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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第11章 決勝の日
48/73

―42―

 ハルナとエリナは、昨日から続く質問攻めに、多少なりともうんざりしてきていた。

アスカワ大統領の挨拶が終わり、解散となった開会セレモニーの後、二人に話しかけてきたのは、レギュラーチームの一つ『ソーサラー・チーム』のシュン・フジミダイだった。

「昨日は、挨拶ができず失礼しました」

 年の頃は40歳台であるフジミダイは、年配者の貫禄を保ちつつ、時の人となった若い女性二人を前に、いくぶん緊張の面持ちであった。

「特別扱いされる覚えはありませんし、今日は、大事なレースです。こちらは、ようやく予選を通過しただけの弱小チーム……お手柔らかにお願いいたします」

 ハルナが、丁寧に対応する。

「昨日のスプリントを見る限り、弱小とは言えない気がするが、決勝レースは、速いだけでは勝てない。まぁ、我々も、オータチームに水を空けられてはいるが、当然、勝ちにいく」

「ええ……そろそろ、わたくしたちもパドックに行かなければなりませんので、せっかく、お声をかけていただいたところ申し訳ありませんが……」

「聡明なカドクラ家の次期当主となる方に、お会いできて、嬉しいです。

 お忙しいところ、声を掛けたのには理由があります」

「申し訳ありません……時間が……」

「あの……ウイングチームのことで……」

 フジミダイが、イチロウとウミたちが談笑している方向に眼を遣ってから、ハルナに、小さい声でささやく。

「?」

「ウイングチームが、なんらかの不正をしていること、聡明なあなたであれば、既にお気づきのことと思って、忠告に参りました」

「不正……ですか?」

「クイズセッションで、常に満点を取っているウイングチームのやってる出題問題の改ざんの証拠を、我々は入手しています」

「それを、わたくしにどうしろと?」

「あなた方は、注意だけしてくだされば良いです……彼ら、彼女らの言動に惑わされることのなきよう……特に、昨日、あのチームは、あなたがたのチームのマシンに、かなり多くの改造をしていたようなので、昨日の車検で、引っかからなかったとはいえ、今日のレースで、レギュレーション違反とならないとは限りません……彼らは、自分たちの技術を誇示するためには、手段を選びませんから」

「彼女たちの協力がなければ、昨日のレースのスプリントで、1位を得ることはできませんでした。彼女たちには感謝しています」

「それも、ただのポーズに過ぎません」

「他のチームを蹴落とすことを考えたり、時間を費やしたりするよりは、自分のチームを成長させる努力をしたほうが、良いのではないでしょうか?」

「そういう考え方もありますね…失礼しました……でも、くれぐれも用心してください。あなたたちのチームは、特に狙われているようなので」

「忠告ありがとうございます。心にとどめておきます……では、スタートの準備がありますので」

「そうですね……我々も、パドックへ行きます」

 フジミダイは、そう言って、パドックへ向かう足を止めて待っていたソーサラーチームの二人──クラマ・マチムラとリューイ・スミノエを伴い、開会式会場から退場していった。

