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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第2章 公式予選開始
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-7-

 スバル・ルージュの機体から降りたイチロウは、ハルナに手を捕まれて、広大な庭の中をゆっくりと正面に見える邸宅に向かって、歩き始めた。

「ハルナの家は、ほんとうに、金持ちなんだな」

 イチロウは、目の前の大邸宅を含む景色を眺めながら正直な感想を漏らす。

「ホテル業界は、安定した収入を得ることができるから、でも、ハルナが社長になったら、倍以上の収益を上げることができると思ってるよ・・・たくさんの友人を呼ぶことが多いから、これでも、ちょっと狭いくらいなんだよ。

 ところで、どう?地球の重力の感じは?気持ち悪くならない?」

 ハルナが、優しい口調で、イチロウを気遣う。

「どっちかというと、宇宙のほうが違和感がある」

「イチロウが望むなら、地球で生活ができるように手続きしてあげるけど・・・」

「それは、遠慮しておく。宇宙には、俺の家族がいるんだから・・・家族を置いて出張はできても、単身赴任は、ごめんこうむる」

「家族って、エリナ様のこと?エリナ様とは、やっぱり、そういう関係なの?」

「エリナは、もちろん家族の一人だと思ってる・・・でも・・・」

「そういう関係じゃないってことね。じゃ、やっぱり、ハルナにも、まだチャンスがあるってことだよね」

 ハルナは、無邪気に笑う。こういう表情は好感が持てると感じて、イチロウも、自然と笑顔になる。

「そんなに喜ばれると困っちゃうな。ハルナが、狙ってるのはエリナ様だから、勘違いしないでね」

「はぁ?」

「今日、初めて、お会いしたエリナ様・・・思っていた以上に、ピュアで可愛くて、小さくって・・・あんな女の子が、まだ、いるんだなって」

「ハルナは、もしかして、女が好きなのか?」

「イチロウは、勘違いしまくりね・・・ハルナの恋愛対象は、もちろん、男の子限定に決まってるじゃない・・・でもね、エリナ様は、別・・・イチロウは、あのエリナ様が、お化粧したら、どれだけ綺麗になるか、想像したことない?」

「ないけど・・・」

「ああ・・・なんて可哀想なエリナ様、エリナ様は、たぶん、世界中の誰よりも、イチロウが好きなんだと思うよ」

 ハルナは、イチロウの顔を覗き込む。イチロウは、思いがけない事を言われた気持ちで、戸惑った顔になっている。

「あれ?もしかして、気づいていないの?」

「それは、ないと思うけど・・・そんなこと、エリナから言われたことないし」

「だから、エリナ様は不幸なのよ・・・本当に可哀想・・・女が、そう簡単に、男の子に、『あなたが好きです』なんて言うわけないじゃない・・・特に、エリナ様みたいに、男性経験が、全くないような女の子が・・・

 いい?明日、エリナ様に、会ったら、ちゃんとイチロウから、エリナ様に告白するのよ・・・そうすれば、絶対、エリナ様は『うん』って返事してくれるはずなんだから」

「そんなことは、約束できない」

「なんで・・・?」

「俺は、エリナに感謝している・・・でも、それでもし、エリナが、俺のことを好きでいてくれているんだとしても、俺は、エリナを好きかどうか、自分の気持ちが、どれだけエリナを好きなのか、わからない」

