-33-
イチロウが、スタートボタンを押しこむ。
それが、Zカスタムが、タイムアタックに臨むことを宣言するサインとなるのである。
「後は、きっちりと、この1周を回り切ること……ここからは、ハルナの独壇場ってわけよね」
「まだ、燃料には余裕がある」
「そうだね……最後の最後でワンプッシュしてみようか」
『イチロウ……ハルナ……最高!!』
「さすがに、エリナの作ったZカスタム……最高の機体だ」
『でも、最後まで、気を引き締めてね』
「わかってます……お姉さま」
そこからの1周は、ハルナの細心の集中力で、ミスを犯すことなく、しっかりと回り切った。
4分59秒133……
『ついに……ついに、1周4分台という驚異的な記録が、太陽系レースの歴史に刻みつけられました』
フルダチの興奮冷めやらぬ実況が、モニターを通して、ルーパスのパドックにも響き渡った。
エリナを含めた全員が、思い思いの大きく派手なガッツポーズを繰り返す。
エリナも、興奮しすぎて思わず一番傍にいた長身の男に抱き付いてしまった。
その長身の男は、他でもない、ハルナの父…シンイチであることに、エリナは、すぐに気付いた。
「ごめんなさい……あたしったら、初めて会ったハルナのお父様に…なんてことを……」
「きみのほうから抱き付いてくれるとは……ずっと、このまま離したくなくなってしまうではないか」
「そんな……」
エリナは、力強く抱きすくめられている感覚を感じながら、頬を紅潮させる。
「お疲れ様……よくやったね……きみも、ハルナたちも……」
「はい……でも、あの…その、そろそろ離していただけますか?」
『お父様!!』
ハルナの声がZカスタムから届く。
その叱責に近い怒気を含んだハルナの言葉に、シンイチは、エリナの背中に回した手を、名残り惜しそうに、引き戻す。
「まだ…残り時間がたっぷりあるから……これで決まりってわけじゃないけど」
『うん……お姉さま……油断大敵ですものね……残り2回のタイムアタックに行けるよう…早めに戻ります』
「エリナさん……」
声がした方向をエリナが振り返ると、明るい水色の髪の長身の少女が佇んでいた。
「ガンリキさん?」
「アイコのアイは、アイラヴユーのラヴなので、ラヴちゃんって呼んでもらいたいんですけど……はじめまして、エリナさん」
「あの…ブルーヘブンズチームの代表の方ですよね」
「そうです」
アイコが、静かに応える。
「まだ、時間は残っていますよ」
「う~ん、そうなんですけど……とりあえずギブアップ……どう計算しても、コスミックラヴァーでは、4分台は無理……おめでとうを言いにきました」
「あ…それは…なんというか、ありがとうございます」
エリナは、なんとも表現のしようがない複雑な顔になりながらも、辛うじて、お礼を言うことには成功した。
「あの……お願いがあるの」
「お願い?……ですか?」
「はい」
「そういうのは、スプリントセッションが終わってからのほうが、いいと思いますよ」
「非常識なのは、わかっています……でも、終わってからでは、お願いできないので」
「あの……ガンリキさん……うちのエリナは、けっこう鈍いから、あまり持って回った言い方しないほうがいいよ」
興味深々で、成り行きを見守ろうとしていたミリーだったが、我慢できずに、エリナとアイコの間に割って入ってきた。
「ミリーさん……」
「言いたいことは、だいたいわかった気がする。イチロウと一緒に飛びたいんでしょ」
「はい!!」
快活に大きな声で応えたアイコは、大きな体で大きなお辞儀をしてみせる。
「でも、練習でもない時間で、Zカスタムに乗せることはできないよ」
エリナが首を捻りながら、不思議そうな顔をしてみせる。
「エリナ……本気で言ってないよね」
「え?他のチームの機体に乗るのは、だめだよね……ミリー」
「一緒に乗るんじゃなくてさ……ランデブーフライトしたいんですよね、ガンリキさんは」
「はい!!」
