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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第9章 戦いの理由
40/73

-35-

 Zカスタムが、静かにリニアカタパルトから、解き放たれる。

 この瞬間、太陽系レースの予選最終セッション『耐久セッション』が開始された。

ブシランチャー2号機には、8基のカタパルトデッキがあるが、当然、16機を同時に射出することはできない。

そのため、予選のスプリントセッションで高タイムを取った機体が先に8機射ち出される。そして、ほとんど時間を置かずに、残り8機が射ち出されることになる。

「まずは、30kmまで加速してね」

「ああ…」

 ハルナの指示に従い、イチロウは、フットバーを穏やかに踏み込み、Zカスタムに加速を与える。

「エリナ様も言ったように、このセッションは、付かず離れずが基本」

「わかってる」

『オオカミくん…ランデブーしようか?』

 チアキの声が、Zカスタムのコックピットに届く。

「チアキさんとなら悪くない」

「こっちから誘っといて、ごめん…たぶん、あんたとランデブーしたら、熱くなっちゃいそうだからやめとく」

「残念です」

『どっかの誰かさんのせいで、今のプラチナ・リリィは、超高速設定だからね…燃料補給できないのは、正直言うと、けっこうきつい』

「エリナの狙い…バッチリってことかな?」

『そこまで考えてないでしょ…あのお嬢ちゃん』

「そうだろうな」

「わからないよ」

『お楽しみのところ、こっちも、挨拶させてもらうよ』

「ジュピターアイランドのナカノさん?」

『ああ…直接、お祝いを言いたかったんだけどな…オタクらのパドック、人だかりが凄くて、顔を出すことができなかった』

「俺は、こっちの世界でも親しい男の友達が欲しいと思ってる…だから、同じレース仲間なら大歓迎ですよ」

『嬉しいことを言ってくれる。あらためて、お礼を言いたい』

「お礼ですか?」

『以前、第3惑星から第4惑星に向かって飛んでる、オタクらを襲ったのは、俺たちだ』

「そう言えば、エリナが、そんなこと言っていたような気がする…でも、俺は、礼を言われてもピンと来ない」

『過去に(こだわ)らないのか?』

「過去には拘っているほうだけど、まぁ、実際、結果的になんの被害も被っていなかったですよ…あの時は」

『オタクは、面白いな』

「でも、いいんですか?こんな会話をしてても」

『プラチナの姉ちゃん達とも話していたじゃないか…』

 耐久セッションは、その名のとおり、機体の耐久力を審査するためのものだから、これくらいの無駄話は、問題ないんだよ』

「ナカノさんは、サットンのチアキさんと、付き合ってるんですよね」

『まぁな…あいつとは、けっこう気が合う…身体の相性も悪くないしな』

「いいんですか?きっと聞いてますよ…チアキさん」

『もう…ナカノくん…そういうことを、あんまり、大っぴらに言わないで欲しいんだけどな』

『男同士の会話なんて、だいたいこんなもんだよ…いいじゃないか、シティウルフは、俺たちジュピターアイランド全員の命の恩人なんだからさ』

『男同士じゃないでしょ…そこには、ハルナちゃんだっているんじゃないの?

 ね…オオカミくん?』

「確かに…でも、まぁ、ハルナは、その手の話は、案外平気な顔して聞いてる気がする」

「呆れてるだけなんですよ……チアキさん…

 あ~あ、耐久セッションだけでも、エリナ様と一緒に飛べれば、退屈なんてしないのに…チアキさんたちは、女性同士だから、羨ましいです」

『今からでも、パートナーチェンジしたらどう?「メインパイロットが宇宙酔いで、使い物になりません」…って申告すれば、あっさり、認められると思うよ…このレースの規定って、けっこう緩いからね』

「知ってますけど…エリナ様は、このセッションが始まった途端に、なんか、とっととコントロールルームから姿を消しちゃったから」

『へぇ…そうなんだ?

