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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第1章 オータ・シティ
3/73

-3-


 そのちょうど2時間後、約束通りに、ハルナは、ルーパス号が停泊している宙域に、その目立つショッキングピンクの機体をカモフラージュさせることもなく到着させていた。

『ごきげんよう・・・ミリーちゃん』

 先ほどと、あまり変わらぬテンションのハルナが、通信を求めてきた。

 通信電波の受信と同時に、ルーパス号のブリッジのメイン・モニターに、ハルナの顔が映し出される。

印象的なのは、やっぱりその瞳の色である。ヘルメット越しではあるが、透明なシールドに覆われた、その二つの瞳は、乗ってきたミニ・クルーザーと同じ、鮮やかなピンク色である。そして、その唇もピンク色のルージュで美しく塗られ、輝いていた。

「ごきげんよう・・・時間通りですね。ハルナさん

 歓迎します。左手の着艦用デッキを開放しますので、そちらに着艦をお願いします」

 ミリーが、ハルナを誘導するための着艦の指示を出した後、ルーパス号に帰ってきていたエリナも言葉を添えた。

「あなたが、ハルナさん?・・・歓迎しますよ

 この前は、ごめんなさい、ちょっとキツイ言い方してしまったみたいで・・・」

『あ・・・エリナ様ですね?』

「はい・・・」

『ごめんなさいとか言わないでください・・・みんなハルナが悪いのですから』

「いろいろ誤解があったみたいですが、ルーパス・チームのナビゲータを引き受けてくださったことは、とても感謝してます」

『こちらこそ、光栄に思います』

「着艦デッキに、迎えが行っていますから、ブリッジに上ってきてください」

『迎えに、来ていただくのはイチロウさんですよね』

「そうですよ」

『イチロウさんは、エリナ様の彼なんですよね』

「いえ・・・

  ・・・違いますよ」

 いきなりの質問に、エリナは、戸惑いながら、小さくささやくように応えた。

『ほんとうですか?』

「今は・・・まだ・・・でも、わたしは・」

『じゃ・・・エリナ様は、まだフリーなんですね』

「は?」

 それまでの落ち着いた雰囲気のやり取りから、突然、浮き浮きとした口調になったハルナの質問に、エリナは、その質問の意味がわからずに、口をぽかんと開いて、呆けたような表情になり、固まってしまった。

(エリナ・・・ちょっと、この娘、変だから、あまり気にしないほうがいいよ)

 既に、一回言葉を交わしているミリーが、こっそりとエリナに忠告をする。

「そうですね、まだ結婚相手が決まっていないという意味ではフリーですよ・・・もしかして、ハルナさんには、素敵なお兄様とか、いらっしゃるのですか?」

『ハルナのお兄様は、社長さんなんです。それで、結婚もしています。素敵かどうかは、妹の眼ではなんとも言えませんが、とても優しい、お兄様です』

 ハルナの機体が、着艦デッキに納まったことが、サイド・モニター越しに確認できた。イチロウがコックピットに駆け寄る姿が映し出され、メイン・モニターのハルナの姿が消える。


