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『イチロウ・・・起きた?』
「ああ・・・眠ったまま宇宙に放り出されるのは、なんか奇妙な感じだ」
『じきに慣れるさ・・・シティ・ウルフ・・・久しぶり・・・元気かい?』
「カゲヤマさんですか?キャッチしてくれたんですね・・・とりあえず、ありがとうございます・・・地球滞在中は、オータケ会長に、お世話になりました。偉いのに偉そうにしない、とてもいい人ですね」
『俺達はいつも怒鳴られてばかりだからな・・・そういう優しいというイメージはないんだが・・・な、シマコ』
『そうね・・・怖いだけのおじさんだよ・・・わたしたちにとっては』
「意外ですね・・・昨日は、オータケ会長のお宅に泊まらせてもらいました」
『へぇ・・・会長の家に住み込みで働いてるミナトさんって家政婦・・・すっごいかわいいだろう?』
「へ?」
『俺の好みなんだよな』
「エリナを好きなんじゃないんですか?カゲヤマさんは?」
『エリナは、不沈艦だから・・・健全な男子としては、エリナがOKするまで、他の女の子を口説いてもバチは当たらないだろう?』
「その言葉、すべてエリナに伝えておきますよ・・・ついでにミナトさんにもね」
『へぇ、そんなに親密になってるんだ・・・あの子も身持ちが固いから・・・なかなか男に靡かないので有名だ』
「・・・?」
『なんか・・・変なこと言ったか?俺』
「ミナトさんて、けっこうエッチですよ・・・俺、身体中・・・あらゆるところを触られましたよ」
『嘘だろ?・・・羨ましすぎ・・・』
「証人も隣にいるし・・・」
『アスカワ・ミナトちゃんだよな』
「苗字は聞いてないけど」
「ミナトさんの苗字はアスカワさんで合ってるよ・・・あたしたちとイチロウくんは、たぶん、ミナトさんにとって特別なんだと思う」
セイラが、こっそりとイチロウに耳打ちする。
「そういえば、かわいいと言えなくもないかな・・・」
『奥ゆかしくて、すっげぇ可愛いんだから・・・俺なんかも、よく会長の家に遊びに行くけど・・・100%ミナトさん狙いだからな』
「もしかして・・・ミナトさんって、二重人格?」
「わからないよ・・・でも、本人曰く、テレパスらしいよ」
イチロウが、こっそりとセイラに訊ね、セイラが、やっぱり、こっそりと・・・マイクが拾わないくらいの声で、答える。
『モンドが、そういう話をするのって珍しいね・・・』
『やばい・・・シマコもいたんだ』
『ハルナも、しっかり聞いていましたよ・・・ひとつだけ教えてあげますね・・・ミナトさんが、男性に奥ゆかしい態度を取る時って、眼中にないって意味なんですよ』
『・・・マジ?』
『うん・・・ミナトさんとは長年の、お付き合いですから』
『すごいショックだ・・・』
『エリナ様一人に絞ればいいのに・・・ね、イチロウも、そう思うよね』
「・・・思う」
「モンド・・・そろそろ戻ろうか?今日の仕事は、これで終わりだし・・・イヤなことは、飲んで忘れようよ」
『そうだな・・・月にでも行って飲むとするか・・・
あの旧式の自家用車も一緒に持っていくんだろ・・・忘れるなよ』
「ああ・・・ありがとう」
カゲヤマと別れたイチロウたちは、宇宙ステーションから、さほど離れていない位置に停泊しているルーパス号の位置を確認した。
そして、スバル360が収容されているコンテナボックスをハルナの機体に連結し、ルーパス号への進路を取る。
『どう・・・イチロウ。気分は?』
「まぁ・・・眠っていたから、どうということもないよ・・・それよりセイラは平気?」
「あたしは、平気・・・それより、このクルーザー・・・勢いで貰っちゃったけど、あたしのアパートには置くところないよ」
「そうか・・・セイラは、地上に住んでるの?」
「うん・・・」
