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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第9章 戦いの理由
39/73

-34-

 予選スプリントの結果が決定した。

1位…ルーパス・チーム

2位…ブルーヘブンズ・チーム

3位…サットン・サービス・チーム

4位…ジュピター・アイランド・チーム

5位…ギャルソン・チーム

6位…ヒマワリ・チーム

7位…オーロ・プラータ・チーム

8位…UMA・チーム

9位…ヨシムラ・チーム

10位…ライアン・チーム


 80チームあった参加チームが、この時点で、32チームに絞り込まれた。

クルミから差し入れられたケーキを頬張りながら、ミリーは、なぜか、ルーパスチームの狭いパドックに集まってしまった、上位3チームのパイロット、ナビゲータ、メカニックの、それぞれの顔を眺めていた。

もっとも、ブルーヘブンズ代表のアイコは、ハルナの言葉を借りれば、『疲れ果てて寝ちゃった』らしいのだが。

「このケーキおいしいね……クルミさんの手作り?」

「まぁね」

「イチロウはさ……あの人の言ってたことが、気になってるよね」

 ミリーは、今度はイチロウに話を振る。

「まぁ、気にはなってる」

「あのさ……お通夜の席じゃないんだからさ…さっきから、あたししか話してないんだよ……あたしだってさ、ケーキ食べるのに忙しいんだから、そう、四六時中、しゃべってるわけにもいかないんだよ…わかる?」

「ミリーは、ケーキ食べたいだけだよね」

 エリナが、苦笑する。

「そうだよ……こんな美味しいケーキ……みんなで楽しく食べようよ」

「この部屋の中にいるのが、女の子ばかりってのが、やっぱり、変な雰囲気作ってるよね……女の子7人と男の子2人」

「合コンするには、人数バランス悪いよね」

「そういう問題じゃないから」

「まぁ、あたしたちは、そろそろ自分とこに戻るよ…ミリーちゃん、明日も、よろしくね」

 クルミが、軽く手を振って、その場から、立ち去ろうとする。

「美味しいケーキ、ありがとうございました」

「うん……今夜、またGDで遊ぼう」


「イチロウさん……さっきは、ランデブーフライトにノってくれて、ありがとうございました」

「堅っ苦しい言い方しなくていいよ。俺も楽しめたし……ハルナは、けっこう、はしゃいでたから」

「そうなの?」

「うん……楽しかった」

 エリナの問いかけに、ハルナが、無邪気に笑う。

「アイコが心配なので、もう少し、ここに居させてもらっていいっすか?」

「それは、構わないが、教えてくれないか?」

「あの事ですよね……できれば、アイコがいるところで、伝えたかったんですが、ユキは、どう思う」

「ここまで、思わせぶりにしちゃってるんだから、はっきり伝えて、イチロウさんに、すっきりしてもらったほうがいいんじゃないかな……ってユキは思うよ」

「OK……じゃ、俺から言う」

「どうぞ……イチロウさん……テルシの話…信じられないかもしれないけど、嘘じゃないからね」

「イチロウさんが、遭遇した事故のことは、国家機密として、未だにその真相は公にされていません……知ってますよね」

「ああ…」

「ちょっと待って、その話…長くなる?」

 エリナが、尋ねる。

「手短に済ませますよ」

「あたしが、知ってることで、イチロウに言っていないことは、あたしから、後で、ちゃんと伝える……だから、カナエさんの忘れ物のことだけ…教えて。たぶん、それが、あたしが、知らない唯一の事実だと思うから」

