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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第15章 友達
65/73

ー59ー

 第4周め第8ゲートを通過したのは、1位が、ポリスチーム…2位がルーパスチーム…3位がボールチーム…4位がソーサラー…5位がブシテレビ…6位ジュピターアイランド…7位がハートゲット…そして、8位がカカシチームという結果となった。

総合ポイントの順位は、

1位…ボールチーム…8005ポイント

2位…ウィングチーム…7820ポイント

3位…ルーパスチーム…7635ポイント

4位…ポリスチーム…7165ポイント

5位…オータチーム…7120ポイント

6位…ヨシムラチーム…6800ポイント

7位…サットンチーム…6740ポイント

8位…サブマリンチーム…6485ポイント

9位…ソーサラーチーム…6430ポイント

10位…ブシテレビチーム…6000ポイント

11位…寶船チーム…5800ポイント

12位…ハートゲットチーム…5605ポイント

13位…ジュピターチーム…4885ポイント

14位…ゴリラダンクチーム…4775ポイント

15位…ライアンチーム…4500ポイント

16位…カカシチーム…4440ポイント


『3周目で1位であったウイングチームは、ピットインからのコース復帰となり、ノーポイントとなりました。代わって、暫定トップとなっているのが、ボールチームです。前回の金星ステージでは、ノンストップ作戦で、8周を飛んだボールチームですが、今回は、このまま、残り4周を飛び切ってしまうのでしょうか?パドックには、まだ動きはないようですが、2位ウイングチームとの点差は、125ポイントです。

 ピットインを終えたチームは、もう、後は、残り4周を飛び終えるだけですが、この点差のまま、ピットインすることになると、ボールチームの暫定1位のポジションは、優勝するためには、相当に厳しいものとなります』

フルダチは、ここまでのスコアシートを読み上げた後で、ボールチームの今後の作戦の可能性を説明した。

『ただ、ボールチームは、上位でバトルをするというよりも中団で、ボーナスポイントを稼ぐ作戦を得意としています。実際、この周回で、ボールチームが上位ポジションに上がった事で、ヨシムラチームは、ボーナスポイントを全て取って、ボーナスポイントだけで、2400ポイントを上積みしています』

 イマノミヤも、フルダチの説明をフォローするように、ボーナスポイントをゲットする可能性に触れる。

『ボーナスポイントは、確実性に欠けますが、狙って取れれば、効率は良いですからね』

『ある意味では、不確実なバトルを挑んでノーポイントよりは、よっぽど確実ですよ』

『ボーナスポイントっていうのは、1回で300ポイントですよね』

『そうですね──7つのゲート通過が完了した後、10秒だけ現れるピンポイントのスクリーンターゲットにタイミングよくタッチすることで得られるポイントです』

『ちょうど、この周回で、その8つのターゲットを全てタッチしたヨシムラチームの映像があるので、リプレイしてみましょう』

 メインモニターに、ヨシムラチームの機体が表示される。

『4周目では、ポリスチームがダントツで1位…ピットインしたレギュラーチームに代わって、ボールチームが、ルーパスチームを抑える役を買って出た形になりました』

『それだけ、レギュラーチームが、ルーパスを警戒しているということですよね』

『実際、加速性能の差というのは、大きいです──スピードタイプのチューニングでは、細かい機体操作は難しいので、4秒しか現れないボーナスポイントを得るのは、不可能に近いです。』

