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パーティ会場に顔を出したキリエとミリー、ギン、そしてソランは、まだまだ盛り上がりを見せる会場の雰囲気に、ちょっと、気圧され気味ではあったが、ステージ中央で、たくさんの人の応対をしているカドクラとエリナの傍に、辿り着くことができた。
「エリナ!!」
キリエが、大きな声でエリナを呼ぶ。
「キリエ……来てくれたの?」
「ばかやろう……なんで、あたしに言わないんだ……こんな大事なこと」
「だって……恥ずかしいし」
「そう思ってるんなら、こんな恥ずかしい発表なんかできないだろ」
「それは……シンイチさんが……」
「エリナをそそのかしたのは……あなたですか?」
キリエが、カドクラに握手を求める。
「エリナをよろしくお願いしますよ」
「でも、とりあえず、今すぐ、エリナさんの傍についてやることはできないんですが……社長業を降りたら、ということで、それまでは、あなたたちの傍にいることが、きっと、エリナさんが安心して、安全にいられることだと思っています」
「あたしに、旦那がいなければ、あたしが唾をつけたいくらいだ」
「だめだよ……キリエ……ソランに、怒られちゃうよ」
「冗談だよ……」
「せっかく来たんだからさ……なにか歌って」
「いいのか?なんか、思いっきり場違いなんじゃ」
エリナは、キリエが、躊躇いながらも歌う気満々であることをわかっていたので、ステージの脇にいるアナウンサーの少女……ヒトミコ・イツキノを手招きする。
「なんですか?」
ヒトミコは、親友であるブルー・ヘブンズの代表…アイコ・ガンリキと、その友人…ユキ・クサカベを連れてきて、エリナに尋ねる。
「マイクを貸してもらえますか?」
「もしかして……キリエさんの歌……聞けるの?」
エリナの隣に突然出現したキリエの姿を見つけたアイコが喜色満面でキリエに抱き付く。
「ええ……一応、プロ歌手なので、歌ってもらってもいいかな?」
「もちろんですよ……ちょっと、カラオケ用意してきます」
「ヒトミコちゃん……伴奏は、わたくしがいたします……ハープか、ピアノは用意できますか?」
キリエの姿を見つけたハルナも、すぐにステージに戻ってきていて、ヒトミコに楽器の準備をお願いをする。
「どちらも用意できます」
「ありがとう…ヒトミコちゃん……ところで、キリエさん……1曲目は?」
「何曲、歌わせるつもり?」
「好きなだけ……何曲でも付き合いますよ」
ハルナが、キリエの前に、自分の手を突き出して、数を数えるように指を折り始める。親指…人差し指…中指…薬指…小指…そして、折った指を一本ずつ、もとに戻していく。
「婚約祝いだもんね……じゃ、一曲目は、ハルナちゃんの十八番のショパンの『別れの曲』はどう?……NG?」
「今のお姉さまにぴったりの曲ですが…それでいいですか?お姉さま?」
「ぜっっったい……イヤ」
エリナが、力を込めて言う。
「嘘だよ 嘘」
キリエが、悪戯っぽく笑う。
「1曲目は…婚約祝いってことで……『やくそく』でいい?」
エリナが、無言で、大きく頷く。
「もちろん……ハルナも大好き」
ヒトミコ自身が抱えて持ってきた大型のハープがステージに置かれると、ハルナは、さっそく、前奏を奏で始める。
「ハルナちゃん……ハープも上手いね」
「どうぞ……」
キリエが、エリナの左手を自身の右手で、しっかりと握り締める。
キリエの歌声が、会場中に響く。
それまで、談笑を交わしていた参加者が、いっせいに、ステージに注目する。
キリエの歌声に、思わず拍手を送ってしまった者が数人いたが、バラード調の、その歌を聴くため、拍手の手を停め、ステージに注目する。
「キリエ・ヒカリイズミだ……」
「ああ……いい声だね」
ハルナの伴奏とキリエの声が会場を満たしている、その場から、イチロウは、誰に何を告げることもなく、離れようとしていた。
目ざとく、そのイチロウに付いてきたのは、ミナトだった。
「帰るの?」
「ここまで盛り上がったら、そうそう、お開きにはなりそうにないからな」
「イチロウさん……」
次にイチロウを呼び停めたのは、ブルーヘブンズチームのテルシ・アオヤギだった。
「テルシくんだっけ…?」
「ええ……でも、イチロウさんにとっては、とんでもない、サプライズですよね」
「そういえば、このパーティの後で、ルーパス号に来てもらうことになっていたけど……」
「エリナさんとハルナさんが、あの状況では、いつ解散になるか、ほっといたら、あの調子で徹夜しちゃうんじゃないですか?」
「さすがに、明日は決勝なんだから、適当なところで切り上げるだろう」
「ですよね……カナエさんのことは、また、別の日に話しに行きます」
「そのほうが、いいかもな」
「イチロウさん……まともじゃなさそうだし」
「ああ……思いっきりフラれたからな」
