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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第8章 告白
37/73

-32-

「エリナ様を、泣かせたら、許さないって言ったよね……」

 ハルナは、イチロウの肩口に、自分の頭を預けながら、安心したような笑顔で、イチロウに、そう告げる。

「ハルナの許さない……は、はっきり言って怖いよ」

「そりゃ、そうだよ……

 セイラの曲はなんでもいいかな?」

「ああ……選曲は、ハルナに任せるよ」

 Zカスタムのコックピットに静かなイントロが響きだし、やがて、セイラの声で満たされる。

それから、以前ミリーの母、リンデから手渡された、エリナがイチロウとダンスを踊ってる映像が、Zカスタムのメインモニターに映し出される。

「エリナ様って……かわいいよね」

「この映像のエリナは、可愛いと思う」

「生身のエリナ様は、この100倍は、かわいいのにね……イチロウは知らないんだ」

「なんだよ……」

『イチロウ……絶対に勝ってよね』

 先ほどとは、雰囲気が変わったエリナの力強い声が、コックピットに届く。

「わかってるよ……」

『イチロウは、ルーパスチームの切り札なんだよ』

「ブルーヘブンズがいなければ、ハルナだけでも、なんとかなったのに……ああいう得体のしれないチームを相手にするには、やっぱりイチロウの隠された未知の力が必要だってことだね」

「みんな、俺のことを買いかぶり過ぎだ」

「それだけ、みんなイチロウの事が好きだってこと……」


 Zカスタムのエメラルド・グリーンの機体が、ブシランチャーに吸い込まれるように、着艦を果たす。

「とりあえず、お疲れ様」

 ハルナが、(ねぎら)いの言葉を口にする。

「うん……今のところ、2位か……」

 イチロウが、ぼそりとつぶやく。

『燃料の補給が済んだら、すぐに出すからね』

「わかりました」

 エリナの指示に、ハルナが承諾の返事を返す。

『それと、ウミちゃんが、そっちにコントローラを届けるって、さっき向かって行ったから、受け取ってね』

「はい?もしかして、ハルナ専用コントローラですか?お姉さま」

『そうですよ』

「だったら、お姉さまに届けて欲しかったなぁ」

『あたしは、あたしで、やることがいっぱいあるんだから……暇じゃないのよ』

「どうせ、ハルナは暇人ですよ」

『それと、暇人が二人、ウミちゃんと一緒に、そっちに行ったから、相手をしてあげて』

「誰ですか?ミリーとギンかな?」

『会えば、わかるよ』

「暇人二人とウミちゃんが来てくれるって」

「聞いていたよ」

「誰かな?」

 そこで、イチロウの携帯端末に、着信が入る。

「ウミです。ちょっと迷っちゃって……この辺、複雑で、良くわからなくなっちゃったから……迎えに来てくれないですか?」

「ウミちゃん?

……なんで、俺の番号知ってるの?」

「エリナさんから聞いたに決まってるじゃないですか」

「ちょっと、見てくるよ」

 イチロウが、Zカスタムの扉を開けると、そこには、見覚えのある3人の姿があった。

スコール・イーマックス社の社員であるウミと、ハルナの父…カドクラホテルチェーンの現社長であるシンイチ・カドクラ。そして、

オータ(ケアル)エクスプレスのオータケ会長宅に住み込みで働いているはずの、家政婦ミナト・アスカワの3人だった。

「カドクラ社長……」

 イチロウは、驚きを隠せずに、微笑を口元に浮かべているシンイチの名を呼んだ。

「昨日のうちに、宇宙に上がって来ていたのだが、挨拶が今日になってしまった。イチロウくんのレースは、ずっとVIPルームで観戦させてもらっていた。大丈夫、必ず、君たちは勝つことができる」

「お父様?」

 Zカスタムから降りてきたハルナも、父がいることに気づいた。

「ハルナも頑張ってるな……イチロウくんに迷惑かけてないよな」

「お父様は、なぜ、こんなところに?」

「娘の顔を見に来てはいけなかったか?」

「お父様の目的は、エリナ様ですよね……こんなところで、娘思いの父親役を演じる暇があったら、エリナ様を口説いてたほうが、ずっと、いい暇つぶしになるように思いますけどね」