 それって職務怠慢?それとも、おトイレ行ってるだけとか?』

「たぶん、職務怠慢のほう…なんか、ハルナのお父様と、よろしくやってるみたいだから、何にも言えません」

『ハルナちゃんも、苦労してるんだね』

「でも、ハルナは、お父様を応援してますから…きっと、エリナ様も、すぐに、お父様のこと好きになってくれると信じてます」

『なんか、複雑だね…』

「あの…チアキさん…」

『なんだい?オオカミくん、あたしは、ティーンズの男の子には、興味ないんだけど』

「俺、ナカノさんと話してたんですけど…いつの間にか、ハルナとチアキさんの会話がメインになっちゃってて」

『あたしが、邪魔ってこと?』

「あ…チアキさん、イチロウは、ナカノさんに聞きたいことがあるみたいなんです」

『わかったよ…おとなしく聞いててやるからさ、さっさと済ませてよ…あたしも、ハルナちゃんに聞きたいことがヤマほどあるんだ』

 慣性フライトで、ほぼ同じペース配分、同じスピードで飛んでいる3機の間の通信は、ほとんどノイズらしいノイズが入らない。

スプリントセッションの時は、チアキ達の乗るプラチナ・リリィに搭載された、機内映像カメラとマイクは、今は、回線をオフに設定しているため、3つのミニクルーザーの間で交わされている会話が、放送電波に乗ることはない。

そういった意味での安心感から、チアキは、まだ、しゃべり足りないという面持ちで、通信用のカメラにカメラ目線を送っている。

『シティウルフが、確認したいっていうのは、あの時のことだよな』

「ええ…大雑把には、エリナから聞いていますが、マインド・コントロールをされていたってことですよね」

『ああ…言い訳としては、あんまりにも陳腐なので、恥ずかしいことなんだが、集団催眠を掛けられていたんじゃないかって…ポリスのお姉ちゃんには、言われたよ』

「ポリスのって…シルフのカナリさんですか?」

『あの、お姉ちゃんは、苦手だ』

「俺も、あまり好い印象はないんですが…でも、こうやって、ナカノさんたちが、太陽系レースに出られるように便宜を図ってくれたのは、カナリさんだと聞きましたよ」

『ほんとうに、あのお姉ちゃんだけはさ…何を考えてるかわからない…俺たちを泳がせて、真犯人を捕まえようとしてるのかもしれないが…』

「ジュピターアイランドが抜けたことで、レギュラー枠が1つ空きましたよね」

『そこに収まったのは、カカシ・チームだけどな…前回予選のの勝ち残りから、抽選で選ばれただけのチームだから、あそこが、関与してるわけではないと思う』

「そうですか…」

『真犯人を突き止めて、どうするつもりなんだい?』

「ナカノさんたちをマインドコントロールして俺たちを襲わせた目的…狙いが、エリナなのか、ミユイなのか…俺ってことはないと思ってるんですが……

 実際、失敗しているわけだし、もう一度、襲ってくるかもしれないことを考えたら、情報は、少しでも多いほうがいいと思ってるんです」

『そういうことかぁ、まぁ、このレース中に、ちょっかいを出しはしないと思うけど、用心に越したことはないからな』

「そちらのリーダーと接触をした人とかも心当たりないんですか?」

「ちょっと、イチロウ…」

 イチロウが、多少、興奮気味になってきたことを懸念したハルナが、イチロウの手を抑える。

「あ…悪い、ハルナ…レースに専念するよ」

『俺も、余計なこと言って申し訳なかった…まぁ、さっきも言ったように、このレースにちょっかいを出してくることだけはないと思うよ…お互いしっかり飛んで、明日の決勝戦を楽しもうぜ』

「そうですね…」

『また、そっちが暇になったら声を掛けてくれよ…俺たちは、とりあえず、1時間交代で、寝ることになってるからな…リョウヘイも、オタクと話したいようなこと言っていた。いつでも、呼んでくれ。どっちかが、暇つぶしの付き合いをしてやるからさ』