「イチロウたちのところへ戻りましょう……お姉さま」

「うん……」

「昨夜は、マシン改造してただけだってこと、ちゃんとイチロウに言わないと、きっと心配してるはずだから」

「心配してくれてるかな?」

「そりゃ……最愛の女性が、他の男性と一夜を共にしてると思えば、きっと心配で、夜なんか、ぐっすり眠れるはずないし」

「でも、昨日、イチロウからは、何も連絡なかったから」

「心配してるから、電話できなかったんでしょ」

 エリナとハルナが、イチロウとミリーがいる会場の隅のあたりに戻ってみると、イチロウたちは、今度は、ボールチームの3人と話をしていた。

ボールチームのメインパイロットは、グリーンの髪色に、灰色の瞳の東欧系の男──スティン・サクファス。

ナビゲータは、赤い髪、赤い瞳の、やはり東欧系と思われる肌が透き通るように白い若い女──ニレキア・ガースウィン。

そして、メインメカニックは、東欧と日本の混血であろうと思われる黒い髪、黒い瞳に白い肌で長身の男──のハジメ・エリオス。

エリナとハルナの接近に気づいたのは、ニレキアだった。

「エリナ……おめでとう。素敵な男性を捕まえたね」

「おはよう、ニレキア。今日はよろしく」

「今回、エリナにチューンしてもらえないから、わたしたちの機体は、あまり速くない……どうしてくれる?」

 ニレキアは、冗談口調で、エリナに問いかける。

「今からでも、見させてもらうことできる?」

「冗談だよ、エリナ……今回はエリナに手を加えてもらわなくても、ちゃんとレースができるということ証明してみせるから」

「ごめんね。ニレキア」

「謝らないで、エリナ。今、イチロウと話をしていたけど、イチロウも素敵な男性だ」

「でしょ……いつでも、お持ち帰りしていいから」

「エリナの私物なのか?イチロウは」

「イチロウのマネージャだから……今日のレースで優勝したら、イチロウのファンが、増えると思うから、ちゃんと管理しないといけないでしょ」

「優勝するのか?イチロウは」

「ニレキアだって、優勝狙ってるんでしょ」

「うむ……でも、わたしはクイズが苦手だ」

「そういえば、いつもゲートセッションは、いいパフォーマンスするのに、クイズセッションで、あまりいい点を取れてないんだよね」

「今までは、エリナに機体を直してもらえてたから、安心して飛べた。今回は、不安でいっぱいだ」

「まぁ、ニレキア……そう言うな」

 メインパイロットのスティン・サクファスが、ニレキアの肩を、そっと抱える。

「エリナ……いつも、俺達の機体のチューニングありがとう。今回は、さすがに、俺達もエリナに頼むわけにいかなかったから、前回と同じセッティングのままだけど、それでも、優勝は狙えると思ってる」

「公式練習の状態は、どうでしたか?」

「ああ、特に問題はない」

「スティン……あたしは、ボールチームのこだわりが、大好き。いいレースができることを楽しみにしてる」

「婚約おめでとう……エリナ」

「ありがとう」

「エリナは、大胆だな……」

 メインメカニックのハジメ・エリオスが、エリナの頬にキスをする。

「ハジメは相変わらずだね」

「まぁな……ハルナさんでしたね。昨日は凄かった」

「はじめまして……ボールチームは、安定して速いですよね」

「そうだけど、やっぱりクイズが難しい」

「どうしても、日本のテレビ局なので、そっち系の問題になっちゃいますからね。でも、漢字の問題とか、いつも正当率は高いですよね」

「漢字は、俺の得意分野ですよ」

 ハジメ・エリオスが、分厚い自分の胸をドンと叩いて自慢げに言う。

「ハルナさんは、クイズは得意ですか?」

「自信はありますよ……わたし、優等生ですから」

「さっき、ウイングチームの連中と話してましたよね……いつも、ウイングチームは、俺達を眼の敵にしてくるんだけど……今回の標的は、ルーパスチームに絞っているみたいで安心してますよ」

「ウイングチームは、ウミちゃんとサエちゃんのチームですよね」

「ああ……毎回、クイズセッションの正答率100%のチームだ……絶対に、出題される問題を知ってるとしか思えない」

「不正があるとでも?」

「それらしいことを、さっき、イチロウたちに言っていたらしいから」

「ソーサラーチームのフジミダイさんからも言われました」

「問題のすり替えかぁ……まぁ、昨日の手際をみていれば、確かに技術は持ってるのはわかります。世界一のプログラマーですもんね」

「自分たちは答えを知ってる……さらに、相手の不得意分野を調べて、問題の差し替えをしてライバルチームを落としにかかる」

「眼の敵にされたら勝ち目はないね」

「でも、ブシテレビのセキュリティシステムは世界トップクラスだから、カドクラの技術だけでは、そういった差し替えとか、絶対に無理なんですよ……バレたら、永久に資格停止処分だし」