「あ……ハルナさんに、これを……」

 ウミが、ハルナに近寄り、ピンク色のゲーム用のコントローラを手渡す。

「じゃ、暇人二人は、これで退散しますか?ミナトくんも、用事は済んだかな?」

「はい……イチロウさんの視線を独り占めにできたので、満足です」

 (きわ)どいハイレグレオタード姿のミナトが、楽しそうに微笑む。

「あ……ミナトさん、このスーツ、ありがとうございました」

 ハルナが、ミナトに礼を言う。

「イチロウも、ちゃんと、お礼言ってないんでしょ」

「あ……とても、着心地いいです。Z旗も……どっちも、手作りですよね」

「うん……気に入ってくれた?」

 ミナトは、胸元を強調するように、少し、背中を反らして、破顔する。

「明日の決勝は、このレースクイーンの姿で、ルーパスのピットに入らせてもらいますね。さっき、エリナさんの許可も得てきましたから」

「はぁ?」

「イチロウくんの応援したいの……だめ?」

「ミナトさん……あなた、オータチームは?」

「明日はオフだから……それに、別に会長宅の家政婦やってても、社員ってわけじゃないし……カゲヤマさんは、なんかいつも、あたしのことエッチな目で見るんです。今度、カゲヤマさんに会ったら、イチロウさんの口から言っておいてください」