「イチロウさんが探してる、カナエさんの生まれ変わり……それが、カナリ・シルフ・オカダだって言ったら、信じますか?」
「……?」
「俺たちは、あの探査用宇宙船のクルーの子供たちなんですよ……俺は、隼翔平の血を受け継いでいます……遺伝子ではなく、隼翔平が遺した精子を元に人工子宮で産まれたのが、俺です」
「まさか…」
「本当ですよ」
「じゃ、他の二人も?」
「アイコは、大徳聖子の卵子……ユキは、藤原篤志の精子を元に産まれています。ブルーヘブンのブルーは、インディゴブルー……藍田香苗の『藍』から名づけられているんです」
「まさか、カナエの卵子から産まれたのが、あのポリスチームのカナリさんなのか?」
「はい……」
「血の繋がり……カナエの血縁者か……」
「残念ですが、エリナさんは、そういった意味では、カナエさんの血を受け継いでいるわけではないんです」
「残念もなにも、エリナは、もうパートナーを決めてしまったから」
「諦めちゃうんですか?」
「諦めるしかないだろう」
「イチロウくん……」
テルシとイチロウの会話に、ミナトが加わる。
「結婚するまではチャンスはあるからさ……そんなに落ち込まないで」
「なんでミナトさんも、テルシくんも、そういう言い方を……俺は、純粋にエリナに幸せになってもらいたい」
「幸せにしてやりたいって思っていたんでしょ」
間髪挟むことなく、ミナトが言い放つ。
「テレパスだからね……あたしは……素直過ぎるイチロウくんの気持ちは、みんな、わかっちゃうんだよ」
「だったら、一人にしてほしいって気持ちもわかるはずですよね」
「うん……わかる……よ」
「俺は、ルーパスに戻ります。
テルシくん、さっきの話は、また明日のレースが終わった時にでも、ゆっくり聞きたい」
「はい……俺たちは、それを伝えに来たのが、今回の本当の目的なので……
今日は、ルーパスにお邪魔するのはやめときます。ユキとアイコにも言っておきますよ」
「ありがとう……じゃ、また明日」
「イチロウさん……明日は、俺たちの分も、頑張ってください。3人束になって、応援しますから」
「ああ……頑張るよ」
「イチロくん……ついてってもいいよね」
ミナトが、イチロウの手を取る。
「もう、好きにしてください」
そして、ルーパス号に戻ったイチロウとミナトは、そのまま、イチロウの部屋に直行した。
「イチロウくん……元気だしてよ」
「お節介にもほどがありますよ。
いつまで、ミナトさんは、こんなとこにいるつもりなんですか?」
「イチロウくんが元気になるまで」
「充分、元気ですよ……」
「あたしは、テレパスだから……元気じゃないのは、痛いほどわかっちゃうんだよ」
「ほんとうに、俺の心が読めると言うなら、今は、放っておいて欲しいと思ってることも、わかってるはずですよね……さっきも、言いましたけど」
「それは、わかってる」
イチロウの自室で、ミナトは、ずっと穏やかな笑顔を絶やさずに、静かな会話を続ける。
「イチロウくんの部屋のシャワールーム使わせてもらってもいい?」
「いい加減、ゲストルームに行ってくださいよ……そこのシャワーだったら、朝まででも、ずっと使ってていいですから」
「だめ?」
「だめです……」
「あたしが、ここで裸になったら、イチロウくん、その気になっちゃう?」
「そりゃ……そうですよ」
「男の子の場合…心と体は別物だもんね」
「……」
「どうしても出て行かないなら、俺が出て行きますよ」
「そして、ミリーちゃんにでも慰めてもらう?」
「一人になりたいだけですよ」
「それって、本音じゃないよね」
「ミナトさんって、意外とややこしい人だったんですね」
「人の心が、わかるっていうのは、そういうこと」
「やっぱり、俺が出て行く」
「あたしの事、抱いてくれる気持ちのない男の子と、こんな時間に一緒にいる……あたしの気持ちは考えてくれないんだね」
イチロウは、はっとした顔になって、ミナトの淋しそうに俯いてしまった顔を窺うように見つめる。
俯いてしまったミナトと視線が絡むことはなかったが、イチロウは、そのまま、ミナトが顔を上げるのを待った。
「ほんっとうに、イチロウくんは優しいんだね……今、一瞬だけ、その気になったよね」
顔を上げたミナトの顔は嬉しそうだった。
「もう……ミナトさんには、かないませんよ……」
「あたしが、イチロウくんの心がわかるように、あたしの心も、イチロウくんに伝えることができればいいんだけど」
「言葉で言ってくれれば、伝わりますよ」
「そうだよね……あのさ…こうやって、顔はともかく、けっこう胸も大きくて、若くて…ちょっとエッチっぽい女の子が、男の子の、お部屋に来てるってことはさ……もう、ぶっちゃけ、何されても文句言わないよって言ってるのと同じ……
……ってことくらい、言葉にしなくても、わかるよね」
「わかるから、困ってるんじゃないですか」
「あはは……わかってるなら、よろしい」
「じゃ……」
