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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第7章 スプリント
31/73

-26-

 ブリーフィングが終わり、パイロットたちは、それぞれ自機の置かれたパドックへと戻ってゆく。

イチロウ、ハルナ、エリナも、サットン・サービスの3人と一緒に、それぞれに与えられたパドックへと向かおうとしたところで、エリナに、声をかけたパイロットがいた。

「先週の公式練習では、いろいろとお世話になりました・・・エリナさんですよね」

「はい・・・もしかして、ジュピターアイランドの?」

「そうです・・・あの練習の後、そちらのキサキさんたちには、挨拶できたんですが、エリナさんには、何もお礼ができなかったので・・・今日会ったら、お礼を言おうと思ってたんですよ」

「お礼?」

「そうです・・・いろいろとありがとうございました」

「お姉さま?この人誰ですか?ハルナにも紹介してください」

「誰だっけ?」

 あっけらかんと言うエリナに代わって、キサキが、その男の手を握る。

「先週は、素敵な夜の思い出をありがとう・・・今日はライバルですからね・・・あたしのカレシのナカノくん・・・で、そっちがミチガミくん・・・ジュピターアイランドのパイロットとナビゲータさんです」

「いつカレシになったんだ?」

 クルミが、お決まりの突っ込みを入れる。

「先週の練習の後・・・ほんとは、エリナちゃん狙いだったらしいんだけど・・・あたしが、いただいちゃいました・・・ね、そうだよね」

「まぁ・・・なんとなく・・・そういうことらしいけど」

 キサキに答える形で、ナカノが肯定の返事をする。

「お姉さま、意外と、男性にもおモテになるんですね・・・ちょっと安心しました」

 ハルナが、にこにこして、エリナに、そっと流し目を送る。

「そうそう・・・まだ、未練たらたらで、さっきのブリーフィングでも、ずっとエリナちゃんのほうばっかり見てたから、蹴り入れてやったとこなんだけど・・・なんで、追っかけてきちゃったの?」

「だから、先週、言えなかった礼を言うつもりだったんだ」

「お礼なら、こっちにいる、うちのパイロットに言ってって言いませんでしたっけ?」

「なんだ・・・憶えているんじゃないですか・・・冗談きついですよ・・・エリナさんは」

「まぁね・・・とりあえず、今日の予選の強敵チームの一つでもあるし・・・あ、イチロウ・・・この人が、ミユイちゃんを運ぶ時に、ちょっかい出してきた、ジュピターアイランドのナンバー2のナカノさん・・・リーダーは、牢獄入りだったらしいけど・・・イチロウに、お礼したいんだってさ」

「きみが、タカシマくん?」

「あ・・・事情はよくわかりませんが、イチロウ・タカシマです。ルーパスチームのメインパイロットやってますが・・・お礼を言われる理由が、よくわからないんですが・・・」

「とにかく、俺たちのチームは、きみのお陰で、こうやって、太陽系レースへの参加ができる・・・予選組からだけれどもね・・・そのことだけでも、礼をいう理由としては十分だと思っているから」

「ナカノさん・・・イチロウには、後で、あたしから、よく説明しておきますから、そろそろ始まるし、それぞれのパドックへ行きましょ」

「そうですか・・・」

「それとも、あたしに、まだ、なにか用事がありますか?」

 ナカノが、4つに折りたたんだ1枚の紙切れをエリナに手渡す。

「これを・・・」

「ラブレターなら、渡す相手が違いますよ」

「できれば・・・読んだ後は、捨ててくれるとありがたい・・・焼却処分でかまわないから」

「そう?わかりました・・・では、とりあえず・・・ありがとう・・・です」

「ルーパス号・・・ナビゲータのハルナ・カドクラです・・・あの時、ハルナも、ルーパスにちょっかい出してるから、人のこと言えないけど・・・無事でなによりです・・・今日の予選では、お世話になります」