「ライセンスを取るまで、ルーパスに置いておくのってダメかな?」
「そうしてもらえると、助かる・・・いいの?」
「エリナにオプションとか着けてもらうから、ワープ装置とか、迎撃武装とか・・・」
「迎撃武装・・・それって必要?」
「どうかな・・・俺は、人を撃つのは好きじゃないから」
『イチロウ・・・ルーパス号にも、エリナ様にも連絡が取れないんですが、このまま、乗り込んじゃって大丈夫?』
エリナに連絡をしようとしていたハルナが、諦め口調で訊ねる。
「大丈夫だよ・・・フリーで着艦できる進入ルートがあるから・・・付いて来れるか?」
『わかった・・・一応、ミロをくっ付けてるから、それの収容も大丈夫?』
「大丈夫だよ。心配症だな・・・ハルナは」
『あ・・・エリナ様から、返信』
「なんて言ってる?」
『ジャンクショップにいるから16時に戻る・・・だって・・・イチロウって、エリナ様に嫌われてるんじゃないの?』
「たぶん、俺よりジャンクショップが好きなだけだと思う」
『そうなんだ・・・』
「エリナの行動は、けっこう分かりやすい・・・自分が、好きなことしかしないからな」
『らしいと言えばらしいね』
「あたしは、どうすればいいのかな?宇宙ステーションに予約入れといたんだけど、そっちもキャンセルしたほうがいいのかな?」
「どこまで行くの?」
「太陽系の、ワープステーションまで・・・」
「月曜日はレッスンだって言ってたね・・・明日も?」
「うん・・・今日のうちに、できればアパートに帰りたい」
『とりあえず、16時にエリナ様が帰ってくるまでは、ルーパスに居るといいよ・・・それから考えよう』
そして、ジャンクショップから帰ってきたエリナたちをイチロウたちが迎える形となった。
「おかえり・・・エリナ・・・ずいぶん、ご機嫌じゃないか」
「わかる?素敵なパーツがいっぱい見つかったの?クルミさんのとこって・・・ほんと、宝の山って感じ・・・運送屋さんから、転職したほうがいいかなって・・・本気で思っちゃった」
「ごきげんよう・・・エリナ様・・・普通の女の子は、可愛い洋服とか靴とか、そういうのを見て喜ぶんですよ」
「あ・・・そうなんだ・・・昨日は、先に寝ちゃってごめんなさい」
「お久しぶりです・・・マリーメイヤ・セイラです」
セイラが、微笑みながら自己紹介する。
ミリーが、抱きつきそうな勢いで、セイラの目の前に飛び出してくる。
「ミリーっていいます。大ファンなんです・・・今日、来てくれるって知ってたら、エリナのお供なんかしないで、船に残っていたのに」
「昨日は、いろいろ、お世話になりました・・・本当に、ゲームのキャラとそっくりさんなんですね」
「はい・・・プロは顔を売るのも仕事ですから」
「そうね・・・」
ミリーは、セイラが、イチロウの腕に手を絡めてることに気づいた。
「ずいぶん、イチロウも紳士的になってきたね・・・」
セイラが、ミリーの言葉に反応して、手をイチロウから離す。
「明日、レッスンの予定があるので、あまり長居はできませんが」
「第二恒星系ですよね・・・今日中に自宅に戻るんですか?たいへんですね」
「こっちのワープステーションからの定時ワープで帰れるから・・・向こうに着いたら、後は銀河鉄道で帰るので、ちょっと遅くなっても、平気なんですけどね」
「じゃ、一応、挨拶も済ませたので、俺が、ワープステーションまで送ってくるよ」
「そうだね・・・くれぐれも寄り道しないで」
「それと、事後承諾で申し訳ないんだけど、セイラさんのクルーザーをしばらく預かることになったので、空いてるハンガーを使わせてもらっていいかな?」
「セイラさんのクルーザー?」
「はい・・・今日、プレゼントされたんです・・・あたしのアパートには置けないので、ここに置かせてもらってよろしいですか?」
「いいよ・・・でも、そんな美味しそうなもの、ここに、置いておくと、エリナに、いいようにいじくられちゃうよ・・・平気?」