「考えることはできても、実行するのは、難しい……正答率100%という事実だけでは、不正の証明にならない」


「俺達だって、問題は知らないんだぜ……当たり前だけどさ」

 その場に、ブシテレビチームのトール・ラッセンとショーン・リーが現れ、トールのほうが口を挟んだ。

「トールとショーン、おはよう」

「ああ……おめでとうは、昨日言ったから、もう言わなくていいよな、エリナ」

「そうだね」

「ブシテレビの名誉のために言っておくけど、噂になってるウイングチームの正答率100%が不正によるものかは、正直、証明できていないけどさ……不正を働く余地などないことは、俺達がイヤというほど知っている」

「そうだよ……たかが、ゲーム会社にどうにかされるほど、うちのセキュリティは甘くない」

「彼女達が言ってるのは、はっきり言って威嚇に過ぎないと思う」

「でも、ハッキングの技術が超一流なのは認めざるを得ないからな」

「成績自体は、優勝争いに絡んで来ていないから、黙認されてる……ってこと……じゃないの?」

「ブシテレビのセキュリティチームも、変な噂を放置できないから、ウイングチームについては、かなり突っ込んだ調査をしたんだけどね」

「でもさ、不正なしで、満点を取れればいいんだよね──それで、アドバンテージはナシ…なわけでしょ」

 ハルナがさらりと自信たっぷりに言う。

「お姉さま……イチロウは、クイズは、まったくダメなのはわかってますから、ハルナに任せてくださいね……絶対、満点で、ゲートセッションにつなげて見せますから」

「うん……頼もしいよ」

 エリナは、ハルナの言葉に素直に励まされる。

「では、わたしたちは作戦会議がありますから、パドックに移動します。イチロウ、ミリーちゃん、行こう」

「あたしも、応援したいんですが、迷惑じゃないですか?」

 声を掛けられなかったミナトが、ハルナに訊ねる。

「ミナトさんに応援してもらえるなら、千人力……じゃあ、今日もパドックに来てもらえるんですか?」

「うん……今日も、よろしくお願いします」

 ミナトがペコリと頭を下げる。

「よかったね、イチロウ……ミナトさんに応援してもらえるなんて……モチベーション上がっちゃうね」

「ああ……最強のサポーターだ」

「あ~あ、ハルナも彼氏欲しくなっちゃった……ミリーちゃん、今度、独り者同士、良い男ナンパしに行こうね」

「あたしは、間に合ってるよ」

「そっか、イチロウ本命だっけ」

「うん……それにギンもいるしね」

 ミリーは、胸元で黙っているギンの頭を、ゆっくりと撫でる。


「宇宙飛行士を目指していた俺が、今、こうやって宇宙でのバトルの場に放り込まれてる。

俺に取っての戦いの理由は何なのか正直わからないけど、こうやって、たくさんの人が応援してくれる」

「何…突然?」

「女に振られたくらいで、落ち込んでいられないな」

「ミナトさんの香水をプンプンさせてる男の子が言う台詞かなぁ」

「エリナ……」

 イチロウは、その時初めてエリナの目が充血していることを指摘した。

「兎さんの目だ」

「昨夜は、パーティの後、ずっとZカスタムの改造していたからね…お姉さまは」

「エリナらしい……カドクラ社長とは一緒じゃなかったのか?」

「あたしが、そんな、はしたない女じゃないことは、イチロウが一番よく知ってるでしょ」

「そういうことに、しておくよ…行こうぜ」

「うん」


 ブシランチャー1号機のセレモニー会場から、2号機のパドックに移動したルーパスチームと、そのサポーターたちは、カタパルトデッキに出す前のZカスタムのセッティング状況を確認していた。