「ランデブーフライト?今?予選中なのに?」
「はい!!」
アイコが、3度目の『はい』を言ったところで、何がツボにはまったのか、なぜか、アイコは、身体を『く』の字に折って笑い出してしまった。
「もしかして、あたしが笑われてるの?」
エリナは、相変わらず、狐につままれたような顔で尋ねる。
「ごめんなさい……笑うつもりはなかったんですよ」
アイコが、眼の縁に盛り上がっている涙を指の先で掬い取って、虚空に放り投げてから、謝罪をする。
「今のは、エリナが悪いよ……鈍すぎ」
「すいません……」
「とりあえず……ランデブーフライトの件は、条件付きでOKです」
そう言って、ミリーは、条件が一つあることを示すように、人差し指を1本だけ立ててみせる。
「いいんですか?」
「もちろん……断る理由ないしね」
「え…と、条件というのは?」
「なぜ、今……なのかを教えてもらえる?」
「そうだよね……えっと…ミリーさんは、プロのゲーマーですよね」
「うん、そうだよ」
「あたしは、占星術師なんです」
「その占星術師さんが、なぜ?ここで、ランデブーフライトすれば、イチロウを手に入れられるとか、結果が出たりしたのかな?」
「ミリーさんは、せっかちですね」
「まぁね……結果が出ないのは、もどかしいんだ」
「あたしは、運が悪いんです……異常に」
「どういうこと?」
「次のラッキーセッション……絶対、勝てないんです……占いで何度やっても、勝ち残れるって結果が出ないんです」
「絶対……なんてことはないよ」
それまで、ミリーとアイコのやり取りを黙って聞いていたエリナが、聞き捨てならないという真剣な表情になって、口をはさむ。
「そう言える、エリナさんが羨ましい」
「アイコさんて、今、何歳?」
「エントリーリストには、年齢不詳にしといてもらってあるんだけど……聞きたい?」
「言いたくなければ、聞かないけど」
「9歳……なったばかり……イチロウさんの生まれた日の一日前が、あたしの誕生日……一緒だったらよかったのに……ね、運が悪いでしょ」
「その身長で?9歳?」
「なんで、こんな遺伝子を受け継いじゃったのか……モデルになりなよって、他の人にはよく言われるけど、身長はこんなでも…胸は、エリナさんと一緒なんですよ。絶対、モデルになんかなれるわけないですよね」
「その言い方は……」
「ごめん、ごめん、悪気はないんですよ」
「ガンリキさん?」
「ラヴちゃんでいいって、言ったじゃない」
「初対面で、その呼び方はできないよ」
「ということで、商談成立!!テルシとユキも楽しみにしてるから……ほんとうは、決勝で、イチロウさんとガチバトルやらせたかったんだけど、今のところ、あたしの不運が、二人にも迷惑かけちゃってるからね。
今日、がんばってもらった、二人へのお礼に、こうやって、お願いに来たの」
「どうする?エリナ」
ミリーが、エリナの顔色をうかがう。
「イチロウに聞いてみる」
「そうだね……」
エリナが、コントロールルームに戻り、イチロウへ通信を送る。
「イチロウ?今、ブルーヘブンズのガンリキさんが来てるんだけど、イチロウにお願いがあるんだって……」
『ブルーヘブンズの?カナエのことなら、予選の結果が出てからじゃないのか?』
「そうか……カナエさんの忘れ物とか言っていたんだっけ……
えっと、それとは、別の話でね、タイムアタックはなしで、イチロウたちとランデブーフライトやりたいんだって」
『ランデブーフライトって?』
『一緒に、飛びたいってこと?』
「そういうこと」
ハルナのフォローの言葉に、エリナが答える。
『いいんじゃないか?俺たちは、かまわないよ』
「イチロウは、不思議に思わないの?」
『でも、エリナがOKしたいから、俺に聞いてきたんだろ?』
「う~ん……そういうことになるのか……」
『お姉さま……その人と、今、話せますか?』
「話せるよ……今、代わるね」
