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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第12章 堕天使の翼
53/73

―47―

『クイズセッションも、残り2周を残すのみとなりました……現時点でのトップは、ウイング・チームとルーパスチームの3000ポイント……

 そして、4つのハズレを獲得したオータチームが、2600ポイントです……

さすがに、3周目に入って、難問が続出してきていますので、問題の解答が全て正解となっているのは、この3チームだけです。

 3周目で1問不正解であったポリスチームが、総合点で、2900点……

 2800点は、3チームで、ソーサラーチーム、サットンサービスチーム、ライアンチームです。

続いて、2700点が、ポリス、ボール、ハートゲット、ヨシムラの4チーム。

オータ、カカシの2チームが、2600点、ブシテレビ、ゴリラダンクの2チームが、2500点、ジュピターアイランドが、2400点で15位、ラストが、寶船鉄工所の2200点という結果となりました』

『へぇ、ゴリラダンクチームも、ハートゲットチームも満点の1000点を取ってるんですね』

『予選組の2チームですね……問題に恵まれたのでしょうか?』

『そうでもないようですね……かなりの難問をクリアしています。ハズレも回避できていますし、大きなスコア崩れを起こしているチームは、ないようですね』

『3問不正解だったのが、唯一カカシチームですね。700点だった、もう1チームのジュピターアイランドは、ハズレが1回なので、不正解は2問……この問題も凶悪そのものですね』

『【クマドリ研究所グループ】が開発している【良い子のための三角おにぎり】正しい形はどれ?……って、この映像問題……4択なのに、形全部一緒ですよね』

『はい……全部一緒に見えます』

『正解は、海苔の内側に、1ミリの窪みがついてる3番……海苔の内側とか、まったくわからないですよ……この映像』

『わからないです……まさに、カン勝負……時の運を味方にすれば正解できますが……』

『そうこう言っているうちに、トップを快走するオータチームは、4周目に突入……既に、問題をゲットしています。とりあえず、ハズレではないようです。続く、ウイングチームも、ここまでハズレなし……全問正解を続けていますが、この周回は、どうなんでしょう?またもや、ハズレを回避できるのでしょうか?』