「相当、バランス重視に戻したんだな」

「うん…絶対、優勝したいからね」

「エリナの気合が込められてるのが、よくわかるセッティングだ」

「ありがとう……」

「イチロウとも約束してるしね…優勝しようねって」

「優勝したら、表彰台でキスしてくれるんだよな」

「イチロウが、イヤじゃなければ……ね」

「イヤなわけないじゃないか…でも」

 後ろで、刀の柄に手を掛けてるシラネの気配を察知して、イチロウは、振り返った。

「あの……あたしを護衛してくださるのは、とっても嬉しいんですが、イチロウとあたしは、家族のようなものです……キスくらい、いつでもしてます。過剰な反応、過激な反応は、やめてください」

「しかし……エリナ様」

「あまり、イチロウを威嚇して、今日、優勝できないなんてことになったら、婚約解消しますって、シンイチさんに伝えてください」

「お姉さま、そういうことを軽はずみに言わないでください」

「だって、あたしは、シンイチさんと結婚したいだけなんだから……こんな、怖いボディガードなんか、ほんと邪魔なだけなの……おトイレにだって行きづらいし……よく、ハルナは、こんな人たちと一緒で、息がつまらないね」

「ハルナは、もう慣れちゃってるから…お姉さまも、じきに、慣れますよ」

「ハルナにだって、恋人とかいるんでしょ」

「特定の人はいません……おかしいですか?」

「でも、プロポーズはされてるんだよね」

「カドクラ家の当主を継ぐ者は、社長職を終えるまでは、結婚できない決まりなのですよ」

「うそ…」

「だから、父は、今まで結婚してなかったのです」

「じゃ、ハルナも、結婚できないの?」

「でも、結婚できないだけで、恋愛禁止ってことじゃないですから、特に不自由はしてません」

「そっか、安心した……」

「そうですよ…でも、ほんとに、カドクラの一員となる以上は、軽はずみな言動は控えてくださらないと」

「イチロウとキスしたりするのは、軽はずみな言動になっちゃうの?」

「それは…とりあえず、いいことにしておきます。約束なんですよね…優勝したら、キスしてあげるんでしょ」

「うん……よかった」

「ということで、シラネさん……そして、アカギさん……イチロウは、特別枠なので、あまり過剰な反応はしないでください。エリナ様が言っていたように……パイロットを怯えさせて、優勝できないなんてことになったら、ハルナの権限で、あなたたち二人、クビにしますから」

「それは……ダメです。ハルナお嬢様」

「でも……特に、ポリスチームのカナリさんの接近は、食い止めてください。彼女が絡むと、エリナ様が、必要以上に怯えますから」

「心得ております」

「昨日みたいなことは、もう、ごめんですからね……ね、お姉さま」

「カナリさんも、任務でやってることはわかってるんだけど」


「それだけじゃないぜ」

 そのタイミングで、声を掛けてきたのは、ブルーヘブンズチームのテルシ・アオヤギだった。

「昨日はイチロウさんだけにしか伝えられなかったけど……カナリさんは、カナエ・アイダの遺伝子を継承している一人だ」

「え…?」

 エリナが驚きの顔になって、テルシの顔をまっすぐに見る。

「嘘でしょ」

「嘘じゃないんだよね」

 テルシと一緒に来ていたユキが、軽い口調で、エリナの言葉を否定する。

「カナリさんの目的は、エリナさんの逮捕だけど…つまりは、イチロウさんを合法的に手に入れたかったってことなんだ」

「状況が変わったので、昨日は焦っていたんだと思うよ」

「でも、カナエさんの生まれ変わりは、あたしのはず……そう、占い師さんが言ってくれたし」

「少なくとも、あたしの占いでは、エリナさんはカナエさんと、まったくの無関係です。遺伝子は当然継承されていないですし…一応、カナエさんの棺も調べてあるので……カナエさんの魂は、まだ彼女の亡骸の中に残ったままです」