「ハルナさん……ほんとは、明日、一緒に戦いたかったんだけど、無理っぽいので、今、140kmオーヴァーの高速バトルを挑みたいんですけど?よろしいですか?」
『予選でのバトルは厳禁のはずですよ』
「バトルと言ったのは、言葉の綾です。だから……ランデブーフライトと言いました。危険なことは、絶対しません」
『ハルナも、臆病者とか言われたくないので、受けます』
「だから、言葉の綾ですって……」
『わかってる。ちょっと楽しみ……というか凄い楽しみ』
「ありがとうございます」
『なんということでしょうか……』
『いやぁ、私も眼を疑いましたよ』
実況席のフルダチとイマノミヤが、呆気にとられていることは、想像に難くないと、エリナは、思っていた。
モニター映像として映し出されるZカスタムと、コスミックラヴァーの2機によるランデブーフライトに、自分自身も眼を奪われていた。
機体と機体の直接の接触をさせないために考案され、実用化されたオータコートの磁力バリアの有効範囲ギリギリの距離で、デモンストレーションというには、余りにも、超スピードのアクロバットフライトを繰り返す2機。
「イチロウ……あの子たち、面白いと思わない?」
「ああ…こんなに楽しいのは、ハルナとのバトル以来だ」
「すっごい、イチロウ最大最高の褒め言葉だよね…それってさ」
『イチロウさん、最高ですね…そのテクニックは、21世紀の宇宙飛行士の訓練で、身に付けたんですか?』
ブルーヘブンズのメイン・パイロットである、テルシ・アオヤギが、素直に、イチロウに賛辞の言葉を送る。
『テルシはね……こうやって、イチロウさんと話がしたいって、ずっと言い続けて来たんだよ』
「ずっと…って俺が、この世界で目覚めてから、まだ3か月も経っていないっていうのにか?」
『そりゃ…俺たちは、アイコを含めて、あの21世紀の事故の関係者グループですからね……イチロウさんの情報は、全て知ってるんですよ』
『テルシ……それは、アイコが……』
『ああ……ごめん、アイコ。言っちまった』
罪悪感の全くない口調で、テルシが、あっけらかんと形だけの謝罪をする。
『言っちまったじゃないよ…テルシは、おしゃべりなんだから』
「事故の関係者?……なのか?」
『イチロウさん、詳しい話は、このフライトが終わったらってことで……もう1周楽しみましょう。まだ、燃料は保つんでしょ』
「ああ……今は、ほぼ慣性フライトだから、燃料の心配は、ほとんど必要ない」
「お疲れ様……なにか飲む?」
エリナが、パドックにZカスタムの機体を戻した、イチロウとハルナを労いながら、明るい表情で話しかける。
「じゃぁ……」
「とりあえず、ビール!!」
「とりあえず、ビールを……お姉さま」
エリナが、イチロウとハルナの頭をヘルメット越しに叩く。
「あいにくと、シャンパンしか持って来てないからね……これで、がまんして」
そう言って、シャンパンの入ったチューブ容器をエリナは、二人に手渡す。
「あと……5分後に、結果が出る……今、タイムアタックをしてるチームはないから、ほぼ、うちの1位が覆ることはないんだけど……決まったら、みんなで、シャンパンファイトしようね」
「エリナ、嬉しいのはわかるけどさ、それは、ちょっと気が早いんじゃないか?まだ、予選のスプリントなんだし」
「いいのいいの……カゲヤマさんのとこを手伝った時は、予選……スプリントは、やったことなかったから……こんなに楽しいものとは思ってなかった……来月も、やりたくなっちゃうよね……ね、イチロウ」
「いや、俺は、こんなにしんどいのは、もう御免だ……サットンのクルミさんや、ブルーヘブンズのテルシ君たちと予選で戦うのは、これっきりにしたいよ」
「へぇ……弱気じゃないの……あ・た・しのイチロウとは思えない言葉だよね」
「お姉さま……いつの間に、イチロウは、お姉さまの物になったんですか?」
「イチロウは、ずっと、あたしのものだったんだよ……そして、これからもずっと……ハルナったら、知らなかったの?」