「出ていかないよ……あたしは、イチロウくんに元気になってもらいたくって来たんだもん……困らせたままでなんて、帰るわけにいかないじゃない」
「じゃ……」
「ね……お酒あるかな?」
「それくらいは……」
「とりあえず、ビール飲もう……さっきのパーティでは、結局、ろくに飲まなかったみたいだし」
ミナトは、勝手に、イチロウの部屋の、ドリンクサービスの端末を操作して、中ジョッキボトル2つを持ってきた。
「はい……」
「明日は、レースの決勝ですよ」
「イチロウくんの元気が回復しなかったら、ちゃんとしたレースできないし……そうすると、優勝なんかできないよ……年間優勝狙ってるんでしょ……できなくなっちゃうよ」
「そうか……そんな約束もしたような気がするな」
「エリナちゃんを取られて淋しい気持ちはわかるけどさ」
「ミナトさんから言われると、当たってるだけに……」
「つらいよね」
イチロウは、ジョッキボトルを手にして、ボトルの中のビールを一気に飲み干す。
「お代わりは?」
「いいよ、自分で取ってくる」
イチロウは、立ち上がってビールを取りにいく。
「じゃ、あたしも、いただきます」
ミナトも、手にしたジョッキボトルに口をつける。
「やっぱり、疲れてる時はビールが美味しいよね……この初めの一口が、特に美味しい」
「それは、同感です」
「あのさ…何もしないから、ちょっと場所を移さない?」
「どこでも一緒ですよ…ビールを飲むだけなら」
「ベッドルームに案内して…ちょっと横になりたいから」
「何もしないならいいですよ」
「ありがと……だから、イチロウくん大好き……でも、おしゃべりくらいはつきあってくれるよね……ほんとは、いっぱい、お話ししたいことがあったんだ……」
「何もしない…んじゃなかったんですか?」
「エッチなことはしないよって意味だったんだけど……だめかな?」
「俺を誘惑してもダメですよ」
「だ・か・ら……そういうことはしないって言ってるんだよ…もう……
誘惑するつもりなんかないよ…あたしだって、安売りするつもりはないし」
「ミナトさんのほうが、よくわかってるんじゃないですか…俺の心が揺れてること」
「そうだよね……テレパシーが使えるのって…けっこう、やっかいな能力だからね」
やっぱり淋しそうにつぶやくミナトに、イチロウは手を差し伸べる。
「少しだけ、カゲヤマさんの気持ちがわかった気がします」
「そうかな?ああやって、心を閉ざす人は信用できない」
「カゲヤマさんが、本気でミナトさんを好きなのは、なんとなくわかります……エリナに対しては、ちょっと、好きだというポーズを取ってるんじゃないかって思っていましたから」
「でも、ほんとか嘘か…まったくわからないのは不安だよ」
イチロウに手を引かれながら、ミナトは、ぽつりと、淋しそうにつぶやく。
「俺の愚痴につきあってくれるなら、ベッドルームに案内しますよ」
「もちろん……おつきあいいたします」
リビングと間仕切っただけのベッドルームに足を踏み入れると、イチロウよりも先に、ミナトは、ベッドの上に身体を横たえる。
「なんでも、相談してくださいね……身の上でも身の下でも、ほんとに…なんでも、このお姉さんが、受け止めてあげますから……
まずは…カドクラ社長の悪口とかかな?」
「エリナが辛い時に、何も気づいてやれなかったのが、とにかく情けない」
「ふんふん…そうだよね…女の子には、ちゃんと言葉で、はっきり言ってあげないとダメだからね…でもさ、諦めきれないんだよね…イチロウくんは……さ」
「なんか、ミナトさんと話してると、言葉で話すのがバカらしくなってくる」
「そう言わずに……とにかく飲め!!」
ミナトは、既に空になっているイチロウのジョッキボトルを取り上げ、自分のそれと取り換える。
「イチロウくんはさ……好きな女の子としかキスはしないタイプかな?」
「質問がストレートすぎますよ」
「うん……そのほうが、イエスかノーか、わかり易いでしょ」
「ノーです…わかってるくせに…」
「じゃ、あたしにキスして」
ミナトは浮かしかけていた頭を、また、布団の中に埋めると、眼を閉じる。
覆いかぶさるようにして、イチロウが、ミナトの唇にキスをする。
(あたしは、心を偽らない男なら…誰でも受け入れることができるよ)
ミナトの思念が、イチロウの心に響くように伝わってくる。
(人は、多かれ少なかれ、テレパシーの力を持っているの……こうやって接触することが、一番それを伝えやすいんだってこと…あたしも、最近、わかってきたんだ)
ミナトの閉じていた眼が僅かに開き、半目になる。
(今日だけ…エリナちゃんの代わりに、おしゃべりにつきあってあげるから……なんでも話して)
(確かに……ギンも、こうやってしゃべってるから…)
(そうそう……別に珍しいことでもなんでもないよ……
あたしの遺伝子を受け継いだ子供だったら…おんなじ能力を持って生まれてくるかもしれないし…どう?試してみない?)