「とりあえず、直接会うのは、初めてだから、初めまして・・・でいいのかな?」

 コックピット越しにイチロウが、ハルナに声をかける。

「うん、はじめまして!!さっきのキャラにそっくりね」

「ミリーが、キャラメイクしてくれたんだけど、そうか・・・そういうメリットもあるわけだ」

「ねぇ、イチロウくん・・・ハルナの機体に乗ってみたくない?」

 ハルナが、無邪気に話しかける。

イチロウは、ハルナが降りてきたピンクの機体を見上げる。

「いいのか?」

「これから、ずっとハルナと一緒にレースに参戦するんだよね・・・イチロウくんに、是非、乗ってもらって感想を聞きたいんだ」

「そういうことなら、じゃ、遠慮しないよ」

「うん、それでこそ、男の子!ハルナも後ろに乗るから」

 イチロウが、メイン・コクピットに搭乗し、ハルナは後部座席シートに潜り込む。

 イチロウが、パイロット・シートに腰を落ち着け、正面の操縦桿に手を添えて握り込む。 その時、その機体のメーカー・エンブレムが、イチロウの眼に留まる。

 六つの星が光り輝くエンブレム

「今年のF1に参戦してるメーカの中で、たった一つ・・・星のイメージをエンブレムに使ってるのは、スバルだけなんだよ・・・イチロウは知ってた?」

 後部座席から、ハルナの声が伝わる。

「これが、来年、市場への投入を予定してる最新機種・・・スバル・ルージュ・・・女の子をターゲットにしてるから、ほとんどの制御を自動制御できるようになってて、もちろん、オプション契約で、遠隔コントロールもできる、誰でもが手にできるように、価格も破格の5万ドルジャストで、売り出す予定なんだ・・・気に入ってくれたら買ってね」

「もしかして・・・スバルの関係者だったりするのかな?」

「ごめん、ごめん、ハルナって、調子に乗ると、自分の自慢ばかりしちゃうから・・・とりあえず、今の自慢話は忘れちゃって・・・営業とかするつもり全然ないから」

「そんな意味で言ったんじゃないんだ・・・正直な気持ち・・・こいつをすぐに飛ばしてみたい」

「じゃ、今から、行っちゃう?」

「それも、いいけど・・・ブリッジで、怖い顔をしてる女の子がいる筈なんで、とりあえず、そっちに行こう」

「それって、エリナ様のこと?」

「・・・そう・・・だけど」

 イチロウは、またもや地雷でも踏んでしまったようなイヤな予感がしたが、特に、食ってかかられることもなく、ハルナが、おとなしく後部座席からデッキフロアに降りてくれたので、少しほっとした。

イチロウ自身、もう少しだけコックピットに乗っていたい気持ちもあったのだが、とりあえず、今の時間を考えて、操縦桿から手を離し、名残り惜しそうに、コックピットから腰を挙げた。

「イチロウくんの(ズィー)カー、あれって、エリナ様のフルチューンですよね」

「最高速度は、どの機体にも負けない・・・とかエリナは言ってたけど・・・でも、俺には実感は沸かないんだ・・・ほかの機体とかは操縦したことがないし・・・きみとのバトルの時は、こんなに速い機体があるんだって、正直びっくりしたし・・・これが、日本製だってわかって、けっこう嬉しい」

「あの時は、絶対、撃ち落せると思っていたんだけど・・・急に、飛び方が変わったから、ハルナは、すっごい、びっくりしたんだよ」

「あれは・・・」

「パイロットが、代わったんでしょ」

「そういうことが、わかるんだ」

「ハルナは、伊達に、賞金稼ぎをやってたわけじゃないからね」

「どうして、過去形?」

「エリナ様に嫌われたくないから、もう、賞金稼ぎはやらないって決めたの」

「悪い海賊をほっといても平気なんだ」

「まぁね・・・そろそろ、ハルナも17歳になるから、お父様のお仕事のお手伝いもしないといけなくなるし」

 着艦デッキからブリッジに上がるまでの間、イチロウは、いつになく積極的にハルナに話しかけていた。

ブリッジに、到着したイチロウとハルナを、それでもエリナは、精一杯の営業スマイルで出迎えた。

「ようこそ、ルーパス号へ・・・ハルナさんですよね」

「ごきげんよう・・・エリナ様」

「もう、だいぶ遅い時間ですから、こちらの事情だけ、とりあえず、お伝えしますね」

「はい・・・」

 ハルナは、必要以上にエリナの傍に近寄って、どちらかというと、エリナのほうが背は低いのだが、心持ち腰を屈め、上目遣いにエリナをじっと見詰めながら、息をゆっくり吐き出すように、それだけの短い返事をした。

