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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第15章 友達
64/73

ー58ー

「ニレキアさんって、あの北欧系の赤い髪の女の人ですよね」

 開始されたバトルをパドックで観るルーパスクルーと、応援に駆け付けた者たち。

ミナト・アスカワが、キリエ・ヒカリイズミに、訊ねてみる。

「そうですよ……エリナからは、この太陽系レースで知り合ったと聞いてます」

「昔からの友人というわけではないのですね」

「気になる?」

「太陽系レースって、女性の参加者、多いんですね」

「確かに、今回のレースは、女性パイロットとナビゲータが目立っていますけど…

 もしかして、ミナトさんも参加したくなったんですか?」

「あたしじゃ、無理ですよ──ハルナちゃんが、あんなにボロボロになるくらい大変そうなんだもの」

「ハルナちゃんは、クイズの時のストレスを引きずってるだけだと思うけど──あの程度の急減速だけで、どうにかなるような鍛え方はしてないと、わたしは思うけどね」

「そうですか──」

「そろそろ、ピットインの準備をしなくちゃいけないから──ミナトさんも、もちろん、手伝ってくれるよね」

「はい──わたしにできることなら喜んで」

「イチロウを慰めてくれたって聞いたけど」

「あ…はい、慰めになったかどうかは、わかりませんが──」

「あれだけ、元気いっぱいなんだ──ミナトさんのお陰だよ」

「でも──」

「ニレキアさん──って綺麗ですよね」

「イチロウの好みとは思えないけど……もしかして…心配?」

「いえ……もし、キリエさんが、ニレキアさんと知り合いなら紹介してほしくて」

「はぁ?」

「ああいう、お人形さんのようなお友達、ずっと欲しかったんです──赤い眼、赤い髪──本当に、お人形さんみたいで、かわいいです……肌も真っ白で」

「ミナトさん……何を言い出すんですか?」

「こんな時に、非常識ですか?」

「いえ、まぁ──エリナに、それとなく聞いてみますよ」

「ありがとうございます」

「マイペースな人なんですね、ミナトさんって」

「はい、よく言われます……キリエさんの黒髪も綺麗です」

「もしかして、男より、女のほうが好きとかじゃないですよね──」

「あれ?言いませんでしたっけ?」

「聞いていませんよ」

「男の人って、不潔な人多いじゃないですか──イチロウくんは、心が清潔だから、ちょっと汗臭いくらいは許せるけど、心も身体も不潔な人って、生理的に無理なんです──」

「そういえば、ミナトさん、人の考えを読むことができるって……本当なんですか?」

「はい……あのウルフドラゴンの彼程度のテレパシーなら普通に使えますよ」

「怖い人ですね」

「気にしないでください──秘密を守ることは慣れています──これでも、口が堅いので、有名なんですよ」

「覚えておきます」


 ボールチームとルーパスチームのバトルは、第6ゲートを舞台に、第2ラウンドが開始されていた。

「こっちから仕掛けてやる──」

 イチロウが、ハルナとエリナに宣言する。

「そのほうがよさそうね」

『今回は、イチロウの好きなようにやっていいよ──それでも、駄目なら、最終兵器──試してみるからね』

 エリナが、ニコニコしながら楽しそうに宣言する。

「最終兵器──コバンザメか……既に1回イエローカード食らっているけど、大丈夫なのか?」

『こういうパーツ作りました──認可してください──とか、やっていたら、すぐ、他のチームに真似されちゃうでしょ──こういうのは、ぶっつけで試すからいいのよ』

「そうか?」

「う~ん……ハルナに聞かないでよ……太陽系レースへの参加なんか、予定してなかったんだから」

『あたしが、いいって言ってるんだからいいの!それに、これで、コバンザメ使って、それが違反だっていうなら、どっち道、このレース勝ち目なんかなくなっちゃうんだから』

「だったら、次と言わず、今、試したらいいんじゃないか?」

『それも、ちょっともったいないかなって、思うよね……ね、ハルナ』

「どちらでも……お姉さまとイチロウで決めてください……ハルナは、お姉さまの意思に従いますから──」