「イチロウも、意外と純情なんだ・・・せっかく、オオカミなんて、危険動物の名前が付いてるっていうのに・・・

 ハルナが、赤い色の頭巾を付けたら、襲いかかられてしまいそうなんだけど・・・そういう気持ちにはならないの?」

「ならないけど・・・」

「正直なのか、嘘つきなのか・・・今夜は、ハルナのお部屋でお泊りですからね・・・その時に、イチロウの本性を確かめさせてもらいます」

「ちょ・・・何を言い出すんだ」

「一泊二日のデートなんだから、当たり前でしょ・・・あんまり女に恥をかかせてばかりだと、エリナ様だけじゃなくて、ハルナにも恨まれちゃいますよ・・・

イ・チ・ロ・ウ・ク・ン」

 イチロウは、悪戯っぽく微笑むハルナの顔に悪魔の気配を感じ取ったのか、絶句してしまった。

「まずは、お父様に会ってください」

 屋敷の玄関まで辿り着いた二人を、センサーで感じ取った扉が、無音で開かれた。

「ようこそ、カドクラ家へ・・・遠慮せず上がってください・・・もう、応接広間で、お父様も待っていてくれるはずです」

 スイッチが切り替わったように、ハルナの口調が変化した。それまでのフレンドリーな口調から、大人っぽく丁寧な言葉遣いへの変化と、そして、お嬢様然とした柔らかな物腰と柔らかな表情を見せるハルナに、イチロウは、少し面食らい、胸が少しドキリとした。

「おかえりなさい・・・ハルナ様」

 開いた玄関で出迎えたのは、女性としては長身と思える簡素なメイド服を身につけた、赤い髪の女性であった。

「ハルナ付きメイドのアカギです・・・イチロウとは、初対面とは言えないかもしれません・・・あの時の、赤いルージュを操縦してたのが、このアカギです。パイロットスキルは、ハルナよりも高いんですよ」

「アカギと申します・・・必要なものがあれば、ご用意いたしますので、遠慮せず、なんでも申しつけてください。これから、応接広間まで、ご案内させていただきます」

「どうも・・・」

「ハルナ様の12番目の花婿候補さんですよね・・・あなたも、このカドクラ家の当主がお望みですか?」

 イヤミとも冗談とも取れるアカギの言葉に、どう返答していいか逡巡しているイチロウに代わって、ハルナが口を開いた。

「アカギ・・・失礼なこと言わないで・・・イチロウさんは、そんな打算的な男の子じゃないんですから」

「わかっております」

 応接広間へ続く広い廊下をアカギが先導する形で、そしてハルナがイチロウの左手に、自分の右手を絡めて、ごくごくゆっくりと進んでいった。

「ハルナのお父様は、とっても変わり者なんです。もしかしたら、アカギ以上に失礼なことを言われてしまうかもしまいませんが、できれば我慢してくださいね」

「わかったよ・・・いくら俺でも、初対面の人に喧嘩を売るほど無鉄砲じゃないよ」

「よろしくお願いしますね・・・お父様に気に入ってもらえれば、ナビゲータの話も、すんなり決まりますから・・・がんばってね

 鷹島市狼さん・・・」

 フルネームで、イチロウを呼んだハルナは、その印象的なピンクの唇を少しだけ突き出し、それ以上に印象的なピンク色の瞳を一回二回とゆっくりと瞬かせて、イチロウを凝視した。

「ハルナ・・・お前、けっこうイイ女なんだな」

 唐突に、イチロウは自分の本音を口に出していた。

「今頃気づいたんですか?・・・

でも、そういうことは、本当の恋人のエリナ様におっしゃってくださいね・・・ぐっと親密になれますよ」

「エリナの話は・・・」

「ハルナのお父様は、エリナ様の大ファンなんです。きっと、エリナ様のこと、いっぱい訊かれると思います。

 お父様は、スバル・オーナーズ・クラブの会長で、F1チームに出資もしてますし、特に宇宙用のクルーザー開発部門へも顔が効くんです

まだ、スバルチームは、『太陽系レース』への参入は許されていません・・・」

「レギュレーションでは、『太陽系レース』は、あくまでもアマチュアレベルの大会で、メーカの参入はできないってことだったよな」

「よく知っていますね」

「まぁ、それくらいはエリナも説明してくれたから」

「お父様は、スバルのマシンを『太陽系レース』に出したいんです。そのためのパイロットを、ハルナやアカギにやらせたいって、いつも言っています。きっと・・・」

 そこで、ハルナは、言葉を切った。

「着きましたよ」

 アカギが、大きなスライドドアのある部屋の前で立ち止まって告げた。

「入りましょう、イチロウさん」

「ハルナ様は、お召し替えをなさらないと、お父様に怒られますよ」

「でも、イチロウも、パイロットスーツのままよ」

「ハルナ様は、タカシマ様とは立場が違います。お父様に、お会いするのに、そのパイロットスーツで入って行ったのでは、許していただけることも、許していただけなくなってしまいますわ」