エリナに代わって、ミリーが答える。
「あたしは、そのほうが嬉しいです。ミリーちゃんの専用機体にしてもいいです・・・しばらく、ライセンスとか、取ることできないと思うので」
「わかりました・・・気をつけて帰ってね」
「はい・・・ミリーちゃん、また、ゲーム付き合ってください」
「はい・・・こちらこそ、いってらっしゃい」
イチロウとセイラは、ライム・ルージュをルーパス号に置くと、イチロウの専用機のZカスタムに乗り込み、ワープステーションへ飛び立って行った。
「エリナ様、ミロをよろしくお願いしますね」
「ああ・・・そういえば、あなたのお父さんの自家用車・・・ちょっと、先に見させてもらっていい?」
「もちろんです・・・そのために、持って来たのですから」
エリナたちが戻るのを待つ間に、コンテナから下ろしたスバル360を置いたハンガーに、エリナとミリー、ハルナが移動する。
「これが・・・往年の名車なんですね・・・初めて見た・・・思ったより小さいね」
エリナが、素直な感想を言う。
「宇宙で飛べるようにしちゃっていいんですよね」
「はい・・・父は、エリナ様に全て任せると言っていますから・・・原型さえ留めていれば、エンジンとか、全部取り替えていいそうです」
「エンジンは、そうだね・・・取り替えないと話しにならないけど・・・わかりました。なんとかしてみますよ」
「ありがとうございます」
「で、ハルナさんは・・・帰らなくていいの?」
「はい?」
「セイラさんは、明日から、レッスンと言っていましたよね・・・ハルナさんも、レッスンとかあるんじゃないんですか?こんなところで油売っていていいの?」
「エリナ様・・・」
「もう、用事は済んだんですから、早く帰ってください」
「エリナ様・・・なぜ、そんな意地悪を言うんですか?」
「明日は月曜日ですよ・・・仕事があるんじゃないんですか?」
「ハルナは、イチロウくんのお手伝いをしたいのです」
「へ?ハルナさんには、賞金稼ぎっていう立派な仕事があるんじゃないんですか、悪い海賊たちを野放しにしておいて大丈夫なの?」
「賞金稼ぎは廃業しました・・・もう、二度とやりません・・・一昨日、お会いした時、そう申し上げました」
「でも、別にイチロウの助手とかいらないし」
「そんな・・・」
「勝手に決めて勝手に盛り上がるのは止めませんけど、この船は、あたしのなの・・・だから、乗り込むクルーは、あたしが決めるの・・・イチロウが連れてきたゲストなんて、別に、あたしにとっては、どうでもいいの」
「では・・・改めてお願いします。ハルナを、エリナ様の助手にしてください」
「イヤです」
「エリナ・・・昨日はいいって言ったじゃない・・・」
ミリーが、二人のやり取りを見かねて、エリナに言葉をかける。
「昨日言ったことは、よく覚えていません・・・すごく眠かったし」
「エリナ様は、嘘つきです・・・今日、ルーパスに来ていいよって、そう言ってくれました」
「それは覚えてます・・・あなたのお父さんとの約束も覚えてます・・・でも、イチロウの助手になってと頼んだ覚えはないですよ」
「それは・・・頼まれてないですけれど・・・」
「エリナ・・・いいじゃない・・・ハルナさん、ルーパスだってにぎやかになるし・・・」
「ミリーは黙ってて・・・」
「ハルナは、エリナ様を尊敬しています。でも、こんなことばっかり言われると、嫌いになってしまうかもしれません」
「別に、あたしは、あなたに嫌われたって、痛くもかゆくもないんですからね」
ピシリ・・・
ミリーが、エリナの頬を強く叩く音が響いた。
「エリナ・・・最低・・・昨日だって、みんなが楽しくやってるのに、雰囲気、思いっきりブチ壊してくれるし・・・ハルナのどこが気にいらないの?確かに、あたしも、ハルナのこと良く思っていなかったけど・・・でもね」