「とりあえず──」

『うん、今は、イチロウの好きにやってみて』

「了解!!」

『あ…ごめん、イチロウ…すっかり忘れてた──』

「え?」

『クラッシュボールには、コバンザメ使えないんだ──』

「そうなのか?」

『うん…まぁ、あたしが作った機体だし…なんていうか、あのボールさんは、ちょっと特殊な処理がしてあってね…』

「特殊な…処理?」

『まぁ、とにかく、コバンザメなしで、なんとかやってみてね…イチロウなら、ニレキアに勝てるよ』

「また、ずいぶんと曖昧な、作戦指示ですね…お姉さまらしくないですよ」

『ごめんね……やっぱり、あの子とは、ほんとうは喧嘩したくないから』

 エリナは、満面の笑顔を作った上で、ハルナに手を振る。

「お姉さまの大親友でも、手加減はしませんから…ね、イチロウ」

「手加減…っていうか、ハルナは平気なのか?」

「平気じゃなくたって、辛い顔したら、ハルナだって、大切な大親友を無くしちゃうんだから──これでも、精一杯やせ我慢してるんだよ」

「だよな……」

「イチロウが一番元気なんだから、この第6ゲート…絶対、2位通過しないとダメだよ」

「はいはい……」

 Zカスタムのショッキングピンクの機体が、赤と黒でカラーリングされたクラッシュボールの機体に、最接近をする──当然、オータコートの反発作用で、クラッシュボールが、僅かに弾かれる。

まだ、ゲート通過までには、少しの時間があり、この最接近は、挨拶程度に留めておくことがイチロウの目的ではあったが、弾かれた、クラッシュボールは、逆方向へメインバーニアを点火して、Zカスタムへの体当たりを敢行してきた。

『慌てるなんとかは──ってエリナから教わらなかったの?オオカミ少年──』

 ニレキアの苦笑混じりの声が、スピーカーを通して、イチロウとハルナの耳に届く。

「そっちは、ノンストップ作戦だと、エリナから聞いてますよ──無駄なバーニアの噴射は、作戦の遂行を阻害しますよ」

『エリナも、おっちょこちょいの変態さんだから、見込み違いもあるんだよ──オオカミ少年──誰が、いつ、ボールチームがノンストップだって、宣言したのかな?』

「それは…」

『イチロウ──ニレキアの言葉に惑わされないで──クラッシュボールの性能は、あたしが一番良く知ってるの──これくらいのバーニア噴射くらいで、燃料を消費しやしないの──』

「まさか──」

『コバンザメが通用しない理由も、根っこは一緒なんだ──あ──』

「どうした?」

『ミユイさんが……中継してくれるって』

「どういう意味だ?」

『聞こえる?イチロウ──』

 ミユイの声が、イチロウのヘルメット越しに響く。

「聞こえるよ」

『黙って聞いてくれると嬉しい──今、エリナさんからクラッシュボールの情報を聞いたから──伝えるね…今、ハルナちゃんとヘルメットをくっつけられる?』

「ああ──」

 ミユイの指示に従い、イチロウは、ハルナのヘルメットに、自分のヘルメットを触れさせる。

イチロウの意図を理解したハルナも、イチロウに身を寄せるように身体を少しずらして、ヘルメットの位置を固定させる。

 そして、ミユイの言葉が、続けられる。

『クラッシュボールは、ワープ機能を搭載した機体なんだって──だから、さっきの体当たり──実際には、燃料消費はゼロ──なんだって…バーニア噴射に酷似させたフラッシュ光の偽装──テレビカメラでも、捉えることのできないショートワープの連続使用──それを巧みに操ることのできるニレキアというナビゲータの機体コントロールの巧さ…というか才能──エリナさんは、超超能力って言ってる──誰にでもできる技術ではないけど、エリナさんが作ったクラッシュボールの特性を200%以上使いこなすことができるのが──あのニレキアさん──

 前の周のタッチダウンも、実際には、見た目ほどの燃料を消費してない…ってエリナさんは言ってるよ』

「それが──あの機体の秘密?」

『そう──あの機体を作り上げた才能も常識はずれ──それを操る才能も常識はずれ──実際には、ワープ装置を禁止されてる太陽系レース……バレなければ、なんでもありなんだって──そう、エリナさんは言ってる──常識外れの奇跡が2つ重なった結果があのクラッシュボールのパフォーマンスなんだってさ』