『ボーナスポイントを得るには、立体的…特に横の動きが要求されるわけですよね』

『そうです…今のヨシムラチームが、第1ゲートのボーナスポイントをゲットしたシーン──は、その典型ですよね』

『はい…恐らくハートゲットも、今回、ボーナスポイント狙いの作戦だったのでしょう……ずっと、ハートゲットとヨシムラが、近い位置でフライトをしています』

『そのハートゲットチームが7位通過した瞬間…ヨシムラは、センサーで捉えたボーナスポイントターゲットを追いかける立体機動を動作させています』

『コース上は、8チームがピットインしたことで、ちょうど8機のチームしか残っていません──ボーナスポイント狙いのチームが極端に絞られた状況となったわけです』

『そこで、確実に、全ポイントを取ってしまう──ヨシムラチームも、その高い機体コントロール技術で盛り上げてくれました』

『ボーナスポイント狙いに行ったハートゲットチームが、仮に全てのボーナスポイントを得た場合、総合点で2位になっているはずです』

『ハートゲットを抑えきったヨシムラチーム──ファインプレイと言えますか?』

『どうでしょうか?ハットリさんは、どう思いますか?』

『わたしに、振られても困りますよ…でも、ハートゲットチームは、既に、1回のピットインを済ませていますから、ここから、ラストまで止まらない作戦がセオリーですよね──実質上、優勝争いから脱落──となると、サットンチームの作戦と同じように、7周目でピットイン──8周目のスピードバトルに加わるかもしれませんね』

『それは、どうでしょうか?ハートゲットチームの最高速度では、ルーパス、サットンの2チームには、対抗できませんよ』

『そうですか──』

『ルーパスチームは減速し始めましたね──』

『さすがに、ピットインのタイミングで、あの急減速を使うことはないでしょう』

『オオカミと言えど…バカではないということですね』

『どうでしょうか?でも、そういう無茶なチームが、このレースを盛り上げてくれているのも確かです』

『あのクイズセッションでの1400ポイントのビハインド──ウイングチームとは、ピットイン前とはいえ、305ポイント差となっています──あのポイント差がなければ1000ポイント以上の大差が付いている計算です』

『あのビハインドがあったから、無茶なバトルをしたとも言えますけどね』


 ルーパスチームパドック──

「無茶をしたくてしてるわけじゃないんだけどね」

 ミリーが、胡坐をかいて座っているエイク・ホソガイの膝の上で、なんの緊張感もなくミナト・アスカワに話しかける。

「こっちも、準備しないといけないから──ミナトさん…イチロウを、よろしくね──今回は、イチロウの彼女の役、特別にミナトさんに譲ってあげるから」

「イチロウくんの未来の花嫁さんですもんね──ミリーちゃんは」

「そういうこと──あくまでも、未来の話──今は、頼りないイチロウだけどさ、将来、絶対に、イイ男になるんだから、その時になったら、絶対に、譲らないんだから──いくら、ミナトさんが、あたし以上にイイ女になっていたとしてもね」

「ミリーちゃんには、勝てると思ってないですよ──ゲームでは…ね」

「恋のゲームもゲームの一つとか、ミナトさんは、そう思っています?」

「ある意味そうかも──攻略しちゃった男の子に興味を失っちゃうことも、結構あるしね」

「ということは、イチロウにも攻略済みフラグ付いちゃいました?」

「とりあえず、ライバルがいるうちは、そのライバルに渡したくないと思うレベル──ですよ」

「もう──エイクには、手を出さないでよね──イチロウも、エイクも、二人とも取られちゃったら、あたし、自信なくしちゃうからさ…そうだ…ミナトさんも、ルーパスに乗ります?」

「エイクくんは、遠慮しておきます──さすがに、スポーツマンの体力に耐えられる身体じゃないですよ」

「緊張感のないこと言っていないで、ミリーも、ミナトさんも、スタンばって──どうも、エリナは、今回、忙しいらしいから」

 リンデが、ミリーたち3人を促す。

「3分間のインターバルだけで、回復するものなのかしら──ハルナお嬢様の体力は──」

 ミナトが、エイクに向き合って、訊ねてみる。

「ハルナ本人が、そういった以上、間違いなく、あいつは、万全の体勢を整えられる──俺や、ユーコ、セイラのように、天才でない分、ハルナは、自分のことを、よく知っているからな」