「なんでぶつのよ・・・痛いじゃない」
「痛くなるようにぶったんだもん・・・痛くて当たり前」
「エリナ様・・・」
ハルナが、エリナの傍に駆け寄る。
「こんなに腫れてる・・・ごめんなさい・・・ハルナが、エリナ様の言うことを聞かずに口答えなんかしたから」
「痛いよ・・・ミリーもハルナさんも、みんな大っ嫌い」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい」
ハルナのピンクの瞳から、大粒の涙が、零れ落ちる。
「なんで、あんたが泣いてるのよ・・・痛いのは、あたしなんだから」
「ミリーちゃん、女の子の顔を殴るなんて、酷いですよ」
「ちゃんと加減はしてるよ」
「でも、こんなに腫れるような殴り方は酷いです」
「あたしは、ハルナを気の毒に思って・・・」
「エリナ様、・お部屋に戻ってすぐ冷やしましょう・・」
「すごい、痛いよ・・・どんどん痛くなる」
一昨日来た時に、エリナの部屋の位置を覚えていたハルナは、流れる涙を拭おうともせずに、エリナの肩に手をかけて、優しくあやす様に、そのエリナの部屋へ連れて行くため、ルーパス号の居住エリアに向かって歩き出した。
「そんな、わがままな女、放っておけばいいのに・・・」
立ち去る二人を眼で追い、最後にミリーは、ハルナに聞こえるように、言い放つ。
二人の姿が通路の先に消えたあたりで、ミリーの肩を、キリエが叩いた。
「エリナのお守りも大変だね・・・ミリー」
「エリナは、ちゃんとした教育指導士の教育を受けてないから・・・」
「そうだね・・・いつも、ミリーに任せっきりにしちゃって、ごめん」
「キリエが謝ることじゃないよ」
「ミリーは、あのハルナって子・・・どう思う?」
「どうって?」
「エリナとうまくやれるかな?」
「なるようになるんじゃないのかな?」
「ミリーは、頭がいいから、判断を間違うことってないと思うけど、エリナとか、あたしは、いろいろ間違ってばかりなんだ・・・
だから、ミリーがエリナを殴っているのを見ると、自分が殴られているみたいで、正直いうと辛いんだよね」
「あたし・・・そんなに、手が出るの早いかな?」
「今のも・・ちゃんと言えば、エリナは、自分が悪いことに、ちゃんと気づくと思うんだ。殴ることはないと思うよ」
「そうかなぁ」
「あたしは説教言えるような立場じゃないけど・・・ハルナちゃんが言ったように、女の子の顔を殴るのは可哀想だよ・・・それが、エリナみたいな救いようがない我がまま娘でもね」
「だって・・・」
「あたしは、きっと、エリナが大好きなんだ・・・だから、ミリーにも、もっとエリナのこと好きになってもらいたいのかも」
「あたしだって・・・」
「そんな神妙な顔をしなくても・・・ミリーがエリナの事を、いろいろ考えてくれてるのは、ほんとうに嬉しんだ・・・ハルナちゃんが、エリナを慰めるのに成功したら、今日は、みんなでカラオケでもやろうか?」
「・・・そうだね・・・」
「謝れ・・・とはいえないけど、このまま気まずいのってイヤでしょ」
「わかったよ・・・キリエの言うとおりにする」
「エリナの我がままを、ほっとけない気持ちはわかるけど・・・もしかしたら、ハルナちゃん、意外とエリナと合うかもしれないよ」
「そうかな?」
「エリナが、ハルナちゃんを避ける理由は、単純だよね・・・たぶん、イチロウを取られたくないだけだと思う」
「あ・・・」
「我がままは、相変わらずだけど、自分の好きなものを取られたくない・・・気持ちは、よくわかるよ」
部屋のベッドに腰を下ろしたエリナの頬に、ハルナが冷たく冷やしたハンドタオルを宛がう。ハルナの涙は乾いたようだが、悲しそうな表情は、変わっていなかった。
「こんなに、腫れてしまって・・・痛かったでしょう・・・エリナ様」
「痛かった・・・今も、ものすごく痛い」