「きみが、カドクラの?」

「ちょっと前までは、海賊専門の賞金稼ぎをやっていました・・・ジュピターアイランドは、まともな宇宙旅行ツアー代理店だと思っていましたから、とても、残念でした」

「俺たちが悪いのだから、それは、しかたがないです」

「あとで、とりなして差し上げます・・・今回のレースで卑怯なこととかしなかったら・・・また、うちとの契約を継続できるように」

「そんなつもりでは・・・」

 ハルナは、にっこりと微笑む。

「お姉さま、早く行きましょ」

「うん・・・イチロウも、あんまり、もたもたしないで・・・しっかり、迷子にならないように付いてきてよ・・・なんたって、先週の公式練習さぼってるんだから・・・ブシランチャーは初めてでしょ」

「はいはい・・・」

 イチロウも、前を歩くエリナとハルナの二人を、少しだけ早足で追いかける。

パドックに着いた3人を、ミリー他、ルーパスのクルー全員が迎える形になる。

ただ、イチロウは、その中に、初めて会う少女が二人いることにすぐ気付いた。

「イチロウ・・・おかえり」

 ミリーが、イチロウに声をかける。

「イチロウは、初めましてだよね・・・ウィング・チームのウミちゃんとサエちゃん・・・普段は、ゲームプログラムを作ってる、ゲーム・プログラマーだよ・・・ロウムは、ミッション・シナリオを提供してるけど、それをゲームにするのが、ウミちゃんたちの仕事・・・GDのバトルエフェクトとか武器デザインとか衣装デザインとかも、オールマイティで担当してたりするから、媚売っといて損はないと思うよ・・・レアアイテムとか回してくれるかも」

「はじめましての人たちばかりで、名前覚えきれるか自信がないけど・・・イチロウ・タカシマです」

 頭の右サイドに、オーシャンブルーの長い髪を大きな白いリボンで束ねている少女のほうが、いきなり、イチロウの腰に手を回して顔を上に向けて見上げ、その海色の大きな瞳でイチロウを見つめる。

「ウミです・・・12歳・・・恋人募集中です・・・今日は、ミリーのカレシが、どの程度のものか確かめにきました・・・明日は、よろしくね・・・その前に、今日勝ってもらわないといけないんだけど・・・」

 もう一人の少女が、ウミを引きはがして、無邪気に、こちらもイチロウに抱きつく。

「サエです・・・同じく12歳・・・以上」

 サエと自己紹介した少女は、ウミと対称を成すように、左サイドに茶色の髪を黒いリボンで束ねている。イチロウをしっかりと見つめている瞳の色も茶色で、色違いの双子のように、顔のつくりが、とても似通っている。

「サエちゃんは、お兄ちゃんキャラが欲しかったんだよね・・・どう?ミリーのカレシのイチロウは、サエちゃんの理想の、お兄ちゃんに近いかな?」

「全然、だめだねぇ」

 そう言って、サエは、イチロウの腰に回した腕を、そっと引き寄せる。

「もう、完全に、おじさんだし・・・サエのお兄ちゃんにするには、もうちょっとピュアじゃないと、役不足・・・でも、純情そうなところは、ちょっとだけ理想に近いかな?」

「二人とも、かわいいね・・・今日は、手伝ってくれるのかな?」

 ハルナが、割って入る。

「あ・・・はい・・・昨日、ミリーとネットで、おしゃべりしてたら、紹介してくれるってことになったので、来ちゃいました。

 どうせ、ほら・・・明日のレースが始まるまでは、サエもウミも、お暇キャラなので、おしゃべり要員くらいにはなるんじゃないかって・・・それに・・・ちょっと、ビッグニュースもあって・・・」