『クイズセッションは、コックピットの車載カメラの映像を使うことはできないんですよね』

 ユーコが、ふと、そんな質問をイマノミヤにしてみる。

『そうですね……映像が、他のチームのヒントになってしまうこともありますから、放送はしないようになっています』

『ということは、音声も拾えないんですよね』

『そういうことになります』

『でも、問題は、全部違うんでしょ……別に見られても、聞かれても支障ないですよね』

『そういう考えもありますが、このセッションは、一応、通信規制で、各チームのコックピットとパドックのコントロールルーム以外はシャットアウトされています』

『通信は、双方向になりますから、コックピット映像・音声を拾い上げるだけでなく、外部からの情報を届けてしまうことを避ける必要があるわけです』

『わたしが、答えを教えちゃう可能性をなしにするということですか?』

『分かり易く言えば、そういうことになりますね』

『それなら、仕方ないか……じゃ、ロング映像でいいですから、あのサットンサービスチームのコックピットを、アップで狙ってもらっていいですか?』

『何か、気になることでも?』

『見てて、わかりませんか?』

『ウィングチームの後ろに張り付いていますよ』

『ああ……そういうことですか……』

『ソーサラーチームは、後方に下がりましたが、この周回から、サットンチームは、ウイングチームに追随するポジションを取っています』

『何かを暴こうとしてますか?』

『その可能性があるので、ちょっと見てみたいんですよね』

『サットンチームなら、コックピットの映像許可もらってますから、放送には流せないですが、映像も音声も拾えますよ』

『ほんとに?……でも、それ、ここで言っちゃっていいの?』


「ちょっと、あの女子チーム……あたしたちを狙っているんだって」

 ウィングチームのコックピット内では、ウミが、サエに、今、放送実況で流されたユーコの言葉を、ややぶっきら棒に伝えていた。

「でも、結果的に、何もできないはずだからさ……問題ないよね」

「既に、プログラムは走らせちゃったわけだし……後は、見守るだけ」

「うん……楽しみ」


『第4周の1問目を最後にゲットしたルーパスチーム……ついに、ハズレを引いてしまったようですね』

『嘘……』

 フルダチの実況に、ユーコが反応する。

『ありえないよ……ハルナが、ハズレなんて……』


「ハルナ……」

 【ハズレ】と画面に映し出された文字を見たハルナは、完全に固まってしまっていた。

「全問、ハズレ回避とか、そっちのほうが、珍しいことだから……100ポイントくらいなら、充分、ゲートセッションで取り返せる……取り返してやるからさ」

「イチロウは、やらしいね……」

「はぁ?」

「あ、ごめん。言い直す……イチロウは、優しいね」

「全然、意味違うんだけど」

「言い間違いなんだから、気にしないでいいよ」

「そうか……」

「ちょっとスピード上げる……もともと、こんな位置にいること自体が、ハルナにはふさわしくなかったんだから……今から、一番前に行く……いいよね」

「わかった……」

 ほぼ慣性フライトで、燃料消費を抑えてきたZカスタムだが、ハルナの指示に従い、イチロウは、フットバーを強めに蹴る。メインバーニアに点火されたZカスタムは、直前をフライトするソーサラーチームの機体を追い越し、さらに、その前の3機も、まとめて追い越して行く。

「ウミちゃんもサエちゃんも、ハルナは嫌いじゃないよ……でも、こんなことをされて黙っていられないよ」

 加速したことで、第1ゲートを、あっさりと通りぬけたZカスタムは、第2ゲート通過の前の問題をいち早くゲットした。

 しかし、モニターに映し出された問題内容は、【ハズレ】であった。

4機を追い越したことで、ルーパスチームのポジションは、12番手となり、さらに加速していく。

 ハルナは、無言で、下唇を噛む。


『大変なことが起こりました……ルーパスチームが得た問題は、2問続けてハズレです。ここまで順調に得点を重ねてきたルーパスチーム……まさかの、200点を失う結果となりました』

『ピンクルージュ……ハルナの顔を見てみたい……』

 ユーコも、震えるような声で、静かにコメントする。


「こういうことか……こういうことなら、そっちの問題……奪ってあげる」

 誰に言うともなくハルナは、絞り出すように呟いて、もう一度、強く下唇に歯を当てる。

いつも優雅に整った、ピンクのルージュに彩られた唇が、奇妙な形に歪んでいることが、イチロウの、と胸を突く。

「ウイングチームの前まで行ってほしい……お願いイチロウ……こんなことされて黙っていられるほど、賞金稼ぎのトリプルルージュ・ハルナのプライドは、低くないよ」

「1周8コしかないハズレが2つ連続は、さすがに、俺も納得いかない……わかったよ」

 イチロウは、フットバーをさらに強く蹴りつける。

 バランスタイプに調整されているとはいえ、加速性能を大きく削減したわけではないZカスタムである。当然ながら、最高速に達する加速性能は、他の機体を上回る。

一気に、前を飛ぶほとんどの機体を追い抜いたZカスタムは、その勢いのまま、ウイングチームの前に、ジャンプアップを果たす。


『いいアイディアだけど……そんなことをしても無駄だよ』

 イチロウのヘルメットに、悲しい口調のサエの言葉が届く。

ウイングチームが取る筈であった問題を、ジャストのタイミングで、ルーパスチームが横取りする形となる……が、表示された問題文には、3つめの【ハズレ】の文字が表示されている。

『もう、逃げられないんだから……悪あがきすると、せっかくのZカスタム……御釈迦になっちゃうよ……ピンクルージュに、お兄ちゃんから、ちゃんと言ってあげないとだめだよ』


『ハズレです……なんと、4周目に入って、ルーパスチームが得た問題の全てがハズレとなっています』

 第3ゲートに設置されたカメラが、ルーパスチームのZカスタムのコックピットを大映しに捉える。

唇を噛みしめ、大きな瞳を見開いたハルナの表情が、はっきりと見て取れる。

ミユイが考案し、兄であるライト・リューガサキが製造したスケルトンタイプのヘルメットは、まったくの無防備でさらされる、ハルナの痛々しい表情を、隠すことはできなかった。