「いや……エリナは、なんか勘違いしてるだけだから」
「潔くないぞ、オオカミくん」
パドックの周辺に、人が多く集まって来ているのを感じていたイチロウだったが、その集まってきた人の中に紛れていたクルミが、突如としてその場に現れて言った。
「クルミさん?」
「うん……クルミだ。若いんだから、まぁ、たくさんの女の子に、ちょっかい出したい気持ちは、痛いほどわかる」
「まだ、スプリントセッション中ですよ。こんなとこに来てていいんですか?」
「いいも、悪いも、オオカミくんのせいで、うちはギブアップだ……これ以上のタイムアップが望めない以上、暇つぶしに、ナンパしにくるくらいは構わないだろう?」
「言ってる意味が?」
「ミリーちゃんを本気で口説きにきたんだ」
「あたし?」
突然、名前を呼ばれたミリーが、きょとんとした顔で、初めにイチロウの顔を…そして、次にクルミの顔に視線を合わせる。
「スプリントの結果が決定する瞬間に合わせるつもりだったんだが、とりあえず、ルーパスは、女の子が多いから、これくらい食べきれるだろう?」
そう言って、クルミは、ミリーを手招きする。ミリーが、近寄っていくと、クルミに付いてきていたキサキが、携帯食料を収めるカプセルが十数個入ったコンテナボックスをミリーに手渡す。
「あたしが作ったケーキだ。ミリーちゃんにプレゼントするよ」
途端に、ミリーの顔が、輝く。
「ありがとうございます……ケーキ大好きなんです」
ミリーは、その喜色満面の笑顔で、深くお辞儀して礼をいう。
「ミリーちゃんとの濃厚キスが忘れられなくてね……しばらく、ここに居ても邪魔じゃないよね」
「もう……あれは、忘れてください…」
「忘れたくないから、ここに来たんだけどな」
「でも、クルミさんなら、大歓迎です……ね、イチロウ」
「もちろんですよ」
「ありがと……あと、1分か」
スプリントセッションの終わりの時間が、近づく。これで、ルーパスチームのタイムを上回るチームが現れなければ、イチロウたちが、トップタイムで、予選を通過することができる。
その場の全員が、モニターの残り時間表示に注目する。
残り……15秒…10秒…5秒…
『TIME UP』
の文字が、画面に大映しになる。
イチロウが、握った拳を突き上げ、大きなガッツポーズを取る。
ここぞとばかりに、エリナが、そのイチロウの背中に手を回して、しっかりと抱きしめる。二人の傍に来ていたハルナも、両手を握りしめ、イチロウに視線を合わせ、ハルナに出来得るかぎりのかわいらしい仕草で、ガッツポーズをする。
エリナに、抱きすくめられたイチロウが、ハルナとのアイコンタクトだけで、突き上げた拳を開き、ハルナに掌を向ける。ハルナも一度は固めた拳を開いて、イチロウの求めるハイタッチに応じる。
「イチロウ……」
エリナが、蚊の鳴くような声で、おずおずとイチロウの名を呼び、上目使いでイチロウの顔…眼を見つめる。
「エリナ……おめでとう」
イチロウの声に、エリナの瞳から涙が湧きだす。無造作に、その涙を右手の人差し指で振り払ったエリナが、床を軽く蹴り、イチロウの顔の位置に自分の顔を近づけ、イチロウの唇に、自らの唇を重ね、そして、瞳を閉じる。
時間にして数秒……エリナは、至福の時を、感じていた。
ハルナは、何も言わずに、二人の姿を温かく見守る。やがて、エリナは瞳を開き、名残り惜しそうに、唇を離す。
「お姉さま……ハルナにもご褒美をください」
エリナにだけ聞こえる声で、囁くように言ったハルナに対しても、エリナは躊躇うことなく、自ら軽いバードキスをする。
「もう……」
自分の唇から遠ざかろうとするエリナの唇を追うように、ハルナが、エリナの唇に2回……その鮮やかなピンクのルージュで彩られた唇を触れさせる。
「おめでとうございます……お姉さま」
「うん……ハルナ、ほんとうにありがとう」
「イチロウも、ありがとう」