「わかりました・・・では、着替えるの手伝ってね、アカギ」

「もちろんです・・・

 ということですので、タカシマ様は、このまま、中にお入りください」

アカギは、スライドドアをノックしながら告げた。

「タカシマ様を、お連れいたしました」

「通しなさい」

 部屋の中から、男の声が、聞こえた。

 アカギの手により開かれた扉から応接広間の中を見ると、朝食の支度が調ととのえられたテーブルの奥で、まだ、いっても30台と思われる男が、イチロウたちのほうへ、にこやかな笑顔を向けているのがわかった。

「ハルナから話は聞いているよ。タカシマくん、どうぞ中へ入りなさい。遠慮することはない」

「はじめまして、タカシマ・イチロウです」

 イチロウも形通りの挨拶を済ませると、応接広間に足を踏み入れた。

「ハルナ様のお召し替えを手伝って参りますので、少しお待ちください」

 アカギは、そう言い残すと、さっさと自室に向かって歩き出していたハルナの後を追っていった。

ハルナの父親は、おもむろに席を立つと、部屋の入り口で立ち止まっているイチロウの傍までやってきた。

「カドクラだ・・・いきなり、娘から紹介したい男がいるから、今から連れて行きますと言われたので、何も準備ができていないが、取り急ぎ、朝食の席を用意したので、一緒に食べながら、いろいろと話を聞きたい」

「はい・・・」

 気さくに握手を求めるカドクラにイチロウも手を差し伸べ握手をし、促されるままに、食事の用意されている席に、腰をおろす。

「来週末の『太陽系レース』にパイロットとしてエントリーをしていると聞いている」

「はい・・・」

「そのナビゲータとして、ハルナの手を借りたいということのようだが」

「はい・・・」

「きみは、ハルナがカドクラの娘であることは知らなかったようだね」

「ホテルを経営されているということは、ハルナさんから伺いました」

「カドクラは、地上のモーターレース全般をサポートしているという事情があるので、アマチュア参加の『太陽系レース』への参加については慎重を期していたのだが・・・オータ・チーム・・・同じ地元企業のオータケアルエクスプレスの社長とは懇意にしている間柄でもある」

「ハルナさんの参加には、反対なのでしょうか?」

「それは、きみ次第だな・・・きみは、このレースを賞金目的くらいに考えていないかね?」

「わかりません・・・どんなレースなのかもビデオで見ただけなので、自分が、正直、どこまで付いていけるか・・・それもやってみるまではわかりません」

「日程で言えば、土曜日の今日が公式練習ではなかったかな?」

「はい、それはわかっていますが、パイロット一名では、参加はできません。ハルナさんにナビゲータを引き受けていただけないと、優勝を狙うこともできないと思いました」

「私は、去年のレースは、全てライブ中継をテレビ観戦しているが、初参加で、初優勝できるほど甘いレースではないと思う」

「それは、おっしゃる通りかもしれませんが、やるからには、優勝を目指したいと思っています」

 イチロウは、きっぱりと言い切った。

「自分のために優勝したいということかね。確かに優勝賞金は高額ではあるが・・・」

「それも、優勝したい理由の一つです」

「ということは、ほかにも理由があるということかな?」

「わたしは、ある事情で、ルーパス号という宇宙船のクルーとして生活しています。今回の『太陽系レース』への参戦も、このルーパス号のチームからの参戦ということで、エントリーをしています。

先ほど、ハルナさんから、カドクラさんも、ルーパス号の所有者であるエリナ・イーストを知っていらっしゃると聞きました」

「もちろん、彼女のことは、よく知っている」

 カドクラは即答した。

「去年、彼女が設計・改造した機体が優勝しているのです。だから、今回、新たに彼女が設計・改造した機体も、同じ性能であることを証明したいのです」

「まぁ、あまり気合を入れすぎて、空回りしないことだな・・・それに、このレースは運の要素が非常に強い。さらに言うと、元々が、テレビ局のバラエティから生まれた企画だけに、参加者に、ある程度のエンタテインメント性を持たせているという、いわゆるショー的な一面もある

