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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第13章 バトル
58/73

―52―

 レッドゾーン通過を狙ったバトルが、Zカスタムとハートオブディーノの2機で繰り返されている間、ポリスチームのカナリア・バードと、ウイングチームのダブルウイングスターファイターの2機も、オレンジゾーン狙いのバトルを開始する体制を整え、最接近状態にあった。

それは、視聴者が待ちに待った、レギュラーチーム同士のバトルが開始される瞬間でもあった。

『第2ゲートをノーポイントで終えた、ポリスチームですが、どうやら、ウイングチームに突っかける体制を取りつつありますね』

『トップ集団の4機が、それぞれにレッドとオレンジをターゲットに、バトルをするという展開です……ほぼ同じ位置にある4機……そして、ポツンと取り残された形となっているサットンチームは、レッドとオレンジの境目を通過するコースです……バトルに加わる可能性の低い、このサットンチームが、このまま邪魔されなければ、レッドゾーンを通過する可能性が一番高いですね』

『バトルをしている4機は、完全に、サットンチームを無視していますね』

『そうとも言い切れませんよ……サットンチームが、微妙な増速をしている事に、全ての機体が反応しています。位置どり……ゾーン位置は、3つのエリアに分かれてはいますが、第3ゲートへの距離は、5機とも、全て同一のようです』

『そして……今、ポリスチームが、ウイングチームに仕掛けました!!』

 カナリア・バードの黄色い機体が、パールホワイトのダブルウィングに横方向からのプレッシャーを与える光景が映し出される。


「もう……覚醒間際の婦警さんたら……相手が違うって知らないのかなぁ?」

 サエが、面倒くさそうにぼやく。

「知らないんでしょうね……当面の敵はサットン女子チームなんだよって…はっきり、教えてあげようか」

「でも、突っかかってきたら、相手してあげないと失礼だよね…金星の時のサエちゃんと一緒だと思っていたら、痛い眼見るんだって、とっくりじっくり教えてやる必要があるし」

 横方向のプレッシャーを受け流すように、ダブルウイングの機体は、オレンジゾーン中央からレッドゾーンに近い位置へ速度を維持したまま、旋回フライトで移動する。可変機構を持つ特徴的なウイングパーツの先端から、スラスター噴射をしながら、目標位置への移動を果たす。

仕掛けた側のポリスチーム…カナリアバードは、引き寄せられるように逃げていくダブルウイングと密着したまま、同じような動きと移動距離でポジションをレッドゾーンに近い位置に移動させていく。

そこには、レッドとオレンジの境界で機体を維持させていたプラチナリリィが存在していた。

サエが操るダブルウイングは、その境界まで来たところで、機体を反転させ、追いかけてきたカナリアバードのプレッシャーから解放される。

さらに、カナリアバードの下方向へ潜り込んだダブルウイングが、カナリアバードをプラチナリリィへ押しつけるためのスラスター噴射を盛大に放つ。

この上下方向からのオータコートの反発作用の影響により、完全にカナリアバードは、自身でのマシンコントロールができなくなる。

バーニアで加速をしようとしても、上下2機の機体に挟まれた状況ではバーニアの噴射推進よりも、オータコートによる反発作用のほうが大きく、前に出ることはできなくなっている。

オータコートの呪縛が、バーニアやスラスター噴射で突き破れるようでは、接触回避のために反発作用を強化されたオータコートの意味はない。

上下から挟まれる形となった機体が、その上下の呪縛から逃れるためには、横方向に機体を移動させるしかない。

カナリアバードは、苦し紛れの横方向のスラスター噴射で、この局面を逃れようとする。

つまり、レッドゾーンとオレンジゾーンのはざまで、機体コントロールを失ってさまよう状況が一瞬産まれたわけである。

下方向からプレッシャーを与えたウイングチームの機体は、その一瞬で派手な上方噴射によるイエローゾーンまでの移動を敢行する。

 蓋の役目を果たしたプラチナリリィは、オレンジゾーンへの進入コースを取る。

残る、トップ集団の2機……4分間という長時間に渡る派手なタイマンバトルを繰り広げたZカスタムとハートオブディーノの決着は、Zカスタムが、ほんの少しの前方位置を維持したまま、レッドゾーンに飛びこむ結果となり、第3ゲートも、ルーパスチームが制した。