 エイクは、ミナトの質問に即座に答えると、ミリーの尻をポンと軽く叩く。

 そして、ミリーとエイクは、立ち上がってパドックハンガーの所定の位置に付く。

 今回のピットインでは、燃料補給以外に、パドッククルーが行う作業は予定されていない。

最大のメンテナンス作業が、パイロットのイチロウと、ナビゲータのハルナのメンタル面のケアが主となる。

ハルナには、エリナが付き、イチロウには、ミナトが付くことは決定しているが、補給の間、ミリーたちは、Zカスタムの外装のチェックをする。


『ルーパスチームは、ここでピットインによる燃料補給をするようですね』

『ワンストップであれば、当然でしょうね』

『ポリスチームは当然、そのまま、トップで難なくタッチダウンアンドゴーをクリアしました──今回は、前回のようなアクロバティックな急停止はしなかったですね』

『する必要もないですし、したら、レッドカード退場です』

『問題のボールチームは、ピットインせずです──ここで止まらないということは、ノンストップ作戦──ボーナスポイント狙いと見て良いでしょうね』

『ここまでで、ピットインをしていないチームは、ジュピターチームと、ボールチームですね──今、ソーサラーチームもピットインしました』


「変態エリナちゃんのところは、ピットインしちゃったみたいね──」

 ニレキアが、パイロットのスティンに笑顔で話しかけてみる。

「その変態呼ばわりは、彼女に失礼じゃないか?」

「そう?あたしが変態って呼ぶのは、天才と認めてる女の子だけだってスティンは、知ってるでしょ──天才って呼ぶのってテレがあるじゃない?」

「前から、聞こうと思ってたんだが──なんで、エリナちゃんを気に入ったんだ?メカニックの腕は、もちろん、天才肌だけど──」

「いろいろ、似てるところがあるから──」

「胸のサイズとかか?」

「──」

「背の高さとか──?」

「──」

「体重も、あまり変わらなそうだし──」

「わかってて聞くなんて、スティンは、意地悪ね──」

「とりあえず、優勝するためには、ここからノンストップで、ボーナスポイント狙いだ──ライバルは多いが、ニレキアなら、クリアできるはずだよな」

「全部は無理だと思うよ──ゴリラさんやカカシさん──タカラブネも、こっちのグループっぽいし」


『この第5周目で、レッドゾーンコースを選択したのは、当然ながらポリスチーム──そして、そのポリスチームを、オータチームが完全にマークしています』

『当然の作戦ですね──ここで、オレンジゾーンコースに逃げるようなら、レギュラーの資格はないですからね──太陽系レースは、この後半が、本当の勝負と言っていいのですから』

『──麻雀で、言うところの南場…前半で自由に戦った結果の点差を詰めていくのが、この第5周以降の4周ですからね──

 そのポリスチームとオータチームから若干遅れているのが、サブマリンチームと、ウイングチームです』

『遅れていると言っても、僅かです…むしろ、バトルをするためには、接近し過ぎては効果が薄い場合もあります──』

『第1ゲートで、どのようにポリス、オータ、サブマリン、ウイングが、やりあうのか?前半は、バトルを控えていたオータチームなども、レッドゾーンコースをメインに、激しいバトルを見せてくれることでしょう』

『ここで、燃料を温存するような作戦を取る可能性があるとすると、ポリスチームでしょうか?』

『ですね──元々、燃費性能が悪いポルシェの機体を使用しているのですから、それだけでもハンディは大きいです』

『ポリスチームは、2周目の終わりに緊急ピットインしていることから、最終の8周目で、燃料を使い果たしてしまう可能性もあります』

『ウイングチームとポリスチームのポイント差は、655ポイントです──イコールコンディションと言えるウイングチームとオータチームのポイント差が、ちょうど700ポイントですね──

 ポイント差だけで言えば、ウイングチームが、かなり有利と言えますが、ウイングチームは、後半、失速する傾向が強いので、オータチームがバトルに集中した場合、バトルで競り勝ったほうが、ポイントを上乗せし、逆転する可能性もあります』