「わかりました」

「俺も、それを知りたい」

「カナエさんの忘れ物っていうのは、カナエさんが生前、遺していた『冷凍保存されたカナエさんの卵子』なんです」

「……」

「ウソだろ……そんなものが、未だに」

「やっぱりそうか……」

 テルシが、言葉を飾ることなく伝えた事実を受け止めた、イチロウとエリナの反応は、まったく違うものだった。

「それをイチロウが持つことを、カナエさんが望んでるってことなんですよね」

 エリナが、テルシに尋ねる。

「結果的には、そうなると思いますが…

 実は、カナエさんが密かに自分のホームページスペースにアップロードしていたデータの一部に、パスワード保護された遺書と言える言葉があるんです」

「遺書?」

「その内容は、『東崎諒輔の子孫に託します』となっています」

「あたしに?」

 これも、予想の範囲内であったのか、驚くことなくエリナは、冷静につぶやく。

「驚かないんですね」

「まぁね……おじいちゃんから、それとなく聞いていたから」

「それをアイコが保管しています」

 イチロウは、無言で難しい顔をしている。

「ごく手短かに、話しました。俺たちの事も、ほんとうはイチロウさんに知ってもらいたいんですが、そろそろ、アイコも目覚めるでしょうし……ラッキーセッションのルーレットが、13時から開始されますよね」

「俺と、エリナが結婚して、カナエの子供を育てろとかそういうことなのか?」

「そこまで、はっきりとは書かれてないです。ただ、エリナさんに託すとだけ……だから、棄てるのも、中央政府に献上するのも、さっきのイチロウさんの言うように使うことも、エリナさんに決定権があります」

「政府は、欲しがるよね」

 ミリーが確信を持って言う。

「藍田香苗の卵子が遺されていたなんてね……人騒がせな女の人ね」

「考えてみれば、あいつらしいか」

「誤解を生まないために、順を追って話がしたかったのですが、やっぱり、このレースの全てのセッションが終わったら、一緒に夕飯でも食べませんか?」

「あの…お姉さま?」

 ハルナが心配そうに、エリナの顔を覗き込む。

「イチロウは、とりあえずモヤモヤが取れたでしょ……そろそろ、ルーレット始まるから、外に出よう」

 ハルナは、イチロウにも声を掛けて、そっと、その手を取る。

「アオヤギさん、クサカベさん……今夜、ルーパスに来てください…そこで、お話をしましょう…あと5分もすれば、ガンリキさんの疲れも取れます。ハルナは、多少は医療の心得があるので、そのことだけは安心して……

 ね、来てもらってもいいですよね、お姉さま」

「そうだね……あたしも、すっきりしたいし」

「わかりました……伺いますよ」



 ラッキーセッション開始のアナウンスが、メイン・モニターのスピーカーから伝えられる。

『スプリントセッションで勝ち残った32チームが、いよいよ、最大の関門に挑む時間がやってきました!!』

 このセッションの司会を務める男の声も、フルダチ同様にテンションが高い。

『もういい加減に撤廃して、実力勝負だけでいいのではないかという(ちまた)の声を無視し続けて、太陽系レース第1回開催から、ずっと続いている、このラッキーセッション……

 スプリントでトップタイムを出したチームであっても、結果次第で、勝ち残ることができなくなってしまうという……残酷非情なルールの元、取り行われますラッキーセッション……スプリントを運よく勝ち抜くことができました、皆さん…覚悟はよいでしょうか?』

「誰に言ってるんだろう?」

「そりゃ……みんなじゃない?」

 イチロウは、この太陽系レースを予選から見たことはなかった。エリナが、それまで、そんな必要ないからと言っていたのと、やっぱり、なにかと忙しかったこともあって、余りテレビを観ることもなかったからだ。

『では、参加者の皆さん、メインモニターに注目をしてください』

 そのメインモニターに、32までの数字が順序良く配置され赤と黒で色分けされたルーレット・ベッティング用のテーブルが表示される。

『このラッキーセッションは、16回、ルーレットを回すことで、次の耐久セッションに挑む挑戦者を、運のみで選出するゲームとなります。

 そして、このセッションは、他のセッションと異なり、公式の視聴者参加による賭けができるようになっています』

「さっさと、16本クジ引きでもすればいいのにね」

「そうだよな…」

 エリナは、イチロウにゲーム説明をするチャンスを利用して、必要以上に密着しながら、話しかける。

「視聴者参加ってことはさ…俺たちも参加できるのかな?」

 イチロウがエリナに質問する。

「うん…できるよ」

 答えながら、イチロウの携帯端末を、エリナが勝手に操作する。

「こうやって、この太陽系レースの公式ページを出すと、今だったら…1回目にルーレットのボールが止まる場所にベットすることができるの……じゃ、試しに1回目は1番に、1万ドル賭けてみるね」

