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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第14章 覚醒
59/73

―53―

 ハートゲットチームのパイロット…シエン・スペードソードは、自らが操るピンク色の機体──ハートオブディーノを、ポリスチームのカナリアバードに最接近させる。

レッドゾーンコースでの高速バトルに挑むシエンは、その瞳の中に紫の炎を燃え上がらせる。

「決勝で、あなた方と戦える事を楽しみにしていました」

 穏やかな口調で、シエンは、ポリスチームのカナリ・オカダへの直接通話で、そう告げる。

『ハートゲット海賊団の生き残りでしたっけ?あまり、よく覚えていないの…ごめんね、物覚え悪くって』

 冗談を言う事の少ないカナリは、かつて『ハートゲット海賊団』という海賊団を相手にした記憶があった。

そのことを、同じ名前のチームであるハートゲットチームのシエンに、半ば本気で確認しようとした。

「脳筋婦警さんは、物覚えが悪いようで…ハートゲット海賊団とか、古今東西、存在したことないんですよ……

 今度、婦警さんも、ハートゲット・エステに来てくださいね。男の子が武者ぶりつきたくなる身体に仕上げてさしあげます……もっとも、ポリスの安月給で、うちの料金を払うことができればですけどね……ふふふ」

 海賊団などではないことを、即座に否定したシエンは、営業アピールを忘れずに付けくわえる。そして、眉根を寄せながら、前を見つめる。

『つべこべ言わずに、かかってらっしゃい』

 第2ゲート、そして第3ゲートでのバトルで惨敗を喫したカナリではあったが、その強気の言動が崩れる事はない。

「言われなくても……」

「シエン……安っぽい挑発に乗らないで……いつものように、冷静にね」

 リーシャが、念のために釘を刺す。

「わかってる」

 シエンは、ハートオブディーノを、カナリアバードの上方に位置付ける。

まだ、位置を確定させただけで、次のゲートに近づくまでは、カナリアバードとは接触しないまま、シエンは、燃料の温存を図るフライトで、様子を見る。

もちろん、カナリも、不要な燃料消費を抑えるため、慣性フライトのまま、自ら仕掛ける様子は見せない。


『ポリスチームとハートゲットチームが、バトルの態勢を整えましたね。ここまで、2つのゲート通過が無得点となってしまったポリスチームと、1つのゲート通過が無得点であったハートゲットチーム……ルーパス、サットン、ウイングの三つ巴バトルとは異なる熱いバトルを見せてくれることでしょう』

『こちらも、楽しみですね』

 フルダチの実況に、ユーコが、合いの手をいれる。ほんとうは、ポリスチームの応援をしたくないユーコではあったが、ここは、ゲスト解説として、大人の対応を、しっかりと務める。

『そして、この5つのチームの動向を、いよいよ無視できなくなった、トップ2の2チーム……オータチームとサブマリンチームが、上がってきました。』

『絡んでくるとすれば、この次の第6ゲートでしょう』

 フルダチの実況に、イマノミヤが短いコメントを添える。


「モンド……ソウイチロウ……いいの?」

 オータチームのナビゲータを務めるシマコ・ハセミは、スピードを上げるF14トムキャットの後部座席…ナビゲータシートから、パイロットとメカニックの二人に問いかける。

「いつまでも、シマコに我慢をさせてると、シマコが便秘になっちゃうだろう」

「あたしの体型が崩れるのを心配してるなら、その心配は無用だけど」

『さすがに、先頭集団が5チームもあれば、こっちも燃料温存とか言ってられない』

 オノデラが、作戦変更を告げる。レース直前に決めた作戦など、いざ、レースが動き出してしまえば、変更せざるを得ない。

レースは生きている……メカニックを含めれば、16チームで、48人の人間が、それぞれの強い想い…意思を持って望んでいるのである。どこでどう状況が変化するかわかるはずがない。