『そういうことなの──』

 メインモニターのエリナの顔が笑ってる。なぜか、右手でVサインまで作ってみせている。

「ずいぶん、嬉しそうじゃないか」

 ミユイからのヘルメットごしの通信が終わったため、ハルナとの接触を解除したイチロウは、エリナに、苦く笑った顔を向ける。

『そりゃ──ニレキアとあたしの相性がバッチリってことなんだから、嬉しいに決まってるじゃない──』

「親友か──」

『うん──今は、イチロウとあたしも親友だもんね』

「親友以上になりたかったけどな」

『もう──シンイチさんも、ハルナも聞いてるんだから、そういうこと言っちゃだめだよ』

「悪い──本音が出た」

『もう──』

 ミユイの声を聞いている間も、エリナとの通信を再開した後も、イチロウは、真横をフライトするクラッシュボールの動きからは目を離さない。

第6ゲートは、すぐそこに迫ってきていた。

(ショートワープによるバトルフライトの偽装だって──レギュレーション違反も極まれりじゃねぇか)

 前を行くポリスチームの黄金に輝くカナリアバードの機体が、レッドゾーンへの進入コースを取っているのが見えるが、今は、そちらを相手にしている状況ではない。

Zカスタムが加速すれば、必ずカナリアバードも加速する。Zカスタムの加速性能が突出していても、この位置で加速して、かわせるという保証は全くない。それよりも、いかにボールチームを抑え込み、2位ポイントを得るかが、今の課題なのだ。

(バトルっきゃないのは、わかってるんだけどな──)

「ハルナ──第8ゲートを通過するまでは、減速する必要ないよな」

「もちろん──」

「燃料残量は?」

「たっぷり残ってる──このまま、ピットインしなくても、もう1周は余裕でいけるよ」

「ハルナをエリナに届けなければいけないからな──ピットインは当然やるよ」

「うん──ありがと…イチロウ」

「燃料が残ってるってことは、バトルを思いっきりできるってことだよな」

「そうだよ」

 ハルナの同意を得たイチロウは、Zカスタムの側面のスラスターに点火し、ステアリングを切って、クラッシュボールのいる方向に機体をスライドさせ、体当たりを敢行する。


『この周回の2位争いを展開するボールチームとルーパスチームの2機が、第6ゲート直前で、バトルを開始しました』

 フルダチの興奮した声が、スピーカーから響いている。

 ルーパスのパドックでは、コントルールルームのエリナとシンイチ……パドックハンガーでは、この周回終わりのピットインに備えるため、ソラン、キリエ、マイク、リンデ、ロウム、そして、もちろんミリーも待機している。

パドックのメインモニターには、当然、バトルの様子を映すテレビ映像が表示されているが、サブモニターには、ミユイの顔も映されている。

「今の得点状況を確認できる?」

 リンデが、ミリーに訊ねる。

「この周回でピットインしたチームは、どれも、今、第3ゲート付近──

 ウイングが、1位は変わらないけど…2位のボールとの差は、105ポイント──こっちは、今3位──ウイングとの差は、545ポイント──オータとサットンが、4位5位で、今、トップのポリスが、6位に上がったけど──このまま、第8ゲートまでトップなら……オータとサットンをかわして4位浮上は確実──

こっちは、ボールを抑え切れて2位を継続できても、ピットインのタイミングでは、3位までが限界──

ピットインで、5周目のポイントゲットはきついから5周目の終わりで、5位以下に落ちる可能性が高い」

「6周目と7周目の作戦──このピットインで、しっかりイチロウたちと確認する必要があるな」

 ミリーの父のマイクも、ミリーとリンデの会話に加わる。

「パパの言うとおりなんだけど──イチロウは気まぐれだから、作戦を聞いてくれるか、ちょっと心配──」

「最終周回──8周めで、最高得点を叩き出せたと仮定して…7周目で、どれくらいの点差なら、トップが取れる?」

「単純に計算すれば、480ポイントなんだけど──」

「7周めの終わりで、トップチームとは480ポイント差以内でないといけないわけだ」

「できれば、6周め、7周め──どっちも、1000ポイント以上は欲しいってこと…イチロウとハルナには、伝えておかないといけない──この周回だって、1000ポイント取るのは相当難しい状況なんだ──」

「サットンチームは、相変わらずの高速セッティングなんだよね──」

「公式練習と予選の最高スピード記録を見る限り、Zカスタムのスピードについてこれるのは、あのチームだけ…最終周は、もうバトルは関係ない…ガチのスピード勝負…プラチナリリィが、一番の強敵──8周め開始のタッチダウンで追いつかれたら、相当ヤバいんだよね」


『第6ゲートを2位でイエローゾーンを通過したのは、ルーパスチームです──オレンジゾーンコースでバトルを演じた2チーム…最終的にはルーパスチームが前を塞がれた格好になった後、急加速で、イエローコースにコース変更した形となりました』

