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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第7章 スプリント
33/73

-28-

 スタートライン・・・タイムアタックのゴールラインにもなっているブシランチャーを通過するだいぶ手前の第8ゲート通過直後、ハルナは、タイムアタックの開始を伝えるスタートボタンスイッチを強く押し込んだ。

Zカスタムのメインモニターの一番上に、【Time Attack】の文字が赤く大きく表示される。現在のZカスタムのスピード表示は、143kmを示している。

『サットン・チームのタイムアタックに続いて、ルーパス・チームもタイムアタックに入りました。いったい、ルーパスチームには、どれくらいの燃料ユニットが残されているのでしょうか?余力を残しているのか、それとも、もうこれ以上のタイムアップは、望めないのか・・・まず、第1回目のタイムアタックの結果が、6分後には明らかになります』

「確かに、燃料ユニットは充分残ってるけど・・・バーニアを噴射すれば加速できる限界は、もう過ぎちゃってるんだよね」

「そうなのか?」

「ここまで、スピードが出ちゃうと、1km上げるのにも苦労するはずなんだ」

「地球の遠心力も加えて、最高速度を維持してる・・・スラスターの噴射を抑えたら、どこに飛んで行っちゃうかわからないでしょ・・・その辺を、ウミちゃんたちが計算してくれてるわけだけど・・・これだけ、磁気が充満しちゃってる空間だと、残留磁場の影響とかも大きいし・・・とにかく、ハルナとイチロウにできることは、このスピードを維持して、このタイムアタックで、ミスをしないこと・・・ コースを外れたら、それだけロスになるし、きっちり、44444kmを飛びきること・・・1kmでも余分に飛ぶことになったら、それだけ、タイムも余分にかかっちゃうわけだから・・・ぴったり、規定の距離を合わせることに専念するしかないんだよ」

「スプリントセッション通過・・・するだけなら、簡単なのになぁ」

「そういうこと・・・でもね・・・わくわくしてるんでしょ、イチロウだって・・・」

「本気のエリナの力を・・・見てみたい」

「ハルナも一緒・・・そういう意味では、ハルナは、クルミさんに感謝してる」

『ハルナ・・・聞こえてるんだからね・・・一応、プラチナ・リリィの性能の割り出しは完了したから・・・ポテンシャルは、未知数だったけど・・・最高速度の予測は、はっきり出たよ』

「いくつですか?」

『146km・・・それ以上は、あの機体で叩きだすのは不可能ね』

「では・・・148kmが目標ですね」

『うん・・・5分を切るのは無理みたいね』

「あちらは、パドックに機体を戻す動きは見せていないですか?」

『その動きはないです・・・たぶん、あれで限界だから・・・ハルナ・・・いい?とっておきの情報を教えてあげる』

「はい?」

『この後のタイムアタックは、ハルナにメインパイロットシートに乗ってもらいます』

「もちろん、全体的な質量は変化しないんだけど、重量バランスで、燃費が向上するらしいの・・・サエちゃんのお手柄」

『一番いいのは、ミリーに乗り換えることらしいんだけど・・・ミリーじゃ、Zカスタムの加速Gで体が爆発しちゃうらしいから・・・パイロットは、二人にやってもらうしかない・・・あたしも、そういう意味では役不足・・・悔しいけど・・・ハルナに感謝してる』

「悔しがらなくてもいいんですよ・・・ハルナは、そのための努力をしてきたのですから・・・もちろん、イチロウも・・・宇宙飛行士としての適性があったから、この無茶な加速Gにも・・・そして、もっと無茶な減速Gにも耐えられてるんですから」

『140km超えたら、もうあたしじゃ無理だってわかってたんだけどね・・・クルミさんだけじゃなくって・・・キサキさんもチアキさんも平気な顔で、テレビ局の車内カメラで冗談言ってるらしいから・・・公式練習では、相当の猫を被っていたみたいだってわかった・・・けっこう、無茶な改造をしたのは、あたしだけど、あの性能を100%引き出せるパイロットとは想像できなかったよ。

 化け物軍団だよ、あの人たち』

「お姉さま・・・この加速Gを軽減してくれてるのは、ミユイさんがプレゼントしてくれたヘルメットと、ミナトさんがプレゼントしてくれたパイロットスーツのお陰でもあるんですよ」