『単純計算で、1位、2位でオータチームが1位で、ウイングチームが2位であれば、600ポイントの差が縮まります』

『この周回が終わった時に、100ポイント差まで縮まるわけですね』


『シャドーマスター…ご・き・げ・ん・よ・う…いよいよ、いつものバトルメンバーが揃ったね…行くよ』

 ウイングチーム──ダブルウィングスターファイターに乗るウミ・ライトウィングは、直接通信で、オータチームのモンド・カゲヤマに宣戦を布告する。

「おちびちゃんたちは、シティウルフとのバトルで、疲れきってるように見えるよ」

『おちび…って言うなっていつも言ってる──シャドーマスター』

「これは、申し訳ない──お嬢ちゃんたち」

『あんたが好きなエリナ姉さんより、胸は大きいんだから──見せてやれないのが残念だよ──それとも、太陽系レースを題材にしたソフトを開発してるんだけど──ゲーム用にインプットしたデータで、エリナ姉さんの3D映像を全裸でエディットしてあるから、そっちのモニターに映してあげようか?』

「本当か?」

「モンド──そこで、にやけたら、あの子たちの思う壺──」

『それとも、シマコ姉さんの全裸をサブマリンチームに見せてあげたほうが、効果的ですかね?』

「そういうことしたら、殺すから──ちびすけども──

…とでも言うと思った?そういう安っぽい挑発には乗りませんよ──シマコ姉さんはね」

『残念──でも、CG映像あるのは確かだよ──この太陽系レースが発売されたら、クリア条件次第でみんなに見てもらえるんだ──もちろん、あたしたちのもだけど、まぁそれは、しょうがないか──あたしたちの裸は、見たがるユーザ皆無だから、あってないようなものだし──付録出し──レア条件だし──オプションで付けた、女性キャラの投票システムで、ウミとサエが最下位争いするのは、間違いないってことも知ってるんだけど──』