「ところで、そちらの機体は、ベストですか?」

『スプリントで、そっちに随分、水を開けられはしたが、まぁ、決勝は、制限速度があるから、最高速度は、あまり気にしちゃいない…気になるのは、オタクらの加速性能だ』

「うちのメイン・メカニックが、一番(こだわ)っていたところなので、うちのアドバンテージはでかいですよ」

『攻略しがいがあるってもんだ…じゃあな』

 そう言った後で、ナカノは、ルーパスとの直接通信の回線をオフにした。

「だいじょうぶ?もっと聞きたいことがあるんじゃないの?」

 ハルナが心配そうに尋ねる。

「聞きたいことはヤマほどある……」

「だったら、今、聞いたほうがいいと思うよ」

「?」

 イチロウは、ハルナの言葉の真意がわからず、無言で首をひねる。

「イチロウ達を襲ったのが、あのブルーヘブンズのチームだとしたら…

 この耐久セッションを終わってパドックに戻ったら、何らかのアクションを起こしてくるはず」

「ハルナは、彼らを疑ってるのか?」

「あのガンリキさん…あまり、エリナ様のことを良く思っていないことは、確か」

「でも、レースの中では、もう、ちょっかいは出してこないんだろう?」

「パドックにいれば、ルーパスの仲間もいるし、今日は、お父様も来てるから、エリナ様は安全なはず…でもね…今のジュピターアイランドのナカノさんとの会話を聞いていたら、なんか、無性に胸騒ぎがし初めたの」

『ハルナちゃん…聞こえてるよ…とりあえず、聞いてるのは、あたしらだけだけどね』

 再び、チアキの声が、Zカスタムに届く。

「ハルナちゃんたちとジュピターの連中の間で何があったのかは知らないけど、ブルーヘブンズの連中は、けっこう、好い連中だと思うよ…実際、隠れて何かこそこそ企むような連中は、あまり、こういう表舞台には出たがらないもんだ」

「俺も、そう思う」

「でも、あのガンリキさんは、ハルナが『パラライズ・キッス』を使えることを知ってたんだよ」

「それって…そんなに珍しい能力なのか?」

「国家機密なんだから…」

「ウソだろ?」

「嘘じゃないよ」

「その割には、ミリーや俺に平気で使ったじゃないか」

「だって、ミリーやイチロウは、信用できるし…あの時は…なんていうか…キスしたかったし…でも、照れ臭かったし…

…もう、何言わせるのよ」

 ハルナは、そう言って顔を伏せてしまった。

「エリナって……そんなに、いろんな連中に的にされてるのか?」

「知らないの?」

「確かにメカに関する技術は、とんでもないものを持ってるのはわかる」

『オオカミくん…あの子は、とんでもないものを持ってるだけじゃないんだよ』

 チアキが、ちょっと呆れた口調になって、イチロウに話しかける。

『ハルナちゃんに、よく聞いておくといいよ…あの子が、この世界で、17年間…どんな役割を果たしてきたのか……もしも、あの子が、今でも、誰かに狙われているとしたら、シルフが、一番怪しいからね』

「ふぅ」

 イチロウは、大きなため息をつく。

「どうする?少し寝る?」

「シルフの事……教えてもらえるか?」

「イチロウは、どれくらいシルフの事知ってるの?」

「女性のA級犯罪者を専門に取り締まる警察の別動隊だったということくらいしか…後は、何も知らない」

「わかった……とりあえず、オートパイロットにする……今は、エリナ様も聞いてないみたいだし、教えてあげる」

 ハルナは、いくつかの大まかな通過ポイントを設定し、Zカスタムのマニュアル制御をオートパイロットに切り替える。

ルーパス号という宇宙船に乗り込んで逃亡生活を続けているというエリナという少女のことをハルナが知ったのは、まだ、わずか1年前…2110年だった。

シルフに追われた…その逃亡生活というものが、どういうものであったのか、ハルナ自身も、父であるシンイチから聞かされたことなので、真実は知らないと前置きをして、ハルナは、話をし始めた。


 『どこでもドア』を作りあげた者がいるという情報を、カドクラ研究所がキャッチしたのは、2106年のことだった。

2111年に発明されたとされる『どこでもドア』の開発のために、2100年の百年革命で自由を得た特殊遺伝子を持つ研究者を中心にして、2101年以降、政府、民間を含めたくさんの機関、研究グループが組織された。

活発な研究・開発は、物質の転送技術を大きく進化させ、恒星間を結び付けるワープ航法やワープ通信、マイクロワープ技術といった分野で、実用化に近い成果を挙げることにも成功していた。

にも関わらず、これぞ『どこでもドア』と言えるものが世に出ることはなかった。

それは、どこで歪めてしまったのか『どこでドア』が、2111年以前に生まれてはいけないんだという風潮……フィクションの世界で生まれたはずの夢の発明品…それが、製造可能であることが理論上証明された時点で、その開発に政府から『待った』が、かかったのだ。