『わかってます・・・本当に、自分たちだけの力じゃないんだって・・・それは、よくわかってるの・・・だから、もうちょっとだけ・・・無理をお願いしたいの・・・応援してくれる皆の期待に応えるためにも・・・いい?』

「もちろんですよ」

 いつの間にか、エリナは、イチロウではなくハルナを中心に、すべての作戦を立てていること・・・それほど、ハルナを信頼していること・・・を自覚していた。

自分の負けず嫌いを素直に理解して、その無茶な命令に素直に従ってくれる信頼すべき、自分の理解者として、ハルナを認めること・・・ 他人を拒否することに慣れてしまっていたエリナであったが、ハルナの純粋なエリナへの崇拝の気持ちを、素直に受け入れることができている自分の心の変化を認めること・・・

ここで、たかが予選通過の第1ステップでしかないスプリントセッションに、ここまで無気になって、勝ちを取りにいくこと・・・ そのこと自体に、大きな意味はなくても、その目的を達成するために力を与えてくれる、ハルナの友人たち・・・

そして、ミリーの友人たち・・・

すべての力を一つの目的のために集結すること・・・

そのために・・・エリナの無茶な命令に逆らわず従ってくれる仲間・・・ルーパスクルーの存在・・・言葉に出せなくても、エリナは、そのたくさんの、自分たちを応援してくれる気持ちに気づくことができたことを喜んでいたのだ。

(こんなに何の価値もない我儘な女のために・・・)

「お姉さま?」

『ハルナ・・・ありがとう』

「その言葉は、1番になった時のために取っておきましょうね・・・お姉さま」

『わかった・・・そうする』

「お姉さまのために、がんばりますから」

『うん・・・』

「イチロウ・・・本当は、イチロウの主役の座を奪いたくはないの・・・でも、エリナ様の願いを断るわけにいかないから」

「わかってる・・・本当に、ハルナは、エリナが好きなんだってことも、よくわかった」

「うん・・・だから、エリナ様を不幸にする人は許しません・・・よく覚えててね」

「絶対、忘れないよ」


『第1ゲートの通過タイムは、サットン・チームの34秒052・・・そして、ルーパス・チームの34秒518・・・既に、コンマ5秒ものタイム差がついてしまっています。

 最高速度で、2kmもの差がついてしまっては、この結果もいたしかたないというところでしょうか?イマノミヤさん』

『そうですね・・・スプリントセッションでは、よっぽどの事がない限り、最高速度をきちんと維持された場合には、波乱の起こりようはないですからね』

『第2ゲートでのタイム差が気になるところではありますが、ここで、タイム差が、縮まるようであれば、とても面白い結果となるのですが・・・どうでしょうか?』

『難しいと思います』

『そうこう言っているうちに、サットン・チームは、第2ゲート間近まで迫ってきています。

 いずれにしても、このサットン・チームの記録が、今回、太陽系レース第3戦・・・地球ステージの予選スプリントの基準タイムとなります』

『5分台前半のタイムで決着は着きそうですね』

『そして、今、サットンのサニームーン&エンプレスが、第二ゲートを通過しました~タイムは、1分8秒105・・・』

「当たり前といえば当たり前なんだけど・・・差は縮まらないよね・・・悔しいなぁ」

 ハルナが、そう言って唇を噛む。

「噴射かしてみようか?燃料は充分だ」

「やめておこうよ・・・変に、Zカスタムに負担かけすぎると、エリナ様の、次の作戦に支障を来す恐れがあるから・・・予定通りの143kmで、予選タイムを確定させておこうって作戦、忘れたわけじゃないんでしょ」

「少なくとも、今、余ってる燃料を適性な分に削減することで、あと1km以上は、最高速度を得られるはずだから、それよりも、余計なこと考えて、寄り道しないことね」

『ハルナの言うとおり・・・イチロウ・・・今は我慢してね。

 ごめんね、いつも、イチロウには、我慢ばかりさせちゃってるよね』

「聞こえてるんだったよな・・・エリナには」

『うん・・・コックピットからは離れちゃってるけど・・・一緒に戦ってるつもりだよ』

 エリナからの返事が、すぐに届く。


『ピットレポートのイツキノです。サットンサービスのメカニック・・・ニカイドーさんのインタビューをお送ります。どうですか?予選、1回目のタイムアタック・・・この調子で、トップタイムとなりそうですが、この結果には、満足していますか?』