最後まで、レッドゾーン通過を諦めなかった、ハートゲットチームは、そのまま、コースを変更することなくノーポイントとなり、すんなりとオレンジゾーンでのプラチナリリィとの接触を回避してイエローゾーンに達することができたウイングチームが、2位。

コンマ数秒の遅れで、サットンチームが、3位でオレンジゾーンを通過。

第2ゲートと同じく、ポリスチームのカナリア・バードは、進行方向を決める事ができずに、サットンチームの後で、オレンジゾーンを、そのまま通過……当然のノーポイントとなってしまった。

「今のあたしに、喧嘩を売ったら、こういう結末になるの……まだ、あの婦警さん……諦めないつもりかな?あたしは、そのほうが楽しいけど…」

 サエが、モニターに映るカナリアバードを指でつついて、悪魔的な微笑を見せる。

『ポリスチームが、2回のバトルで、2回とも黒星という結果となりました……順調にトップ通過を繰り返す…ルーパスチームは、このゲートセッションだけで言えば、600点を既にゲットしています』

『そうですね……2位以下が潰し合ってくれるとルーパスは、比較的楽に、ポイント差を詰めることができるでしょうね』


「ちょっと、さっきから、あたしたちにちょっかい出してる、脳筋の婦警さん……いい加減に、状況を把握できないかな?」

「何?……お前たち……ウイングの餓鬼どもか?」

「もっと、ちゃんとした話し方、そちらの部長さんに教わっていないの?」

 業を煮やしたサエが、ポリスチームのカナリアバードに直接の通話で、苦情を言う。

「とりあえず、言葉づかいは、置いとくけどさ……覚醒もしてない婦警さんが、あたしたちに勝つのなんか無理だって……わかんないの?」

「なに?」

「水星の時も、金星の時も、あたしたちが手加減していたんだって……そんなこともわかってなかったんでしょ」

「今、ルーパスを止める可能性があるのは、あたしたちと、サットンの2チームしかないんだって……わかんないの?

 はっきり言って、今、婦警さんに絡まれると、すっごい邪魔なんだよね」

「言ってる意味が……」

「部長さんなら、わかってくれるよね……ルーパスの高速バトルのポテンシャル……って言うのかな……」

「まだ、彼らとのバトルをやっていない以上、正確には判断できないが……ルーパスのバトル性能は、もしかして、君たちの上を行くのか?」

「もしかしなくても……あたしたちが、ルーパスに勝てる可能性は、良くって3回に1回……サットンチームと連携すれば、2回に1回にできると思う……このまま、1位をずっと取られるよりは、マシでしょ」

「わたしたちは、わたしたちの作戦通りにレースをする……敵の指示に従う法は、どこにもない……」

「ほんっと……わからず屋の婦警さんだなぁ」

「他に用がなければ、この通信を切る」

「待ってよ……ほんっと、救いようがないバカってあなたのことね」

 サエが、努めて冷やかな口調で、カナリに辛辣な言葉を浴びせる。

「な…バカだと?」

「ずっと、今のノーポイントを続けたいなら……バカを繰り返せばいい」


『どうやら、ハートゲットチームは、ルーパスチームとの直接バトルを回避する作戦に変えたようですね』

 イエローゾーンコースに機体を移動させたハートオブディーノの様子を確認したフルダチが、実況で伝える。

『あの……未確認情報なんですが……』

 そのフルダチの実況に割り込む形で、ピットレポーターのスナオ・ハヤカワの声がスピーカーから流れる。

『なんですか?……未確認なら、確認してからレポートしてください』

『あの……さっきのルーパスチームのレポートした時、わたし、コントロールルームの燃料計をちらっと見る事ができて……燃料の残量表示が、95%でした……いえ、だったように見えました』