『ボールチームのマシンコントロールの巧さは、抜群ですね──オータコートの反発作用を魔法のように操っているとしか思えないバトルでした』


「そりゃそうよね──ブチ当てた瞬間…消えてるんだから」

 ハルナが、イチロウにだけ聞こえる小さな声で、呟く。

「やっかいだ──実際にタイマンでバトルをやると…エリナの作った機体は……とんでもない性能だ──」

『イチロウ──バトルのお楽しみ中だけど──ごめん、これ以上の燃料消費は抑えてくれないかな?』

「無茶しすぎたか?」

『次の第7ゲート──バトルなしで、イエローゾーンを2位通過して──コースが違えば、ニレキアも、無理なバトルをしかけては来ないから──加速で消費する燃料量のほうが、バトルで消費する燃料より、ずっと少なくて済むの──』

「わかった──」

『ハルナ──悪いけど、ピットストップの時間は、ぴったり3分にするから、3分で、きちんと元通りになってもらうよ』

「はい──お姉さま」

『膝枕はしてあげるから、安心して』

「ありがとうございます──充分です」

『うん──燃料は、3分で満タンにしてあげる──満タンで、復帰しないと、6周目と7周目のバトルが終わった後で、ガス欠になる可能性があるの──そうなったら、ポイント度外視で、最終周に、全てを温存してるサットンチームに勝てなくなっちゃうの』

「クルミさんたち、昨日の予選の決着を、この決勝のラストで付けようっていうのか?」

『その可能性があるんだよ』

「聞いてみようか?」

『素直に「そうだよ」とは言ってくれないと思うけど──第8ゲート通過後に追いつかれると思うから、その時にでも、直接聞いてみてよ』

「わかった──そうしてみる──」

「イチロウ──」

「ハルナも、チアキさんとキサキさんと話してみたいだろう?」

「もう──そんなことより、この後の第7ゲートの攻略方法、覚えてるの?」

「2位で、イエローを通過だろう?しっかり、計算通りのフライトを見せてやるさ」

『イチロウ──勝つためには、ここからは、ピットの作戦に素直に従ってね──前半は、好き勝手にやらせてやったんだから…』

「了解──」


『先ほどの第6ゲートでは、激しいバトルを演じたルーパスとボールの2チームですが、コースを変更しないですね』

 実況のフルダチが、状況を正確に伝える。

『結果的に、ボールチームの変幻自在の動きに幻惑される──それならば、他に追随するチームのない、この周回は、確実にポイントゲットすることと、燃料を温存することを、ルーパスチームが決めたということでしょうね』

『ボールチームの燃料を削るためのバトルということではなかったということですね』

『もともと、ボールチームは、あのさっきの動きで、ボーナスポイントを集めてゆくことを作戦の軸にしてるチームですから…安定して8位のポジションをキープすることさえできれば、バトルに参加する必要はないのです』

『残念です……あの立体バトルを、もっと見たかったのに──』

 ユーコも、そうコメントして、さも残念そうに深いため息を吐いた。

『そろそろ、ピットインしたチームが追いつきますからね──バトルに夢中になって、追いついてきた強豪チームにポイントをかすめ取られることのないように、細心の注意を払ったとも言えると思いますよ』

『追いつきそうなのは、オータチーム、サブマリンチーム、ウィングチーム…この3チームが、ランデブーフライトで、第5ゲートに差し掛かるところですね』

『3チームとも、追いつこうと思えば、追いつけそうに思えるのですが、敢えて先行しないのは、どういうことなのでしょうか?』

『ルーパスチームが、ピットインした後、第5周目で、トップを取る為には、他のチームの動向を、しっかり把握しておく必要があります』

『第5周で、止めなくてはならないのは、ポリスチームですからね──燃料が厳しいとはいえ、ルーパスチームを抑えて、この周回、全て1位通過しています。3チームで、ポリスチームの包囲網を作る──そういう作戦を選択したのだと思いますよ』

『遅れているのは、サットンチームですね──』

『このチームは、どう絡んでくるか──まったく、わかりませんね──レギュラーではない予選通過のチームですから、前回の記録もありません──次の周回で、オータ、ポリス、サブマリン、ウイングに絡んでくるのは間違いないと思いますが、確かに、ちょっと遅れているのが気になりますね』