「来週の週末に開催される『太陽系レース』のサブパイロットとして、ナビゲーターを、あなたに、お願いしたいのです」

「喜んで、お受けいたします」

 ハルナは、必要以上に瞳をうるませ、今にもエリナに抱きつきそうに、両手をエリナに向けて突き出しながら、即答した。

「さっき、お父さんの許しが必要とか言ってなかったか?」

 イチロウが、問いかける。

「エリナ様に直接、こんなふうに会えるなんて、想像もしていなかったから・・・ハルナは舞い上がってます」

「でも、この前、会ってますよね」

「あの時は、ハルナは、エリナ様が嫌ってる賞金稼ぎをやっていましたから・・・ハルナは、憧れのエリナ様に嫌われてしまったと思って、ずっと、ベッドで臥せっていましたの・・・お陰で、心を入れ替えて、賞金稼ぎをやめることにしました。


 ・・・だから、こんなふうに優しく声を掛けていただけるなんて、夢のようです」

「大袈裟ですよ」

「大袈裟だなんて・・・そんなことないです・・・もしかして、エリナ様は、ご自分の価値を、わかっていらっしゃらないのでしょうか?」

「わたしの価値?」

 エリナは、首を傾ける。

「お父様が、いつも、申しております。エリナ様を、しかるべき未来プロジェクトに迎え入れたいと・・・それが、百年革命後の混乱した世界を、あるべき姿に近づける方法なんだと・・・ハルナも、お父様と同じ考えです。

「今の世界・・・別に混乱してるとは、思わないですが?あなたの、お父様って、どんな方なのですか?」

「お父様は、ホテルの経営をしています。あの・・・でも、今日は、もう遅いですから、そういう話は、明日あらためてという訳には、いきませんか?ハルナは、少し、眠くなってしまいました

 エリナ様に、お会いできると聞いて、時間も忘れて、ルージュを飛ばして来てしまいましたから・・・こんな、時間になっていることに、たった今、気づきました」

「ワープステーションに宿泊していると聞いてますが、今から戻りますか?でも、眠いということなら・・・イチロウに送らせますが・・・」

「エリナ様の寝室を使わせていただければ、それで充分です」

「わたしの寝室?」

「イチロウさんと一緒の寝室というわけでは、ありませんよね・・・エリナ様の、お傍に、もう少しだけ、いさせてください」

「そういう訳にはいかないので、泊まるのであれば、ゲスト・ルームに案内しますよ」

「ゲスト・ルームはイヤです」

「あの・・・ハルナさん」

「なんでしょうか?」

「あなたに、ナビゲータを、お願いするのは、やめることにします」

「おい・・・エリナ」

 慌てるイチロウを無視して、エリナはそっぽを向く。

 ハルナは、何を言われたのか、理解できないといった様子で、少し、黙り込んでしまった。

「やっぱり、エリナ様は、ハルナのことが嫌いなのですね」

 ぽつりと呟いて、ハルナは、ブリッジから立ち去る素振りを見せる。

「好きとか嫌いとかではないの」

「もういいです」

「ハルナさん・・・」

 それまで、じっと二人のやり取りを黙って見詰めていたミリーが、声をかけた。

「ハルナさん・・・せっかく来てくれたのに、そんなに慌てて帰らないで」

「でも、エリナ様は、ハルナをいらないとおっしゃいました」

「いらない・・・とかじゃなくて」

「エリナは黙ってて」

 ミリーが、ハルナの手を握り締める。

「あたしの、お部屋に来て」

「ミリーちゃんのお部屋?」

「うん、いっしょに寝ましょ・・・ゲームの話とか一緒にしたいから・・・レースの話は、ハルナさんが言うように、明日、眠くない時に相談しよう」

「エリナ様が、それでよろしいのなら」

「エリナは関係ないよ・・・あたしが、ハルナさんといっしょにいたいんだから・・・

 それでも、エリナの許可が欲しいみたいね」

「はい・・・」

 ハルナが、小さく呟く。

「エリナ・・・ハルナさんは、あたしのとこに泊めるから、文句ないよね・・・っていうか、文句は言わせないよ」

 ミリーは、その小さな手で、ハルナの手を、もう一度しっかりと握り直す。

「行こう」

 ミリーは、ハルナの手に自分の手を巻きつけるように絡めると、それでも尻込みするハルナを、引きずり出すように、ブリッジから出ると、居住区への通路を、自分の部屋の方向へ進み始めた。