『本当ですか?』

『未確認なので……その後、隠されて、見えなくなっちゃったから……』

『それが事実だとしたら』

『このまま、ワンストップ作戦で、独走されたら……追いつけるチームがあるんですか?』

「婦警さん……聞こえた?」

「何のことだ?」

「ルーパスチームは、婦警さんと一緒のワンストップ作戦……ってこと……そっちの燃料残量……どうせ、80%残ってないんでしょ」

「……」

「言い返せないってことは図星ね」

「……」

「あたしたちは、昨日、ルーパスのZカスタムをいじってるの……その時に、今日、ワンストップ作戦が可能であることを調査済みなの……

 だから、おバカな、婦警さんにだけ、特別に教えてあげるね……

 クイズセッションで、あのチームにハズレを引かせたのは、あたしたちがやったこと……それくらいのハンディがなかったら、このレース……なんの盛り上がりもなく、あのチームの優勝で決定していたはずなんだ……わかったかな?」

「それは、事実か?」

「なぁに?抗議でもする?しても、いいよ……どうせ、あたしは、このレースが終わったら、今の会社クビだもん……上司からの命令違反……そして、同僚を恐喝……機体の私物化……クビの理由なんか、今なら掃いて捨てるほどあるんだから」

「何を言ってるか……」

「だからさ……あたしに、シティウルフのお兄ちゃんとのバトルをさせてよ……何が何でも、4周目まで……ルーパスの連続1位だけはストップさせるから……その後は、たぶん、止められなくなっちゃうと思う……このダブルウイングの性能が100%発揮できるのは、1回目の給油まで……

 その後は、ずっと水をあけられちゃうからさ……ついて行けなくなっちゃう」

「……」

「もう時間ないから……おしゃべりは、これでおしまい……婦警さんに、猿並みの知能があるなら……あたしの言うことを聞いてくれると嬉しいよ」

 サエは、カナリア・バードとの通信回線を、自分で切って、ダブルウイングを、コントロールして、Zカスタムに近づけさせるコースに軌道修正した。

サットンチームが、その動きを察知して、ウイングチームの軌道を綺麗にトレースして付いて行く。

「お兄ちゃん……、いよいよ本命登場だよ」

「やっと来てくれたか……サエちゃん…」

「うん……昨日、お兄ちゃんに会った時から、ずっと、この時を楽しみにしてたんだ……手加減だけはしないでよね」

「サエちゃんと違って、俺に手加減する余裕は、全然ないから」

「正々堂々……2対1のバトルだよ……よろしくね」

「望むところだよ……チアキさん……も、当然、手加減してくれないよな」

「まぁね……あんたと一緒だ、手加減する余裕は、全くない……行くよ!!」

 第4ゲートのレッドゾーンを通過するためのバトルが、チアキの掛け声により、開始された。

サエが、ダブルウイングの機体をZカスタムの上方で固定させる。

ダブルウイングの両翼は、完全オープン状態になった場合、15mの長さとなり、Zカスタムのような小さな機体をすっぽりと覆いつくすことができる。

「これが、ダブルウイングスターファイターが、『堕天使の翼』と言われる理由だよ……この翼で覆われたら、二度と天国に昇ることはできない……地獄から脱出させないための翼……言いかえれば、地獄の蓋……かな?」

「そして、加速性能は、あたしたちのプラチナリリィに勝る機体は、この決勝進出した16機の中には1台もないことは、当然、知ってるよね……なんといっても、エリナちゃんが、超高速セッティングにしたまま、この決勝に臨んでいるんだ……前には、絶対逃げさせないよ……少なくとも、このプラチナリリィの燃料が、カラになるまではね」