「少し、横になりますか?」
「ミリーは、いつもゲームで手を鍛えてるから・・・」
「はい・・・?」
「本気で殴るんだよ・・・いつもいつも」
「そんなに何度も?」
「鉄拳制裁は、教育の基本だとか、わけのわからないこと言うんだ」
「ミリーちゃんは、教育指導士になるつもりなのでしょうか?」
「たぶんね・・・子供達が可哀想・・・」
「お顔の痛みを消す方法があります・・・試してみてもいいですか?」
「・・・痛くしない?」
「痛みを取る為に、痛みを与えるバカはいませんよ」
ハルナは、エリナの頬に、自分の唇を触れさせた。
「どうですか?」
「・・・痛くない・・・どうして?」
「これは、エリナ様の発明品の進化形です」
「あたしの・・・?」
「はい・・・」
「エリナ様は、いろいろな意味で、ハルナを守ってくれているんです・・・エリナ様ご本人が知らないところで・・・エリナ様の発明した、いろいろなものが、ハルナを含めた、たくさんの人を幸せにしてるんですよ」
「あたしは、人の役に立つものなんか作ったことないよ」
「知ってます・・・どの発明品も、エリナ様が必要だから作ったものなんだってことは・・・でも、痛みは消えたでしょう?」
「消えた・・・なぜ?」
「ハルナには、多少の医療の心得があるんです」
もう一度、ハルナが、エリナの頬にキスをする。
「カドクラの研究所で研究・開発してるのが、こうやって治療をする『キス治療』です」
「あなたが、ただ、相手かまわずキスしたいからやってるのかと思った」
「やっぱり、そう見えますよね・・・まだまだ、実験段階ですから・・・どんな痛みも消せるわけじゃないんです・・・外科的な手術が必要な怪我とかは、当然、治せないですからね」
「キスするだけで、傷が消えたら、魔法だよ」
「その魔法の研究をしてるのが、今の日本・・・エリナ様だって知ってるでしょ」
「うん・・・聞いたことはあるよ」
「今やったように、身体の痛みは取り除くことができます。今の研究が実を結べば、傷を塞ぐことも可能になるんです」
「外科手術は進歩してるって聞いたけど・・・」
「さっきの魔法の種明かしをしてもいいですか?」
「うん・・・是非、聞きたい」
「経絡秘孔・・・って知ってますよね?」
「身体の中にあるツボですね・・・聞いたことはあります・・・ほっぺにツボがあるの?」
「頬や唇に触れるのは、相手を安心させるためなんです・・・実際に治療するのは、脳と患部です・・・今は、ミリーちゃんが殴った所がほっぺだったけど、お腹を殴られても、頬にキスします。
痛みを消す為にやったことは、局所麻酔を患部に射ち込み・・・脳にちょっとした麻痺症状を自覚させるだけなんです」
「麻酔を使ったんだ・・・その麻酔をマイクロワープで痛いところに直接塗りたくるってことなのかな?」
「そうです」
「・・・でも、そんな発明品、あたしは作ってないよ」
「マイクロワープの技術は、エリナ様が発見した技術ですよ」
「でもさ・・・ワープ自体は、実用化されてるよね・・・あたしは、あれをアレンジしただけだよ・・・
それに、マイクロワープじゃ、余り重いものは移動できないし・・・移動先が真空状態じゃないと移動自体が拒否られてしまうから・・・なんでもかんでも移動できるわけじゃないよ」
「それはつまり、言い換えれば、小さいものなら自由自在ってことですよね・・・内部が真空のカプセルで作った空間を転移してから、そこに目的のものを置いてくるやり方・・・ミクロ単位で行われる治療に、絶対役立つ技術なんです」
「そっかぁ・・・少しは、あたしも世の中の役に立ってるんだ」
「少しどころじゃないんです・・・一番役に立ってるのは、エリナ様が発見したマイクロワープで、子宮から卵子を採取する方法・・・今では、ほとんど、世界中の女性が、使ってるんですよ」