しかし…その政府の決定を知らされず、秘密裏に研究を続けていたのが、ルーパス号で放浪生活をするエリナだった。

その時に試作品としてエリナが作成したその機械は、見た目といい大きさといい、『どこでもドア』の形状はしていた。

それに加え、ドア状のパーツに大きなスクリーンが張り付けてあったことにより、あたかも転送先の様子が確認できるような構造になってもいたのである。

既に、宇宙用のクルーザーなどを転移させることが可能なワープ航法を実用化することができているので、ショートレンジを一瞬でワープさせることのできる装置ができても、おかしくはない。

エリナは、そう考え、あくまでも、自身で楽しむためだけに、製造したに過ぎなかった。

百年革命の時に亡くなった祖父…リョウスケ・アズマザキは、エリナに、『決して、世間に対して目立つことのない生活をするように…』と言い続けていた。

その言葉を、一瞬でも忘れたことのないエリナであったが、『どこでもドアを最初に発明すること』が『目立つこと』になると、この時は、思いもしなかったのである。

しかし、その発明写真が、エリナの知らないところで、画像情報として、漏れてしまったのである。

研究・開発すること自体が禁止されている秘密道具…悪用された場合に、どれだけの危険を伴い、実用化されることで、一部の業種・業態の存在意義を無にしてしまうはずである、その影響度合いが図り知れないほどの発明品。

 実際に、宮沢賢治により考案され、実用化された銀河鉄道は、この発明による廃線とされたともされている。


そのデモ映像が合成された映像ではないことが証明され、エリナは、A級犯罪者となり、中央政府から出頭を命じられた。

しかし、その時のエリナは、大人しく出頭するわけにはいかなかった。

少なくとも、エリナ自身は、鷹島市狼(たかしまいちろう)をルーパス号に残して自分が逮捕されてはいけないんだと思いこんでいた。

そこで、出頭しなかったことが、さらに、エリナを最悪の犯罪者…特A級犯罪者として生死を問わずと明記され指名手配されるという最悪の状態にしてしまった。


百年革命の後の5年間は、冷凍保存された鷹島市狼と共に、エリナはリンデ・クライドの保護下に置かれていたが、その5年の月日の中で、エリナは、キリエと出会い、キリエの導きにより、当時のルーパス号のクルー達と引き合されることになった。

宇宙用クルーザー『ルーパス号』に乗り1年間、密かに太陽系を脱出して、特殊遺伝子を持つキリエの他、同様に特殊遺伝子を持つ仲間4人と放浪生活をしていたエリナは、『どこでもドア』を発明したことにより、まず警察機関から狙われた。

 超高機動警察(スーパーポリス)は、宇宙空間をテリトリーとする海賊達を取り締まり、必要であれば現行犯逮捕することを主な任務としていたが、エリナのような特殊な犯罪者を追うための装備・組織・チームを持っているわけではなかった。

しかも、エリナの類稀(たぐいまれ)なる発明家としての資質は、その時点で宇宙船ルーパス号そのものを改造・改良・チューンアップを施していて、攻撃オプション装備の強化までをも実行していた。

そのことにより、ルーパス号は、容易には、発見されない…発見されても厳重と思われる包囲網を突破し、逃げ延びることができてしまう…それほどの大型宇宙用クルーザーに仕上がっていたのである。

通常の超高機動警察(スーパーポリス)の組織・チーム編成では、エリナを逮捕できないことを認めた中央政府は、特殊組織『シルフ』を結成した。

名目上は、女性のA級犯罪者を取り締まるというものであったが、唯一のターゲットは当時『エリナ・イースト』と名乗っていたエリナであった。

ルーパス号による逃亡・攪乱の他、未開の惑星を隠れ家にしたり、大胆にも大都市に居を移し、雑踏の中に身を隠すなど…『シルフ』とエリナとの追いかけっこは、丸1年に及ぶ長期戦となったのだが、 その時のルーパスのクルーで、今残っているのは、キリエだけなのである。

エリナを逃がすため、命を落とした2名…そして、逮捕された2名。それでも、キリエと二人…鷹島市狼を守ってくれという祖父の遺志を忠実に守るため、エリナは、逃亡生活を続けた。