「ちょっと待てよ…1万ドルって…1番が出なかったら、その金どうなるんだ?」

「もちろん、賭け金は、没収されちゃうよ」

「だから、待ってくれよ…それ、俺の金じゃないのか?」

「そうだよ、これイチロウのケータイだから」

「その1万ドル稼ぐのに、俺がどれだけ苦労したか、エリナだって知ってるだろう」

「でもさ…当たれば、32倍になるんだよ…32万ドルだよ。おいしいと思わない?」

「だから、待ってくれよ」

「もうベットしちゃったもん…取り消せないよ」

「エリナ…」

「男のくせに、ダメになったって1万ドルくらい、すぐに稼げるよ…あ、一応、賭け金の上限は、1万ドルなんだ」

「わかったよ…また、しばらくサバ味噌定食の生活が続くと思えば…諦めもつくか…」

「イチロウ…この1回目のベット状況、ちゃんと見てくれないと…モニターに出てるでしょ」

 エリナが、指し示すモニターの赤く塗られた1の数字のある場所に、賭け金を示す数字が250万を超えているのがわかる。

「1点賭けに、250万人だからね…それだけ、賞金稼ぎではないハルナが有名人だってことを知ってもらわないと……ほんとに、イチロウは知らないの?」

 仲よく寄り添っているエリナとイチロウを邪魔したくなかったハルナだが、さすがに、この時だけは、自分が有名人であることの自慢をしたかったのか、イチロウの耳に、直接こっそりと囁く。

「え…?250万?」

『では、第1回目…ルーレットの中へ運命のボールが、投下されます。今回は、圧倒的に、1番への1点賭けが多いですねぇ…もし、これで、本当に1番に入るようであれば、ブシテレビもスポンサーも大赤字確実ではありますが…

 もう、なるようになれってことでしょう…この赤字覚悟の大出血サービスで、世間の景気が回復すれば、この太陽系レースにも意義があるということになるでしょう……さぁ、回転の勢いが衰えてきましたが…1番に的中するのでしょうか?』

そして、投下されたボールが、最後のひと転がりで1番のポケットに停止した映像が、モニターに大映しにされる。

『やっぱりです…もう、このルーレットセレクトに、イカサマや八百長の疑惑なんかないってことが、全世界に知れ渡る結果となりました…見事に、ラッキーセッションを1番で通過したのは、予選順位1位…つまり、ルーレット番号1番のルーパス・チームです!』