 レースというよりもバトルに近いレギュレーションでもあるからな・・・あのポイント制度は、ヨーイドンで、一位を競う本来のモーターレースと比べると、一発逆転もある野球や麻雀のルールに近いものがある・・・実際に、本戦決勝は、イニング制を取っているだろう」

「そうですね・・・でも、結局は、速い機体が有利です」

 その時、入り口のスライドドアをノックする音が聞こえた。

「お父様、入ります」

 ハルナの声が聞こえ、スライドドアが開かれる。ピンクのパイロットスーツからピンクのワンピースに着替えを済ませたハルナの姿が現れた。

ヘアスタイルも変化していて、左右に結わえていたはずの長髪を、ストレートに後ろに垂らしている。そして、ピンクのリボンも、違う形のものに取り替えてあり、左右、一房づつを耳元で細く縛っただけで、胸にかかるように、垂らしている。

「ごきげんよう・・・お父様、地球に戻るのは3ヶ月振りですが、お父様は、お変わりありませんか?」

「父さんは相変わらずだ・・・そういうお前は、ますます可愛らしくなった」

「美人になったとは言ってくださらないのですか?」

 父親の座っている席の傍までスタスタと近寄ったハルナは、父親の頬に軽くキスを済ませると、自分の食事が用意されている席に腰を下ろした。

「お待たせしました。お父様、イチロウさん・・・お食事にしましょう」

「そうだな・・・少し遅い朝食だが、二人とも、腹が減ってるだろう」

 カドクラが、食事に手を伸ばす。

「ええ、朝から何も食べていませんでしたから・・・イチロウさんも遠慮せず召し上がってくださいね」

「いただきます」

 イチロウも、眼の前に盛り付けられた、朝食というには、あまりにも豪勢な食事に手を付け始めた。

「イチロウさんと、何を話していらっしゃったの?お父様」

「もちろん、レースの話だよ」

「そうですよね・・・イチロウさんから、来週の太陽系レースへのパートナーを申し込まれてしまったので、お父様の許可をいただきたかったのです

 もちろん、OKしていただけますよね」

「まぁ、二つ返事でOKしたいのはヤマヤマなのだが、私にも、立場というものがあるのでね・・・いくつか、条件を飲んでもらわなくてはならない」

 カドクラは、最愛の娘を前に、崩れっぱなしの相好のまま、目の前の食事を平らげていく。

「今日のパーティには、もちろん顔を出します。それだけではいけませんの?」

「ルーパス号のエリナさんと言ったな・・・去年、太陽系レースでオータチームのメカニックを務めていた・・・」

「エリナ様になにか?・・・まさか、お父様・・・エリナ様に求婚なさるおつもりなんですか?」

「あはは・・・それを望んではいけないかな?ハルナは、エリナさんを『かあさん』と呼ぶことに反対ではあるまい」

「お父様が、そう望まれるのであれば、ハルナは、お父様を全面的に応援してしまいます。お父様を狙っていらっしゃる貴婦人の方々にはショックが大きいでしょうが」

(何を言っているんだ・・・この親子は)

 不審げな表情をイチロウがしていることに、ハルナが気づいた。

「イチロウさん・・・お父様は、まだ独身なんですよ・・・後継者が必要なので、容姿の優れた遺伝子を持つ女性から遺伝子の提供を受けて、わたしの兄と、わたしは産まれたのですが、もちろん、その遺伝子を提供された方とは結婚はしていません」

「そういうこともあるのですか?」

「そういう子供の産ませ方に反対を唱える人々も・・・当然、たくさんいるんだが・・・男としては、美人の娘が欲しいと願う気持ちはわかるだろう?タカシマくんも」

「美人だなんて・・・わたしは、お父様にそっくりだっていつも、言われているんですから、それは、お父様が自分を自慢しているようなものですよ」

「美人を美人と言って何が悪い?」

「お父様・・・自分の娘を口説いてはいけません・・・それに、そうやって・・・

 お父様に、言い寄られたら、その気になってしまいますわ」

ハルナは、心持ち顔を赤らめて、父親の顔を、それからイチロウの顔を上目遣いで見詰めた。

その表情に、イチロウもドキリとする。

「話を戻そう・・・」

 カドクラが、真剣な表情になってイチロウに視線を戻す。

「ほんとうは、エリナさん本人にお願いするのが筋であることはわかっているつもりなのだが、こうやって、きみとハルナが出会ったことも、ひとつの良いきっかけであると思う・・・それで、彼女と一緒に生活をしているきみに、あいだを取り持ってもらいたい」