「カゲヤマに?なんて?」

「ミナトは、俺の女だ……って…だめかな?」

「ミナトさん……いろいろ、良くしてくれるのは、とっても嬉しいんですが、嘘は、よくないと思います」

「そっか……嘘はだめかぁ」

「はい……わかってくれましたか?」

 ハルナが、苦笑しつつ、ミナトとイチロウの間に割って入る。ミナトが、必要以上に、イチロウに身体を近づけてきていることに気づいたからだ。

「じゃ、今夜、お姉さんと既成事実作っちゃえば、嘘じゃなくなるよね」

「ミナトさん……」

「冗談ですよ……じゃ、カドクラ社長……、それにウミちゃん、これ以上は、邪魔になっちゃいそうだから、退散しましょう」

「そうだな……ハルナ、とにかく頑張れ」

「はい……ありがとうございます。お父様

 お忙しいところ、ハルナなんかのために、こんなところまで来ていただいて」

「元気そうな顔を見ることができて、ほっとした」

「ミナトさん……」

「はい?」

「お父様を連れてきていただいて、ありがとうございました」

「わかっちゃいましたか?」

「ハルナにとっては、なによりのプレゼントです」

「ウミちゃん……」

「なぁに?」

「綺麗なピンクのコントローラ……大切に使います」

「うん……それ、ウミのだから、100人力保障付き……がんばってね、ピンク・ルージュ・ハルナ」

「がんばるよ」

 ハルナは、あらためて、3人に深くお辞儀をすると、イチロウを無言で促して、Zカスタムのコックピットに腰を落ち着ける。

そして、3人に軽く会釈をしただけで、イチロウも、コックピットに乗り込む。

「ハルナ……」

「ごめん……イチロウ」

「本当に、お父さんが好きなんだな、ハルナは」

「だから、ごめんって言ってるじゃない……もうちょっと時間ちょうだい…そしたら」

 ヘルメットを深くかぶったハルナの、涙が溢れた目元を見ないように、イチロウも、ヘルメットを深くかぶりなおす。

 既に、新たな燃料の搭載を完了したZカスタムは、ゆっくりと給油用のハンガーから、カタパルトデッキに移動を始めた。


「落ち着いたか?ハルナ」

「うん……もう、だいじょうぶだよ」

「バーニアの火力維持は、責任を持って、俺がやる……ハルナは、少しでも、燃費効率がよくなるように、Zカスタムをコントロールしてくれればいい」

「ステアリングホイールは生かしてあるから、イチロウが、必要と認めたら、マシンコントロールをやっていいからね」

「ああ……エリナに、俺の120%を見せてやらなくちゃならないからな……そうしてくれると助かる」

「ハルナが、一番、イチロウに期待してるんだから……」

 カタパルトデッキに移動を完了したZカスタムが、ほとんどインターバルを取ることなく、リニアカタパルトをスライドしていく。

「いよいよ…」

「行こう……イチロウ」

 イチロウが、全力で、フットバーを固定する。実況放送の音声を全カットし、イチロウもハルナも、セイラの歌声に身を任せ、リズムを刻む。

「目標は、150kmジャスト!!」

「それで、5分を切れるんだよな」

「お釣りがくるよ」

 Zカスタムの速度が、急激に上がっていく。

ハルナの口元から、歌が流れる。セイラの声をトレースするように、自分自身を応援するように、静かに、呼吸を整えるように、応援歌を口ずさむ。

そして、その歌声に張り合うかのように、イチロウも、セイラに合わせた高音域の声を、おそらくは無意識に、口にする。

Zカスタムの中に響く3人の三重唱が、イヤでも、二人のテンションをマックス状態にまで上げてゆく。


「エリナ……聞こえてる?」

「うん……ミリーもわかる?」

「わかるよ……エリナは、この歌知ってる?」

「う~ん、知らない……相当、昔の歌だよね」

「エリナは、歌の趣味片寄り過ぎだよ……」

「イチロウって、けっこう歌がうまいんだね」

「え~そうかなぁ…なんか、無理して声出してる感じするよ」

「それがいいんじゃない……」

「惚れ直しちゃう?」

「うん……夢中になっちゃうかも……今度、イチロウと二人だけで、カラオケ行こうかな」

「そうだね……二人きりでね……絶対、無理だと思うけどさ」

「ミリーは、意地悪言い過ぎ」

 エリナとミリーの二人が、成り行きを見守ってるところへ、イチロウとハルナを励ましに行っていた3人が戻ってきた。

「シンイチさん……ハルナには、会えましたか?」

「ああ…元気そうだった」

「もう、後は、運を天に任せるだけ……シンイチさんも、座っててくださいね」



「いよいよ……イチロウさんの本気が見られるね」

 アイコが、嬉しそうに、ヒトミコに話しかける。ヒトミコも、アイコの隣で、モニターに映し出される、Zカスタムの姿を凝視する。


『ルーパスチームが、3回目のタイムアタックに出て行きましたね』

『はい……今回は、シティウルフがステアリングを握っていますが、ちょっと作戦変更し過ぎて安定しませんね』

『1位のタイムを出すのは厳しいですか?』

『まずは、第1ゲートの通過タイムを見てみないことには、なんともコメントできませんが、でも、こうやって見てるとパイロットの二人は、なにか、とても和やかに見えますね』

『ええ……歌でも歌っているのでしょうか?2回目のタイムアタックでは、とても厳しい表情だったと記憶していますが、ピンク・ルージュのリラックスした表情が、すごく良いとは思いませんか?』

『すごく良いです……って、何を言わせるんですか、フルダチさん』

『すいません……そのルーパスチームの二人ですが、チームを組んだのは、今日が初めてなんです……それで、息が合ってないのかもしれません。シティウルフも、ピンクルージュも、先週行われた公式練習には、参加していないんです』

『それは、知っていますが……それが、1回目2回目のタイムアタックの失敗に繋がってる原因とは考えたくないです。というか、ブルーヘブンズもサットンも、飛び方が異次元です。今日、初めてチームを組んだルーパスの二人が、それに付いて行っている……この周回の結果次第で、再逆転までありそうだというのは、太陽系レースの歴史の中で、奇跡に近いことだと思います』

『あれが失敗だとしたら、他のチームはなんなのか?ってことですよね……その注目の第1ゲートの通過速度は……71.1kmです……先ほどよりも、かなり遅いスピードです。どういうことでしょうか?』

『これは……もしかしたら、もしかしますよ』

『というと?』

『あのシティウルフが、本気を出してきたということかもしれないです……

 確かに、闇雲にとは言いませんが、加速周回で、目いっぱい加速して、燃料ゲージが赤ランプになったところで、加速を停止して、慣性フライトに移行するというのが、シンプルで分かり易い加速方法なんですが……

要は、タイムアタック周回で、いかに最高速を維持して、1周を終えるかというのが肝心なのです』

『2回目は、サットンもルーパスも、その急加速作戦を採りましたよね』

『はい……しかし、その作戦は、実際にはパイロットの体力を極端に削る作戦でもあるわけです』

『F1の世界でも、ストップ&ゴーの繰り返しが、マシンにも、パイロットにも大きな負担となりますからね』

『加速時における疲労の積み重ねが、パイロットとナビゲータの体力を削るとすれば、その加速のプロセスで、負担がかからない方法を取ることができれば、判断ミスを起こさないことに繋がっていくのです』

