雰囲気を醸し出していた。

ある日、俺と青弥がさくら公園でキャッチボールをしている時にふと奈那美が現れた。気づかないふりしてキャッチボールを続けたが食い入るように見つめる奈那美の視線が気になった。たまりかねた青弥がスッと奈那美の前に行った。

「一緒にキャッチボールやろうよ」

それから俺らがキャッチボールやっているたびにひょこっと現れ、一緒に混じってボールを投げた。最初は奈那美の球があまりにも速くて捕り損ねたんだっけ。

そしてあれは多分、秋頃だったかな。キャッチボールに疲れて夕焼けを眺めながら三人でベンチに座ってる時だった。奈那美がお父さんの話を始めた。俺は何も言えずに俯いてた。冷たい風が体に刺さった。すると急に青弥が顔を上げて言った。

「それなら俺達と一緒にお父さんの夢叶えてやろうぜ」

「え?」

「甲子園、行こうぜ」

奈那美はハッとして何かがプツリと切れたかのように泣き出した。青弥は優しく奈那美の頭を撫でていた…。

「そりゃ惚れるわ」

隣の雪乃が俺に顔を向けて笑った。

「まあな…」

奈那美の楽しそうにキャッチボールをしてる顔を見てから、頷く。

「だから俺の使命は奈那美のお父さんと奈那美の背番号を背負って甲子園に連れて行くこと」

あの時とは違い春の暖かい風が吹く。

「今のかっこよかったよ」

隣からボソッと声が聞こえた。顔を覗き込むと少し照れた表情を必死に隠してた。

「俺と付き合うか」

咄嗟に出た言葉だった。

「え?」

驚いた顔をして俺の顔を見つめる。

「ばーか」

指先で雪乃の額をつついてやった。グラブが鳴る音だけが公園に響いた。

一週間後、俺は春の大会に向けてエースナンバーをもらった。


お久しぶりです!ホントにお久しぶりです!!


ごめんなさい!だいぶ間が空いてしまいました


大学受験が無事に第一志望の大学に受かり、バタバタしててここ一ヶ月間過ぎてしまい


やっと、やっと書けました!

ホントにごめんなさい


今回はやっとたまってた奈那美の過去を書けたかなと


次話の構想はまだ全然固まっていません!笑


とりあえず雪乃が可哀想になってきたのでなんか構ってあげたいなと笑


また全然別の話の構想がポッと浮かんできてしまいました。機会がある時にまた書こうと思います。


ではまた何ヶ月後かに!笑

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