『そうね・・・うちは、ほんとに、このタイムアタックに合わせた高速セッティングにして臨んだので、逆に、ここまで、2位チームに肉薄されちゃってるのが、予想外・・・しかも、ルーパスチームは、この場で、パドック調整する準備してるわけでしょ・・・捲られる可能性は、高いと思う』

『そうですね・・・すごく慌ただしい動きをしていました・・・結局、作戦の内容は教えてもらえませんでした。

 サットンチームとしては、このまま、アタックを続けますか?』

『予定通りのタイムが出て、1位キープできたら、次のタイムアタックの必要はないでしょ』

『今回のタイムアタックは、予定通りのスピードが出てるってことですね

 少し、余裕があるようにも見えますけど』

『へぇ・・・余裕はないですよ・・・そう見えるとすると・・・チアキ!!』

『なぁに?お姉ちゃん?』

『余裕かましてるって、ピットレポートのお姉ちゃんに言われてるよ・・・どうなの?』

『余裕なんかあるわけないじゃない・・・ヒトミコちゃん、変なこと言わないでよ・・・』

『じゃあ、キサキのほうか?』

『あたしだって、全然、余裕ないんだから・・・目いっぱいだよぉ・・・変なレポートするなら、車内カメラ、壊しちゃいますよ』

『ルーパスチームが、今のタイムを上回るタイムを次のタイムアタックで出すようなことがあったら、タイム更新に出ますか?』

『まだ、記録も確定してないのに・・・気が早いんじゃないの?』

『そうですね・・・記録確定したら、もう一度、同じ質問していいですか?』

『確定したらね・・・リップサービスも必要だから・・・その時は、しょうがないね』

『ありがとうございます・・・では、わたしは、ここで成り行きを見守りますので、実況のフルダチさんに、マイクを戻します』

『ピットレポートありがとうございます・・・ということで、余裕はないと言っている、サットンチーム・・・確実に、いいタイムを刻んできていますね』

『そうですね・・・これは、このまま行くかもしれません・・・満を持して、一発勝負に出たって感じですね』

『タイムアタックは、5回まで許されていますが・・・当然、ルーパスチームは、このタイムアタックの後、パドックに戻して、次のタイムアタックのために、セッティングを変えるわけですが・・・』

『それは、どうでしょうか?このタイムなら、余裕で、スプリントセッションを通過できるわけですから、そこまで、無茶はしないと思いますが・・・』

『イツキノさんからのレポートでは、ルーパスのパドックに大きな動きがあったということです。確実に、スプリントセッションの1位通過狙いに来ると思いますよ』

『展開的には、それが面白いですから・・ポーズかもしれませんし』

『今、第7ゲートをサットン・チームが通過しました・・・タイムは、3分58秒311・・・そして・・・ルーパスチームは、4分1秒555』

 第7ゲートを通過したイチロウとハルナは、集中力を切らすことなく、しっかりと、予定通りのタイムを刻む。ハルナの口元には、うっすらと笑みが浮かんでいる。

「常識から言って、ここで、次のタイムアタックに出る人なんかいないってさ・・・あのイマノミヤさんらしい・・・」

「そういえば、ブリーフィングで説明してくれた人も・・・イマノミヤさんって言ってたけど・・・同一人物?」

「兄弟ですよ・・・弟さんが、解説で、お兄さんが、裏方スタッフやってるの。特に、お兄さんのほうは、F1や、日本の国内レースでも、裏方として、レース全般を支えてくれています・・・ついでに言うと、お兄さんのほうは、ハルナに求婚してくれてる人の一人です」