 モニターが、呆けた顔のイチロウと、その両脇で、小躍りしてガッツポーズをしているエリナとハルナの二人の姿を映し出す。

「3人まとめて96万ドルゲットー!!」

 エリナが、大声を張り上げる。

「お姉さまったら、そっち?」

「あ…もちろん、セッション通過も嬉しいけど、ほら…ねぇ、ミリーだって、お金大好きだよね」

「もちろん、3度の飯より、お金が大好き!!聞くだけ野暮ってもんだよねぇ、エリナ」

「エリナもミリーも、現金だよな」

「うん…そうだね」

「でもさ…そうやって澄ましてるハルナだって、賞金稼ぎやってたくらいだから、お金は嫌いじゃないよね」

「そりゃ」

 そのルーパスの独身女子3人が盛り上がっているところへ、奥の部屋で横になっていたブルーヘブンズのアイコが眼をこすりながら、現れた。

「お目覚めですか?ガンリキさん」

「はい…ハルナさん…お世話になりました…」

「今夜、ブルーヘブンズの方をルーパスに招待することになっています。また、その時、ゆっくりと、お話をしましょう」

「はい…」

「アイコ…少しは幸運が身についたか?」

 アイコが目覚めるのを待っていたテルシとユキが笑顔で迎え入れる。

「少しはね…」

「何チーム決まった?」

「まだ、ルーパスが決まっただけ…どうだ、運試しに、全部、2番に賭けてみるか?」

 テルシが、アイコに聞いてみるが、アイコは、即座に頭を振る。

「眼が覚めて、すぐに占ってみたんだけどね…やっぱり、今回はダメっぽいよ…だから、無駄なことはやらない」

「そうだな…素直に、俺たちのパドックに戻ろうか」

「あの話は?」

「俺がしておいた…それで、今夜、ルーパスに招待されることになったんだ」

「それは嬉しいね」

「是非遊びにきてください…歓迎しますよ」

 ハルナが、アイコに握手を求める。


ラッキーセッションは、その後、テンポよく進み、16チームを選出していった。

最後の16チームめが、ジュピターアイランドに決まった瞬間…ブルーヘブンズチームが、次の耐久セッションに挑むことができないことも、同時に決定された。


「ついに、アイコにとっての残酷ショーも終わったね」

 ユキが、大きな伸びをしながら、ブルーヘブンズチームにとっての4月ステージが終わったことを、そのような言葉で形容した。

「残酷ショーかぁ…

 確かに、16回連続で、自分の不運を確かめなくちゃならないってのは、残酷ショーと言えるかもね。

でもさぁ、1番のベットは当たったんだから、ハルナ大明神のご利益(りやく)はあったんじゃないのかな?」

自虐的に、苦笑しながらアイコが呟く。

「あれは、外せないよね…外すほうが難しいと思うよね」

 ユキの邪気のない言葉が、アイコの希望を僅かに曇らせる。

「外す人はいないのか…

 ピンク・ルージュ・ハルナ・カドクラかぁ…あんなに、いろいろな幸運が付いて回る人って、いつも、何を考えてるのかなぁ」

「今日、聞いてみたら?」

「そうだね…」

「ルーパスの人たち、ユキたちのこと、どう思ってるのかな?いきなりやってきて、イチロウさんとエリナさんの気持ちを惑わせるようなことを言うのって、やっぱり迷惑だと思ってるよね」

「迷惑以外のなにものでもないよね…」

「これがきっかけで、あの二人別れちゃったりして…アイコの不運が伝染性がなくって、ほんとに良かったと思うよ」

「もう、やめよう…ユキ、テルシ…本当に、いつも迷惑かけちゃってごめんなさい」

 アイコは、二人に対して深く頭を下げる。

「アイコ…もう1回、ルーパスチームに挨拶に行かないか?」

 テルシが、落ち込み真っ最中のアイコに提案してみる。

「何しに?」

「幸運を分けてもらいにさ……決まってるだろう?」

「お手伝いとかじゃないんだ」

「俺たちが手伝うことなんか、もうないんだろうけど、次は耐久セッションだからさ…スプリントの時みたいには殺気立ったりしないだろうし…俺たち暇人集団になっちゃったしさ」


「とりあえず、お祝いを言いに来た。エリナ、よくやったな」

 カゲヤマが、耐久セッション進出が決定したルーパスのパドックに顔を出した。

「あ…ありがとうございます。今回は、そっちのお手伝いできなくなりました」

「しかし、スプリントで1位のタイムを出した後、ラッキーセッションでも、1位勝ち抜けってのは、出来過ぎじゃないのか?」

「えへ…これが、本気になった、あたしの実力ですよ」

「明日の決勝は、こう、うまくは行かないから…覚悟しておけよ」

「オータチームには負けませんよ」

「すごい自信だ…」

「怖いのは、カナリさんのところのポリスチーム…公式練習でやりあったけど、前回の金星ステージの時とは、まったく違う機体にチューニングされていました」

「確かに、あのパワーは、決勝では脅威だからな…」


『それでは、ラッキーセッションを勝ち抜いた16チームは、ブシランチャーにスタンバイをしてください』

 アナウンスが、耐久セッションの開始を伝える。

「ハルナ…イチロウ、頑張って来てね」

「あ…はい…お姉さま」

「普通に、飛んで来れば、クリアできるからね、今回は、無理矢理トップ通過を狙う必要はないから…燃料補給はできないので、とにかく、燃料を温存して、8位通過でいいんだからね」