「ほんとうに、エリナにプロポーズを・・・」

 イチロウがびっくりした顔になるのを見て、カドクラは、言葉を出しかけたが、それをさえぎるように、ハルナが口を挟む。

「ええ・・・イチロウさん、お父様は、本気なんですよ・・・いつも、いつも、エリナさんの去年の太陽系レースでピットレポートのインタビューを受けてるときの映像を繰り返し繰り返し見て、にやけてばかりなんですから・・・何を考えてるか、だいたい想像できてしまうだけに、娘の立場としては恥ずかしくて」

「おい、ハルナ・・・」

 ハルナは、テーブルの下で、父親の膝を軽く叩いてから、にっこりと笑う。

「どう?イチロウさん・・・こんな、おじさんのファンもエリナ様にはいるのよ・・・ほんとうに、しっかりしないと、エリナ様を知らない人に取られちゃいますよ」

「そういうことは、エリナが決めることだから」

「動揺しないで、イチロウさん。

 冗談に決まってるじゃない・・・」

 イチロウの箸を持つ手が微かに震えていることを確認してから、ハルナが悪戯いたずらっぽく言って笑う。

「イチロウさんとエリナさんの絆が強いのは、昨日、お会いした時に充分伝わりました。エリナ様が処女なので、イチロウさんは手を出せないんだって気持ちも良くわかりますよ」

「・・・」

「ごめんね、イチロウさん。お父様のお願いというのは、ほんとうに簡単なことなんです。でも、その、お父様の願いを叶えられるのは、きっと、エリナ様しかいないと思うんです」

「ハルナ・・・やっぱり、私からお願いするよ・・・

 タカシマくん、私は、スバル・オーナーズ・クラブの会長をやらせてもらっている・・・スバルは、30年前から、航空機の設計・開発・販売を再開した後、5年前から、宇宙用のミニ・クルーザーの販売を初めている。今、ハルナが乗ってるルージュという機体は、その中でも、最高傑作だと思っている」

「この前、戦ってみて、ルージュの性能の凄さは知っています」

「そのルージュを凌ぐ、きみの乗ってる日産のズィーカー・・・そして、去年の太陽系レースの優勝機体であるトムキャット・・・」

「何か、エリナに改造させたいものがあるのですか?」

「察しがいいじゃないか・・・食事が終わったら、ガレージに来てほしい。そこに、エリナさんに、改造してもらいたいマシンがあるんだ。私は、あのマシンが宇宙を飛ぶシーンを一度、見ておきたいと思っているんだ」

 カドクラは、豪快に笑う。イチロウも、つられて笑ってしまう。

「そのエリナさんに電話は繋がるかね?」

「電話ですか?」

「やっぱり、直接話してお願いしたほうがいいだろう・・・こういうことは」

 イチロウが、携帯端末の着信履歴を確認してみると、朝から、エリナからの呼び出しが何度もかかってきていることがわかった。

その着信履歴を、ハルナも覗きこむ。

「すごいね・・・10通以上も・・・」

「気づかなかった」

「イチロウさん・・・興奮しすぎじゃないの?なんで、出てあげないんですか?嫌われちゃいますよ」

「最後の着信は・・・2時間前だ。とりあえずかけてみるよ」

 イチロウは、エリナを呼び出してみるが、エリナは、電話口に出てくれなかった。


「やっぱり、嫌われちゃったんじゃないですか?普通、10回以上も連絡してれば、すぐに出るはずですよね・・・予選組の練習は、午後からなんだし・・・エリナ様、絶対ヒマにしてるはずなんだけどなぁ」

 イチロウの耳元に唇を近づけたハルナが、イチロウだけに聞こえるような小声で囁いた。

イチロウは、途切れた呼び出し音に軽いショックを感じながらも、携帯端末から眼を離した。


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