エリナがシルフに追われていることを知ったリンデ・クライドは、シルフのリーダーが、自分の教え子であるカナリ・オカダであることを知り、強く心を痛めたが、自分では、どうしようもないことも、良くわかっていた。

そのリンデに、キリエから連絡があり、エリナを説得してほしい…中央政府へ出頭させて欲しいと懇願された。

そして、当事者であったキリエから、事情を全て聞き知ることができたリンデは、意を決し、シルフのリーダーであるカナリに、直談判を持ちかけた。

リンデ自身が、エリナを説得し、もう一度リンデの元で保護観察の対象とすること…そして、2111年に、鷹島市狼を蘇生させる時まで、エリナを逮捕させないという二つの条件により、カナリは、エリナの逮捕を先延ばしにすることを、しぶしぶながらも承諾した。

その時、カナリは、リンデに、『エリナが守っている鷹島市狼が、コールドスリープから解凍され、目覚めたら、絶対に、エリナを逮捕する』と言い切ったということまでが、カドクラの情報網を駆使して手に入れた情報であった。


ハルナは、耐久セッションの3周分…およそ、1時間15分かけて、そこまでの説明をした。

「ハルナは、あくまでもカドクラの情報網で、知り得た事しか知らないから、事実かどうかも…正直わからないの」

 イチロウは、そのハルナが語る報道された事実とカドクラの情報網が伝えたという内容を知らされたものの、何もコメントすることができなかった。

 矛盾する点を挙げたらキリがないようにも思えるが、それら全てが、真実を隠ぺいするために作られた創り話とも思えなかった。

「一見、仲よくさえ見える、エリナ様とカナリさんだけど…こうやって報道されたことだけ考えれば、カナリさんが、エリナ様を逮捕する機会を窺っていても、おかしくないとは思う…

 実際、チアキさんのあの口ぶりからすれば、チアキさんは、そう思ってるはず」

 当事者でもあるイチロウ…エリナが逃亡生活をしていた理由が、イチロウ自身にあること…確かに、ハルナから言われなければ、エリナを含めたルーパスのクルーからは、絶対に聞くことはなかったであろう情報…

「そして、エリナ様は、逮捕されることなく、こうやって、イチロウが蘇生した今も、ルーパス号での生活を続けてる…その一途さが、エリナ様のファンが、たくさんいる理由の一つでもあるのだけれど…」

「なんで、エリナは、逮捕されなかったんだ?」

「それくらい自分で調べてよ…って言いたいけど、意地悪しないで、教えてあげるね」

 イチロウは、無言で頷き、ハルナの次の言葉を待つ。

「Zカスタムにも搭載可能なワープ航法を可能にするワープユニット…そのオリジナルを開発したのが、ユウリ・ガリオン……

 いくらなんでも、イチロウも名前くらいは、知ってるよね」

「エリナから聞いている」

「去年…2010年の1月、そのユウリ・ガリオンがディープ・ヴァイオレットと名乗った宇宙海賊団に拉致されたの…

 その時、ハルナも賞金稼ぎをやってたから、彼を救出するためと賞金を稼ぐために、ディープ・ヴァイオレットを探し回ったにも関わらず…ハルナは、もちろん…警察を含めても誰も、その手がかりすら掴むことができなかったんだけど…」

「エリナ達が、助けたのって…そのユウリ・ガリオンなのか?」

「そう……だから、ルーパス…特に、エリナ様には、もう誰も手を出せなくなっちゃったんだ…警察は特にね…カナリさんの気持ちは、聞いてみないとわからないけど…でも、カナリさんは、絶対、卑怯なことはしないと思うよ…人一倍、正義感の強い人だし」

「じゃあ、誰が…?」

「今のは、あくまでも、エリナ様が狙われたと仮定した場合の話…狙われたのがミユイさんかもしれないんでしょ」

「ミユイは、今は、警察に24時間の警備を受けてるから、心配ないといつも言っている」

「あの後、ミユイさんもエリナ様も含めて、襲われてたりしてないでしょ」

「それは、そうだけど」

「でもさ……イチロウは心配し過ぎだよ…今は、ハルナもルーパスの一員なんだし、仮に海賊や警察が襲ってきても、返り討ちにできるよ…

 それに、エリナ様だけは、ハルナが命に代えても守ってみせるから…大船に乗ったつもりでいてくれていいと思うよ」



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