『いいのか?バトルに集中しなくて──こっちの集中力を削るための作戦なら、さほどの効果はない──』

 オータチームのF14トムキャットのメインモニターに、手で胸を隠したエリナの全裸映像が大写しにされる。

『本当に効果ないかな?』

「──」

「消そうか?モンド──」

「自分で消す──」

 そういって、モンドは、モニター画面を切り替える。が、そこには、シマコの全裸映像が映される──

『そっちのコントロール系統は、こっちから自由自在に操れますのよ──シャドーマスターとロングバリーさん──あたしたちを怒らせないほうが得策なんだから──』

「なにやかやと反則ばかり──」

『悪いけど、協力して欲しいの──ポリスチームの燃料をカラにしたいから』

「それは、俺たちも考えていた──」

「何が起きたかわからないが、今のカナリは異常すぎる」

『あれで、最後まで持つようなら、ルーパスだけじゃなくて、ポリスにも、ポイントで追いつくことできなくなるよ』

「わかってる」

 F14のメインモニターの映像が、通常の映像に戻る。

『第1ゲートから、あたしたちが地獄の蓋を展開させるから、逃げ道を塞いでほしいの──できる?』

「誰に言ってるんだ──」

『まぁ、できなかったら、コロスから──がんばってね──うまくできたら、ご褒美に、エリナ姉さんのスペシャルCG…セットであげるよ』

「そんなものはいらないが──」

『へぇ、そうか…いらないのか──今のちゃんと録音したから、あとでエリナ姉さんに聞かせてみるね──エリナ姉さん…どんな、顔するのかな?あはは…超楽しみ──』

 そうウミは言うと、ダブルウィングは、そのパールホワイトの翼をひらめかせて、ポリスチームのカナリアバードの上方に機体を位置づけ、翼を、フルオープンで展開した。

『部長さんは、よく知ってるよね──上には、逃がさないから』

 カナリアバードのコックピットに、ウミの声が響く。

「やっといつものメンバーになったか──」

『そういうこと──部長さん、けっこう疲労困憊っぽいけど、途中で逃げちゃイヤだからね』

「ポイントでは、まだ、そっちが上なんだ──ここで逃げられるものかよ」

『とりあえず、今は、追っかけさせてもらうからね──そっちのカナちゃんにも、よろしく言っておいてね』

「カナちゃん……って」

『カナリとカナエのフュージョンなんでしょ、カナエリとか、長ったらしいから、カナちゃんでいいじゃないの』

「まぁ──どうでもいいことだ」

『そのツンは、カナエさんのほうなの?』

「どうでもいいことだ──」

 いつものカナリであれば、仏頂面で応えるはずの言葉だったが、今のカナリは、苦く微笑っている。

『あたしたちだけじゃ止められないんでね──応援、呼んで来たよ──ウイングとオータのダブルチーム──相手にしてくれるよね』

「そうくるとは…思っていたよ」

『さっきの周回のようには行かないから──覚悟しておいてよね』

 F14が、カナリアバードの下方に機体を位置づけて、オレンジゾーンへのエスケープルートを塞ぐ。

「200ポイントか……ノーポイントの選択肢しかないということか──面白い──」

 カナリは、ナビゲータのジョン・レスリーに、苦い笑みを浮かべてみせる。

「カナエは、なんと言ってるんだ?」

「ここは、200ポイント取れるって──安心してください、部長──カナエの指示に、全て従いますから」

「変わったな──」

「正確には……変えられた──ですね──ある意味…無理やり──」

「そうか──」

「私の意思で、変わったわけではありませんので──」

 第1ゲートが、迫っている。

カナリアバードは、燃料を気にすることなく、加速する。

当然、カナリアバードの動きに合わせて、ダブルウィングも、F14も加速する。

カナリアバードの後方に、ダブルウィングの機体を位置付けた場合、カナリアバードの機体をオータコートが前方に押し出してしまう──

F14の加速性能は、カナリアバードの上を行くため、加速したF14は、ゲート直前で、カナリアバードに体当たりを仕掛ける。

この動きで、カナリアバードは、オータコートの反発作用で、上方に弾かれ、ダブルウィングの地獄の蓋に阻まれ、後退するしかない…はずであった。

しかし、F14が、体当たりをする直前に、カナリアバードは、ダブルウイングの右翼にダメージを与えていたのだ。

カナリアバードに先んじるためにF14が、加速した、その一瞬の間に、カナリアバードは、横にスライドし、上方に展開されたダブルウィングの右側の翼に体当たりを仕掛けていたのである。

右翼のみを弾かれた形の、ダブルウィングが、スラスターで、斜めにされた機体バランスを元に戻すために、カナリアバードのマークを外した瞬間、カナリは、バーニアに点火し、最大加速で、第1ゲートのレッドゾーンを通過したのである。

アタックの失敗を察知した、F14は、上方へのスラスター噴射により、オレンジゾーンへのエスケープを決行──そして、ダブルウイングは、傾けられたウイングをそのままに、大きく翼が舞い散るような動きで、イエローゾーンまでのエスケープを実行してみせていた。