その変化を予想することができるのであれば、もっと楽にレースに勝てるだろうと、オノデラは、考えていた。

「今回の女の子パワーに感謝ってところね」

 親指を立て、ポイント争いに絡めることを喜んだシマコが、その笑顔で、オノデラに感謝の意を表す。

「それもあるが、レッド付近で2チーム……グリーン付近で3チーム……バトルの間隙を突けば、易々とポイントゲット可能だ……このチャンスを逃す手はないだろう」

『燃料温存しながら、高いポイントを手に入れられるってことさ』

「せこいけど、悪くない作戦ね……でも、ここまでスピード上げて、タッチダウンの時の減速は、無理なくできる?」

『無理なく…は、無理だな』

 オノデラが応える。

「つまり、ブシランチャーの直前で、急減速しろってことね……」

『他のチームも、それは覚悟してのバトルだろう?』

「8周全部で、それやってたら、身がもたないよ…ソウイチロウは、責任とってくれるの?」

『シマコの鉄よりも頑丈な身体のことは、さほど心配してるわけじゃない……それよりも、急減速をする時の燃料消費のほうが心配だ。 シマコの身体のほうは、レースが終わったら、マッサージとエステのフルコースをサービスするよ……』

「ソウイチロウがやるんじゃないでしょうね」

『ハートゲット・エステのVIPコースだ…不満はないだろう?』

「ハートゲット・エステのVIPコースというと……心配なのは、旦那の体力だね……せっかく磨いた身体……旦那以外に見せられないのが、ちょっと残念かな…」

『それこそ、若い男、2・3人用意しといたほうがいいか?』

「そこまで、気を遣わなくてもいいですよ」

『後の心配はいらないから、シマコの思うとおり、レースを楽しんでくれ』

「了解!!」

 シマコは、F14の進行方向をモンドに指し示す。

「やっぱり、ルーパスか……」

「勝負するなら、より難易度の高いほう…そのほうが、楽しいよね……エリナちゃんに、お礼もしなくちゃいけないしね」

「お礼?」

「エリナちゃん……ずっと、モンドに、思わせぶりな態度取っていたけどさ……婚約発表したってことは、もう、モンドには、ちょっかい出さないって決めたってことでしょ」

「それは……」

「これで、モンドが新しい恋を手に入れるチャンスが生まれたこと……すごく感謝してるんだ」

「エリナに、そういう気持ちは、まったく無かったはずなんだけど」

「いいの…いいの…感謝の気持ちを込めて、思いっきり、叩きつぶしてあげるんだ」

 シマコの表情が真剣な表情に変わる。

「しかし……あのバトルをこなして、ワンストップ作戦が可能だっていうのには、驚きだ…さすが、エリナが真剣に作った機体──」

「エリナちゃんも凄いけど……かわし方が絶妙だよね…オオカミくんの力か、ハルナちゃんの力なのか…あたしたちのアタックに、どう反応するか…お手並み拝見といきましょう」

 ウィングチームとサットンチームに上下方向でサンドイッチにされた格好のルーパスチームのZカスタムの右翼方向…やや離れた位置にF14が機体を位置づける。


「イチロウ……もしかして、あのオータチームに恨みとか買ってたりするの?」

 ハルナが、右翼に陣取ったF14の姿を肉眼で確認しながら、イチロウに話しかける。

「カゲヤマさんが、エリナの事を好きだってことは知ってるけど……

 俺自身は、カゲヤマさんを怒らせることなんか何もしてないつもりなんだ…だよな、エリナ」

『うん…イチロウは、何もしてない』

「どっちかというと、ハルナたちに絡むより、ポリスチームのほうに絡んだほうが、ポイントレースには有利だって知ってての行動だよね」

『シマコさんとカゲヤマさんは、優勝は当然狙っているけど、レースそのものを楽しむタイプだから……だから、こっち狙いなんだと思うよ』

「レッド狙いを封じられてる今、ちょっと、やっかいなチームに眼をつけられちゃったよね」

「それも含めてのレースだろう」

「イチロウは、楽しそうだね」

「とりあえず、今はポイントレースで8番手…この1周めで、7番手にポジションを上げる事ができて、残り1周ずつ、ひとつずつポジションアップできれば、8周目には、トップに立てるってことだよな…な、ミリー」