「へぇ・・・」

「驚かないんだ・・・」

「ハルナが、いい女だってこと、この1週間でよくわかったからな・・・求婚する男の気持ちは、よくわかる」

「ふふ・・・あと1分で、ゴールだから、しっかりね」

「わかってる」

 イチロウが、しっかりとステアリングホイールを握りしめる。


第1セッション・・・スプリントセッション・・・その第1回目のタイムアタックの結果が出た。

1位タイムは、サットン・サービス・チームの5分6秒231。

2位タイムは、ルーパス・チームの5分10秒618。

3位タイムは、ジュピターアイランド・チームの5分39秒271。

4位タイムは、ギャルソン・チームの6分24秒441。

5位タイムは、オーロ・プラータ・チームの6分51秒324。

6位は、ヨシムラ・チームの7分20秒021。

7位は、UMA・チームの7分47秒826。

8位は、ライアン・チームの7分49秒912。

9位は、ヒマワリ・チームの7分52秒531。

10位は、ブルーヘブンズ・チームの7分55秒167。

 以下、12位までが7分台のタイムで続き、15位までが8分台、18位までが9分台、21位までが10分台。

32位のボーダーライン付近にいるチームが15分~16分台となっていて、平均秒速では、44km/秒から49km/秒という速度を叩き出している。

1位から18位までのチームが10分以内、平均速度74km/秒以上で飛んでいることに較べると、速度差があるように思えるが、実際にメーカー製造ではないプライベートチームのミニクルーザーの最高速度は、そこまでのスピードを必要としていない。決勝は、なんといっても30km/という制限速度が設けられているからだ。

遠距離フライトには、ワープ航法も確立されていることから、通常速度を競うというのは、このレースの、このスプリント予選以外ではありえないが、だからこそ、ここに照準を合わせるチームもある。

ブックメーカー参加者も、駆け引きや運の要素が排除された、このスプリントセッションへ賭ける者が多く、人気投票的な要素も少なからずあると言える。


 10数機が、そのまま、2回目のタイムアタックに臨んだ以外は、3周目をクールダウン周回とすることで、減速ルートを通過しながら地球を一周して、ブシランチャーまで、戻ってくることになる。

通常、ミニクルーザータイプの機体のスピードを減速させるためには、前方へのスラスター噴射によるスラスターファイヤを利用した減速方法が使われることになるが、このレース用のレンボーゲートには、減速用のルートが用意されていて、減速するための装置が設置されている。

この減速ルートには、レインボーゲートの両脇に、衝撃吸収用のネットが張られているので、そこを通過しながら減速をしていく。

それぞれの機体は、タイムアタックで、固形の燃料を使い果たしてしまうケースがほとんどであるため、100km/秒を超えるスピードで、フライトをする機体を効果的に減速させるために考えられた方法が、このマスキャッチャーネットの改良版を使用する方法なのである。

 マスキャッチャーネットは、本来は、マスドライバーで打ち上げたコンテナ物資などをキャッチする装置であるが、それをミニクルーザーをキャッチできるように改造を加えてある。


「ちょっと、怖いよね・・・これって」

「ネットとはいえ、壁に体当たりするような感覚だからな・・・」

「うん・・・でも、これも、エリナ様の発明品の一つの応用なんだよ」

「そうなのか?・・・試しに突っ込むよ」

「このスピードで壁に体当たりする度胸があるのは、凄い・・・初めてでしょ・・・イチロウが、このキャッチャーネットを使うのって」

「一度、死んだ身だからな・・・基本的に怖いものはない・・・」

「へぇ・・・ってことは、エリナ様は、怖くないんだ」

「それは、怖い・・・」

「きっと、まだ聞いてるよ・・・ね、お姉さま」

『どうせ、あたしは、口うるさいですよ』

「そういう意味じゃ・・・」

『キャッチャーネット・・・100%安全だけど、気をつけてね』

 レインボーゲートの両サイドに、鮮やかに光り輝くチェックパターンのネットに、Zカスタムが飛び込んでゆく。

衝突時の衝撃は皆無であったが、機体は、確実に減速している。

「イメージとしてはね・・・サッカーゴールのネットをボールが突き破るシーンがあるでしょ・・・あれと一緒なの。

 ネットに、オータコートと同じ素材が使われているから、このZカスタムの突撃に反応して、反発作用で、逃げていくようになってるの・・・で、ネットの反発作用をZカスタムも、受けるから、ある程度の減速効果が得られるってわけ・・・ある程度だからね・・・ネットのキャパシティを超えると、自然にネットが破れるようになってるから、減速が不十分なら、その次のゲートのネットも利用して、減速を繰り返していくってこと・・・