『なんというフォーメーションでしょうか……Zカスタムの上方レッドゾーンへのエスケープを妨げる形で、ダブルウイングが、その可変翼を最大サイズまで広げています』

『当然の作戦でしょう……今のハヤカワさんのレポートが事実だとすれば、ルーパスチームは、充分な余力を残していることになります』

『つまり、結託してでも、1機を潰すしかないと……そういう判断ですね』

『そうです……東1局で役満を上がった者が、徹底的にマークされ、逃げ切りを許されなくされる状況と言えば、麻雀好きの方には、伝わり易いでしょうか』

『いえ……その例えは、麻雀好きの人にも伝わりにくいと思いますよ』

『サッカーでは、エースプレイヤーは、徹底的なマークに合うのです……その徹底マークをかいくぐって、それでも、得点を挙げることの困難さ……2対1で、ルーパスチームを止められなかったら……3対1のフォーメーションで阻止するしかないですよね……しかも、抜群に息のあった2チーム、3チームによる阻止…生半可な結託では、むしろ、一流プレイヤーからすれば、隙を見つけやすくなるだけ……得点の好機となってしまいます』

『さすが、ハットリさん……イマノミヤさんより、千倍もわかり易い解説です』

『そのルーパス包囲網ですが……徐々に、レッドゾーンコースからオレンジゾーンコースに、3機のマシンが移動を始めています』

『これも、当然です……せっかく、上方への脱出ができないフォーメーションを取っているのですから、出来る限り少ない点数のゾーンを通過させることを考えないといけません……できれば、ダークゾーンへ誘導して、マイナスポイントを取らせることが最良ですね』

『ウイングチーム……ハットリさんは、卑怯とは思いませんか?』

『いいえ……強いプレイヤーを無力化するのは、むしろ勝つための常識……少なくともあの2チームは、ポイントハンディの大きい、ルーパスチームを強いチームであると認めたわけですよね』

『そうなりますね』

『午前のセッションの時は、はっきり言います……ウイングチームにむかつきました』

『ちょ…ハットリさん、言葉を選んでください』

『殺してやろうかとさえ思いました』

『あの……ハットリさん、そんな言葉を……公共の電波ですから』

『ハルナとイチロウが、この2チームをいかにかわして、高ポイントをゲットすることができるか……わくわくします』

 ユーコは、テレビカメラに向かって、完璧なカメラ目線で、最高の笑顔とともに、そう宣言した。


 ダブルウイングのプレッシャーは、Zカスタムに重くのしかかり、ついに、Zカスタムのフライトコースは、イエローゾーンにまで、落ちてきていた。

「やってくれるよね……どうせ、ポイント取らせる気がないんなら、レッドでも、イエローでも一緒なのに……徹底してる……万一、地獄の蓋をかい潜れても、天国までは、絶対に行かせないってことか」

「ハルナ……嬉しそうじゃないか」

「ユーコと一緒だよ……わくわくが止まらない…いいかな?こっちから体当たりして、地獄の蓋をぶち破る……しかないでしょ」

「確かにそうだ……」

 イチロウは、下方スラスターを全開で噴射させる……右にも左にも逃げる事のない、まさにまっこう勝負である。

このZカスタムの動きに対して、ダブルウイングは、Zカスタムを押さえつけるために、下方向に向けていた可変翼を、上方に向け、スラスターを噴射し、対抗する。同レベルのスラスター噴射により、プラチナリリィを含めた3機は、前方へは進むものの、燃料のみを消費しながら、上へも、下へも動けない状況を作り出している。