ハルナも、引っ張られるまま、ミリーの後をふわふわと付いてゆく。

その二人を見送ってから、イチロウは、エリナの傍までやってくる。

「エリナ・・・気を悪くしてるのか?俺が、勝手に、ナビゲータ探しをやったこと」

「わかっているんじゃない・・・なんで、何も相談してくれないの?」

「相談しょうにも・・・エリナは、ずっとガレージに篭りっきりで、ロクに話をするヒマなんかなかった・・・」

「ガレージにいることを知っていたんなら、ガレージに来てくれればいいじゃない・・・

もういいよ・・・あたしも、眠くなっちゃった・・・だから、寝る」

「何を、怒ってるんだ」

「だって・・・あんな可愛い子だったなんて、想像してなかったし

 あの時は、ヘルメット越しだから、瞳の色しかわからなかった・・・」

その言葉の後は、なんとなくごにょごにょという感じで、聞き取れなかっった。

「彼女・・・ずいぶん、エリナのことを気に入ってる様子だから・・・怒ることないと思うんだけど」

「そんなことじゃなくって・・・あたしも、よくわからないんだけどさ・・・なんか、危険な雰囲気が・・・あったから」

「今のエリナを捕まえても、1円の賞金も貰えないんだから、一緒の部屋にいたからといって寝首をかかれたりはしないと思う」

「もういいから・・・」

 エリナは、尚も話しかけようとするイチロウを振り切るように、ブリッジから、出て行ってしまった。


 ハルナを、自分の部屋に招き入れると、ミリーは、冷蔵庫から、チョコレートを取り出して、ハルナに手渡す。

「よかったら、食べて・・・ハルナさん、シャワー使いますか?」

「シャワーはいいや

 それと、ハルナのことは、『ハルナ』って呼んで・・・ハルナも、ミリーのこと『ミリー』って呼ぶから・・・」

「ハルナ?」

「うん、ハルナの友達は、みんな、そう呼んでくれるよ」

 ハルナは、いたずらっぽく元気いっぱいの笑顔になって、ミリーに抱きついてきた。

「エリナ様・・・テレビで観るより、とっても可愛かったなぁ」

「ハルナは、なんで、エリナのことを『エリナ様』って、呼ぶの?」

「尊敬する人に、敬語を使うのは、当たり前のことでしょ」

「エリナには、今日始めて会ったんだよね・・」

「レース関係者で、エリナ様の力を欲しがらない人はいないんですよ・・・近くにいると、その価値に気づかないのかもしれないけど・・・鈍感すぎるのは、むしろ罪かもしれない・・・本人を含めてね」

 ミリーを抱きしめながら、ハルナは、少しだけ、言葉の調子を変化させた。

「ミリーは、ハルナのこと、ちゃんと調べてくれた?ハルナが、カドクラ・ホテルの社長の娘だってことも知ってるかな?」

「それは、知ってる・・・こういう展開にならなかったら、きっと、一生知らなかったはずの情報だと思うけど」

「それを知ってて、ハルナを誘ったことは、ちょっとだけ褒めてあげる」

「ハルナ?」

「さっきも言ったけど、ハルナは、眠くなっちゃったんだ・・・チョコとシャワーは、朝起きたらいただくから、今は、もう寝させてね」

「うん・・・わかった」

「それと・・・ミリーにお願いがある」

「なぁに?」

「おやすみなさいのキスをしてくれると、ぐっすり眠れる・・・」

「へ?」

 ハルナのピンクの瞳とピンク色の唇が、ミリーに迫る。

「ちょっと、ハルナ」



 次の日の朝

シャワーの音で、ミリーは眼を覚ました。

ミリーは、シャワールームの扉の前で、中の様子を伺う。ハルナが口ずさむアップテンポの曲がシャワーの音に混じって、ミリーの耳に届く。

「ミリー、そんなとこで覗いてないで、中に入ったら・・・綺麗に洗ってあげるから」

「あたしは、昨日入ったから・・・それに朝のシャンプーはしないことにしてるから」

「そうなんだ、残念・・・ハルナは、今日はイチロウくんとデートだから・・・

彼をがっかりさせないためにも、隅々まで綺麗にしておかなきゃ」

「え?デートって?」

「せっかくの週末なんだし、来週は、レースの練習するつもりだから、チャンスは、今日しかないでしょ」

「あの・・・昨日言ってたニアピン賞の賞品って、いったい誰のためのご褒美なの?」

「ハルナのために、決まってるじゃない・・・だって、イチロウくんは、まだ、エリナ様とお付き合いしてるわけじゃないんでしょ・・・だったら、早いもの勝ちだと思わない?」