「わかってます」

「スタートは14時だったよな…エリナ」

「そうだよ、それから4時間、燃料補給一切なし」

「作戦は?」

「どこのチームもそうだと思うんだけど、秒速30kmまで1周めで引っ張って、後はラスト2~3周までは、タッチ&ゴーの繰り返し…退屈かも知れないけど、とっても大事なセッション」

「加速しなければ、地球1周25分くらいだから、だいたい、10周くらいはできる計算…ラスト2周くらいが実質のバトル周回になるけど、8周目完了のタッチダウンの後は、加速して、他の機体に付いて行ってくれればいいからね」

「その辺は、ちゃんとエリナが指示してくれるんだよな」

「う~ん、さっき、カゲヤマさんに、デートに誘われちゃったから、あたしは、コントロールルームにいないかも」

「エリナでも、そういう冗談を言えるんだ」

「誘われたのはホントだけど…なんか、カゲヤマさん、今は、ミナトさんと修羅場ってるから、どうなるか、わかんない」

「イチロウ…とにかく、Zカスタムに乗って、あとは、通信で、作戦確認しよう」

「そうだな」

 イチロウは、ハルナに促されるままに、Zカスタムに乗り込む。

二人が乗り込み、シートベルトを締めて、準備を済ませると、Zカスタムは、ブシランチャーカタパルトデッキへの移動を開始した。

「イチロウ…スプリントに較べれば、退屈なセッションなのは間違いないけど、このセッションは、実況も殆どないし、ラスト30分まで、特にバトルらしいバトルも期待できないけど…だからこそできることもあるんだよ」

「いわゆる、暇つぶしをするってことか?」

「まぁね…ずっと、お姉さまと、おしゃべりしていられるのは、ちょっと嬉しいかも」


「…だから、なんで、ここにミナトさんがいるんですか?」

 カゲヤマは、ハルナの父シンイチに寄り添うように、パドックの仲間たちの邪魔にならないように佇んでいるミナトに声を掛けていた。

「今日、あたし、お休みなんです」

「俺たちの応援には、いつも来てくれないのに、ルーパスの応援には、予選から来てるのは、オータ(ケアル)の社員として納得できないんだけど…」

「納得してください…なんて言ってません」

 ミナトは、カゲヤマを挑発するように、大きく胸元が空いたレオタードに覆われた、形の良い胸を、反らせてみせる。

「応援する義務もありませんから」

「俺が、きみに何をした?」

「特に、なにも…」

「だったら…」

「この話…もしかして長くなりますか?」

「きみ次第だ…」

「オータ(ケアル)のエースパイロットが、こんな、なんの取り柄もない女を、本気で好きになるはずないですよ」

「それは誤解だ」

「エリナさんが好きなんでしょ」

「俺にとっては、彼女は単なる仕事仲間だ」

「それは、エリナさんに失礼ですよ」

「エリナは、そのことをわかっている」

「あたし…イチロウくんを応援してあげたいの…邪魔をするなら、会長に言います」

「ミナトさん…」

「目障りですよ…カゲヤマさん…」

「な…」

「ミナトくん…それは言い過ぎだ」

「すいません…社長…連れてきていただいたのに…こんなことになってしまって」

「カゲヤマくん…彼女には、私からよく言っておくから」

「社長に、とりなしてもらおうとは、思っていません…彼女の誤解は、自分でなんとかします」

「諦めてください…あたし、不誠実な男性は、大っ嫌いなんです」

「そこまで嫌われるようなことを、俺はした覚えがないんだ…それだけでも、教えてほしい」

「自分がしたことを、覚えてないの?」

「それを教えてほしいと言ってる」

 延々と続いてしまいそうな口論というか痴話げんかにあきれたのか、その場を見守っていたカドクラは、そっと、二人の傍を離れることにした。

 


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