「なぁに?いよいよ太陽系レースも、ゲーム化するとかってことかな?」

「おおぉ・・・さすが、ピンクルージュ・ハルナ・・・鋭いっすねぇ」

「それって、ほんとにほんと?」

 ミリーが、興味深そうに、ハルナとウミの会話に割り込んでくる。

「実は、けっこう、大マジ・・・まだ、本決まりじゃないし、ゲーム化するなら、2111年パイロット全員集合とかって、制作スタッフのみんなが息巻いてるから・・・メカニックのメンタル調整から、パドック担当のサブキャラまで、全員、実名登場とか・・・ただ、サエたちが一番興味があるのはね・・・予選組を含めて実名登場の女性パイロットのスリーサイズがしっかりデータベース登録されるってのが、超うれしいんだよね。

 予選組も、シーズン通して、リアルタイムに登場させるつもりとかって言ってるから、ちょっとプログラム担当としては、その仕様は、ありえないんだけど・・って断ってるんだけどね・・・

 1年分の予選組、全員登場させるのに、どんだけ、キャラデザしなくちゃいけないんだよってことで、もう、ウミもサエも、ほんとにゲーム化企画が実現したら、半年くらい、徹夜作業になっちゃうと思うんだ・・・まぁ、昼間寝るから、それは、それでノープロブレムなんだけど」

既に、イチロウは、ウミとサエの会話についていけなくなっている。

「で・・・ウミちゃんは、ルーパスチームを手伝いに来たのかな?それとも、邪魔しに来たのかな?」

「もちろん、両方だよ・・・ピンクルージュ・ハルナ」

「邪魔する気満々だもんね・・・特に、ウミちゃんは」

「失礼な・・・サエだって、邪魔することにかけては、ウミに負けてないはずだ」

「はいはい・・・では、少し、静かにしててね・・・特に、こっちのオオカミくんは、小さな女の子を見つけると、片っ端から食べ散らかしちゃう癖があるから・・・

 ウミちゃんもサエちゃんも、ハルナくらいの大人になってから、出直して来たほうがいいかもですよ」

「ピンク・ルージュ・ハルナが、聞き捨てならないセルフをかましてくれちゃってますが、シティ・ウルフ・イチロウ・・・それは、ほんとなのか?」

(面倒くさいから・・・追い出しちゃおうよ)

 ハルナが、そっと耳打ちする。

「どっちかというと、ハルナやエリナのほうが美味しく食べられると思うけど・・・

 ウミちゃんたちみたいな子羊ちゃんの柔らかいお肉も、食えないことはない」

「おおおぉぉぉ・・・これは、想像以上の肉食危険動物だね・・・なんか、言い方が、とっても、エッチで大胆なんだけど・・・サエ・・・危険動物に対処する際の応戦方法は、どうしたらいいかな?」

「とりあえず・・・身を守らないと・・・その前に、シティウルフのお兄ちゃんが、サエの名前省略してくれちゃったのは、どう対処したらいいと思う?ミリー・・・

 やっぱり、キミの股間にドストライク・・・急所蹴りいっとく?」

「らじゃぁああ」

 ウミに言われたことを実現しようと、サエが、拳を固め、イチロウの正面に正拳突きの構えを取って、たちはだかる。

急所蹴りと言いながら、拳を固めてるあたりに、イチロウは、ちょっとした違和感を覚えたが、とりあえず、あまりたいしたダメージになりそうにないので、ほっておくことにした。

「ごめん・・・ミリーちゃん、この二人・・・とっても邪魔」

「まぁ、許してよ」

「ほら、ジェノサイド・エンジェルも、許してって言ってるし、ウミとサエが、ほんとうに、邪魔になるまで、パドックに居させてよ・・・ね、ピンク・ルージュのお姉さま」

「既に・・・100%邪魔なんだけど」

「でも、ウミとサエの仕事振りをみちゃったら、そんなこと言えないと思うんだけどな・・・一応、ブリーフィングの間、Zカスタムの操縦席周りの調整は、させてもらっちゃったし」

「勝手に・・・そんなこと」

「それは、心配しないで・・・ウミとサエは、OSレベルの調整が簡単にできちゃうから、リアルシミュレーション用の筐体のOSの仕上げとかも、基本的に二人だけでやってるし・・・安心して任せられると思うよ」