『細かい計算の仕方を説明しても、イチロウには伝わらないって、よくわかったからさ… もう、それでいいよ…この周回は、ポイントで、7位狙い!がんばって』

 ルーパスチームの応援パドックの映像が、サブモニタ―に映され、ミリーが両手を握りしめてガッツポーズを見せる。ミリーの後ろには、レオタード姿のミナトも、Vサインを示して、応援の笑顔を作っているのがわかる。


「オータチームは、ルーパスチームにくっついたけど……サブマリンチームが、こっちに来ちゃったね」

 ハートゲットチームの左上方に、サブマリンチームのシンカイ2105スターレーシングが、その丸っこい機体を位置づけた。

 そうやって、ハートゲットチームとポリスチームのバトルの開始にサブマリンチームが準備を整えたことを確認したシエンは、リーシャの顔色を伺う。

「ポイントゲットが難しくなっちゃった…でも、もともと、あの人たちが、傍観している人たちじゃないって、わかっていたでしょ」

「まぁね……」

『しばらく、お手並み拝見と行きたかったんだが、ちょっと放っておける状況でなくなったんでね……悪いが、ポイントゲットを阻止させていただく』

 サブマリンチームのシキ・マークスファイアが、ハートゲットチームのコックピットに、直接通信で、宣戦を布告する。

「ご丁寧に宣戦布告ですか?」

『女性チームには、最低の礼儀は尽くすことにしていますので』

「できたらルーパスを相手にしてくださると、嬉しいんですけどね」

『あっちは、オータチームがなんとか抑えてくれるだろうから…今、怖いのは、君たちのチームだ』

「マークしていただき、光栄です。一応、ありがとう……と言っておきます」

『さすがに、地球ステージで取りこぼしは許されないのでね……きみたちは、バトルを楽しんでくれ…俺たちは、シビアに勝ちにいくから』

「視聴者のブーイングが楽しみです」

『そんなものを気にかけたことはないのでね…』

「素直に、ルーパスのハルナちゃんの援護射撃をしますって言ってくれればいいのに……ハルナちゃんラブのシキマさん……」

『……そんなつもりは、欠片も思ってはいない!』

「どうかな?まぁ、どっちでもいいけど……ロリコンの海兵さんにサービスするつもりは、毛ほどもありませんから、絡んできた以上は、容赦しないですよ」

 シエンは、第5ゲートを目前にしながら、そこで通信をシャットアウトすると、ハートオブディーノを、カナリアバードにプレッシャーを与えるべく降下させる。

カナリアバードが、オータコートの反発作用により、下方向へ(はじ)かれる。

カナリは、敢えてスラスター噴射をしない。

その行動は、レッドゾーンを捨て、オレンジゾーンへのエスケープコースを選択したようにも、レッドゾーン残留のため、レッドとオレンジの間のブラックゾーン間際まで移動したようにも見えた。

何も策を講じないかと思われ、シエンが、油断した瞬間……カナリアバードのメインバーニアの噴射光が、輝いた。

「しまった!!」

 シエンが、慌ててバーニアに点火する。一瞬の躊躇によって、ハートオブディーノがレッドゾーンを通過できずに、カナリアバードの先行を許してしまったと、シエンは覚悟した。