『確かに、こうやって見る限り、緊張しすぎてた2回目より、ずっと楽そうに飛んでいるように見えます』


「イマノミヤさん……って、どれくらい、ハルナさんのこと好きなんですかね?ヒトミコは、知ってる?」

 アイコが、ヒトミコに唐突に尋ねる。

「えっと……ノーコメントです」

「ヒトミコは、わかり易いね……どうせ、『ハルナ最高!!ハルナ超大天使!!』とか、舞台裏で話してたりしてるの、聞いてるんでしょ」

「アイコちゃん鋭い……でも、それは、他の人に言っちゃだめだよ」

「あ~あ、あたしも、贔屓してもらいたいよ……今からでも、色仕掛けを試してみるかな?」

「アイコちゃんは、性別不詳ってことになってるんだから…その手の行動は自粛したほうがいいと思うよ」

「だよね……まぁ、そのことはともかく、イチロウさんが本気で、4分台狙ってるのは間違いない……そうなったら、うちはお手上げだ」

「そうなんですか?」

「確かに、このスプリント……運の要素もたぶんにあるんだけど、うちのコスミックラヴァーで何周飛んだところで、限界性能っていうのはある……人と違って、機械というのは、突然、パフォーマンス性能が上がるということはないから」


 ハルナは、イチロウが楽しそうにフットバーをコントロールしていることに気づいていた。そして、ハルナ自身も、眼を細めて、楽しい気分でいられることを自覚していた。

「イチロウ?」

「このレース、楽しいな」

「ハルナも、そう思うよ」

「カドクラ社長……いいタイミングで来てくれて、ハルナの気持ちを落ち着かせてくれた」

「お父様は、そこまでの気配りができる人とは言えないんだけどね」

「ミナトさんか?」

「家政婦の洞察力って凄いと思った」

「ハルナに、今、一番必要なものを届けてくれたんだもんな」

「うん……このコントローラも、すごく使いやすいよ」

「このZカスタム……が、エリナの傑作だというのが、今になって、やっとわかってきた」

「そうだね……やっぱり、イチロウのことを一番知ってるのが、エリナ様だから」

 曲の間奏で、ヴォーカルが途切れた間、短い会話で互いの気持ちを確認したイチロウとハルナは、次の第2ゲートを視界に捉えた。

「ここまでは順調?」

「うまく行くことしか考えていない」

「うん……ハルナも安心してる……ハルナを選んでくれて…選んでよかったって……このレースが終わったら、イチロウに言ってもらえるように……がんばるね」

「そんなことなら……」

「もう……今言ったら台無しでしょ」

『ハルナ……ずいぶん賑やかだけど、あたしの声聞こえてる?』

「はい!!もちろんです、お姉さま」

『とにかく、気を抜かないで』

「エリナ……」

『なぁに?イチロウ』

「ちょっと遊んでもいいか?」

『どうしたの?今、そういう状況?』

「残りの7つのゲート……レッドから順に通過してみたいんだけど」

『はぁ?』

「どうせ、明日の決勝は、全部 レッド狙いなんだろう?」

『それって……』

「今、確信したんだ……明日は、優勝できるってことを」

『……』

「エリナ?」

『しょうがないなぁ……好きにしていいよ…ハルナ、ごめんね』

「お姉さま……イチロウの顔、見えますか?」

『うん……見えるよ』

「ご感想は…?」

『楽しそう……』

「では、ハルナも、楽しんできます」

 Zカスタムは、間近に迫っている赤い光のスクリーンのど真ん中へ、突入していく。

突入時の速度は、95km/秒。2回目と較べても明らかに速度が遅くなっている。

「残り6つ……10kmずつ上げていけば、ヴァイオレットで155kmだ」

「そうだね……」

 ハルナは、そのスピードを出すことが不可能なことを知ってはいても、無邪気に言うイチロウの言葉を否定しなかった。

「エリナ?怒ってるか?」

 イチロウは、唐突に、エリナに言葉を投げかける。

『呆れてるだけ……』

「先週は、悪かったよ」

『今更……』

 公式練習をさぼったことの詫びの言葉であることを悟ったエリナが、即答する。

「あのさ」

『ずいぶん、今日は、おしゃべりね』

「さっきの話……」

『さっきって…いつの話?』