「そんなこと言ってると、今度こそ、本当に、エリナに嫌われちゃうよ」

「エリナ様は、そんなに心の狭い女性ではありません」

「ハルナって・・・」

「そっ・・・ハルナは、お嬢様だから、思い通りにならないことなんかないんだ・・・今度のレースも、絶対、優勝するよ・・・エリナ様のために」

「ハルナ、忘れてない?エリナは、あなたをナビにしないって言ったんだよ」

「エリナ様は、照れ屋さんだから、きっと、心にもないことを言っただけなの」

 ハルナは、バスタオルを身体に巻きつけて、シャワールームから出てきた。

「ミリー・・・今日は、ありがとう。お陰でぐっすり眠れたよ・・・エリナ様のとこだったら、興奮して眠れなかったかもしれないから」

 ハルナは、そのままの姿で、携帯端末を手にして、イチロウを呼び出す。

「おはよう」

『おはよう・・・って、今、何時だ?』

「もう7時だよ」

『あれ?エリナじゃないのか?』

「寝ぼけてるんだ・・・エリナ様じゃなくて、ごめんね・・・でも、ハルナ、イチロウくんと早くデートに行きたくって、早起きしたんだよ」

『デートって・・・今日行くのか?』

「あたりまえじゃない・・・今日行かないんだったら、デート券無効にしちゃうよ」

『俺も、ちょっと疲れてるから、それでもいいんだけど』

「じゃ、ルージュに乗せてあげない」

『それは・・・』

「だから、ご飯食べたら、ルージュに乗ってて・・・ハルナも、すぐに行くから」

 少しイチロウの言葉が途切れた。

『わかったよ』

「ハルナって、なんかずるいかも」

「これくらい図々しくないと、欲しいものなんて手に入らないんだよ・・・ミリーも、好きな男の子ができたら、積極的にならないとダメだよ・・・男の子なんてね、いつまでも、待っててくれるわけじゃないんだから」

 ハルナは、勝手知ったるといった様子で、ミリーの部屋の大きな鏡の前で、持ってきた小さなポーチの中から、化粧道具を次々と取り出し、顔を整え始めた。

「エリナ様って、全然、お化粧とかしないんですね・・・去年のレースの時は、汗で、お化粧が落ちてしまってるんじゃないかと思って見ていたんだけど、普段から、お化粧しないの?」

「エリナは、いつもあんな感じだよ」

「お化粧しないのに、あんなにチャーミングなんだ・・・それはそれで、羨ましくもあるけど・・・でも、ハルナだったら、エリナ様を、もっと綺麗にしてあげられるんだけどなぁ」

「あのさ・・ハルナは、エリナと、イチロウのどっちが好きなの?」

「変なこと聞くのね、ミリーは・・・」

「どっちが好きなの?」

「今、一番好きなのはミリー・・・だって、昨日、キスしてくれたじゃない?今一番ハルナと親密なのは、間違いなくミリーだよ」

「ごまかさないでよ」

 相変わらず綺麗に塗られたピンクのルージュの唇が、昨夜と同じようなシチュエーションで、ミリーに迫る。ミリーは、魅入られたように、眼を(つむ)り心なし開いた自分の唇を、無意識に突き出していた。

(このハルナって、女の子・・・)

 ハルナの唇が、ミリーの唇を覆う。数秒触れていただけなのだが、ミリーは、身体がふにゃふにゃになってしまう感覚で、力が抜けていくのを感じていた。

(イチロウやエリナに近づけるのは危険・・・)


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