 自称占い師のアイコも会話に割って入る。

「魂が?」

「うん……しかるべき技術が開発されれば、藍田香苗の蘇生は可能です……肉体は死んでいますが、まだ肉体と魂が切り離されていませんから」

「しかるべき技術って?」

「死者蘇生の医療技術ね……まだ、当分、無理でしょうけど。

 カナエさんが心臓停止状態、そして脳死状態なのは、間違いないので、今現在の医療技術では……100%無理です」

「なんで、あなたたちが、そんなことを」

「あたしたちは、カナエさんの遺言に従って、産み出された、死者蘇生技術の継承者グループなんです」

「はぁ?」

「インディゴ・ブルー・リターンドヘブン・プロジェクトグループ──それが、あたしたちの組織の名前」

「エリナさんの類まれな新製品開発能力──発明する力を得られれば、死者蘇生装置の開発が急ピッチで進展するのは間違いないので、そのことを伝えにきました」

「待って……」

「イチロウさんとエリナさんの二人を、あたしたちも必要としています。昨日は、そのことを伝えたかった」

「死んだ人を生き返らせるなんて……そんな恐ろしいこと……あたしには、絶対にできないよ」

「お姉さま……」

「なぁに?」

「カドクラでも、死者蘇生の技術は研究してるんですよ」

「え?」

「難病の根絶……不治の病の駆逐……医療に携わる者たちの永遠のテーマです……今は、未来の技術に託すしかない、それらの技術を、今の世代で、成し遂げようとがんばってる技術者を、ハルナは何人も知っています」

「でも……」

「純粋に研究者として、招聘を申し入れしてるんですよね?……あなた方は」

「そうです……こんな場で、切り出すことではないかもしれないですが、昨日、伝えられなくて……今度、いつ、お話できるかもわからなかったので……申し訳ないです」

「でも、カナエさんが生き返ったら──」

「お姉さまが、心配してるのは、そっちですか?」

「イチロウが、可哀想だよ」

「イチロウが?」

「イチロウがカナエさんを大好きなのは、あたしが一番よくわかってる……カナエさんが今すぐ生き返るなら、あたしも大賛成だよ。でも、そうじゃないよね……まだ、30年も40年もかかるかもしれないんだよね。だったら、イチロウは、カナエさんが生き返るまで待つって言い出すよ……ね、イチロウ」

「それは……」

 イチロウは、言い淀んだ。


『それでは、カタパルトデッキの最終点検は完了いたしました。チームのみなさん、速やかに機体を、それぞれ所定のカタパルトデッキまで移動してください』


 そこで、ブシランチャー2号機の館内放送が、太陽系レースのクイズセッション開始の準備が整ったことを告げた。

「その話は、ここまでね……イチロウ、平気?」

 ハルナが、微笑を浮かべているイチロウに心配そうに聞いてみる。

「みんなが、心配してくれるのは嬉しい」

 そこで、ずっとイチロウのそばに、寄り添っているレオタード姿のミナトの手を、しっかりと握りしめる。

「もう、俺は、カナエには拘らない生き方をすることを決めている」

「そっか……」

「エリナの婚約発表が、いろいろな意味で、俺に、たくさんのことを気付かせてくれた」

「そんな……」

「俺が、エリナを、どれほど好きになっていたかということ……カナエと等しいか、それ以上の気持ちで好きになっていた……エリナが俺のことを、どう思ってるかは、もう関係ない……エリナが好きだから、俺は、このレースを精一杯がんばるだけだ」

「あたしのため?」

「自分の力を試したい気持ちもあるけど、とにかく、エリナが、ここまで仕上げてくれたZカスタムだ……それに、秘密兵器も搭載されているんだろう?」

「うん、ハルナとイチロウを守る為に……がんばって仕上げたんだよ」

「そのエリナの努力を、なしにするわけにはいかない……昨夜、カドクラ社長と一緒にいることよりも、俺たちの命を守ることを第一に考えてくれたエリナのためにも……その赤い眼を見れば、この秘密兵器を、徹夜で仕上げてくれたことがわかるよ」