「さっきパドックでした話…」

『何言ってるか、わからないから……パドックに戻ってきたら、ゆっくり聞きます』

「エリナが、カナエの生まれ変わりなんだよな」

 エリナは、答えを逡巡するように、一瞬だけ会話を途切らせる。

『そうだよ……疑ってるの?』

 そして、肯定する。

「ありがとう」

『だから……何言ってるかわからないよ……いきなり謝ったり、お礼を言ったり』

「あのエリナの言葉で、俺は、エリナを好きになっていたんだってことに気づいたよ」

『ちょ……イチロウ……何を……だから……いつも、そんなに、しゃべらないのに……おかしいよ』

「俺が、エリナを好きになるのは、迷惑か?」

『迷惑とかじゃなくって……ああ、もう……

とにかくレースに集中して……その話は、後で……』

「迷惑か?」

 イチロウは、重ねて問いただす。

『あの……だから、あのさ……そういうことはさ……』

 モニター越しに、イチロウの真剣な眼差しを受け止めたエリナは、そこで言い淀んだ言葉を、しっかりと伝える意思を固める。

『イチロウ……迷惑なわけないじゃない。あたしは、イチロウが大好き……だから、好きって言われて、とても嬉しいよ』

「ありがとう……最高のバースデイプレゼントだ」

『ただ、好きって言っただけなのに、大げさだよ』

「とりあえず、このスプリントは、絶対に1位を取ってみせる」

『うん……イチロウの力を信じてる』

「俺だけの力じゃない……ハルナの技術・体力…エリナの作ったZカスタムの潜在能力…ミリーが連れて来てくれた、ウミちゃんとサエちゃんの二人の力も……」

『そうだね……セイラさんや、ミナトさん、ユーコさんとかの応援もいっぱい貰っているし、ミユイさんも、きっと、このレースを見てくれてる』

「ああ……みんなから力を貰えたことで勝利が見えてきた」

『うん……そう……

 こうやって、力を合わせれば、きっと、叶えることができる』

「ミリー……ロウム、マイク、ソラン……ギンとキリエ……そして、リンデさん。

ルーパスの仲間になれて、俺は、最高に幸せだ」

『イチロウ……そういうのは、ドラマで、敵に撃たれて死んじゃう人がいうセリフだよ……縁起でもないよ』

 ミリーが、エリナに代わってマイクに向かって叫ぶ。

「そうか……俺は、たぶんミリーに一番感謝してるんだけどな」

『そうだよね……なんたって、あたしが、イチロウの未来の花嫁なんだから、エリナやハルナと身体の浮気はしてもいいけど、心の浮気は、許さないんだからね』

「また、そういう、ややこしい言い方を……」

『エリナが言うように、今のイチロウ……おしゃべりしすぎ……らしくないよ』

「照れ隠しに、しゃべらずにいられないんだよ」

『おしゃべりが過ぎると、墓穴を掘ることになるんだよ。ルーパスのおしゃべり担当は、あたしとエリナなんだから……イチロウのこの後の台詞は、全カットにします』

「あはは……それは辛い」

「イチロウ……ミリーちゃんの言うとおり……おしゃべりしすぎ」

「わかってる……集中するよ」

 第3ゲートのオレンジゾーンの通過時の速度…104.2km/秒…

第4ゲートのイエローゾーンの通過時の速度…113.8km/秒…

第5ゲートのグリーンゾーンの通過時の速度…122.5km/秒…

第6ゲートのブルーゾーンの通過時の速度…131.9km/秒…

第7ゲートのインディゴブルーゾーンの通過時の速度…140.4km/秒…


セイラの歌う応援ソングのフレーズが、Zカスタムのコックピットに響く……それが、パドックのクルーたち、そして声援を送る仲間たちにも届く。

「♪力を合わせたら やっと 走れる・・・」


 第8ゲートのヴァイオレットゾーン通過の瞬間、ついにZカスタムは、この日の最高速度を叩きだした。

148.4km/秒……

「♪夢見て旅立てば きっと 叶えられる・・・」

 ハルナの瞳に僅かに涙が浮かぶ。

「おめでとう……イチロウ」

「みんなのお蔭だ……それに、ハルナが、ナビで、本当によかったよ」

「うん……良かったよね」


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