『ハルナは、誰よりも負けず嫌いだからね……自分の努力で、どうにもできないことを、特に嫌うんだ』

 ユーコも、そう言った後、ハルナと同じように、唇を一瞬だけ噛みしめる。

『イマノミヤさん……こんなことが、もし、作為的に行われてるなら、明らかな不正ですよね』

『確かに、違和感はあります。でも、今のタイミングで、もしも、あの問題をウイングチームが取っていたとしたら、ハズレを引いたのは、ウイングチームですよ……どうやって、問題をすり替えたのか、それが証明できなければ、不正と断定することはできないじゃないですか』

 普段、あまり激昂することのないイマノミヤの大きな憤りを含んだ言葉が、放送席のマイクを通して、響いてくる。


「ひどいよ……エリナだって、イチロウだって、ハルナだって、あんなに、あんなに頑張っているのに……ハズレが、3つ連続なんて……おかしいよね……あたし、抗議してくる……確かに、ウミちゃんもサエちゃんも、凄いプログラマーだけど……こんな……こんなことが許されていいわけないよ」

 成り行きを見守っていたミリーが、激しく(こうべ)を振り、パドックから飛び出そうとする。

そのミリーの体を受け止めたのは、カドクラの現社長……シンイチだった。

「野暮用が多くて、応援に来るのが今になってしまった……ミリーちゃんだったね。とりあえず、今は、落ち着くことだ」

「ハルナの……お父さん?」

「本当に抗議するなら、君ではなく、私が抗議する……これでも、このチームのメインメカニックの婚約者だ……関係者として通ると思うのだが、まずは、そのエリナ…さんに話を聞きたい」

「エリナは、まだ、寝てます」

「そうか……私が起こしてこよう」

「でも……」

「非常事態なんだろう?今、やらなければならないのは、パイロットの二人を元気付けてやることだ……そのためには、コントロールルームからメッセージを送るしかない」

「でも、このセッションの間、コントロールルームには入れないですよ」

「あいつらが、反則をしてるのは、火を見るより明らかだ……ほんの数秒あれば、エリナ…さんを起こすことは可能だ……起こしてくるよ」

 ミリーを置き去りにして、シンイチは、パドックの中に乗り込んでいく。

この事態に、パドックの外で睨みを利かせていたアカギとシラネ、そして、ソランも、今は、中に入って、状況を伝えるモニター画面を注視している。

「社長……今、とんでもないことが起こっています」

 シラネが、シンイチに告げる。

「わかっている……エリナ…さんを起こしてくる」

 コントロールルームは、隔離されているとはいえ、遠い場所にあるわけではない……シンイチは、そのまま、コントロールルームの扉の開閉スイッチのボタンを強く押す。

あっさりと開いた扉の中に、当然ながら、躊躇することなく、シンイチは、飛びこんでいく。

 初め、シンイチは、エリナの肩をちょっと強めに叩いてみる。しかし、起きる気配がないことを瞬間的に察知したシンイチは、自らの口で、エリナの口を塞ぎ、静かな寝息を立てているエリナの呼吸を遮断した。