「え……?」

レッドゾーン通過の反応……クリアサインランプが点灯したことが、シエンの見つめるメインモニターで確認できた。

「え?」

 シエンが、視線を、横──そして、下へと巡らせる。

何が起こり、この結果となったのか──シエンは、モニターに映し出される現在順位と、第5ゲート通過の機体番号とチーム名を確認した。

1位通過…ルーパスチーム。グリーンゲート──100ポイント+40ポイントによりトータル140ポイント。

2位通過…ハートゲットチーム。レッドゲート──60ポイント+100ポイントによりトータル160ポイント。

3位通過…オータチーム。オレンジゲート──50ポイント+80ポイントによりトータル130ポイント。

以下…

4位…イエロー・サットン100P

5位…ブルー・ウイング60P

6位…インディゴ・ジュピター40P

7位…ヴァイオレット・サブマリン20P

8位…ソーサラー5P


『一瞬のうちに、8チームがゲートを通過…トップ集団を形成していたはずの7チームのうち、ポリスチームは、3連続でノーポイントという結果となりました』

 フルダチの興奮した声が、スピーカーから聞こえる。

『今の、レッドゾーンを巡る攻防をVTRで再現いたします』

『凄いです…さすが、レギュラーの2チームが絡むと、こんなにバトルのレベルが向上するんですね』

 ユーコの興奮した声が、VTRによる再現開始の映像に被さる。

まずは、レッドゾーン通過コースを採った3機が映し出される。

ポジションは、ハートゲットが、一番上。そして、その下にポリスチーム。

2チームをマークする形で、サブマリンチームが左翼に位置どりをしている状態で、まずは、ハートゲットチームのハートオブディーノが、ポリスチームのカナリアバードにアタックに行く瞬間をカメラは完璧に映像に収めている。

その別アングルで、サブマリンチームが、上方バーニアに点火した瞬間の映像が、カットイン映像となって、画面に映される。

『上方にサブバーニアを装備したサブマリンチーム…シンカイ2105ならではの急速潜航行動の成せる技ですね』

『ええ…一瞬で、上方サブバーニアによる急加速を駆使して、下方向へ移動しつつ、ポリスチームのエスケープコースを完璧に防いでいますからね。コース取り、機体コントロールも完璧です。

 オレンジコースへのエスケープを阻止されたポリスチームは、スラスター噴射も間に合わず、逆にサブマリンチームに接触したことで、下降速度が緩和されてしまい、オレンジゾーンに到達できない形となってしまいました』

『そして、サブマリンチームは、さらなる加速で、ヴァイオレットゾーンまでの降下を実現。ノーポイントとなることなく20ポイントをしっかりゲットしていますね』

『したたかですね…確かに、1機でポリスとハートゲットの2機を止めることは不可能と判断したサブマリンチームは、確実に、ポリスチームをノーポイントとするための罠を仕掛けていたということですからね』

『これで、いやでも、ポリスチームは、サブマリンチームを無視して作戦を立てることができなくなります』

『はい!!面白くなってきましたね』

 ユーコの嬉々とした明るい声が、心地よく響き渡る。

『ポリスチームの弱気な作戦が、サブマリンチームに隙を突かれたということになりますか?』

 フルダチが、イマノミヤに質問を投げかける。

『いえ、確実にオレンジゾーンを通過することを意識した作戦ですからね…おそらく、繰り返されるバトルで、ポリスチームの燃料消費も、相当激しいのでしょう…できれば、スラスター噴射を最小限に留めたかった』

『オレンジゾーンを通過できるのであれば、無理せず、ポイントを重ねたかったということですね』

『ところで、ルーパスチームの1位取りも見事でしたね』

『はい……ハートゲットチームのレッドゾーン通過が、余りにも鮮やかだったので、ルーパスチームの動きから眼を離してしまいましたが、こうやって見直してみると、素晴らしい機体コントロールです。機体性能もさることながら、これだけ接近した3機のマークをかいくぐって、1位通過…もう、ナビゲータのセンスの良さを認めざるを得ないでしょう……ハットリさんからは、きっと贔屓し過ぎと言われてしまいそうですが……』

『いえ、今のルーパスチームのアタックは、ピンクルージュならではだと思います。

 さすがに、3機に囲まれて、仕掛けを待っていたのでは、後手を打つことになるという判断だったのでしょうが、このレースで、初めて、ピンクルージュ自らアタックを仕掛けて行きましたから』