(あのさ…)
(なぁに?)
既に、イチロウの気持ちが昂ぶっていることは百も承知のミナトは、もう一度、眼をつぶる。
(ミナトさん……)
(イチロウくん……キス上手だね……今まで、誰と何回くらい…こういうことしたのかな?)
イチロウの脳裏に浮かんだ記憶を、ミナトが瞬時に全て、読み取ったことをイチロウは、不思議な記憶のループのように感じていた。
自分が思い浮かべた過去の記憶が、全て、ミナトの唇を伝わって、自分の脳の中でリフレインされている……
それが、止まらない。
イチロウは、ミナトの唇から自分の唇を遠ざける。
「怖い?」
「ミナトさんの記憶が……」
「うん……気持ちが盛り上がっちゃうと、みんな、こういう風にバレちゃうの……」
ミナトが、口元を抑えて、上目遣いでイチロウを見つめる。
「あの……」
「萎えちゃったね……元気にさせてあげたかったんだけど……でも、意外と経験少ないんだ……イチロウくん
ほんとにカナエさん、一筋だったんだね
それに、ハルナちゃん…セイラちゃん…ミリーちゃん…そしてエリナちゃんか」
「ミナトさんは……なんで…カゲヤマさんを嫌いなんですか?」
「なんでだろう?わかんないよ……
じゃあ、イチロウくんは、なんでエリナちゃんが好きなの?」
「そういう言い方は……」
「言葉にできないくらい好きなんだね」
「明日のレース……ミナトさん、応援してくれるんですよね」
「もちろんだよ」
「もう、追い出そうとか思ってないから…寝ましょうか?」
「そうだね……くっついてるだけなら、さっきみたいなことはないから」
「……」
「もう一つ……聞いていい?」
「なんか……隠しごとできないってのは、これはこれで、気が楽になってきましたよ……もう、なんでも聞いてくれていいですよ」
「イチロウくんは、なぜ、宇宙飛行士になったの?」
「それは、もちろん、宇宙に行きたかったから」
「へぇ…すごく単純だね
……カナエさんも、同じ理由?」
「香苗と諒輔は、研究者チームだったから、たぶん、違うと思う」
「宇宙の生活って退屈なんじゃない?」
「そんなことはない……宇宙を気儘に飛べるのは、すごく楽しいよ」
「予選1位通過…おめでとうございます」
「ミナトさんの応援のお蔭ですよ」
「でしょ、でしょ……明日も、バッチリ応援するからね……
あたしたちは、もうずっと宇宙で生活する人たちがいることを当たり前だと思っているけど……」
「俺たちが憧れていた宇宙での生活……やればできるんだな……」
「そうだね……100年経った今の生活って、イチロウくんたちの想像通りだった?」
「宇宙で生活できるのは、もっと先かと思っていた……」
「人工子宮が実用化されて……日本も少子化に歯止めがかかったから……人が増えれば、どこかに移り住まないといけない…結局、宇宙しかなかったんだ」
ミナトの言葉に、イチロウは、釈然としない疑問が浮かぶ。
「人工子宮が実用化されなかったら、人々の宇宙生活はなかった……そう思いますか?ミナトさんは……」
「わからないよ……でも、もっと、男の子と女の子が子供を欲しいと思うようになれば、人工子宮とか必要なくって、少子化は止められたはずなんだけどね……あたしは、イチロウくんの力を受け継いだ子供が欲しいって思ってる」
ミナトが、今度は、イチロウに口づけをする。ミナトの言葉が嘘でないことが、ミナトの接触テレパシーで、イチロウに伝わる。
(信じてくれるよね)
(ええ……それに……)
(うん……そうだよ……セイラちゃんに聞いてるんだね……男と女の相性レベルのことは)
(ミナトさんと俺が『エクセレント』なんですか?)