「そうそう・・・さっき、ウミが、イチロウくんの股間の大きさを確認したのは、別にエッチな意味じゃなくて、パイロットシートの調整結果が正しいかを確認していただけだから・・・ピンク・ルージュ・・・そういうジト目で見るのは、仕事の確かさを確認してからにしてね・・・それに、ほんとうに、特別エッチな意味はないんだから・・・それだけは、安心してね・・・ハ・ル・ナお姉さま」

「ウミちゃん・・・それをいうなら・・・股間の大きさとかストレートに言うんじゃなくって、腰回りのサイズって言わないと」

 さっきから、何か言いたくて、口をパクパクさせていたエリナの顔色を確認しながら、ミリーが、ウミに囁く。

「とにかく・・・一応、うちのメイン・メカニックのエリナです。前回の3月ステージでも会ってるよね」

「ミリーちゃんは、スナイパーライフルを、ぶっぱなすのは得意だけど、機械音痴だから、エリナさんのサポートをお願いって、頼まれました・・・よろしくお願いします。

 夜のお供以外は、なんでもしますから、何でも言いつけてください・・・もっとも、お手伝いできるのは、今日の予選だけです。明日の決勝は、ウミもサエも、どっちも決勝レースに出なくちゃいけないので、それは覚悟しといてください」

「はいはい・・・じゃ、そろそろ予選1発めのタイムアタックの準備しなくちゃだから」

 エリナが、ウミとサエを半ばあしらうように、軽めの声をかけてから、イチロウとハルナに、頭を巡らす。

「と、いうことで、そろそろ乗り込んでくれる?あたしも、パドックコントロールルームに乗り込むから」

「パドックコントロールルームも、調整しておきましたよ・・・タイムアタック中は、エリナさんのサポートしてもいいですか?」

 ウミが、エリナに訊ねる。あしらったはずのウミとサエは、いっこうに、その場から離れる様子がない。

「ちょっといいかな?」

 それまで、口を差し挟むことなく他のクルーたちに混じって様子を見ていたソランとキリエが、Zカスタムのコックピットに乗り込もうとしたイチロウに声をかける。

「あ・・・なんでしょう?」

「イチロウ・・・おまえの宇宙でのクルーザーコントロールに関しては、何も心配していない。ただ、この予選は、かなりの密集状態となる。おそらく、それは、イチロウが経験したことのないシチュエーションだ。オータコートで守られているということを過信することなく、集中力を切らさないように、例え最高速度で飛んでいるときでも、他の機体・・・クルーザーとの接触には、十分気をつけるようにしてくれ」