30km未満まで減速できれば、あとは、ブシランチャーの着艦用フックが使えるから、無事に、パドックまで辿り着けるんだよ」

「不思議な感覚だった・・・」

「うん・・・でも、ちょっと気持ち良くなかった?」

「ハルナの唇のほうが気持ちいいよ」

「もう・・・エリナ様も聞いてるんだから、そういうエリナ様を刺激するような冗談は、やめてよね」

「ははは・・冗談だよ・・・エリナ」

『ほんとかなぁ・・・』

 Zカスタムは、第1ゲートのキャッチャーネットの減速効果によって、一気に100km/秒以下にまで、スピードを落とすことに成功していた。

「夜の有料練習では、このキャッチャーネットを使用することができなかったからね。先週の公式練習の時に、ハルナがイチロウを誘っちゃったから・・・ごめんね」

「いいよ・・・いいよ」

『あのね、イチロウ・・・ブシランチャーに戻ったら、Zカスタムを、そのまま、パドックまで戻してもらうから・・・もたもたしないで、ちゃんとミリーの誘導に従ってね』

「了解・・・」

『あのさ・・・さっきの話・・・ハルナとキスとか、してないよね』

「ヘルメット付けてるんだぜ・・・できるわけないじゃないか」

『今日じゃないよ』

「してないよ」

(嘘つき・・・)

 ハルナが、ヘルメットをイチロウにくっつけて、囁く。

『あたしの大事な妹に手を出したら、承知しないからね』

「よかったな・・・ハルナ・・・妹に昇格できたじゃないか」

「うん・・・

 お姉さま・・・ありがとうございます」

『気をつけてね・・・そのオオカミくんは、あたし以外の女とみると見境ないらしいから』

「はい・・・気をつけます」

(ずいぶん、1週間前とエリナの言動が変化してきたよな・・・ハルナの影響かな?)

(たぶん・・・)

(エリナとハルナ、けっこう気が合うみたいだな)

(そうだよね・・・男の子の好みも一緒だしね・・・)

(それって、俺のことか?)

(さぁね・・・自惚れ屋のオオカミを好きになるような女の子が、そんなにいっぱいいるとは思えないんだけど・・・でも、だったら、どうするつもり?)

(俺は、ハルナが、何でも一生懸命やることを尊敬してるよ)

(答えになってないぞ)

『何、こそこそ話してるの?聞こえるように話してくれないと・・・

 それに、あたしの話、ちゃんと聞いてた?ちゃんと聞いてくれないと、次の作戦・・・伝えられないでしょ』

「ごめんなさい・・・もう一度、話してください・・・イチロウが、なんか、さっき、キャッチャーネットに突っ込んだ時に、貧血起こしちゃったみたいなんです」

『それで、介抱してたの?なんか、変なの・・・あのさ・・・次の作戦なんだけど・・・一応、二人の意見を、もう1回確かめたくって』

「1位狙いをするかどうかってことですか?」

『うん・・・今のセッティングは、高速寄りのバランスタイプなの・・・』

「お姉さまに任せます。絶対に、サットン・チームが、更新できないタイムが出せるなら、それがいいと思います。どうせなら、5分を切るセッティングとか、思い切って試してもいいですよ・・・149km・・・ハルナのルージュの最高速度は、秒速で600万kmだし・・・全然、平気だと思います」

『ワープと、通常フライトを一緒にしないの・・・4万4千キロだけで、149kmまで加速するんだから・・・5分切るセッティングなんて無茶もいいとこなのよ』

「145kmも149kmも、乗ってる立場から言えば、大差ないですよ、ね、イチロウ・・・練習では、200kmも超えてるしね、平気、平気。心配しないで・・・お姉さま」