 こう着状態のまま、3機は、第4ゲートに接近を果たす。燃料に不安を持つダブルウイングとプラチナリリィは、出力の大きい後方バーニアを本来は、加速時にしか使用しない。

それに対し、燃料に余裕のあるZカスタムである。

ゲート直前で、バーニアを全開噴射し、本来スピードで勝るはずのプラチナリリィの前を取る。

その勢いのまま、ウイングチームをかわそうとするが、巨大な翼に妨げられ、イエローゾーンを通過することが精一杯という状況となった。

一瞬で前に行かれたことから、ダブルウイングは上方へ離脱……見事に、レッドゾーンまで到達し、2位通過ながらも、レッドゾーンポイントをゲットする。

そして、プラチナリリィもまた、グリーンゾーンの通過を成し遂げ、3位のポジションで、グリーンゾーンのポイントを得る。


「イチロウくん……凄すぎるよ」

 ルーパスチームのパドックでは、ミナトが目を潤ませて、モニター画面を見つめている。『それでも……それでもです……ルーパスチームは1位通過をやめません……これこそ、まさに執念の1位ゲットと言えます』

「チアキさん……最高のパフォーマンスです……第5ゲートこそは、ルーパスをノーポイントにすることができます」

 サエが、直接通話で、サットンチームのチアキに激励の言葉を贈る。

「ごめんな……ちょっと油断した」

「いえ……今のままで次こそは、ルーパス封じを成功させることができますよ」

「サエ……あたしも、参加したいよ」

 操縦をサエに奪われた形となっているウミが、おずおずとサエに申し入れる。

「ウミ……」

「一人で操縦して、左右に気を配るのはきついでしょ……あたしが、メインパイロットなんだから、操縦は、あたしがやる」

「やってくれるの?嘘じゃないよね」

「イチロウさんのことは、あたしだって嫌いじゃないよ……昨日だって、頭とか、いっぱい撫でてくれて気持ちよかったし」

「ウミが、その気になってくれれば、もう千人力……イチロウさん……覚悟してよね」

 あっさりと、ウミの手にする操縦桿が解放される。

「サエ……」

「イチロウさんに、あたしたちだってカッコいいんだってことを知ってもらって、そして、エリナさんに勝ってみせるよ」

「そうだね……」

 一旦、上下に分かれたウイングチームとサットンチームは、ゲート通過直後、しっかりと、先ほどと同じ自称『地獄の蓋』フォーメーションに戻す。

「チアキさん……作戦が巧くいかなかったとき、そっちのポイントのほうが少なくなってしまって申し訳ないです」

「気にしない……成功すれば、うちが必然的に1位通過なんだからさ」

「そうそう……成功すればさ……うちが1位でイエロー、そっちが2位でレッドまたはオレンジ……ルーパスがノーポイントでしょ……お釣りがくるよ」


『作戦は変わらないようです……ウイングが上……中央にルーパス、そして下にサットン……この3機のバトルが、残り4つのゲートでも繰り返される気配が濃厚です』

『いえ……一旦は引いたと思われたポリスチームが加速しています』

『バトルがなければ、あのポジションで、レッドゾーンを通過するのは容易ですからね』

『同様に、ハートゲットチームもオレンジゾーンコースに機体を位置づけました』

『レッドに、ポリス…オレンジにハートゲット……イエローに、ウイング、ルーパス、サットンの3機……さらに、先ほどのハヤカワさんのピットレポートで、ルーパスがワンストップ作戦で来ることを確信したと思われる他のチームも続々と、このトップグループに絡んできます』

『イエローゾーンコースで、最強の3機がバトルをしているわけですから、このチャンスを逃す必要はないという判断ですね』


 ハートゲットチームのコックピットでは、シエンとリーシャの二人が、残り周回と現在のポイントの確認をしていた。

「この周回だけでいうと、ルーパスが、750点……うちとの差……一気に縮まっちゃったなぁ」

 シエンが、スコアシートを画面に表示して、一つずつ手で押さえる。

「だね……でも、うちだってノーポイントさえなければ、この1周目だけならけっこう、目立ってるはずだし…それに、まだ、ルーパスよりうちのほうがポイントは上なんだからさ」