『次のゲート通過まで時間があれば、そのシーンも再現させたいところですが…』

『大丈夫なようですよ……もっとも、シーン映像自体は、10秒もないわけですからね』

『はい…ゲート直前、10秒間の攻防…これからも、眼が離せない状況となりますね』

『では、そのシーンの再現です』

『まず、一番上が、ウイングチーム…そして、そのウイングチームの右翼に、オータチームがいます…ウイングの真下に、ルーパスチームがいて…さらに、その下に、サットンチーム──この位置関係は、先ほどの第4ゲートと一緒ですよね』

『そうですね……そして、ここです──ルーパスが仕掛けたのは──』

『はい…大きなバーニアの噴射光が輝いた瞬間、機体が、完全に下方向を向いていますね』

『はい……49kmを越える速度に、バーニアの最大噴射で一瞬の加速を得た機体に、下方向を強引に向かせるためのスラスターを同時噴射してサットンチームのハナッ先をダイビングするように飛びこえています』

『ウイングチームが、地獄の蓋を完璧に閉ざしている以上、上には行けない…では、下しかない…という判断ですよね』

『ただ、生半可な回避フライトでは、サットンチームの加速性能で追いつかれてしまう……そこで、最後の手は、加速を躊躇わせるという作戦に出たということですよね』

『さすがに、目の前を通り過ぎる機体に突入しても、反発作用を受け、さらに、加速させてしまう事態となることは、わかりますから……加速するわけにいかないですね。

 サットンチームは、左右、そして下方に行くかどうか…絶対に混乱…というか迷うはずですよね。

さらに、イエローゾーンに、サットンチームを置き去りにすることでポイントという餌を残し、グリーンゾーンへのエスケープを図るルーパスの機体を追わせない』

『そうです。サットンは、ルーパスを敢えて追わないでしょうから…イエローゾーンにとどまる選択をさせる』

『グリーンゾーンでの1位通過を果たしたルーパスチームを追うように、ウイングがブルーゾーンまで機体を移動させています……傍観作戦のオータチームが、いち早く、オレンジゾーンに機体を移動させていましたから、ポイントを得るためには、上に行っては、取りこぼす可能性が高くなるわけです』

『しかし……宇宙用のミニクルーザーで、こんな動きが可能なんでしょうか?』

 メインモニターの再現VTRは、もう一度、サットンチームのプラチナリリィの眼の前を通過するZカスタムの姿を映し出している。

『でも、これで警戒されますから、次は、同じ方法を取れないですよ』

『だから、楽しいんじゃないですか…結果的に満点は、取れていませんが、ここまでの全てのゲートを1位通過してるんですよ……ルーパスチームは、次、何をしてくれるか、わくわくしちゃいます』

『それは、同感です』

『ハットリさんの言うとおり、序盤で、こんなに多彩なバトルシーンを見せてくれるレース展開は、今までなかったですからね』

『それもこれも、ルーパスチームが、こういった無茶な作戦を取らざるを得なかった…1400点というビハインドがあったからでしょうか?』

『それは、関係ないと思います』

『そうですね…どのチームも、相当熱くなっています…事実、ポリスチームは、バトルのやり過ぎで、燃料温存の作戦に切り替えざるを得ない状況に追い込まれてしまっているようです』