「とりあえず、7位か──優勝はきついかな?」

 サットンサービスチームのチアキ・ニカイドーが、キサキ・クロサワに声をかける。

「っていうか、3周で燃料カラって……高速セッティングにするにしても、やり過ぎなんじゃないかって……思いますよ──社長」

 キサキが、モニター越しに、メインメカニックのクルミ・ニカイドーに苦情を言ってみる。

「この4周目──燃料温存したところで、7周目で、燃料カラになったら、8周目で、ピットインするの?どうなの?お姉ちゃん」

『6周までは好きにしていいよ──そして、7周目で、もう一度ピットインだ──初めから、そう決めていた』

 クルミはにこりともせずに言う。

「8周のうち、2周まるまるノーポイント覚悟ね──まぁ、それもいいか──けっこう、楽しめたしね」

『楽しむのは、これからだよ…チアキ、キサキ──』

「え?でも、優勝は、かなりきついよ」

『あのエリナちゃんと、もう一度勝負させてあげるって言ってるのさ…あたしは──』

「ラストバトル──か」

『そう──どうデータをかき集めても、レギュラーチームで、あのルーパスのスピードに対抗できる奴らはいない──だったら、あたしらがやるしかないだろう?』

「ってことはさ…次の5周め、6周目──思いっきりバトルを楽しめるってことだね」

『そう──優勝するより、よっぽどワクワクするんじゃないか?』

「あの前の3チーム──どうせ、燃料を気にしながら、ちんたら飛ぶ気なんだろうから──思いっきり掻きまわしてやろうか──な、キサキ──」

『燃料、全部使い切っていいから──その代わり、最後のピットインで積む燃料は、最小限になるよ──贅肉をつけた機体のままじゃ、あのエリナちゃんには、勝てないからね』

「ポイント勝負じゃなくて、スピード勝負か──悪くない作戦…じゃなくて、お楽しみだね──お姉ちゃん」

『できれば、7周めで、オオカミくんたちにトップ確定しておいて貰えると、遠慮しないで、勝負できるんだけどね』

「勝たせてやりたいよね…オオカミくんは、ともかく──あのハルナちゃんには、勝ってほしいと、あたしも思ってるよ」

『どういう展開になっても、あたしたちは、あたしたちで、思いっきり遊ぼうね』

「そうですね……社長」

「そうと決まれば、5周目、6周目…思いっきりブチ当たりにいくよ」

 オータ、サブマリン、ウイングのランデブーフライトを続ける集団に、プラチナリリィが、突っ込んでいく。


『サットンチームが、加速して、前方の3チームに追いつきましたね』

『あの勢いだと、追い抜きますよ』

『あは……あのお姉さんたち、大好き!!』

 実況のフルダチ、解説のイマノミヤ、そして、ゲスト解説のユーコが、それぞれ、短い言葉を発する。


「このまま、オオカミくんたちを煽ってあげようか──キサキは、どうしたい?」

「そうする?あたしに、異存はないよ」

 オータ、サブマリン、ウイングを、抜き去ったプラチナリリィが、さらに加速して行く。

 第5ゲート付近で加速をし始めたプラチナリリィは、そのまま、前をフライトする機体に追いつきそうな勢いで、ぐんぐんと迫っていく。


『イチロウ──サットンチームが、やってきてるよ』

 エリナの声が、Zカスタムコックピット内に響く。

「クルミさんたちか──」

『第8ゲートの通過タイミングか──もうちょっと後くらいで、追いつかれると思う』

「エリナは、どう思う?」

『え?どうって?』

「なぜ、カゲヤマさんたちを追い抜いてきたのか?」

『決まってるじゃない…優勝あきらめて、ラストの周回で、あたしたちとスピード勝負するってことのアピールでしょ』

「…だよな」

『なぁに?イチロウ、クルミさんたちとの勝負…怖いの?』

「ラストバトルで、息切れしないように、燃料コントロールの指示は、エリナに任せるからな…」

『こっちは、優勝諦めてないからね…ハルナも、そのことは、わかってるよね』

「はい…もちろんです」


「モンド……熱くならないで──あくまでも、こっちは、優勝狙いなんだから」

「わかってるさ──」

 操縦桿を握る手に、力を込め、モンド・カゲヤマは、前方を凝視する。

オータチームとしては、このまま、慣性フライトを続ければ、ジャストのタイミングで、先頭をフライトするポリスチームに追いつく計算は立ててある。

しかし、先ほど追い抜いていったサットンチームは、そのポリスチームを追い抜くための加速をして飛び出して行った。

優勝ではなく、明らかに、ルーパスチームとのラストバトル──スピード勝負を楽しむことが目的の加速である。



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