(そうだよ……今度、ちゃんと調べてね……別に、エッチしてくれなくてもいいけど……イチロウくんの血を受け継いだ子供が、どんな能力を受け継いで生まれてくるのか……それは、どうしても実現したいから)
ミナトが、心で語りかけながら、イチロウの唇をこじ開け、舌を絡める。
(あたしの気持ち……受け止めてくれるかな?)
(……)
(あたしのこと、明日、カゲヤマさんに会ったら、『ミナトは俺の女だって』…ちゃんと言ってくれる?)
(それは……)
(いいよ……別に約束してくれなくても)
イチロウは、ミナトのレオタードの肩かけの部分を引き下げる。形の良い、2つの胸の先が露わになる。
(綺麗だ……)
(顔には自信ないけど……身体は、自慢できるよ……誰にも負けない……)
イチロウは、唇を一旦ミナトの口から離し、胸の先に、移動させる。
(そこも、ちゃんと接触テレパシーのトリガーになってるんだよ……)
(俺…)
(ありがとう……あの……やっぱりシャワー浴びたい……イチロウくんと一緒でも構わないよ)
(わかったよ……でも、俺は、ここで待ってる……シャワー使ってきてください)
(今頃、エリナちゃんもエッチしてるかな?)
(たぶん…でも、きっと、まだパーティの最中ですよ)
(そうだね)
イチロウがミナトの胸から口を遠ざけると、ミナトの思念が消えていくのが、はっきりとわかる。
ミナトは、ベッドから上体を起こすと、身に付けていたレオタードをするりと、イチロウの眼の前で脱ぎ捨て、シャワールームへ移動していく。
「イチロウくん……あたしの趣味覚えてる?」
「覗き……ですか?」
「あたし、覗くの好きだけど……覗かれるのは、もっと好きなの」
「俺に、その趣味はないですよ」
「そっか、残念……でも、せっかく元気いっぱいになったんだから……明日は、やっぱり、優勝狙いだよね……」
「優勝……したいなぁ」
「大丈夫だよ……明日も、あたしがついてるから……女の子二人に負けてられないよ」
「そんな格好のまま、おしゃべりしてると、風邪ひきますよ」
「そうかな?じゃ、汗の匂い落としてくるね」
ミナトは、シャワールームの中へ入っていった。
翌朝──
「イチロウくん?」
ミナトの声で眼覚めたイチロウは、部屋着に着替えてしまったミナトの姿を見て、少し、残念に思っていた。
瞬間的にイチロウの思念を読み取った、ミナトが、愉快そうに微笑む。
「ご・き・げ・ん・よ・う」
「おはよう……」
「特に、下半身がご機嫌ですね?イチロウくん」
「……」
「朝食は、みんなで食べるんだよね……着替えは用意してあるから、ちゃんと着替えてね」
「ありがとう」
全裸で起き上がったイチロウは、ミナトの用意した着替えを、さっさと身に付ける。
着替えの途中で、口づけを求めるミナトに、優しく、キスをする。
「ミナトさんて……いい女ですね」
「伊達に、21年間、女をやってきてないからね……16~17歳くらいの女のコたちには負けられないよ」
「もしかして、負けず嫌いですか?」
「女は、みんな負けず嫌いだよ……知らなかった?」
「そういうものですか?」
「カナエさんにも負けないから……もっとも、死人は無敵だってことくらい、わかってるけどね」
「今日は……ミナトさんのお蔭で、100%の力が発揮できそうだ」
「これが……あたしの第二の必殺技…『死者蘇生』の魔法カード」
「なるほど……確かに、必殺技だ」
「嘘だよ……結果オーライだったのは、間違いないみたいだけどね」
「ありがとう……」
「それと……認めたくないけど、カゲヤマさんと、カナリさんには、100%じゃ勝てないよ……ちゃんと昨日みたいに、120%以上の力を出さないとね」
「みんなが、応援してくれるから……きっと、ハルナもエリナも俺以上に、気力充実してるだろうし」
ミナトの笑顔に、イチロウは、自信たっぷりの笑顔で応える。
「イチロウくんて、けっこう単純」
「素直ないい男だって、ミナトさんが、言ってくれたじゃないですか……」