「ん……」

 息苦しさに、エリナが、僅かに眼を半眼に開く。

「シンイチさん?」

 潔く、エリナの口から自分の口を引き離したシンイチが、笑顔を作って、エリナの顔を、まっすぐに覗きこむ。

「きみの大切な二人が大変なんだ……助けてあげてほしい」

「はい?」

 虚ろな目で、コントロールルームのモニターに眼を遣ったエリナは、そこで、大粒の涙を大きなピンクの瞳に貯めているハルナの顔を見た。

「ハルナ……」

 まだ、事情を飲み込めていないエリナだったが、シンイチに向かって、大きくうなずく。

「シンイチさんは、早く、この部屋から出てください……なんとかします」

「頼むよ……ハルナを励ましてやれるのは、今は、君とイチロウくんだけなんだ」

 エリナを、その深い眠りから解放することに成功したシンイチは、コントロールルームから、退出する。

「ハルナ……ちょっと、今の状況教えてくれる?ダメなら、イチロウでもいいから」

 エリナからの突然の呼び掛けに、ハルナは、そこまで抑えてきた感情を、一気に爆発させたように、涙を溢れさせる。

『エリナ……やられた。ウイングチームの罠に、まんまと嵌っちまったよ……すまない』

「いいから、状況を説明して」

『3周目までは、順調だった……この4周目で、3連続ハズレくじを引かされた……それが、今の状況だ』

 エリナが、コントロールルームに記録された、通信ログと、Zカスタムに搭載されたフライトレコーダーの記録を瞬時に読み取る。

「事情は、なんとなくわかったわ」

『どうすればいい?』

 イチロウが、素直にエリナに指示を求める。

「とにかく、ポジションは、今の位置をキープして……残りのハズレは、5つ……他のチームは、ハズレを引いてないんだよね」

『どうやら、そうらしい』

「ハルナ?大丈夫?」

 ハルナは、溢れる涙で言葉が詰まって声を出すことができない様子だったが、エリナの言葉には、しっかりと反応して、頭を2回、大きく頷かせて、返事の代わりにした。

『ご…め…なさい』

「無理に、しゃべらなくていいから。でも、あたしだけでは、どうにもならない……専門家の意見を聞いてくるから、とにかく、イチロウは、コースアウトだけはしないように、ハズレでもなんでも、しっかり問題はゲットして、ちゃんと飛んでいてくれればいいからね」

『わかった……』

「あたしは、ちょっと席をはずすから……イチロウに、ハルナは任せる…使い者になるようにしておいてね」

『ハルナが悪いわけじゃない……ウイングの連中が……』

「そんなのわかってるよ……とにかく、イチロウ…今は、そこにテレポートする訳にいかないんだから、イチロウに頼むしかないの……」

『ああ……悪いな……起こしちゃって』

「こういう事態になったら、ちゃんと、イチロウが、あたしを起こしてくれなきゃダメなんだよ」

『起こして……よかったのか?』

「当たり前じゃない!!イチロウは、優勝したくないの?」

『そうか……悪かった……』

「行ってくるね……大丈夫だよ、なんとかするからさ」

 エリナは、そうイチロウに伝えると、コントロールルームから出た。

コントロールルームを囲むように、ルーパスクルーの他、すべてのパドックにいる者たちが集まってきていた。

「ミリー……ミユイと連絡取れる?」

 エリナは、ミリーの顔を見つけると、訊ねた。

「うん……もちろん」

「奥の部屋?」

「そうだよ」

 短く確認だけを済ませると、エリナは、奥の部屋に入っていく。先ほどから、ログイン状態となっているGD21の世界が映されたモニターに、心配そうにしている、今は画面の中だけに存在している、仲間の姿を見つけて、エリナは、ほっと胸をなでおろす。

「ミユイ……レースの状況は、わかってるよね」

「そうだね……ウイングの人たちが、あそこまで露骨に邪魔してくることは、ごめん……考えてなかった」

 エリナは、横目で、メインモニターを見る。ちょうど、ルーパスチームが、4つめのハズレを引いた瞬間を、エリナとミユイは、別々の場所で目撃した形となる。

「あの攻撃……阻止できないかな?」

「今、いろいろ、試してはみてるんだけど……はっきりわかるのは、スコールイーマックスという会社が、中央政府以上の突出したセキュリティにロックされて、何一つ漏えい、侵入できない鉄壁のブロックシステムを構築してるってことだけ……」

「そうか……そうだよね」

「わたしが、イチロウとハルナちゃんにあげたヘルメットのシンクロ機能も、完全にブロックされちゃって……今は、乗っ取られた格好になってる…ね、お兄ちゃん」

 同じGD21の画面にログインしている、ミユイの兄…ライトに、ミユイが同意を求める。

「悔しいが、事実だ」

 ライトが即答する。

「今すぐ失格処分を申し入れるしかない?」

「不正を証明できない以上……時間稼ぎにもならないと思うよ」

「今、ヘルメットのシンクロ機能だけは、回復させようとしている……スコールイーマックス本社から、ブシテレビの出題問題を操作しているのは確かだから、ヘルメットをブロックしてる仕組みがわかれば、同じようにブロックされたブシテレビの出題コントロールのサーバに逆に侵入することも可能だとおもう……問題は、あと1周半しか時間がないってことだよ」