 リーシャが、満更でもなさそうに、ルーパスより上であることを強調する。

「270点差ね……」

 シエンは、そこまで楽観視していないので、クールにルーパスとの点差を、ポツンと呟く。

「今は、ほら、ルーパスのマークがきついから、この差は、そうそう縮まらないんじゃないかな?」

「どうかなぁ?」

 シエンは、画面に映るルーパスチームのメインパイロット……イチロウ・タカシマの名前を、人差し指で、パチンとはじいてみる。

「そして、あのちびっこ2人組……510点……クイズの時5000点満点だもんね…合計5510点……うちとの差……890点

 シエン……コメントは?」

「なんかさ……ムキになってて、余裕がないって感じしない?今は、ルーパスの抑えにイエローゾーンにいるわけだから、あたしたちの場合、やっぱ、レッド狙いにするべきかな?ずっとレッドをキープしていければ……優勝できるかな?」

「そのウイングチームとタッグを組んでるのが、おばさんチームのサットンサービス……460点追加で、今、5160点……うちとの点差が、540点ね」

「このチームのスプリントも凄かったよね」

「という状況なんだけどさ……シエンは、どのチームとバトルしたいの?」

「ポリスかな?だって、弱そうじゃない?2回も負けてるし……」

 シエンは、リーシャの問いに、くすくす笑いで応える。

「あの婦警さんチームかぁ……苦手なんだよね、シルフってさ……いつか、うちのチームも標的にされちゃうんじゃない?女専門の警察チームなんでしょ」

「その婦警さんチームが……120点…合計で、4720点…うちとの差100点……やっぱ、狙い目は、ここしかないと思うんだよね……確実に勝ちを狙うなら」

 一旦は、オレンジゾーンコースに機体を位置づけたハートゲットチームであったが、そう結論づけると、レッドゾーンのポリスチームの下方に、その機体……ハートオブディーノを移動させていった。

「シエンは、バトルできれば満足なんでしょ……思う存分、絡んであげていいからね」

「リーシャは誤解してるよ……あたしはね…バトルして勝つと満足なの……バトルで負けるのなんか論外……絶対、イヤなんだから」

「はいはい……で、今のうちの順位は7位ですが……」

「え?7位……ウイング…サットン…が1位、2位だよね」

「この周回では絡んで来てないけど、その後はソーサラー…サブマリン…オータの順番…ポリスが6番で7位が、うちね」

「点数が近づいてきてるってことか……でも、7位なら、けっこう上出来じゃない?」

 メイン・パイロットのシエン・スペードソードは、そのピンクに近い紫の瞳を鷹の目のように輝かせ、ルーパスチームのナビゲータ…ハルナ・カドクラの映像を、目の前に表示させる。

「リーシャは、このピンクガールと、あたし、どっちが美人だと思う?」

「まだ、子供じゃない……シエンのほうが、ずっと美人だよ」

「だよね……そりゃそうだよね……でも、ブログの人気ランキングは、この子のほうが、いつも上なんだよねぇ」

「そんなこと気にしてたの?シエンも、まだまだ、子供ってことか」

「でも、ちょっと、今、ルーパスに手を出すのは、得策じゃないから……せいぜい、お子様とおばさまとバトルを楽しんでなさいね……ピンクガール・ハルナちゃん……今日のうちには、弱点を暴いてあげるから……」

 シエンは、そう言うと、ハルナの画像の瞳に、犯罪者の目を覆う黒い目線を書きいれた。

そして、ポリスチームに絡むべく、その機体……ハートオブディーノのピンク色の機体を、カナリア・バードに近づけ、第5ゲートのかなり手前で、体当たりを仕掛けていった。

「婦警さん……あたしたちも退屈してるんだよ……そっちも暇でしょ……バトルに付きあってくれるよね」

「……」

「もっとも、そっちの都合は聞いてないから……ふふ……行きますよ」

 そして、第5ゲートのレッドゾーン手前で、ピンクの機体と黄色い機体が、激しく絡み合うこととなった。


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