「イチロウには、何も言わなくても──

 ちゃんとわかってくれると思っていたよ」

 ハルナが、イチロウの空いてるほうの手をしっかりと握り笑顔で言う。

「パイロットとナビゲータを、最高のコンディションでレースに送り出すのが、メカニックの仕事──ってお姉さまが言い張るので、ハルナも、しっかり睡眠はとりました」

「それが、ステアリングを握る者の義務だからね……ハルナは、ちゃんと、リーダーの指示に従ってくれました……イチロウも、大丈夫だよね」

「もちろんだ……年間優勝するための必須条件なんだろう?今日、勝つことがさ」

「うん!!」

「行ってくるよ」

 イチロウは、ハルナを促して、Zカスタムのコックピットに乗り込む。

一度は閉じられたパイロットシート側のドアをエリナが開き、ヘルメットを被ろうとするイチロウの手を止める。

「イチロウ──」

「エリナ──」

 エリナは自分の唇で、イチロウの唇をふさぎ、目を閉じる。

数秒、お互いの唇の温かい感触を確かめた後で、イチロウはエリナの頬に手をかけて、名残惜しそうに、その小さなエリナの顔を引き離す。

「あたしのこと……好きになってくれて、ほんとにありがとう」

「今でも、大好きだ」

「知ってる」

「エリナの為に、優勝カップを絶対取ってくるからな」

「絶対だよ」

 イチロウは、ヘルメットを深々と被り、ドアを閉める。

「ハルナには、キスをしてくれないの?」

 ハルナが、ニコニコしながら言う。

「優勝したらハルナと一晩いっしょに過ごしたい……その時、いやって言うほど、キスしてあげる」

 エリナも、ハルナに負けない笑顔を作って応える。

「もう……どこまで本気なんだか、お姉さまったら……でも、期待してますね」

 ハルナは、尊敬してやまないエリナの言葉に、素直に反応して、顔を赤くする。

「クイズの勉強できなかったことは申し訳ないが、ハルナに任せていいよな」

「ミユイさんの代わりが務められるくらいには、勉強してきたから、大船に乗った気持ちでいていいよ」


『視聴者のみなさん──いよいよ、太陽系レースも決勝戦の時間が近づいてきました。本日のレース実況は、昨日の予選実況に引き続き、わたくし、フルダチが務めさせていただきます。

 そして、解説も同じくイマノミヤさんに来て貰ってます』

『解説のイマノミヤです……昨日の予選に引き続き、今日のレースも楽しみにしています』

『そして、本日のスペシャルゲスト解説は、Jリーグのみならず、全日本のストライカーとナデシコジャパンのエースとしても大活躍中のユーコ・ハットリさんに来ていただきました』

『ハットリです……今日は、いつも地球で観ていた太陽系レースを、間近で観られるということで、興奮しちゃってます……よろしく、お願いします』

 聞き覚えのあるユーコの声が、Zカスタムのメインスピーカーから聞こえてきた。

「ユーコ……あの子も、目立ちたがりなんだから」

「ゲスト解説のこと、ハルナは、聞いていなかったのか?」

「聞いていなかった。でも、昨日の試合でハットトリックを達成したよってショートメールは入ってきていた……あの子ったら、いつも、肝心なことを言わないんだから」

「下手なレースは見せられないな」

「イチロウは、気が多すぎ……ミナトさん一人に絞っちゃえばいいのに」

「ミナトさんは、自由人だから、俺が縛り付けるわけにいかないだろう」

「縛る……って?」

「おい……」

「シモネタは、イチロウにはNGだもんね。自重します」

 ハルナは、正面を見たまま、真顔で言う。

「このチームは最高だ」

「そうだね」

「エリナ……準備OKだ。出してくれ」

 イチロウとハルナを収めたZカスタムが、ゆっくりと移動を開始する。

ブシランチャー2号機のカタパルトデッキ──そのポールポジションである第1号カタパルトデッキへ──


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