「・・・あれは、だって・・・お医者とかで採取してもらうのって、ちょっと恥ずかしいから・・・だったら、直接マイクロワープで引っ張り出しちゃえってノリで作ったものだよ・・・元々、あたしの身体に合う避妊薬とか全然なかったし・・・必要に迫られて、しょうがなく作っただけ」
「考えるのは誰でもできますが、実用化させることができるのがエリナ様だけの技術なんです。男性の技術者じゃ、絶対、途中で諦めちゃいますからね・・・普通に手術で取り出せばいいのに、なんで小難しいワープ技術を使わなきゃならないんだ・・・ってことですよ」
「全然、知らなかった」
エリナが、ハルナの顔を正面から見詰める。
「ハルナさんって、頭がいいんだね」
「努力してるだけですよ・・・ということで、エリナ様の痛みが消えたところで、お願いがあります・・・
もう1回言います。ハルナをルーパス号に乗せてください・・・」
「イヤです・・・別に、お医者さんとか、必要ないし・・・絶対、イヤ」
「ダメですか?それって、エリナ様の心のモヤモヤが原因ですよね・・・・きっと」
「とにかく、イヤなものはイヤなの・・・」
エリナは、そう言い放って、そっぽを向く。
「エリナ様なら、そういうんじゃないかって、予測はできました。実は、ハルナは、エリナ様の心のモヤモヤを取り除く方法を知っています」
「・・・」
「ハルナは、イチロウを諦めましたから、安心なさってください」
「え?」
一瞬、エリナの顔が凍りついたような静止状態となった後、口元が綻び、微かな笑顔を見せる。しかし、その笑顔も、すぐに消える。
「嘘・・・」
「嘘じゃないですよ」
「だって、あんなに、イチロウと仲よさそうに話していたじゃない」
「そりゃ・・・あんなにカッコいいんだから、カレシにしたいって本気で思いました」
「思ったんだ・・・」
エリナの顔が複雑な笑顔に変わる。
「だから・・・諦めた・・・って言いましたよ・・・ハルナには、イチロウは、もったいないんです」
「でも、好きなんでしょ?」
「好き・・・と、カレシにしたいは、別ですよ」
「好きじゃないの?」
「好きです」
「じゃ・・・やっぱり、安心できないじゃない・・・取らないって約束してくれるわけじゃないんでしょ」
「約束します」
ハルナが、きっぱりと断言する。
「もし、イチロウがハルナさんのこと、大好きになって、強引に迫ってきたら、断ってくれる?」
「そんなことないと思いますが・・・もちろん、断りますよ」
「好きなのに・・・断れるの?」
「はい・・・」
「なんで?あたし、そんなことになったら、絶対、断れないよ」
「エリナ様は、いつも、そういうことを想像してるんですか?」
「いつも・・・って訳じゃないけど・・・想像は・・・する」
「素直なんですね」
「わからない・・・でも、イチロウが、他の女の子と仲良くしてるのを見ると、すっごいムカつく」
「素直なんですよ・・・そういうストレートな気持ちを打ち明ければいいのに・・・絶対、イチロウは受け入れてくれますよ」
「でも、やっぱり、ちょっと怖い・・・イチロウが、あたしのことを好きになってくれればいいのに・・・」
「イチロウは、エリナ様を大好きです・・・それは、保証します。昨日一日、いっしょにいて・・・そのことが、よくわかりました」
「ほんとに?」
「ほんとうですよ」
「でも、イチロウは、胸の大きい女が好きなんだよ・・・あたし、もうその時点で失格なんだよね」
「胸の大小は、恋愛感情とは別ですよ」
「ハルナさんのは、すっごい大きいじゃないですか?」
「胸を大きくしたいのなら、ハルナが協力しますよ・・・エステとマッサージ・・・そして、きちんと栄養を取れば、形のいい胸を作るのは、難しいことではないですよ」
「ハルナさんは、自分の身体に自信があるの?」
「はい・・・自信満々です・・・世界中の男性に見せてあげたいくらいです」
「イチロウにも?」