「ハルナも、けっこう無茶するじゃないか」

「イチロウとの、あの時のバトルに較べればなんてことないよ」

「あの時のバトルか……」

「今のハルナ、ちゃんとミユイさんの代わり…できてるかな?」

「もちろんだ……」

『ハルナさんは、もう、イチロウにとって欠かせないパートナーですよ…もう、あたしのことは、あまり気にしないで』

 ヘルメットのスピーカーからミユイの声が、ハルナに、きちんと届く。

『ハルナ……今のは、いいバトルだったよ…この調子で、1回目の給油まで、突っ走ってね』

「はい……お姉さま」


「サブマリン…絶対、ぶっ潰す……」

 カナリが、歯ぎしりをしながら、また、視界に現れたシンカイ2105の機体を凝視する。

「あまり熱くなるな…うちのように速いチーム……そしてルーパスのような邪魔なチームは、必ずマークされる」

「あれだけ、マークがきついのに、ルーパスは、しっかりと結果を出している……何が違うというのだ──」

「あまり、エリナさんを意識するな…」

「まさか、ハートゲットなぞに、遅れを取るとは思っていなかった」

「こういうこともある……少し、冷静になれ…なんだったら、私が、しばらく操縦を代わってやってもよい」

「部長に、迷惑をかけることはできません。自分でなんとかします」

「追いついてきた連中が…みな、このコースに集まってきている」

「だから……なんだと言うのです?」

 カナリのイライラは、ジョン・レスリーの眼からも異常なほどに強く、わかり易く感じられた。

(このまま、ノーポイントが続いたら、レースはともかく、カナリの精神が崩壊しかねない……)

「まずは、ポイントを取りに行こう……今のゲートも、1位から8位まで、ほとんど、差がないのだ……必ず、ポイントを取ることはできるはずだ」

「言われなくても……」

 ジョン・レスリーとの会話を邪魔するように、ハートゲットのコックピットから辛辣な言葉が、カナリアバードのコックピットに届けられる──

『エスケープに失敗して、ノーポイントですって…』

『勝負を逃げておいて、バトルもしないで、ノーポイントとか、おかしいんじゃないですか?

 ──婦警さん?頭、元気してます?』

 偶然とサブマリンチームの巧さにによって、まんまとレッドゾーン通過の100ポイントをゲットしたシエンは、そう言ってあざ嗤う。

『もう、レッドゾーンを狙うのやめたほうがいいよ…どうせ、勝ち目ないんだし』

『ジュピターさんとかも、こっちのコースに来ちゃったし……作戦変えたら?

 ──脳筋婦警さん…あはは』

 カナリは、聞き流そうと思うが、性格ゆえに、その聞き流すということができない。

うまくいっている時は、ほとんど現れることのないカナリの持つ負の要素の流出が止まらないことを、パートナーのジョン・レスリーが懸念する。

「返事することはないからな」

(くみ)し易しとは、まさに、このことですね……ポルシェの燃費の悪さで、この序盤のバトルに加わることからして、無謀なのですよ…自滅願望の婦警さんに、もはや、宣戦を布告することも気の毒です』

 サブマリンチームのシキ・マークスファイアの毒を含んだ通信が、カナリアバードのコックピット内に響く。

「お前らだけは、容赦しない」

 絞り出すように、カナリが、通信に応じる。

『無理ですよ……そちらは、目いっぱい……こっちは、まだ5%も本気を出さないで、この結果なんですから』

「な……こっちだって、まだ本気ではない」

『へぇ……本気を出さないと、ずっとノーポイントが続いてしまいますよ…バトルをやめたほうが得策ですよ……俺は、ちょっとハルナちゃんが気になるので、そっちに行ってきますよ……

 ところで、ハートゲットの美人さんたち──』

『いい男に、美人と言われれば、悪い気はしないですね──なんですか?』

『ポリスチーム──そちらに任せていいですか?充分、止められますよね』

『過大評価し過ぎだけど……任されました──燃料が続く限り、止めて見せます』

『「さすが、美人さんは、気の強さも一流だ』

『そちらは、燃料の温存作戦ですね──』

『バレてるか──まぁ、そういうことですよ──でも、強いチームは、誰かがとめなくちゃならないんだ。よろしく頼みますね』

『ええ──わかっていますよ』


 サブマリンチームは、宣言どおりに、ルーパスチームをマークするべく、イエローゾーンコースへ、シンカイ2105を移動させていった。

 実際のところ、先ほどのようなサブバーニアによる燃料の無駄遣いをしていたのでは、3周目の途中で、燃料が尽きてしまう計算結果が出ていたのである。



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