「時間が必要なのね」

「少なくともブロックシステムを打破するシステムをぶつけてやらないと話にならない……そのためには、解析……そして、アタックシステムの構築を限られた時間でやらないといけない」

「わかった……他に方法がないなら、お願いします……イチロウとハルナには、時間稼ぎするように……って言ってくる」

「ごめんね……エリナ」

「ううん……能天気に(いびき)をかいていた、あたしが、一番悪いよ……」

「1分でも早く、あの人たちの弱点を見つけるようにする……お兄ちゃんも、協力よろしく……お兄ちゃんだって、初めて告白してくれたハルナちゃんを、見殺しにできないでしょ」

「出来る限りの努力はする……」

 ミユイがいる第4恒星系まで、リアルタイム映像が届くのには、タイムラグがあるのは分かっているが、リアルタイムカメラに向かって、エリナは、深くお辞儀をすると、ゲーム用のモニターが置いてある部屋から出て、コントロールルームに足を運んだ。


「イチロウ……せっかく2番手まで上がってくれたところ悪いんだけど、最後尾に戻ってくれるかな?」

 さっそく、エリナは、イチロウに指示を与える。

「最後尾なら、ハズレを回避できそうなのか?」

「専門家に言わせると、難しいらしい」

「でも、なんか理由はあるんだろう?」

「時間が……欲しい……これ以上は、オープンでは伝えにくいの……察してくれると嬉しい」

「了解」

「お姉さま……みっともない姿を見せてしまって……恥ずかしいです」

「ハルナが、自分の強運を信じていたってことが、よっく、わかったよ」

「はい……情けないです……ミユイさんの代わりに選んでくれたイチロウの気持ちも裏切ってしまった……」

「それは、違うよ」

「でも、このクイズセッションで、全問正解できるパートナーを探していらっしゃったんですよね」

「そうは言ったけど……」

「お姉さまが、ハルナの加入を反対していたのに……無理やり、仲間に入れてもらった結果が、こんなザマで……」

「だから、違うんだって……」

「お姉さまの眠りも妨げてしまって……」

「ハルナ……いい加減にしないと、怒るよ」

「ハルナは、役立たずです……いくらでも、怒って、叱ってください……それで、お姉さまの気持ちが晴れるなら……」


「ハルナ……」

「はい?」

「ごめんね……」

「あの……お姉さまが謝る理由が、わかりません」

「ごめんね……ほんとうに、ごめん」

 エリナの眼から、涙がこぼれ堕ちる。

「あたし……ハルナの泣き顔見たくないんだ」

「お姉さま……」

「嬉しくって泣くなら、しょうがないって思うけど……」

「あの……泣かないでください」

「そんな悲しい泣き顔は、もう見たくないよ」

「お姉さまを悲しませてしまいましたか?」

「ハルナを悲しませた、悪い姉を許して……ください」

「そんな……」

「エリナも、ハルナも、あんまり意固地になるなよ……どうせ、お互い好きすぎて、自分を責めてるだけなんだろう?」

 イチロウが、二人の様子をなだめるように、二人の会話に割って入る。

「こうなった以上は、前向きに、ここから優勝する方法を考えるしかないじゃないか」

「そうだね……」

 エリナの指示とおり、前方へのスラスター噴射を使用して、最後尾の位置への機体制御をしながら、次の問題をゲットするタイミングが近づいていることを、イチロウは、懸念していた。

「問題は、俺が拾うから……はなっから、ハズレだと思ってれば、悔しさも悲しさも、いくらか緩和されるだろう……」

「そうだね……今は、しょうがないか」

 9番目に拾い上げた問題にも、ハズレの文字が書かれていた。

「これで、8個全部回収だ……むしろ、ボーナスを貰いたいくらいだよ……1チームで8個は、どっかの記録簿に記録してもらえるんじゃないのか?」

「そうだね……ハルナが、申請しておくよ」


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