「ええ・・・イチロウにも・・・見せたかったんですが・・・見てくれませんでした・・・なぜなんでしょう?」
「あたしに聞かれても・・・あたし、イチロウじゃないし」
「ハルナの自慢の身体なんか眼中にないくらい、エリナ様を好きだからですよ・・・決まってるじゃないですか?」
「嘘・・・」
「嘘かもしれません・・・ハルナも、イチロウではありませんから」
「そうだよね・・・ほんとうに、イチロウを諦められるの?」
「諦めます・・・エリナ様を安心させるためですから」
「ずるい言い方だね」
「エリナ様を見習って、建前は使わずに、正直に素直に言うことに決めました・・・イチロウのことは好きです・・・その気持ちは消えませんし、あんなに一人の女性・・・カナエさんを大切にできる男性が、自分を好きになってくれたら、きっと、ずっと好きでいてくれるんだと期待してしまいます」
「ほんとうに正直に言うんだね・・・
でも、その気持ちは、よくわかる・・・あたしも、おんなじ気持ち・・・きっと、カナエさんに嫉妬してる」
「でも、ハルナは、イチロウと仲良くなりたいと思う気持ちよりもエリナ様と一緒に生活したいという気持ちのほうが大きいんです」
「それが・・・よくわからないんだよ・・・だって、一昨日会ったばかりだよね・・・なんで、あたしなんかを・・・」
「さっき言ったじゃないですか・・・ハルナは、いろいろな意味で、エリナ様に助けられてるって・・・だから、ハルナをルーパス号に乗せてください・・・」
「イチロウにエッチなことをしたら、ほんとうに、外に放り出しますよ・・・本気ですからね・・・あたし、嘘つきは、大嫌いなんです」
エリナが、今まで以上に真顔になる。
「ありがとうございます・・・お礼に、毎日、胸が大きくなるマッサージをしてあげます」
「ほんとに?ほんとに大きくなる?」
「もちろんです・・・ハルナには、医療の心得があるって言ったじゃないですか」
「こっそり、シリコンを入れるのとかってのはなしだよ」
「そんな手術をこっそりやるのは無理です」
「あたしは、真剣にシリコンをマイクロワープで転送しようと思ったよ・・・」
「エリナ様らしいけど・・・・やめましょうね・・・そういう無茶なことは」
結果的に、ハルナはエリナの説得に成功したようである。
そして、この日から、ハルナのルーパス号のクルーとしての生活が始まった。
第6章 帰艦 をお届けします。
ようやく、イチロウくんがルーパス号に帰ってきました。
今までは、エリナと別に行動することのなかったイチロウくんの「初めてのお遣い」ならぬ、「初めての単独営業」・・・なんとか、ナビゲータはゲットできました。
次の第7章では、ようやく予選が開始されます。
予選のタイムアタック・・・Zカスタムは120Km/秒くらいのタイムを出す予定ですが、第二宇宙速度が約 11.186 km/s(時速40269.6km)ということなので、100年後だから、思い切って100倍とか考えたのですが、地球を1周するのに11Km/秒で1時間・・・100倍だと1時間で100周もすることになってしまうので、少なく見積もって10倍にしました。
きっと、その頃には、通常速度もそれくらいになりそうですが・・・
秒速 1000kmの機体が正面衝突した場合、乗ってるパイロットは、どうなってしまうのでしょうか?
あまり速過ぎるのも、問題ありそうですね。
イラストギャラリーに、GD21のイラストを載せました・・・もし、よかったら見てください。
(後ろの山が今回登場した榛名山・・・ハルナの名前の由来となった山の写真です)
キャラ名の他にプレイヤーキャラ名を書き添えました。
(セイラは本来の綴りが「Saylla」ですがプレイヤーキャラは「Seira」なのです)
それでは、こんな後書きまで読んでくださった方・・・本当にありがとうございます。