「ありがとう・・・肝に命じておきますよ」

 イチロウは、ソランが差しのべた手をしっかりと握りしめる。

「ああ・・・あまり、細かいことは言うつもりはない・・・エリナを、とにかく信頼することだ」

「わかっています」

「あたしからも・・・特にハルナちゃん」

「はい?」

 キリエが、ハルナの手を自ら握りしめる。

「イチロウもエリナも、いろいろ足りないところがあるから、一番冷静な判断ができるのって、ハルナちゃんだけだと思ってる。

 いざという時、自分の判断が正しいと思ったら、二人が何を言おうが、自分の判断で行動を決定していいからね」

「ありがとうございます・・・その言葉、なにより、心強いです」

「うん・・・エリナは、まだ敬遠してるみたいだけど・・・あたしは、ハルナちゃんが大好きだよ・・・エリナだけじゃなくて・・・今度、あたしにもエステをしてね」

「喜んで・・・キリエさんの身体・・・磨き甲斐があります」

「うん・・・気を付けてね・・・」

「はい!!」


 そして、イチロウとハルナは、Zカスタムに乗り込む。

「やっと・・・イチロウと二人になれたね」

「ああ・・・でも、コックピットの音声は、エリナに筒抜けなんだろう?」

「まぁね・・・でも、いいんだ。聞かれたら聞かれたらで・・・」

「俺・・・」

「ハルナは・・・イチロウに感謝してます」

「俺に?」

「きっと、こういう形で、ここにいることは、運命だったのだと思うけど・・・イチロウが、ハルナを選んでくれたから・・・ここにいることができる」

「結果は、まだ出ていないけどな」

「ううん・・・エリナ様がいて、イチロウがいて・・・ハルナがいる・・・こんなに幸せな瞬間が、ハルナの思い出に残されたってことが、とっても嬉しい」

「俺も、ハルナには感謝している」

「そりゃ、そうだよね・・・セイラとは毎日、おしゃべりしてるんだってね」

「バレちゃってるのか」

「親友だからね」

「応援に来たいって言ってくれたんだけど」

「エリナ様の気持ちを考えれば・・・今の関係を維持していたほうがいいと思うよ」

「俺も、そう思う・・・だから、きっと、CDだけ送ってくれたんだと思う」

「イチロウにというより、クルーみんなへの応援ソングを詰め込んだって言っていたから・・・中でも、タイトルに『ファイト』が付いてるのが、10曲もあって、『ありがとう』が付いてるのが12曲なんだって・・・『エール』が付いてるのが8曲・・・他も、定番の応援ソングだって言っていたから、予選のスプリントセッションが終わって、勝ち残れたら、みんなで聞いてみない?」

「それは、いい提案だと思う・・・特に、ミリーとか、大喜びすると思うよ」

「エリナ様・・・本気で・・・一生懸命、イチロウのことを愛してる・・・この1週間で、そのことだけは、よくわかりました」

「でも・・・俺の気持ちは、まだ、その気持ちに答えることはできない・・・」

「うん、知ってる・・・『エリナ様への感謝の気持ち』は、ハルナや、セイラへの愛情という感情以上に、大きくって強いって・・・きっと、そうイチロウは、思ってるよね」

「ああ・・・エリナへの感謝は、好きとか嫌いとかじゃないんだ・・・」

「イチロウが言いたいこと、ハルナが・・・代弁してあげるね・・・エリナお姉さま?ちゃんと聞いてますか?」

『余計な、おしゃべりばっかり・・・あたしに聞こえるように言ってるんでしょ・・・ちょっと、非常識じゃないの?』

「お姉さま・・・イチロウの言葉を伝えます」

『何よ・・・あらたまって』

「イチロウの気持ちは、お姉さまを『守ってあげたい・・・永遠に』って・・・その一言らしいです」

『ハルナさん・・・』

「いろいろな意味で、

 傷つけたくない・・・

優しく守っていきたい・・・

お姉さまのことを見守っていきたい・・・ それが、イチロウの本当の気持ち・・・決して、お姉さまに魅力がないわけじゃないから・・・自信を持ってください・・・メカニックとしての技術、全ての人を守る発明品だけじゃなくって・・・心も・・・身体も・・・お姉さまは、充分、自慢できるものを持っているんですから」

『ハルナさん・・・』

「もう・・・レース中は、ちゃんと『ハルナ』って言ってくれないと返事しないですからね」

「エリナ・・・俺は、不器用すぎて自分の気持ちをちゃんと伝えられなかったけど」

『わかってるよ・・・イチロウ・・・ハルナ・・・3人で・・・ううん・・・ここにいる皆で、力を合わせて、一番いい成績を残そうね』

「了解・・・エリナ・・・発進準備OKだ!!、ランチャーカタパルトデッキまでの移動を、よろしく」

「行ってきます・・・お姉さま」

『その前に、もう1回、パイロットシートのロック確認をお願い・・・センサーは、オールグリーンだけど・・・少しでもおかしなところがあったら、ほんの少しでも違和感あったら、ちゃんと発進の前に直してあげるから』