『あれは・・・』

「心配しないで・・・大丈夫ですよ・・・そんなに心配なら、1位を取ったら、ご褒美をください」

『ご褒美って・・・』

「ハルナと一緒に、温泉デートってどうですか?・・・今だけの嘘でもいいから、その約束が、ハルナの力を120%出すことに繋がります」

『そんなことで、嘘なんか言えないよ』

「では・・・よろしくお願いします。約束守ってくださいね」

『わかった・・・イチロウには、聞くまでもないよね』

「まぁな・・・腹は括ってるから・・・」

『二人とも、ほんとうにありがとう』

 エリナの絞り出すような感謝の言葉が、コックピットに座る二人にストレートに伝わる。

そして、イチロウとハルナは、顔を見合わせて、満面の笑顔で頷きあう。


 パドックに収容されたZカスタムに、緊急のメンテナンス作業が施される。

「ウミちゃん・・・シートのセッティングは、右がハルナになるから・・・、まず最初に、そっちの調整をお願いします」

 エリナの、滅多に聞くことができない大声が、パドック内に響き渡る。

「うん・・・左が、シティウルフになるんだよね」

「そうそう・・・忘れるとこだったよ、イチロウのこと」

「おいおい・・・俺は添え物かよ」

 ミリーの父、マイクの大きな手によるマッサージを受けているイチロウが、エリナに負けない大声で叫ぶ。

「冗談だってば・・・」

「さすが、ソランさん・・・スポーツインストラクターだけあって、マッサージが、とても上手ですね」

「いつもだったら、あたし以外の女の子の足なんか触らせないんだからね」

 キリエの声も、自然に大きくなるが、少しも嫌味な意味を含んでいるようではなかった。

「光栄です・・・ハルナなんかのために、もったいないくらいです」

「コックピットの二人の会話・・・ちゃんと、みんな聞いていたからね」

「そうなんですか?」

「年間優勝、狙ってるって言ってたよね。こんなところで、つまずいていられないよ」

 キリエが、励ます口調をさらに強くして言った。

「あ・・・はい!!」

「サエちゃん・・・OSは、直接書き換えちゃっていいからね・・・OS制御のパスワードは、さっき教えたよね。

 セッティングの基本は、さっき打ち合わせた通りだから、とにかく、ステアリングホイールからスラスターへの信号の伝達速度を、限界まで早くしてもらえると、作戦が立てやすくなるの・・・

 メイン・バーニアの噴出ロスは、あたしがなんとかするから、サエちゃんは、極力、燃費向上を図れるように、今回は、ほんとに、タイムアタックが終わったら、からっぽになるくらいの量だけを載せるからね・・・それで、イチロウが減量できなかった質量分をカットするしかないよ」

「念のため、もう1回、計算に間違いがないか、検算しておきますね」

「うん・・・よろしくね。頼りにしてるから」

「あたしは、なんか、できることないかな?」

 ギンを肩に乗せて近づいてきたミリーが、極力邪魔にならにように、おずおずと尋ねる。

「ありがとう・・・でも、機体の改造は、ウミちゃんとサエちゃんがいれば、なんとかなるから・・・ミリー、今日ほど、あんたに感謝したことはないよ・・・ウミちゃんとサエちゃん、とってもいい子だね・・・あんたみたいに、あたしも友達を大切しなくっちゃって、思ったよ」

「それじゃ・・・素直にありがとうって、言ってもらえるのかな?」

「うん・・・ミリー、ありがとう・・・大好きだよ」

「ウミちゃんとサエちゃんの二人は、明日は、ライバルになっちゃうんだからね・・・忘れないでよね」

「でも、今日は、仲間なんでしょ」

「そうだよ!!あたしの大親友たちなんだから」

 ミリーが、両手でVサインを作って見せる。

『エリナ・・・こうやって、みんなで何かやるのって楽しいね』

 邪魔にならないように、ずっと黙って見守っていたギンもエリナにそっと、本心を告げる。

「ヒトミコちゃん・・・ギンを気に入ったみたいだから・・・今日も明日も、あの子のこと、頼むね・・・よかったら、あの胸ポケットに忍び込んで、他のチームの様子とか教えてくれると嬉しいかも・・」

『スパイすればいいの?』

「声が大きい・・・ことはないか・・・ギンは、あたしにしか言ってないんだから・・・とにかく、他のチームの情報、集めてくれると嬉しいから・・・うまくやってね」

 エリナは、ギンのふさふさの頬に口づけをする。

『うん・・・僕で役に立つなら・・・やってみるよ』


だいぶ、間があきましたが、第7章をお届けします。

宇宙空間でのレース・・・レギュレーションも、とりあえず、適当に決めて、距離やスピードの基準も自分なりに決めたつもりなのですが、想像以上に、実際に可能なスピードとかを予想するのは難しいです。

燃料も、ちょっと単位を曖昧にしてしまいました。

太陽系レースで使用される1ユニットが、どれくらいの質量を持っているのか、計算では、一応出しているのですが、ちょっと、計算結果に自信がないので、曖昧にしたままにしておきます。


10月に、お絵かきソフトを、別のものに取り換えました。

Zカスタム、プラチナリリィ、シャドーマスタースペシャルなどの機体のデザインをし始めたのですが、いざ、描いてみると、思うように描けません。

人物のイメージイラストも、下手くそなのは自覚しつつも、恥ずかしげもなくアップしてますが、機体のデザインは、顔のデザイン以上に仕上げが難しいです。

ということで、お絵かきソフトと格闘する日が始まりそうですが、それなりに仕上がったら、またイラストコーナーに、こっそりと追加しておきたいと思います。


読んでくださった方、いつも、ありがとうございます。


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