「とりあえず、1回目は、私たちの勝ちだ──まだ、続けるなら、つきあってやってもいい──」

『やっぱり、いつものカナリさんのツンだね──でも、動きが、全然違う──あたしたちの動きを読んでいたりしますか?』

「察しがいいな──つまり、そういうことだ──カナエの能力というのは──」

『3~4秒後の未来が読める能力──それが、カナちゃんのスタンドパワーってことかな?』

「それは、私も判断しかねるが、次に何が起こるかは、手に取るようにわかる──」

 激しいバトルの後の、敵との冷静なやりとりができること──ジョン・レスリーは、そのことこそが、今までのカナリと、大きく変わったことであることに気付いていた。


「シャドーマスターのお兄ちゃん、失敗しちゃったよぉ…ごめんね──」

『燃料を消費させる目的は果たせている…それと、イエローゾーンに行ってくれて、ありがとう』

「そっちは、上の動きだったしね──お互い、ここからは、取りこぼせないでしょ」


『第5周…最初のバトルを制したのは、ポリスチームです』

『レギュラー同士による見なれた、バトルの光景ではありましたが、ちょっと違う動きではなかったですか?』

『そうですね──いつもは、あそこで、ポリスチームは、動きを封じられていました』

『隙など、まったくなかったように見えましたが──』

『まさに、先読みのカナエリ──そういう動きに見えましたね』

『ただ、燃料の消費は、相当のものだったでしょうね』

『燃料消費も、先を読めてると、完璧なんでしょうが──バトルに巻き込まれた時点で、そこまでの完璧さは失われてしまいますからね』

『それは、どうでしょうか?ポリスチームが、既に優勝を諦めてるとしたら──』

『燃料が尽きるまで、バトルを続けることになりますか?』

『既に、2周目の終わりで1回めの緊急的なピットインしているポリスチーム──当初の作戦は、オータチームと同様の3周目の終わりでのピットインだったはずです』

『通常のバトル中心のフライトであれば、7周めの終わりで、燃料は尽きますよ』

『レッドゾーンに留まり、バトルを続けるということは、ルーパスチームに援護している──そういう意味になりませんか?』

『ポリスチームが、ルーパスチームを援護…ですか?』

『年間優勝を狙うためには、ポリスチームは、オータチームに勝たせたくないはずなんです──すでに、水を大きく開けられているのですから、オータチームに3連勝されるくらいなら、新参のルーパスチームに、優勝させて、次回からの巻き返しを図る──年間優勝を視野に入れた作戦ではないかと思いますよ、あくまでも、私の見方ではありますが』

『ハットリさんのその見方は、正解かもしれませんね──』


「ハルナが、こんなに幸せそうに眠ってるのを見るのは初めてだ──」

 エイクが、エリナの膝の上で抱きかかえられるように眠っているハルナの姿を凝視して、呟く。

 エリナの子守唄が、パドック内を静かに振動させている。

 ♪眠れ良い子よ──母の胸に──

その声をBGMに、パドックのルーパスクルーは、黙々と、そう、黙々と、ハルナを起こさないように細心の注意を払いながら、与えられた作業をこなしていく。

予定された時間は、3分間──既に2分が過ぎている──

ミナトも、まったくの無言で、イチロウの脛、そして、腿のあたりを集中的にマッサージしている。

「ほんとうに、安心しきったように、眠っている──ね──ハルナちゃん」

 エリナの背中ごしに、ミリーが、ハルナの寝顔を見つめて、こちらも、起こさないように、静かに呟くだけに留めている。

「でも、どうやって起こすの?」

「息を塞げば、嫌でも起きるでしょ──」

「それは、イチロウの役かな?」

 エリナが、人差し指を一本立てて、ピンクに塗られた唇に、その指を当て、静かな会話をし始めたクルーたちを上目遣いで、睨みつけ、頭を巡らせる。

 そして、その指先で、自分の胸元を2~3度、つんつんと突く。

(あたしが、ちゃんと起こすから、静かにして)

 子守唄を歌いながら、取り巻いている仲間に言葉にはせずに、そう伝える。


 それから、残り1分──わずかな休息の終わりを告げるために、エリナは、ハルナの唇を自らの唇で、塞いで、軽く息を流し込む。

「ありがとう──お姉さま──行って参ります」

 エリナの背に手を回して、名残惜しそうに唇を引き離したハルナが、エリナの膝からすっと立ち上がる。

「いってらっしゃい──がんばってね」

 イチロウは、既に、Zカスタムのコックピットに腰を収めている。

ハルナも、一瞬の躊躇いもすることなく、コックピットに、その形のよい尻を収めて、シートベルトをきつく締める。


 固形燃料を満タンに、しっかりと詰め込んだ、Zカスタムは、パドックのハンガーから、速やかに、ブシランチャーカタパルトへの移動を開始していた。


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