「心配いらないみたい・・・なぜか、ここに持ってきたときより、窮屈感がなくなってるの」

「俺もだ・・・腰のあたりがフィットして、とっても居心地がいいよ」

「もしかして、ウミちゃんとサエちゃんのお陰かな?」

『そうみたいね・・・二人ともVサインしてるから』

「とりあえず・・・1発目のタイムアタックで遠慮なく、最高速度出しちゃっていいですよね・・・お姉さま」

『もちろん・・・そのあとは、高見の見物と洒落込みましょう』

 Zカスタムが、パドックハンガーをスライドしていく。空気のあるパドックから、ブシランチャーの外郭外部へ移動するには、何カ所かのエア調整ユニットを経過しなくてはならない。

その移動は、既設の誘導アームによって行われるのであるが、ブシランチャー2号機は、予選組80機全てが利用するため、その誘導ルートは、複雑になっている。

カタパルト射出は当然、1機ごとにしか発進することができないため、誘導アームに引っ張られていった機体も、スムーズにカタパルトに乗せられるわけではなく、1基ごと10台の機体を、宇宙空間へ送り出すためには、発進待ちで待機する時間も、発生することになるのである。

特に、小さめの機体は、大きめの機体に較べて、待たされる傾向にあることは聞かされてはいた。

Zカスタムは、機体としては、ミニ・クルーザーの中でも、さらに小さいサイズであって、機体後部に取り付けられた燃料ユニットと、折りたたみ式のスラスターユニットを含めた全体サイズも、オータ・チームが使用しているトムキャットの2分の1以下であることから、発進の順番が、後回しにされることは、ある程度、予測できていたが、案の定、ほぼ同時に発進準備を整えた第3デッキから発進する10機の最後尾に回されていた。

「やっぱり・・・こうなったか」

「まぁね・・・いいんじゃないかな・・・追い抜きの練習だと思えば」

 イチロウのつぶやきに、ハルナが即答する。

「今回・・・もちろん、イチロウは、優勝狙いだよね」

「もちろん・・・・今回ってことは・・・」

「年間優勝、狙いたいよね」

「もう2レース消化しているんだぜ・・・それは、無理じゃないか」

「まずは、このレースで優勝することが大前提・・・そうすれば、レギュラー枠に入れるから、5月ステージ以降は、無条件で、決勝レースにエントリーされる資格を得られる・・・知ってるよね、イチロウも」

「知ってる」

「年間優勝するには、ここで優勝するしかないよ・・・というか、ここで優勝できれば、年間優勝が見えてくる・・・って言い換えたらいいのかも」

「ハルナの前向きな考えは・・・大好きだ・・・狙ってみるか・・・年間優勝」

「ハルナは、初めっから、そのつもりだから・・・年間優勝以外考えていないっていうか・・・負けず嫌いのエリナ様も、もちろん、おんなじ考えのはず・・・ですよね・・・お姉さま」

『口には出さなかったけど・・・ハルナが、そう思ってくれているのなら・・・正直に言います・・・年間優勝・・・取りたい』

「ね・・・あとは、イチロウが、腹を括ればいいんだよ」

「エリナ・・・無茶はしないけど・・・無理はするかも・・・」

 ハルナに誘導されるように、イチロウも、本音をエリナに伝える。

「それでこそ、男の子だよ・・・がんばろう・・・年間優勝したら、エリナ様とハルナで、濃厚サービスしちゃいます・・・いいですよね、お姉さま」

『それで、イチロウがやる気が出るなら・・・あたしも約束する』

「そんな約束しなくても・・・十分、やる気はあるよ・・・でも、そこまで言ってくれることが、嬉しいと思う」

『周りのみんなが笑ってるんだけど、けっこう、あたしたち、恥ずかしい会話してると思わない?』

「ぜんっぜん・・・周りの眼が気になるようじゃ、まだまだですよ、お姉さま」

『そうかな・・・あ・・・今、準備完了のお知らせ来たよ』

「こっちにも来ました・・・カタパルトセットをお願いします・・・お姉さま」

『うん・・・がんばって、ハルナ・・・

 イチロウも』



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