「まだ、スプリントの結果が出ただけなんだけどな」
「ここさえ乗り越えれば、もう予選通過確実だからね」
ハルナが、自信満々に言う。
「相変わらず、すごい自信だな……ハルナは」
「ランデブーフライトの前のガンリキさんとお姉さまの会話、聞いちゃいました……」
「あのブルーヘブンズの?」
「はい……人は、生まれた時から運がとても強い者と、そして、とても運の悪い者が、確実に存在します…」
「そういえば、ガンリキさん、運が悪いって嘆いていたな」
「うん……ああまで言うんだから、きっと、それは事実なんでしょうね。でも、彼女と違って、このハルナ……クジ引きとかビンゴとかで、1位を外したことないんですよ」
「嘘……」
「嘘じゃ、ありません。宝クジも、買えば、必ず当たります。もっとも、1等を取ったのは一回だけですが」
「まさか……イカサマ?」
「イカ様でも、タコ様でもありません。事実です……だから、心配しないで。ここで1位を取った以上、100%、明日の決勝に進むことができます」
「なんか、このスプリントもハルナの運だけで、通過したように聞こえちゃうな」
「そんなことはありません……この結果は、お姉さまの実力以外の何物でもないんです」
「やっぱり、そうなのか?」
「勝って当然じゃないから、こんなに嬉しいんじゃないですか……ね、クルミさん」
「そうだな……ラッキーだけでは絶対勝てないから、価値がある」
クルミは、ハルナの問いに笑顔で応える。
「ねぇ、ピンクルージュ・ハルナ?」
アイコが、ここがチャンスとばかりにハルナに声を掛ける。
「ハルナさんの運が、とっても…世界中の誰よりも、そして、天を駆ける龍神の閃きよりも何十倍も強いってことは、きっと、レース関係者なら知らない人はいないと思います……そこで、お願いが……」
「はい?」
「その強運を、あたしに分けてください」
「そんな…運なんて…そう簡単に分けられるものではないと思いますよ」
「気持ちだけ……次のラッキーセッションの通過を期待したいから……今回がダメでも、来月で、ラッキーセッションを通過できるように、あたしに、魔法を掛けて欲しいんです」
「そんな……ハルナは、そんな魔法、使ったことなんてないです」
「ハルナちゃん…ガンリキさんが、ここまで言ってくれてるんだ……魔法を掛けてあげればいいのに……どうせ、減る物でもないんだろう」
クルミが、わけのわからない突っ込みを入れてくる。
「魔法とか、わけ分かりません……でも、何をすればいいんですか?ハルナにできること?」
「ハルナさんの『パラライズ・キッス』を…1時間だけ……そう1時間だけでいいから魔法を掛けて欲しいんです」
「はぁ???????」
そのアイコのお願いに、ハルナが狼狽しているのは明らかだった。
「やっぱり、ダメですか?」
(なんで、知ってるの?)
「あたしは、占星術師です。この世界の全てのことは、星を読むことで、解決策がわかります……ちなみに、あたしが得意とするのは、中国四千年の歴史に裏付けされた星読みの技術……伏龍・諸葛孔明に匹敵する軍師としての才能も持ち合わせていますから……あと、必要なのは運だけなんです」
「おかしな女の子……ほんとうにいいの?」
「ハルナさんが、あたしに幸運をもたらすことのできる唯一の存在なんです……お願いします」
「でも、ここでは、まずいよね」
「そうですか?」
「奥の部屋で……世間の人には厚顔無恥と思われてるかもしれないですが、ハルナだって、人前でやる度胸なんかないんですよ」
「女の子ですもんね」
「そういうこと」
「お姉さま……ちょっと、ガンリキさんと、奥の部屋へ行ってきます。ハルナは、すぐに戻りますので、ここで、イチロウとの愛を育んでてください」
「な……なにを言い出すの?ハルナ」
エリナが、顔を赤くする。
「お姉さまったら……今、変なこと考えたでしょ」
エリナは、さらに顔を赤くして、うつむいてしまう。
「イチロウ……お姉さまをよろしく」